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遅くなりました。
「距離はこのくらいでいいかなぁ。」
そんなことを言いながら、キョロキョロと、辺りを見回し、人との間隔を確認する夕。
「まずは、赤い魔源を捕まえるのよね・・・。センセー!!」
意気揚々と始めた直後、大きな声で先生を呼ぶ夕。
「どうした、王月。」
呼ばれた西園寺は、夕のそばへ寄って行く。
「その、魔源が見えないんですが…。」
「だろうな。まず、魔眼鏡を掛けてみろ。」
そう言われ、驚きながら、自分の顔にペタペタと手を当てて、魔眼鏡が掛っていなことを確認し「テヘッ」と、ポーズをする夕だった。
呆れる西園寺を横目に、夕は、魔眼鏡を装着し、練習を再開した。
「よしよし。見えてる。」
魔眼鏡を掛けたことで魔源を目視できるようになった夕は、先ほど教わった手順で、魔法に挑戦した。
魔法の練習を始めて、30分が経過した頃、生徒の実力に差が出始めた。
出来る生徒は、既に火の玉を造り出し、西園寺が造った的目がけ投球しているが、出来ない生徒は、魔法の素すら造れていない。
とは言え、殆どの生徒は、術式を組み込むところで苦戦しているようで、魔法の素すら造れていない生徒は僅か、5名だけだった。
「意外に、少なかったな。」
ぼそりと、西園寺がつぶやいた。と、言うのも、毎年、5thクラスの1年生徒の1/3は、魔法の素が造れないで、初回の授業が終わってしまうのだが、今年は、殆どの生徒が魔法の素まで造れている。
西園寺は、そのことに少し驚いていた。
「うぅ~。出来ないよぉ…。ヒナは魔法の素、造れた?」
ショボショボと、しょぼくれながら、陽太のもとへ、歩み寄る夕。
「いや。」
夕の質問にきっぱりと否定する陽太だった。
「いやって…。じゃー何で、出来る面して、出来るグループ付近で、あたかも、魔法使い過ぎて疲れたぜって感じで、堂々と座ってんのよ!」
夕の言うとおり、既に火の玉が作れるグループ付近で、ボーっとしながら、座っている陽太の姿があった。はたから見ると、出来るグループの一人に見えなくもない。
夕に指摘された陽太は、マジマジとした顔を、夕に向け、諭すように語り始めた。
「…生き抜く為の術だ。いいか?」
「なによ。」
「ゾンビを倒すゲームあるだろ?バイオうんたらってやつ。」
「あるけど、今の話に関係あるの。」
「ある!お前が、もし、その状況だったら、どうやって切り抜ける?」
「そりゃ…、鉄砲だのナイフだので、ゾンビを倒しながら、出口を探すでしょ。」
「ふふ。だからお前は、提灯娘って呼ばれるんだ!!」
「え!言われてるの?」
「いいか!答えは、ゾンビになりきることだ。ゾンビはゾンビを襲わない。つまり…そう言うことだ。」
「…どういうこと!?」
陽太の何処で使えるのか分からない生き抜く術に驚く夕だった。
「もういいから、あっち行けよ。俺まで出来ないと思われるだろ?」
シッシと、てで追い払う仕草をする陽太。
「いや、あんたも、出来てないじゃんか。一緒に練習しようよ~。」
執拗に陽太に絡み始める夕。
「出来るやつに教えてもらえよ。」
「ん~…。色んな人に教えてもらってたんだけど、皆に諦めろって言われちった。テヘッ!」
「じゃー諦めろ。そして、あっちに行け。」
「うぅ。…このままできないと、おいてけぼりにされてちゃうよ…。グスン。」
見え見えの、泣いたふりを堂々と披露し、チラチラと、陽太の顔をうかがう夕だが、無視する陽太。
「わぁー。きっとこのまま私だけ置いてけぼりで、私は一生魔法が使えないんだ!!」
「…。」
尚も、チラチラと陽太を確認しながら泣いたふりを披露する夕だが、陽太は無視を続ける。
「わーわー!!陽太に見捨てられた私は、世間のつまはじきにされて、孤独な人生を送り続けるんだぁー。陽太に見捨てられた私は、なんて可哀そうなのかしら!!!」
デカイ声で陽太の部分を強調するように、泣きわめくふりを続ける夕。
「あぁ、うっせ。分かった。分かったから黙れ、そして黙れ!!」
「じゃー一緒に練習してくれる?」
泣き顔から一転、パッと、表情が明るくなる夕。
「練習って言っても、俺もできてないぞ。」
陽太の言葉に、夕は不敵な笑みを浮かべ、陽太に向かって言った。
「知ってるんだよ。ヒナが、名門光中の卒業生なんでしょ?あの学校はエリートしか行けない中学なんでしょ?って事は、こんな授業ヒナにとっては、簡単でしょ!!」
「…はぁー。」
陽太は、面倒くさそうに、かつダルそうに、深いため息をついた。
「まぁーいいや。とりあえず、西ちゃん言うところの魔法の素ってやつを造ってみろよ。」
「ちゃんと出来ないけど…やってみる。」
夕は、陽太に支持されるまま、魔法の素を造り始めた。
目の前の赤い魔源を掌に乗せ、魔源と魔力をを混ぜ込むように、イメージする夕だったが、やはりうまくいかない。
陽太は、腕を組みながら、何かを目で追う様に、夕の頭、胸、腕、腹部、足を見いる。
しばらく、黙って見ていた陽太が、口を開いた。
「…そのまま続けろ。」
陽太は、夕に支持を出しながら、夕のお腹を、人差し指で素早く突いた。
「うっ!」っと、小さく声が漏れる夕は、急に突かれたせいか、目を大きく開き驚いていた。
「どうだ?なんか感じるか?」
「う…うん。なんか、体が熱くなる様な、変な感じがした。何したの?」
「ちょっと、ツボを押しただけだ。とりあえず、今の感覚、忘れんなよ。じゃ、もう一回。」
「うん。」
夕は、力いっぱいうなずいた。
次回も見てください。