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インセイン(リライト資料用)  作者: 森内カンナ
11/15

返信

淡々と仕事をこなし、いつも通り会社を出る。

まだ少し肌寒いが北海道で生まれ育った萌香は今くらいの時季の空気が一番好きだ。身を切るような鋭さは既になく、冷たさの中に密やかな温みがある。明日は休みだからこの空気をゆっくり楽しもうと、地下鉄には乗らず徒歩で帰宅することにする。

自宅に着く頃にはすっかり体が温まり軽く汗をかいていた。部屋着に着替えPCを立ち上げる。PCが立ち上がるのを待つ間に作り置きしておいた夕食を温めテーブルに並べる。

「いただきます」

手を合わせてお味噌汁に口をつける。

「うん、やっぱりお味噌汁はいいねぇ」

ちょっとおばさんっぽいかな、と思いつつも空きっ腹に沁み渡るお味噌汁には唸らずにはいられない。

一人暮らしをしてしばらく経つうちにいつの間にかPCはいつも立ち上げたままにしておくようになり、食事中にもPCでメールをチェックしたり動画を観たりするようになっていた。

その日も食事しつつ、行儀が悪くてごめんねと心の中で誰かに詫びながらメーラーを起動する。

ほとんどはどこかのショップのメルマガなどだが、今日は明らかにそれとは違うメールが混じっていた。

「嘘」

箸が止まる。茶碗と箸を置くとメールの件名をダブルクリックする。

新しく開いたウィンドウを思わず食い入るように萌香は見つめ文字を追う。

「返事、くれるなんて」

一週間ほど前に真田明日香宛に出したメールの返信。

返信がきた事に大袈裟なほど喜んでしまった自分に軽く戸惑いながら、真田からのメールを何回も読み直す。

返信が遅くなってしまい申し訳なく思っていること、写真の感想を貰えてとても嬉しかったこと、差し支えなければいつかサイトにあるような写真のモデルになってほしいこと、などといった内容が丁寧に綴られている。

すぐにでも承諾の返事をしたい衝動に駆られる。

「落ち着け。まずはご飯食べなきゃ」

なんとか自分を現実に引き戻す。いつもよりもはるかに早く食べ終えると岡村に電話をかける。

「なした?」

もしもしも挨拶もなくすぐに用件に入るのが岡村らしい。

「前にさ、すごく綺麗な写真のサイト見せたでしょ?あのサイトの人からメール着たの。良かったらモデルになってほしいって」

「あー、真田さんだっけ?あんた本当に惚れ込んでたもんねぇ。なに、ついに彼氏ゲット?」

「や、ちょっと何言ってるの、名前明日香さんだもの、女性でしょ?」

「そっか、じゃ彼女ゲットか」

「…妙、ぶふぉっ」

「ちょ、あんた今おっさんがいた!」

笑い過ぎて声が出なくなる。

「萌、笑い過ぎ」

そういう岡村の声も震えている。

電話の向こうで岡村が何か飲み物を口にした気配がした後、萌香より先に平常運転に戻った岡村が言う。

「で?」

「でって何さ」

「モデル」

「どう思う?」

「どう思うも何も、やりたいんでしょ?」

笑い含みの岡村の声に、自分はただ背中を押して欲しかっただけだと気づく。

「そうだね。返信してみるわ。ありがと」

「はーい」


真田からのメールに早速返信する。

返事をもらえて嬉しかったこと、私で良ければいつでもモデルになること。

何度も読み直しおかしなところがないか確認した後、慎重に送信ボタンをクリックする。

送信が終わったことを確認すると夕食の後片付けを開始した。洗い終えた食器を拭いて片付けているとメールの受信音が鳴る。

まさか、と思いつつチェックすると真田からのメールだった。あまりに早い返信に動揺しつつメールを開く。

自分は土日が休みなので、もし休みが合うようであれば都合の良い日を教えてほしいという内容だった。

「明日、土曜日だ」

相変わらずシフト制なので土日の休みはそう多くない。明日を逃したらもう。

焦る気持ちを抑えながら返信する。いきなり明日なんて応じてくれるわけがない。

また送信が終わったことを確認するとシャワーを使う為脱いだ部屋着をソファに置き浴室へ向かう。

熱いシャワーを頭から浴びる。しばらく立ってシャワーを浴びたままでいると緊張していた気持ちがほぐれていく。

バスタオルを体に巻いて浴室を出ると既に真田からのメールが着ていた。また一気に緊張する。

返信は簡潔で、明日の何時、どこでの待合せが都合が良いか確認するものだった。

こんなに早く話を進めて良いものか少し戸惑う。しかしサイトに掲載されている写真を思い出すとやはり強く惹かれる。

明日の13時、大通公園一丁目の一番テレビ塔寄りで塔に対して正面に向いたベンチを待合せに指定した。真田からは了解した旨またすぐに返信が着たので安堵する。

何を着て行こうか悩む。気に入っている黒い膝丈のワンピースにラベンダー色のカーディガンにしよう。まだ少し寒いから春物のブーツと薄手のコートを着れば大丈夫だろう。


すっかり体が冷えてしまったことに気づき、急いでパジャマを着る。体を温める為に熱いチャイを淹れた。

チャイを入れたマグカップを両手で包むように持ちながら萌香はソファに体育座りをする。

チャイを飲んで一息つくと緊張が緩んだのか眠くなってきた。カップを洗い歯を磨くとすぐにベッドへ潜り込む。

明日、真田と会ったらどんなふうに挨拶しよう、などとシミュレーションしているうちにいつの間にか萌香は眠っていた。

拙作をお読み頂きありがとうございます。

前回からかなり間が空いてしまい申し訳ありません。

感想や評価など積極的に頂けると幸いです。

よろしくお願いします。

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