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インセイン(リライト資料用)  作者: 森内カンナ
14/15

映画

先日真田にもらった写真を萌香は部屋には飾らなかった。チェストの引き出しにアクセサリー類などと一緒にしまってある。

生き生きと感情をあらわにしている自分を見るのは気恥ずかしく、少し怖い。

また会いたい。そう思う気持ちも言葉には出来なかった。

真田は汚れきった私が触れていい相手ではない。そんな気後れが純粋な気持ちに歯止めをかける軛となっていた。

写真を貰って別れた後、真田のサイトをチェックしてみたが萌香の写真は掲載されていなかった。それもまた、萌香から真田にコンタクトを取りにくくさせた。

先日真田と会ってからすでに一か月近く経っている。

「嫌われちゃったかな」

ぽつりと呟くと胸がぎゅっと苦しくなる。

「萌、なした?」

会社の休憩室、ランチに入った岡村が目敏く萌香を見つけて向かいに座る。

「ううん、なんでもない。大丈夫」

「そか」

それ以上は追求せず岡村は弁当をつつき始める。

「そうだ、来週休み合ったら観たい映画あるんだけど」

萌香が言うと岡村が箸を止め手帳を取り出す。萌香も手帳を取り出し見せ合うが合う休みはなかった。

「残念。来週いっぱいで終わりなんだ」

「なんて映画?」

「ローマの休日。午前10時から上映で千円で観られるの」

「相変わらず趣味が渋いというかなんというか」

「いいじゃん、名作だよ、何回観ても泣けるんだから」

萌香の手帳を再度見た岡村が言う。

「あんた、土曜日休みじゃん。真田さん誘えば?」

不意打ちに顔が赤くなる。

「ん?もしかしてまた恋する乙女になっちゃったのかな?」

「からかわないでよ。そんなんじゃないし」

チェシャ猫のようににやにや笑う岡村の顔を睨めつける。

「素直になんなさいよ、萌。真田さん、いい人なんでしょ?」

岡村は素に近い自分を見せられる数少ない人間なので、うまく取り繕うことが出来ない。

「うん。すごくいい人」

「じゃ、誘えばいいじゃん」

「うー、うん。考えとく」

既に弁当を遣い終えていた萌香は先に席を立つ。

岡村がひらひらと手を振るのでそれに応えてロッカールームへ向かった。


仕事を終え帰宅すると22時近かった。

メールであればまだ許容範囲内の時間だろう、そう判断しメールの文面を考える。

あくまでもさりげなく、ただ単にタイミングの合う友人がいなかったから誘っただけ。そんな体裁を整えようと文面を考えるが一向に思い浮かばない。

「あー、無理」

スマホをソファに投げ出して頭を掻く。

その直後、スマホのバイブ音が鳴る。

真田からのメールだった。

用件はシンプルで今度の土曜日は休みか、もし休みであれば時間を空けてほしいというものだった。

心臓が跳ね上がる音が聞こえるようだった。

問題ない旨すぐに返信すると真田からの返信も早かった。

待ち合わせは朝9時半、札幌駅。赤い足のようなオブジェのある場所。

どのような用事か尋ねるが「当日のお楽しみ」とだけしか答えてくれなかった。


土曜日の朝、9時半、待ち合わせの場所に既に真田はいた。

萌香を見つけて笑顔で手を挙げる。今日はカメラは持っていないようだ。

「おはようございます」

「おはようございます、来てくれてありがとう」

「今日はどうしたんですか?」

「萌香さん、映画好きですよね?」

そうだ。先日リゾットを食べた際にそんな話をしたように思う。

「ローマの休日、今日までなんですよ。もう観ました?」

私が一番好きな映画、ちょっと話しただけだったのに覚えていてくれたのか。

「今回はまだです」

ぱっと真田の顔が明るくなる。

「一緒に観ませんか?」

そんな真田の表情を見ると自分の感情をごまかせなくなる。

「ぜひ」


「真実の口」のシーンは何回見てもオードリーの魅力に釘づけにされる。

ストーリーが進むにつれて無邪気な少女が恋を知り、大人の女へと変わっていく。

そしてジョーと別れ、威厳のある王女として会見に臨み見せる表情。


バッグからティッシュを取り出すと萌香はそっと涙を拭う。

そのティッシュをバッグにしまった後、何気なく肘掛に手を載せると真田がそこに手を重ねようとした。

思わず手を引いて真田を見る。

真田は驚いたような気まずいような表情で萌香を見ている。

そんな真田から視線を外しエンドロールに目を向ける。手はバッグの上に重ねたままにしておく。


映画が終わると下のフロアの飲食店街でランチを一緒に食べる。

最後の気まずい瞬間はお互いなかったかのように振る舞った。

そうしているうちに固い雰囲気は徐々にほぐれ、話が少しずつ弾み始める。

映画の感想、お互いの近況。今食べているメニューの感想。

ランチを終えるとそのまま札幌駅に付属している複合施設一階のコーヒーショップに移動して話し続ける。

気付けばもう18時近かった。

「どうしましょうか。この後」

「ごめんなさい、明日は仕事なのでもう帰ります」

真田が名残惜しそうな表情を見せるのが少し嬉しい。

「また連絡しますね」

真田の声に頷いて地下鉄へ移動する。真田は南北線、萌香は東西線なので改札を通ってホームで別れた。


拙作をお読み下さりありがとうございます。

ぜひ感想や評価をお寄せください。

よろしくお願いいたします。

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