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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ロストシティ

あなたは二万文字という短編を読めるのか……(==フッフッフ…

「暇だな……」


 人生で何度目だろうか? この言葉。

 十回? 二十回? いや、もっとだろう。



「暇だ……」


 歩きながら石を蹴る。

 その石は、道から外れ、芝生の方に転がって行った。



「暇……」


 空を見る。雲ひとつない空。

 太陽がまぶしくて、目がいつまでも開けてはいられない。

 そして……。


「おぅおぅ兄ちゃんよ」

「俺ら、ちょっとお金に困っててよぉ」

「ちょっくら、お金を貸してくれねぇか? いいだろぉ?」


 足を止める。クソみたいなゴミ共に目を向ける。

 翡翠色の瞳が、クソみたいなゴミ共を睨んだ。


「おぅおぅ兄ちゃんよ」

「俺らに喧嘩売ってんのか?」

「売ってんのか? あぁ?」


 ゴミ共を見て一言。


「暇つぶしに買ってくれるのか?」


 次の瞬間。

 その場に人の形(・・・)として残っていたのは、たった一人の少年だけだった……。



====================



 灰色の都市……『ロストシティ』

 何千年も前、この地で一人の男が、日本の政治に我慢できず、反乱。戦争に発展した。俗に言う革命というやつだ。

 そしてそのバカみたいな革命の結果。廃都市、元関東地方『ロストシティ』が生まれ、日本は混乱の世の中に陥り、人は自分が生きていくためだけに動き始めた。

 自分以外の人なんて見えていないかのように生活していった。略奪や殺人など当り前。

 だが、それも96XX年、9月。歴史上に名を残した亮洋(りょうよう)昌之(まさし)という47歳独身の男が日本を統一。混乱の只中にあった日本を見事、治める事が出来た。

 だが、まだロストシティにはさっき見たいなゴロツキが何人もいて恐喝しようなんて日は毎日のように続いている。

 そして現在、120XX年、7月。どこぞの科学者が発見した人それぞれの能力――『ピース』。それが当たり前となり、今では能力を自分の才能だと、世間一般に知られている。もちろん、ロストシティにも……。

 だがさすがにいつまでもロストシティを無視できるはずもなく、日本の政治はロストシティにも学校やファーストフードなど、少しづつであるが、元の栄えていた時に戻すべく、尽力を注いでいる。

 だが、世間の目がこのロストシティに住む人たちの事をよく思ってはいないのは確かだろう。三千年ぐらいたっても長年染み付いた犯罪ごと。略奪や殺人を当り前のように起こすのだから。つまり、三千年経ってもロストシティは荒れていると言う事だ。

 もちろん、三千年前に比べればまだ法律を守る人が少しずつではあるが増えている。


「見て見て! シンくん! これ! あたしやっとテストに合格したんだよ! 三回も落ちちゃうなんて嫌だよねぇ」


 「あははっ」と笑う制服型ゴスロリ服のそいつに、俺は一言。


「…………それが?」

「がーん! シンくん反応悪すぎ!」


 うるさく近寄ってきたのは、小さいころからの付き合いであり、クラスメイトでもある神無(かんなぎ)玲人(れいと)。一言でいえばバカだ。

 それから言っておくが男だ。いくら口調や仕草。服装や体格。そして決め手に顔まで女顔であっても男だ。

 ただ、玲人の魅力を出すのはそのセミロングのサラサラな白髪にサファイアブルーの瞳で、知らなければ美少女と言って街で見かけたら振り返るぐらいだろう。あわよくばナンパ。

 俺はそんな事をしないが。あまり興味ないのだ。そう言う事に。


「まったく。シンくんは相変わらずクールなんだねぇ」

「明るくしろと?」

「そんな事を急にしたらむしろ驚いて心臓が止まる自信があるね!」


 そんな自信はなくていいと思う。そしてこいつの心臓が止まることは無いと思っている。なぜなら……。


「お前が死ぬこと無いだろ? 不死なんだから」


 そう。こいつのピースには不死がある。いつまでも死なないという最悪(・・)なピース、【吸血鬼(ヴァンパイア)】だ。その代わり、定期的に血を吸わなくてはいけないし、夜は絶大的に能力が上がるが、昼は弱くなる。ちなみに銀の十字架と聖水と銀の銃弾とニンニクはもうすでに克服している。なぜなら、銀の十字架のチョーカー、聖水の入ったピアスをつけているし、愛用武器はリボルバーで銀の44.マグナム弾を使っているし間違って自分に撃った事もある。しかも大好物は餃子で好きな科目は水泳で泳ぐ事が好きなのだから海とかにも普通に入るという、ピースを完全に無視したバカだからだ。

 おかげで弱点は無い。定期的に血を吸わなければいけない事以外は。


「大丈夫! シンくんが死んじゃったらあたしも一緒に死ぬから!」

「いやいやいや。追ってくんなよ。第一、俺も死なないよ」


 俺の能力は不死ではないから死ぬことは死ぬが、実力で殺されはしない。

 俺の能力は……。


「そうそうシンくん! オバさんがシンくんを連れてきてって言ってたから行こ!」

「……は? ババアが?」


 ババアことこの学校の校長。おっと、まだこの場所を教えていなかったな。

 俺たちの通うこの学校は灰広学校。日本政府が、このロストシティのド真ん中に立てた学校だ。おかげでロストシティに住んでいる大体の子供はここ、灰広学校だ。

 そして気になるのは学校の名前だろう。これは日本政府がこのロストシティを侮蔑しているからこその名前だ。表向きは灰広学校だが、日本政府は廃荒学校という侮蔑している名前で呼んでいる。俺たちが気づかないとでも思っているのかとも思ったが、それはないだろう。


「ほら、行こ!」


 そう言われて俺の手を掴んで引いていく玲人。俺は何もせず、ただ引きずられていく。抵抗する気もおきない。

 ズルズルと引きずられている最中……。


「自分で歩いてよ!!」


 さすがに玲人が怒ってきた。

 仕方なくと思い、俺は自分の足を地につけて歩き始めた。


「しかし……ババアが何の用だ?」

「さぁ? あのオバさんの事だし、また文句言うんじゃないの? シンくん、なんかした?」

「朝、絡んできたゴミ共を消してきた」

「うわぁ……。その事なんじゃないの……? オバさんが呼んだのって……」


 本当にそうだろうか? 俺はそうは思わない。ゴミ共三人が死んだって別に誰も文句は言わないだろう。第一、向こうが最初に絡んできたのだ。俺が怒られる理由がない。

 まぁ自分を正当化しているだけだが。

 そして着いたのはこれまでと違う雰囲気の纏った大きな扉。そして扉の上には『校長室』と書かれたプレートが……。


「帰るか」

「そだね」


 と、勝手に扉に背を向けて帰ろうとした矢先――バタンッ!


「きゃぁ!」

「……はぁ」


 突風が俺達を校長室に飛ばした。


「いたたた……」

「おいババア。もう少し丁寧に俺達を運べよ。玲人が涙目になって尻さすってんだけど」

「シンくんがあたしのお尻さするの!? それセクハラだよ!?」


 誰がお前の尻なんかさするか。聞き間違えにもほどがあるぞ。しかもお前は男。セクハラになんかなるかよ。

 そう心の中でツッコムけどあえて口にはしなかった。めんどくさかったからだ。


「誰がババアさね! 校長先生とおよび!」


 俺の声に反応するババアことこの学校の校長。名前は知らん。訊きたいとも思えないし覚えようとも思えない。


「はいはい。ババアはババアでいいだろうが」

「校長先生とおよび!!」


 ババアがうるさく吠えるが、俺は特に気にした風もなく欠伸をする。


「んで、何の用だ?」

「はぁ……まぁいいさね。真劉。お前の実力を見込んで頼みがある」


 頼み? こいつは珍しいな。ババア直々にクエストが言い渡されるなんて思っていもいなかった。

 クエスト……それは現代における学生への仕事の話だ。よくゲームとかであるだろう、それだ。

 おっと。そういえばまだ俺の名前を言っていなかったな。


 俺の名前は天草(あまくさ)真劉(しんりゅう)。片目が隠れるぐらいに伸びている黒髪に翡翠色の瞳が特徴的だ。来ている服は制服。玲人は制服を改造してゴスロリ服にしているから制服型ゴスロリだが、俺は改造をさしてしていない。ここの制服は改造しなくても十分だからだ。


「……という事さね。わかったかい?」

「わかったか? 玲人」

「うん? あたしは何も聞いていなかったよ? シンくんは?」

「俺もだ」

「あんたたち!? いい加減にしなさいよ!?」


 ババアが吠える。俺も玲人もどこ吹く風だった。


「だからもう一度言うぞ? 今回のクエストはランクS。実力認定S+を持つ玲人と、実力認定SSを持つ真劉の力が必要なのさね」


 ちなみに最高認定はSSSだ。つまり俺はエキスパートって事。


「自分で言うことかな……?」


 玲人が首をかしげる。まさか俺の思考を読むとは……。さすが腐れ縁の親友。軽々と見抜いてくる。


「で、クエスト内容は」

「ある人物の護衛さね」


 護衛だと? そう思って俺は目を細める。護衛クエストは楽なモノとそうでないモノの差が激しい。楽なモノは大まかに言うと別に何もしなくてもクリアする。だがそうでないモノは、護衛対象者が狙われているというモノが多く、しかも大体が護衛対象者に力がないのだ。最悪の時には自分対敵多数という構造が生まれる。

 そして俺と玲人の実力を見込んでと言われるという事は、これはそうでないモノに含まれると言う事だ。

 守らなければいけないと言うのはとてもめんどくさいものなのであまりやりたくない。だから断りたいのだが、ババア直々に言うとなると、話が別になる。ババアは俺たちの恩人でもあるからな……一応。


「護衛対象者は誰だ?」

「その扉の向こうにいる子だよ」


 指をさすのは俺達から見て右の扉。確か、応接室だったような気がした。応接室は別にこの部屋から行かなくても廊下から行く事ができる。


「名前は高陽(こうよう)紫乃(しの)。おとなしい少女だ。実力認定はB」

「おい待てババア」

「ババアじゃない! ……何さね」

「どうして実力認定がある」


 そう。これはどう考えてもおかしい。かなり厄介な護衛クエスト。護衛対象者が力――ピース持ちだなんて聞いた事がない。


「彼女は確かにピースを持っている。しかも実力はBだが、効果がいい。だが実戦向きではない。それゆえ、ある暗殺機関から防ぐすべがないのだ。だから君たちにはその暗殺機関を別の者達が消すまでの間、その子の護衛をしてほしい」


 ……つまり目的地がなく、期間もわからないって事か。

 暗殺機関か……。めんどくさい奴らだな。そう思ったからこそ、俺はもうひとつ訊いた。


「暗殺機関は護衛対象の何を狙ってる?」

「護衛対象のピースじゃないかね。死体から細胞を採取してピースを顕現させるつもりだと思われるさね。私は敵対勢力でないから仲間に引き込もうとするさね。やるとしたらね」


 ババアが言うほどの事だ。よっぽど利用価値の高いピースなんだな。

 玲人はなにがなんだかわかっていなさそうにしている。こいつに期待することは遊び相手と戦闘だけだ。別に気にしない。


「それじゃあ呼んでくれ。クエスト受けるから」

「おぉ。そう言ってくれると思っていたさね。入ってきな!」


 ババアが呼ぶと、応接室の扉が開いた。そこから校長室に入ってきたのは俺たちと同じぐらいの少女だった。なのに……。

 ――俺はその少女に目を奪われた。


 白い肌に華奢な体格。綺麗なラインの入った顔つき。白い瞳で服も白い清楚なドレスを着ていると言う、全身真っ白な少女だった。だが、そんな少女を目立たせていたのはその薄紫色の腰下まで届いている髪だった。


「これは……何処のご令嬢だ?」

「それは誉め言葉として貰っていいですか?」

「オーケー。これくらいの常識は持っているようだ」

「シンくん。言っている意味がわかんないよ? そしてなにげにキャラ崩壊してるよ?」


 俺も何を言っているのかわからないという事は置いておいた。そうでもないと正気を保てそうになかったし、仕方ないのだ。

それと、少女はとりあえず普通に会話できるようだ。特殊なピースには喋っただけで発動されるものもあるからだ。護衛を頼む人ならば味方として、発動させるはずはないと想定している。

 じゃあ一体この少女のピースはなんだと考える。外見からじゃピースというのはわからない。だから聞くしかないのだが……。答えてくれるものか。


「紫乃ちゃん。この二人が、君の護衛をしてくれるクエスト請負人さね」

「天草真劉だ」

「神無玲人だよ!」

「高陽紫乃。よろしくです」


 とりあえず簡潔な自己紹介は終わらせる。


「それじゃあ二人とも。後は頼んだよ。終わったら連絡するからね」

「了解だ」

「わかりましたぁ!」


 クエスト開始。それの合図は制服の右肩にある学校のエンブレムが煌めいた事により理解できた。



====================



「それじゃあ、改めて自己紹介するか」


 一旦、俺と玲人の部屋に連れてきた。俺も玲人も学生寮に住んでいて、一部屋四人な所を俺と玲人の二人しか住んでいない。初めは四人ちゃんといたのだが、二人とも俺たちについていけないと言って他の部屋に変えてもらったのだ。二人で住んでいるのでかなり広いと感じる部屋だ。

 そして、俺達は再度、自己紹介を始めた。


「わかりました」


 礼儀正しく頭を下げた紫乃に、俺はもう一度自己紹介をした。


「俺の名前は天草真劉。シンと呼んでくれてかまわない。実力認定はSS。よろしく」

「あたしの名前は神が居ないと書いて……」

「それだと神居になるぞ?」

「あ、そっか。神が無いと書いて神無。玲人は玲に人と書いて玲人だよ! 玲人って呼んでね! 実力認定はS+! よろしくね!」


 やたらと長い玲人の自己紹介が終わると、紫乃は首を縦に頷いた。


「私は高陽紫乃。私も紫乃と呼んでください。実力認定はB。戦闘向きではないです。これからよろしくお願いします」


 戦闘向きじゃない……か。一体どういうピースなんだか。

 ピースは時として行動に表れるが、今の所目立った行動をしていないのでわからない。

 だから、いろいろと聞きだす事にする。


「それじゃあ一体なんで護衛なんか雇ったのかを聞きたいのだが……」


 言葉を濁らせると、玲人が口を挟んできた。


「こう言うのって大体クエストを受ける前に本人から聞くんだよね?」

「玲人は黙ってろ」


 さも当然のことを聞いてきたので黙らせる。今回はババアがよこしてきた緊急クエストなので聞く暇がなかったのだ。ただそれだけの事だ。

 俺の質問に、紫乃は少し顔を曇らせる。

 言いにくいのとなのだろうかと思い、俺は「言いたくないところは言わなくていい」と言って制限をさせるが紫乃は首を振った。


「護衛となる人には聞いてほしい。私のピースは……【創造精細(ピースクリエイト)】。ピースを持たない者にピースを作って持たせる能力……」

「なッ……!」


 ピースを作るだと!? そんな事が出来る能力があっていいのか!?


「それだけではありません。すでにピースを持っている人にまでピースを並行させるように持たせる事が可能です。逆に、その人のピースを破壊する事も出来ます」


 ……なるほど。ババアが敵味方区別がついていなかったら仲間に引き込むと言うほどの事だな。そしてその暗殺機関はすでに敵対勢力としてなっているというわけか。それで死体から細胞を採取するのか。細胞は特定の機関に渡すと細胞の持ち主のクローンを作れるからな……。ピース付きで。

 俺の中で一つの謎が解けた。


「えっと……。つまりどういう事?」

「玲人は黙ってろ」

「うぅ……」


 玲人が納得いかない顔……いや、違うな。理解できていない顔でうなる。無理に理解しようとすると頭から火が出るだろう。

 バカなんだから。


「これで大体わかりましたよね?」

「……ああ。ピースさえ聞けば他は大体が想像できる……」


 しかし、こんなピースを持っていたとすると、いつからこの少女は狙われていたのだろうか? それこそ、小さい頃からだとかなり大変な人生を送っていたと言う事だと思われる。じゃなければ年齢に似合わず、大人のように落ち着いた雰囲気をここまで簡単に出す事が出来ないだろう。


「そういえば紫乃ちゃんは何歳なの? 外見からして、あんまり離れてないような気がするんだけど……」

「年齢? 確か、今年で17だと思います」

「思います? 自分の生まれた日がわからないの?」

「はい。私は親を知りませんし、物心ついたころからすでにピースは開花していて研究所にいましたから……」


 紫乃が申し訳なさそうに言うと、玲人が涙を流して「大変だったんだね……」とか言いながら肩をポンポンと叩いている。

 紫乃はハテナを浮かべて玲人の謎の行動を不思議に思っていた。

 いや、そこは不思議がるところじゃないだろ。


「もしかして、小さいころから研究所にいるのが当たり前だと思ってたのか?」

「そうですが……違うのですか?」

「…………」


 ヤバい。こいつ本当に昔から普通の生活という物を知らないで育ってきた。箱入り娘のタイプだ。


「よし! それじゃあこれからあたしたちと遊ぼうか!」

「遊び? えっと、私はあまりそういう物をした事が無くて……」


 昔から研究所で研究対象……悪く言えばモルモットとして扱われていたのだから無理はないと思われる。


「よし! じゃあ、あたしが持ってきたゲームで遊ぼ! いろいろと教えてあげるよ!」

「え、えっと、お願いします」


 お願いしなくてもいいと思われる。

 玲人は紫乃のそれを見ると、服の何処に入れてあったのか、ゲーム機本体をいろいろと出してきた。もちろんカセットを出す事も忘れない。

 こいつのポケットは四次元ポケットかよ……と呆れつつ、俺はベッドに横になって寝る事とした。俺は、護衛をするといっても護衛対象には基本は何もしない。護衛対象者の相手をするのは玲人だといつも決まっているからだ。俺はいつでも防げるように周りに警戒をしているだけだ。長年の経験を得て、それは寝ていてもできるようになった。


「そうそれ! それをこう……」

「結構難しいものですね……。玲人さん、後ろから敵が!」

「ふふん。こんな雑魚共なんて私のテクニックを使えばイチコロよ!」


 ちなみになんのゲームをしているのかというと、続々と出てくる銃を持った敵兵を、同じく銃を持って倒していくというよくあるサバイバルゲームだ。ストーリーもある。協力プレイ可。

 しかし、このゲームで実力認定を入れるとすると、玲人は『E』と出てくるだろう。もちろんこれは『エラー』と読むのではなく……。


「あぁ! 死んじゃった!」

「今助けます!」


 そのまんま。『イー』と読む。

 初心者である紫乃に助けられる始末である。


「ほわぁぁ……暇だ……」


 大きなあくびと口癖を呟き、俺は目を瞑る。すると次第に睡魔がおそって来たので、俺はそのまま深い眠りについた。

 面倒くさい仕事(クエスト)についたなと思いながら。




====================



「……ん。……くんってば」


 俺は体を揺すられる感覚に気づくと目をゆっくりとあける。すると……


「起きないとキスするよ?」


 ――目の前に玲人の顔があった。

 だから俺は無言で玲人の頬をつねった。


「痛い痛い! ちょっと、いきなりあたしの頬をつねるってどういう事!?」


 相変わらず男にしては柔らかすぎる頬だ。

 そう思いながら頬を今度はつつき始める。今度はほどよい弾力を感じる。本当に男かと思うが俺はこいつの裸体を見ているので男だと言わざるとえない。……かなり惜しいと俺は思う。


「えっと……どう反応していいかわからないんだけど……。そんなに私の頬気持ちい?」


 玲人がおろおろしながら訊いてきた。俺はその反応が面白かったので素直に答えた。


「ああ」

「うぅ……。そんな事言われると恥ずかしいよぉ……」


 顔を赤くして俺のなすがままとなる玲人。

 いつでもこんな物が近くにあると思うといいな。なんか和む。


「嬉しいけど……嬉しいけど今はこんな事してる場合じゃないんだよぉ!」

「なんだ。嫌なのか?」

「嫌じゃ……無いかなぁ」


 なら別にいいじゃないか。そう思いながら俺はずっと玲人の頬をつつきまくるが……。


「えっと、私はお邪魔でしょうか……?」

「…………」


 完全に紫乃の存在を忘れていた。そしてその紫乃がいるという事を納得すると仕事(クエスト)の事も思い出した。俺は玲人につついていた手を止めると、上半身を起こした。玲人が少し残念そうな顔をする。

 今、完全に俺は寝ていたかと思いながら、仕事中に何しているんだと自分に叱咤する。


「それより、玲人。何か用があるんじゃないか?」

「うん。……あのね? その……」


 玲人が両手を弄びながらもじもじとし始める。

 またかと思いながら、俺は無言で玲人を膝の上に呼ぶ。

 玲人はもじもじから一転。笑顔になり、俺の膝の上にのった。


「それじゃあ、いつもみたく痛くないようにするね?」

「ああ」


 俺の確認を取ると、玲人は俺の首筋まで顔を持っていき、口を大きく開けて、とがった犬歯で俺の首筋を噛んだ。それから玲人は吸い始めた。もちろん、何を吸うのかというと……。


「こく……こく……こく……。はぁ……。ごちそうさま♪」


 俺の血だ。ピース、【吸血鬼(ヴァンパイア)】により血を吸わなければ生きていけない。だからいつものように俺の血を吸うのだが、たまには他の人の血を吸えばいいと思う。殺した奴の血は全部吸っているが。ちなみに玲人の犬歯は普段はとがっておらず、他の人と同じようになっている。血を飲むときや、能力を使うときのみ犬歯が尖がる。

 そして、玲人が俺の血を飲んでいるところを間近で見ていた紫乃が少し頬を染めて両手で顔を隠しているが、指の隙間から目が見えている。


「なぁ。毎回思うんだがどうして首なんだ?」

「え? やっぱり首が一番吸いやすいと言うか……。…………シンくんとくっつけるチャンスだし……」


 最後の部分が聞こえなかったがまぁよしとする。俺は【吸血鬼(ヴァンパイア)】じゃないからな。何処が吸いやすいなんて知らないし。


「い、今のは何をしていたのですか……?」

「ん? 玲人は定期的に血を吸わないと死ぬんだ。今さっきのは玲人が血を吸ってただけだ」

「血を!? そ、そうなんですか……。玲人さんのピースって……」

「そうだよ♪ あたしは【吸血鬼(ヴァンパイア)】なんだ!」


 「がおー」とか言いながら玲人が言う。ってかピースをそう簡単に人に話すなよ。

 玲人の場合はわかりやすい上に有名なピースだけどよ。弱点を大体克服している玲人はそこまでハンデにはならないが。


「ですが……どうして十字架の首飾りに聖水の入ったピアスをつけているの……」

「こいつがバカだからだ」

「ちょっとシンくん!?」


 紫乃が言い終わる前に俺が止めて紫乃に言った。玲人が俺に目を向けてくるけど無視した。

 一言でかたずけられてしまったので玲人はず~んとした空気を漂わせ、紫乃がちょっとおろおろし始めた。


「い、いいのですか……?」

「こいつのテンションなんて考えていたら身が一つじゃたらん」

「うぅ……。さっきからシンくんが酷い……」


 玲人がとうとう泣くように両手で目を覆い隠すが長年の経験からこう言うときは嘘泣きとわかっているので慌てたりはしなかった。紫乃は慌て始めたが。


「そ、そういえば真劉さん――」

「シンでいいって言ったろ?」

「は、はい。シンさんのピースは何なのですか?」


 話題を逸らそうと紫乃が苦し紛れに変えてくる。いつまでも玲人にかまっていてもしょうがないので俺もその話題にのる。


「そうだな……。天は俺の上の人を作らず……って言ったところか。だからこの世界は暇なんだが……」

「えっと、どういう意味ですか……?」


 よくわからないと言ったふうに首をかしげる紫乃。これ以上は教えてあげる筋合もないしこれが普通なのだから答えを言う必要はない。

 それは紫乃もよくわかっているようで別に追求をしてくる事はなかった。


「それにしても暇だね~。ねぇシンくん。外いかない?」

「ババアが言うには隠れてるのが一番だろ? ここは校内だから敵がくる心配もなし」

「うぅ。そうなんだけど、外でなんかして遊ぼうよぉ! 家の中だけじゃ体がつまらないって言って叫んでるのぉ! だめ……?」


 先ほどの空気を自力でなんとかした玲人は目を潤ませておねだりしてくる。

 目だけで訴えても俺の決意は変わらん……のだが。いつの間にか紫乃まで俺を見てきていた。

 もしかして……いや。もしかしなくても『外』と言うところに反応したのだろう。

 護衛ありの仕事(クエスト)には護衛対象の機嫌取りもある。

 つまり……。


「はぁ……。外で何するんだ? 三人で出来るもんにしろよ?」

「やったぁぁああ♪」


 両手をあげて喜ぶ玲人と、嬉しそうな紫乃。どうやら紫乃は外にあこがれているのかもしれない。

 体を動かせると言って、玲人は紫乃と手をつないでステップしながらこの部屋を出る。俺もため息をつきながらそのあとをついていく事にした。




 ――そして、紫乃を外に出した事を後悔した。




 学生寮の門から外に出た時である。


「その御方を渡してもらえませんかね? 廃荒学校の南蛮人共が触っていい御方じゃないんですよ」

「あ゛ぁ?」


 四人の黒い服を着た何者かがその場に立って囲まれていた。

 不機嫌そうな声と睨みで威圧するが、まったく物おじない所を見ると相当な力を持っているだろう事がうかがえる。

 そして、こいつらは今、この御方と言ったな。殺す気はないと言うことか。


「紫乃。下がってろ」

「わ、わかりました」

「玲人。責任もって紫乃は絶対に守れよ。テメェは昼間は使えない」

「う……。ご、ごめんねっ」


 紫乃と玲人にそれぞれ指示を出してうしろへと下がらせがそれだけでとどまらず、学生寮の中へと走っていく。

 誰が中まで行けっつったよ。


「チッ。お前ら。追え!」

「「「ハッ!」」」


 一番後ろにいた男に指示されて他の黒服を着た男たちがその場を消えた。


「バカが。俺の前に立った瞬間。お前らはもう逃げらんねぇンだよ」


 俺はその消えた男たちを――




 ――次の瞬間に死体として俺の横に寝かせていた。




「――ッ!?」


 さすがに今の芸当には驚いたのか、男が動揺する。今の俺の行動が見えていなかったのだろう。普通の人が傍から見れば俺は普通の立っていただけに見えただろうから。


「お前、今何を!?」

「そうやって訊いてなんでもかんでも教えてもらえたらどれだけ楽だろうな。ガキじゃねぇだろ? 自分で考えな。まぁ……」


 そう言って俺は次の瞬間に男の顔面を踏みつぶしていた。


「グギャ――ッ」

「別に組織が何処だか訊く気もないからそのまま殺すけど」


 俺は脚に力を入れて、男の頭を踏み砕いた。ブシャァッとその場に肉塊と血の池が広がる。下は土だからいつか乾くだろう。きっと赤い土になっているだろうが。

 しかし、こう難易度の仕事(クエスト)の割にはかなり雑魚い敵だったなと考える。もっと手ごたえがあってもよいだろうと思うのだ。


 何かがおかしい。そう思ってまず俺ならばどうするかを考える。

 まず、囮としてこいつらを敵に向かわせる。その間に背後から目的の物を……紫乃が危ないな。

 俺はすぐに踵を返して学生寮の中へと入っていく。玲人が行くような場所はわかっている。大体が俺の部屋だ。すぐに俺の部屋へと向かっていく。


 ――だが。


「あぁ、もう来やがったよ」

「学生寮前に居た奴らはどうしたんだぃ?」


 どうやらすでに学生寮内に敵が侵入してきていたようだ。

 二人とも先ほどの奴らと同じような服を着ていて、内一人は青いツンツン頭にゴーグルをつけている。その手は凍りになっているところを見ると【(アイス)】の能力(ピース)だろう。もう一人は眼鏡をかけていていかにも頭脳派っぽい奴だ。きっとそんな能力(ピース)だろう。

 邪魔くさいな。俺に誰も勝てない癖に。

 別に自意識過剰で言っているのではない。これは、俺の持つ能力(ピース)によるものだ。


「前に居た奴らは殺した」

「おぉ、マジか。一応それなりの腕の奴なんだが……」


 青髪男がそう言う。

 それはそうだろう。俺の威圧に耐えたのだ。


「それはともかく、今度はこっちが質問する番だ。玲人と紫乃をどうした?」

「さぁてね。紫乃様はともかく、玲人って奴は知らんなぁ」


 玲人はまぁ死なないのでよしとするが嫌な予感がするな。

 それと、もう紫乃は学生寮に居ないか。

 クソッ! 俺とした事がこんなミスを犯すなんて!!


「テメェ等のアジトは何処だ?」

「冥土の土産にでも訊きたいのかい? 子供が生きがっちゃいけないよ。俺たちが殺すんだからね」

「答えろ。アジト……紫乃を何処に連れて行きやがった」


 俺はその手にピースを使った武器を顕現させる。

 その武器は禍々しい大鎌。居るかもどうかも知らんが、魔王が持つにふさわしそうな武器だろう。少し厨二くさいか。まぁいい。


「形からでも入るのかな? いいだろう。遊んであげるよ」

「おいおい。いいのか? ボスに終わったら掃除してさっさと帰れって言われてるだろうが」

「別にいいでしょう。不死の彼女もそうやって遊んであげているではありませんか。今は永続的に死んでいるでしょうけどね」


 眼鏡男のその言葉にピクリと肩が動く。

 不死の彼女。そこから導き出せるのは……玲人しかいねぇ。


「テメェ等。玲人に何かしやがったのか」

「あぁ、あいつが玲人っつぅのか? 俺は別にしてねぇけどこいつがやったんだよ」

「自他共に認めるドSでして。不死なんて貴重ですからね。彼女には永続的な死を与えてあげようかと」

「死ね」


 ブゥンッ!! 俺が放った大鎌をいともたやすく避ける二人。まさか今のを避けられるとは思わなかった。それだけの力はあるのか。

 俺はそのまま切り返して、ついでに風の刃も追加させる。


「風のピースかっ」

「違う」

「!? な、おま、いつの間に――ッ」


 俺はその無情の鎌を大きく振るった。青髪男の声がそこで途切れる。


「ローガ!?」


 青髪男の名前はローガと言うのか。

 眼鏡男がそう叫ぶのを聞きながら俺は一瞬にして男の首筋に大鎌を当てる。

 目で追えていなかったのだろう。眼鏡男は突然として現れた俺と首筋に充てられている大鎌に短い悲鳴を上げる。


「玲人と紫乃の場所を言え。さもなくば今ここでお前の首を飛ばす」

「――ッ!? お、お前の! お前の部屋だ! 囮を使って俺達はお前の部屋に侵入! 戻ってきた紫乃様はもう一人に手渡してここから南方向に半日あればアジトに着く! もう一人の方はお前の部屋に居る!」


 やけに焦って言った眼鏡男の額からだけでなく、全身から汗が流れ出ている。声も上ずっていたり、日本語がややおかしかった箇所などがあるが欲しい情報はすべて手に入った。


「そうか。じゃぁ死ね」

「ひぐ――っ」


 首を刈り取る。血が大量に出てきてその場に倒れ込む首なしの死体。首だけの頭は白目をむいて絶命している。

 俺はそんなのを無視してすぐさま自室へと走る。

 部屋の前に着くと同時に扉を壊しながら中に侵入。

 玲人の姿をすぐに確認する。玲人は何十本とある氷柱で両腕両足やあらゆる体全体を串刺しにされて固定され、頭を水の中へと浸からせていた。おかげで玲人が苦しみから逃げられずに暴れている。


「――――ッ!!」


 俺の姿を見てか、苦しんでいる顔から少しの喜びが感じられた。俺はすぐさま大鎌を振るって氷柱を割り、玲人の自由を取り戻した。


「ぷはッ!! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あ、ありがと……。し、死ぬかと思って……う、うぅ……」

「ほら。さっさと噛め」


 俺は腕を出すと、涙と鼻水を出しながら素直にその腕に噛みつく玲人。すると、瞬く間に氷柱に開けられた穴が徐々に埋まっていく。

 血を吸っているのだろう感触がする。いつものように優しく血を吸うのではなく、少し乱雑だ。いくら不死だからといっても玲人は死ねば死ぬほど吸血した分の血が足りなくなる。吸血した分の血が無くなったら玲人は本当に死ぬのだ。

 玲人の反応を見ていればおそらく次死ねば吸血した分の血が無くなって本当に死んでいたのだろう。間一髪だった……。


「はぁ、はぁ……ご、ごめん……。ごめんなさい、シンくん……。あたし……あたし……」


 玲人が吸血を終えると濡れた瞳で即急に謝ってきた。おそらく頼まれた紫乃を守ると言う事が出来なかったからなのだろう。

 俺は無言で玲人の頭をなでる。さらさらな白い髪を味わいながら、泣いている玲人を胸元まで持ってきて抱きかかえるようにした。


「玲人。俺は空に月が出ると同時に奴らのアジトを襲う。来るか?」


 俺は少し離して、玲人にそう語りかける。

 玲人はびりびりに破けている服の袖で涙を拭き、俺に顔を向けて力強く頷いた。



====================



「ここ……は……」

「おはようございます紫乃様」

「!?」


 私はすぐさま起き上がり、周りの状況を確かめようと辺りを見回す。

 そこは私が先ほどまで一緒にいた真劉と玲人の姿が無く、代わりに黒い服を着たたくさんの男たちに囲まれていた。その姿と異様な光景に身を縮めて振るわせ始めた。

 そして一人、サングラスをかけて頬に傷がある男が私の前まで近づいてきた。


「さて、そう身がまえないでくださいよ紫乃様。あなたに少し頼みごとをしたいのです」

「やりません……」

「あ゛?」


 サングラスの男が睨む気配がする。サングラスをしていて正確にはわからないが絶対に睨んでいる。

 そのために身を更に縮ませてしまう。怖いのだ。こういう、大人を何人も見てきたから。

 私に力を求め、そして自分の野望を果たそうとする大人達が何百人とこれまであって来た。そのどの大人よりも貪欲に力を求めている男。それがこのサングラスの男だと言ってもいいぐらいだった。


「よく聞こえていませんでしたね。頼みごとをしたいのですよ」

「い、嫌です!」


 頬に涙が流れる。恐怖で足が動けない。それでも私はサングラスの男に最後まで抵抗した。

 そして、イラついたそのサングラスの男が私の頬を思いっきり殴って来た。


「きゃぁっ!」


 男の腕力がとても強く。殴られた私はいとも簡単にその場から数メートル飛ばされ、転がってから止まった。口を切ったのか、血が流れる。床を転がったために体の所どころに痛みが走る。

 頬の痛みを我慢しながら私は震える足を使ってその場に立ち上がる。

 すると、目の前までくるサングラスの男。


「しおきがたらんか。おい、この女のピースは処女じゃなくても使えるんだろうな」


 エ? コノオトコハナニヲイッテ……?


「もちろんでございます。彼女の力は純潔などは関係ございません。ただし、死んだらクローンを作ってもピースを発動できませんのでおきお付けを」


 いつの間にか後ろに控えていた他の黒い服を着た大人達とは少し違う服を着た老父がサングラスの男の言葉に答えていた。


「そいつはいい。俺はこいつを調教して奴隷にしてやるよ。俺の部屋に運んどけ」


 私はその言葉を訊いた瞬間。

 脳裏に嫌な光景が目に浮かんできて、恐怖に包まれた。


「い、いやぁぁぁあああああ!!」


 震えていた足を無理やりにでも止めて逃げるようにして走り始めた。


「フハハハッ! 鬼ごっこか? いいだろう! お前ら! 御遊び程度に遊んでやってここまで連れてこい! 逃げた罰としてここでヤってやるからな!」

「「「了解です! ボス!」」」


 嫌だ……嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 誰か! 助けて!


 玲人さん!!





 シンさん!!





 心でそう叫びながら、私は何も知らないこの建物の中を走り回り始めた。後ろからピースを使わずに走ってくる大人のうるさい足音を聞きながら。



====================



 目の前に巨大な建物が……見えない。

 こじんまりとした建物が見えるだけだ。とはいってもその建物も所々壊れていてとても人が住めるようなところではない。

 だが、ここに奴らが居るのだ。その証拠に黒い服を着た男が建物の中から外を覗いている。おそらく見張りだろう。俺たちに気づかれないようにって顔をほんの少ししか出していないがすぐに見つける事が出来た。


「まずお前が奴らを幻惑させる。そして俺がぶっ飛ばす。いいな?」

「ん」


 玲人が短く肯定すると右手を握る。俺と玲人の間に真剣と緊張する空気が流れる。普段の玲人とは全く違うその雰囲気は玲人が本気モードだと言う事を証明している。

 今は空に月が昇っている時間帯。その時間帯は玲人の【吸血鬼(ヴァンパイア)】としても力を十全に発揮できる時間帯。

 玲人の瞳はサファイアブルーから真紅のルビーレッドに変わり、背中にはコウモリのような羽が生えていた。着ている服はあのゴスロリ制服に変わりないのだが、その姿を見ればほとんどの人間がヴァンパイアが来たと叫ぶだろう。


「よし、そのあとの作戦はあいつ等を殺してからだ」

「できたらあたしが全員の血を吸ってもいい?」

「……できるのか?」

「任せて」


 玲人がそう言い、隠れていた建物から躍り出てまるで暴走車が走っているかのようなスピードで見張りがいる建物の中まで侵入した。


「ヴ、ヴァンパイアだぁぁああ!!」


 明らかに動揺している見張りの内の一人の男が叫ぶ。それから、建物がいきなり赤く光った。


「〈ブラッド・ドレイン〉。血を全部貰ってあげる!!」

「あ゛ぁぁああああ! 血がぁ! 俺の血が勝手に出て……」

「ぐぁあああああ!! 助け――」


 数人の悲鳴が聞こえたと思うとすぐに声が途絶えた。

 なるほど、玲人がいつになく強気な事がよくわかった。あいつ、いつの間に魔術なんて覚えやがったんだ?

 玲人が建物の入り口から手を振ってくる。おそらく『食事』が終わったのだろう。

 俺はそのまま道路の中央まで出て、そして歩き始めた。その背には大鎌を背負っている。

 服はいつもの制服ではなく、俺が本気で暴れられるように作られた特注の戦闘服。

 俺の服装は黒い衣服の上に黒いロングコートを着ているだけだ。コートは膝下まであり、袖はあっても腕は通しておらず、落ちないように肩で止めている。ネクタイもつけているのでこのまま何処かのパーティーに出る事も出来るだろう。コートが無ければ。

 この服はババアが知り合いに頼んで作ってくれた服だ。すべて伸縮性のある生地で作られている。


 俺はそのまま歩いて玲人の待つ建物の前まで歩いた。玲人が貴族に使えるメイドの様にして頭を下げているので「アホか」とか言いながら建物の中に入る。玲人の表情は笑みを浮かべていた。昼間の様なバカさ満点の笑みではなく、大人の妖艶の笑みだ。

 中は思いのほか血に濡れておらず、残らずすべて血を喰らった事を知る。そしてこの建物には今俺が立っている部屋、一部屋しかなかった。


「下から人間の匂いがするよ。シンくん」

「下か」


 本人いわく本気モードの玲人にオレは短く答える。

 確認した俺は問答無用で拳を下の床にたたきつけた。

 ズドォンッ!! と豪快な音を立てて床が崩れ、俺と玲人はそこに落ちて行く。どうやらエレベーターのようになっていたようで、俺たちは身を任せるままに下に落ちていく。

 そしてエレベーターのリフトまで到着した。大きな音を立てて着地する。


「な、なんだ!?」

「敵だ! 敵襲だ!」

「どういうことだ!? 上の奴らは何をやっていたんだ!」


 雑魚共が面白いぐらいに動揺している。俺はその光景を見ながら背中に背負っている大鎌を横に構える。

 玲人はそれを見るとすぐさま俺の真後ろへと移動する。

 それを確認した俺はその大鎌を……力強く振るった。


 振るった直後、大きな風が生まれて雑魚共へと強襲する。風が一番前に居る雑魚共に当たったと思わしき瞬間一番前に居た雑魚が細切れになってその原型を無くした。


「「「!?」」」


 それに気がついて雑魚共が悲鳴を上げながら逃げて行くが……。

 ほどなくしてここに血の池が作られる。


「ん……いい匂い……」

「こんな奴らの血も喰らうのか?」

「あたしは『食事』に好き嫌いしないもんね。今は魔術も使えるから近づかなくても吸えるし。〈ブラッド・ドレイン〉」


 玲人がそう言うと、血の池が玲人の口に集まるようにして飛んでくる。玲人は口をあけて待っているだけでそこにたくさんの血が吸いこまれてくる。まるで掃除機だな。

 すべての血を吸うと玲人は「ごちそうさま」と言って口元をぬぐった。


「一人ぐらい残しておけばよかったな」

「そだね~。どこに行けばいいかわかんないもん」


 通路がかなり分けられている。敵に侵入した時のためにこうやって複雑な構造になっているのだろう。だが……。


「おい犬。紫乃の匂いはどっちだ」

「犬!? あたし犬じゃないよ!? あ、で、でも……シンくんの犬になれるんだったら……本望……かなぁ」

「顔を赤らめて言うな変態。紫乃の匂いはどっちだ」

「そんなこと言われても……人間の匂いは何となくわかるけど、あたしは血の匂いしか見分けがつかないんだけど」


 変態というところを否定しないのか。あと使えないな。紫乃の体の何処かに傷がつけられていたらよかったのだが……。


「……あれ? これ……」


 玲人が何かを感じたのか、目を閉じて匂いを嗅いでいる。


「……間違いない……と思う。紫乃の血の匂い……」

「本当か!? どっちだ!」

「こっち!!」


 紫乃の血の匂いがすると言う事は紫乃の命が危ないと言う事。俺は玲人を急がせてこの建物の通路をひたすら走り始めた。

 かなり複雑に入り組んでいる敵のアジトを、玲人は迷いのない足で素早く進んで行く。


「うわ! なんだ今の?」

「風か?」

「いやいや。こんな建物に肌で感じるほどの風があるか?」


 途中すれ違う雑魚共は俺たちの姿が目に追えていない。ましてやいるとか気がついていないのだ。それも仕方ないと思われるが。なぜなら時速三百キロは出ているからだ。一応目で追えるかもしれないが、しっかりと見ていないと追えないだろう。真横を通ったのだ。


 しばらくその速度で走っていくと、前に大勢の雑魚共の姿が見えてきた。


「あれか」

「うん。あいつ等の先にきっといる!」


 俺は玲人に確認した後、すぐさま実行に移した。



====================



 私は走っていた。

 足が震えてまともに走れていないからじょじょに迫られているが、それでも逃げられているのは【創造精細(ピースクリエイト)】のおかげだ。なぜならピース作って自分に付与。そのピースで風が私を押して速度を早くさせているからだ。【疾風踏破(ストームトラベル)】といったところだろうか。

 おかげでまだ追いつかれてはいない。攻撃をするという考えはなかった。恐怖ですくみあがっているのだ。


「くそっ。足早ぇ!」

「ピース使うぞ!」


 後ろから追ってくる男たちが更にスピードをました。おそらく速度系のピースだろう。私は苦虫をつぶしたような顔をしてピースに込める力を入れる。これでも一応誰よりもピースをよく理解し、上手に扱う事ができると自負している。だから更に速度を増すように風にお願いをする。危うく転びそうになるがそれでも走る。一歩一歩がかなり広くて少しの間、空中に居る事もある。

 それでも……。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 息が切れてくる。今まで走ったことなんてほとんどない私はもちろん体力もない。このままではいづれ走れなくなって転んでしまう。


「一度……隠れ、ないと! 〈クリエイト〉! 【透明人間(インヴィジブル)】!!」


 すぐさまピース発動。私の体が透明になる。


「消えた!?」

「どこに行きやがった!?」


 私は体が完全に透明になった事を確認すると通路を右へと曲がり、近くにあった扉の中に入り込む。


「なんとか、撒いた……はぁ、はぁ……。〈クリエイト〉……【透視(ヴィジョン)】」


 流れる汗を手でぬぐいながら外の様子を壁を透かして見る。男たちは私がその先に行ったのか全く分からずに立ち往生している。そして少しの時間をかけると十字にわかれているすべての通路に別れて行った。

 とりあえず扉の中に入ろうとする男たちはいなかったようだ。


「よかった……」


 ピースにより作られた【透明人間(インヴィジブル)】を無くす。姿が透明から元に戻る。他人に見えるようになるが今は誰も見ていないだろう。

 視線を部屋の中へと向ける。何処かわからなかったのだが、部屋の中を見るとおそらくここは倉庫か何かだったと思われる。いろいろな物が置いてある。

 とりあえず布を取って切れている口端の血を拭う。先ほどから流れていて、走っている途中でも手でぬぐっていた。拭って……。



 ――手に血が付いている。その手でドアノブを回した。つまり……。


「!? 〈クリエ――」


 ズガンッ! 扉が蹴り開けられてそこから男たちが入ってくる。


「見つけたぞ!」

「透明になってた血が扉のノブに現れてよかったぜぇ。おとなしくしなぁ!」


 そう。手で血を拭ったためにドアノブを回した時に血が付着してしまったのだ。完全に追い詰められてしまった。

 私は少しずつ後ろに下がっていくと、男たちも少しずつ前に進んでくる。


「い、いや……こない、で……」


 何か……何かピースを作らないと……。だが、ピースを作るためにはかなりの想像力が必要で、男たちを気にかけてしまっている所為で想像力が働かない。むしろ恐怖が巡ってくる。

 こんな状態では能力を作るどころではない。

 そして、男たちが目の前まで迫って来た。


「さぁ。来るん――」


 シュ――





 ……ドサッ。



「き、きゃぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!」


 いきなり男たちの頭が全員余すことなく体から落ちる。その恐怖映像に叫ばずには居られなかった。

 だけど、それをやったのがあの人だと知ると……私は喜びが心の底から湧きあがってきた。

 倒れた首なしの体の合間から、一人、立っていた男が居たのだ。その男が……。


「し、シンさん!!」


 大鎌を片手に持ち、こちらに翡翠色の瞳。その双眸を向けている男。天草真劉だったのだ。


「無事だな? 紫乃」


 私は嬉しくて……本当に嬉しくて……自然と目から涙が流れ出てきて、私は真劉に近づき体を倒した。真劉は片手で私を優しく包み込んでくれた。

 本当に怖くて。今までにないほどの恐怖がこみ上げて来ていたのに、真劉に体を預けただけで安心感が湧き上がってきた。安心感だけじゃない。別の感情も……。



====================



 男たちを全滅させると、部屋にいた紫乃をなんとか救出した。口の端が切れているのか、血が少し流れ出ている。なるほど、この血に玲人は反応したのか。


「〈ブラッド・ドレイン〉」


 玲人が死んだ雑魚共の血を全部吸う。紫乃にはまだ血を見るだけの度胸はなさそうなので胸にうずめて見せないようにしている。

 玲人がすべての血を吸い終わったと思ったところでは俺は紫乃を離す。


「あ……」

「ん? どうした?」

「な、なんでもないです!」


 紫乃がいきなり顔を赤らめて反対方向を向く。もしかしてまだ血が残っていただろうか? だが見渡した限り何処にも残っていない。

 一体何があったのか。


「うぅ。シンくんひど~い。あたしだってがんばってるのにぃ」

「お前は今の所食事してるだけだろうが」

「初めの監視はあたし一人でやったよ!?」


 む。そういえばそうだった様な気もするな。まぁ無視でいいだろう。


「さっさと行くぞ。紫乃。この組織のボスはどこにいる?」

「え? 何故……ですか?」

「仕事を終わらせるため、あの世に送る」


 俺は少なからず怒りを感じていた。なぜなら護衛対象を一度危険にさらしてしまったのだ。このままでは済まされない。この組織のボスに怒りを感じているのではない。俺自身に怒りを感じていたのだ。 この組織を崩壊させる。それが俺の決めた策だった。それと同時に仕事も完遂する。


「こちらです。シンさん」


 場所を覚えていたのか、紫乃が頷いて案内してくれた。

 途中途中で雑魚共と会うが、俺は何もせずに歩く紫乃の後をついていく。紫乃はびくびくしながら歩いて行くが、雑魚共を玲人が殺害and吸血を一瞬のうちにやっていくので安心して前に進めるようになってきた。

 俺たちの通った後には血の無い死体だけが転がっている。干からびている様になっていて少しホラーだ。

 俺たちは紫乃に案内されるまま、このでっかい建物の中を進んでいくと……一つ。大きな空間に出た。

 そこには先ほどから死んでる男たちと同じ格好の男たちが多数並んでいた。そしてその一番前に椅子があり、そこに座っているサングラスの男が俺に話しかけてきた。


「ほぉ……。貴様。紫乃様から離れて頂かないだろうか?」

「断る。お前がこの組織のボスで間違いないか?」


 俺が翡翠色の瞳で話しかけてきた男に目を向ける。後ろに雑魚共が控えているので一番前で椅子に座っている男がボスで間違いないと思われるが。


「あぁそうだとも。貴様の名を聞こうか侵入者」

「人に名を聞くときは――」

「俺の名はボルト」


 俺の言葉をさえぎって名乗ったボルト。散髪の黒髪にデカイ体格が目に着く。椅子から立ち上がるボルトを見ると、その身長はゆうに二メートルを超えているだろう。かなり肉厚だから服をひっぺ返すときっと割れている筋肉が見れるだろう。


「真劉だ」

「真劉か。何しにここまで来た?」


 ボルトがそんな質問をするが、俺はこの状況を見て何も考えが思い浮かばないただのバカ野郎とか勝手に解釈していた。ボルトがわざとそう言ったと知っておきながら。

 だから俺はあえて答えてやった。


「ボルト。お前を殺すためだ」


 背中に背負ってある大鎌を手に取る。


「泣いて謝っても俺はお前を殺す」

「ガキが。俺を殺す……だと? フハハハハハハハハハハ!!!! それは俺のピースを見破ってから言ってみなぁ!!」


 ボルトがズゥンッと音を鳴らして俺へと跳躍してきた。


「玲人。ボルト以外の雑魚共を蹴散らせ。紫乃。お前は俺の目に届くところで逃げていろ」

「了解!」「はい!」


 玲人と紫乃の返事を聞き、俺はその大鎌を振るった。

 俺の大鎌とボルトが腰に持っていた剣がぶつかり合い、耳をつんざく衝撃音が響き渡った。


「手短に済ます!」


 俺はボルトの剣を防いだ直後に大鎌を舞うようにして振るう。ボルトはそれが危険だとわかり、後ろへと回避する。追撃して大鎌を風の刃とともに振るうと、ボルトは剣で風の刃を切り裂いた。


「風かっ」

「悪いが、風じゃない」


 何故なら。俺は風の刃をピースで発動させているのではなく――ただ大鎌を素早く振るうと自然と出来るのだ。

 普通の人ならきっとそんなことできないだろうが俺は自分のピースを利用してそれを可能とした。


「ふんっ」


 ボルトが剣をふるってくる。その剣はなぜか揺らいでいて、捉えにくかった。

 大鎌を前に突き出すようにして剣を防いだが、鎌の部分を滑らせた剣が俺へと向かってくる。俺は体を回転させて剣を避けながらボルトの首へと向けて大鎌を振るった。

 ボルトはそれに反応できなかったのか、俺の大鎌がボルトの首を切り裂いた。だが……手ごたえがない。


「……そう言うことか」


 切り裂かれたボルトの体から血が出て来ない。いや、むしろボルトの姿さえも消えてしまった。振り返った先にボルトが悠然と立っている。


「お前。【熱気(ヒート)】のピースか」

「ほぉ」


 先ほどの揺らぎは熱気で空間を曲げた攻撃だったのだろう。俺の大鎌が奴の首を通っても手ごたえがなかったのも説明がつく。


「そう言う貴様は風じゃないのか?」

「違うな。天は俺の上に人は作らず……なんでな」


 大鎌を肩に乗せてボルトを見る。服は……もう着てないな。割れている腹筋が丸見えだ。

 それもそうだろう。服は俺が切り裂いたんだから。大鎌の先の方に布切れが張り付いているのだ。俺は大鎌を振るって布を最後まで切り裂く。


「わからんな。だが……これで終わりだ」


 周りが異様に暑くなってきた。それから俺は辺りを見回した。

 ボルトが前に居る。それはわかる。だが……後ろにも、横にも、斜めにも。全方向にボルトが居る。


「分身でも作ったってところか。その中で一つだけが本物って感じだな」

「どれが本物かわかるま――」


 俺は無情で体を一回転させて大鎌を振るった。


「!?」


 多くのボルトの内一人だけ回避行動をとったボルトが居た。俺はすぐさま跳躍して動いたボルトへ接近。苦し紛れに振るってきた剣を俺は大鎌を振るって弾き飛ばす。


「くっ」


 だが、また空間が揺れる。俺は迷わず幻のボルトを切り裂くと、逃げた(、、、)ボルト(、、、)の首筋に大鎌を当てた。


「なんだと!?」


 王手をかけられたボルトがその場にとどまる。俺は伏せていた顔をボルトへと向けた。


「最後の言葉はそれでいいのか?」


 大鎌を握る力を強くする。


「お前……一体何のピース――」





「そんなの、知る必要ないだろ」





 ザンッ!!





「シンさん!!」


「が、は…………」


 狩った首が地面へと落ちる。

 だが、その首が無くなったボルトの体が俺の腹へと深く突き立っていた。口から血反吐を吐く。

 完全に油断していた。剣は弾いたのになぜかボルトの体が手に持っていたのだ。


「ごほっ」


 俺は剣を無理やり引き抜いてすぐさま距離をあける。


「シンちゃん!? 一体何したの!?」


 玲人が雑魚共の相手を一旦中断してこちらに顔を振り向いて叫ぶ。


「おぃ。前見てろ! 俺の心配はすんな!」

「う、うん!」


 玲人にそう言って雑魚共の相手をさせる。

 俺はあいた穴を抑えながらボルトの体を睨む。

 ボルトの体は倒れておらず、むしろ動いているように見える。血がしっかりと流れ出ているので首を切った事は確かだ。なのになぜ生きていられる? あいつのピースは【熱気(ヒート)】のハズだ。


 俺は腹を押さえながら立ち上がる。そしてそのボルトの体をよく見る。すると……。


「糸?」


 俺はボルトの体から糸が出ている所を発見した。その糸は途中から見えなくなっているが、おそらく誰かしらのピースだと言う事がわかった。


「シンさん! 大丈夫ですか?」


 紫乃が近付いてきて俺の肩を持つ。


「気にするな。これくらいすぐに治る」

「すぐに治るって……む、無理ですよ! 穴が開いて……あい……て……え?」


 紫乃がまるであり得ないと言った様な顔をする。なぜか? 俺の腹に開いた穴がもうふさがっているからだ。

 俺の自然治癒能力が高いからだろう。これくらいの傷ならばすぐに治る。


「どうして……」

「それより、相手を糸で操るようなピース。わかるか?」


 ピースの事に俺よりも詳しそうな紫乃に聞く。

 紫乃は少し悩んだようなしぐさをした後、俺に答えを返してくれた。


「糸で相手を操る……お、おそらく【人形(ドール)】だと思われます。……もしかしてあの人が操られて……」


 うぷっとボルトを見た瞬間口元を押さえる紫乃。仕方ない。血が流れているし絵的にキモい。

 それにしても【人形(ドール)】か……。何処から操ってやがる……。

 俺は視線を所どころに動かしてピースを発動している奴を探す。だがどこにいるかがわからない。

 すると、紫乃に袖を引かれた。


「どうした?」

「その、【人形(ドール)】を発動している人……。あの玲人さんが戦っている男たちの中に紛れ込んでいます」

「どうして……」

「【鷹の目(ホークアイ)】で確認しました。間違いありません」


 なるほど。【創造精細(ピースクリエイト)】か。便利だなと思っている俺はすぐさま大鎌を横に構えた。


「玲人ぉおおおおお!!」

「!」


 俺の叫び声が聞こえたのか、玲人はすぐさま戦っていた手を引っ込めて空中に逃げた。

 それを確認した俺は大鎌を振るう。

 俺の大鎌を見て雑魚共が短く悲鳴を上げた直後。上半身が体から外れて二つに分かれた。理解できないまま死んだ雑魚共いる。

 そして、その雑魚共の中から一人だけ空中に回避してのがれた男が居た。


「お前か」

「おやおや。ばれてしまったようですね。どうして……あぁ。紫乃様に教えてもらいましたか」


 立っていた男は少し年齢のいってそうな老父。来ている服は燕尾服だ。


「しかし……これから三人を相手するのは骨が折れますね。退散させていただきますよ」

「行かせると思うか?」


 俺の言葉を無視して背を向けて歩き出した老父。その態度にムカついて俺は大鎌を振るった――。


 ――次の時にはその場にただの藁が寝転がっていた。


 だけど、俺は老父の体を斜めに引き裂いた。


「逃がすと思うか?」

「ほぉ。足が速いですね」


 切り裂かれたのに老父は笑っていた。驚く事に切り傷から血が出ていないのだ。

 老父は突如手を見せつけるようにして引いた。その行動に俺は疑問を浮かべる。


「シンくん!」


 すぐ後に玲人が後ろで何かを弾く音を聞いた。

 視線を後ろへと向けるとボルトの体が剣で攻撃した所を玲人が防いでいたのだ。


「ナイスだ玲人」


 俺は大鎌では老父を殺せない事を確認したので大鎌を消す。それからその手に力を込めて老父に拳を入れた。


「そんな物で殴るぐらいだったら鎌で切りつけたほうがいいのごばぁ!」


 拳がもろに顔面に入り、吹き飛ぶ。今の言葉を聞く限りさすがに訊いただろう。ピースを使ったのだから。


「な、何故だ。私の体はピースによりダメージは受けないはず!」

「シンさん。その方の【人形(ドール)】は物理によるダメージを無くすこともできます。どうして……」


 老父だけでなく紫乃も驚いて俺の方へと向いている。


「ふふん。そんなの簡単だよ。何せシンくんは王なんだもん! 王の命令は絶対なんだよ!」

「別に王じゃないがな」

「そしてあたしは王の忠実なる(しもべ)よ!」

「じゃあ下僕」

「ぁん♪ なんかかなり頭の中に響くよぉ……ぞくぞくする……」


 こいつ、こんなにドMだったか?

 まぁいい。


「ジジイ。お前の遺言を訊こうか」


 俺は両手を力強く握る。


「ま、待て。お前本当に何なんだ……。揺らぐ空間を見破り。人形である私に物理的ダメージを与えるピースとは何なんだ!」


 老父が先ほどまでの空気とは一変してかなり慌てている。この拳だと死ぬと言う事がわかったからだろう。俺は拳を振り上げる。





「【天我地子ロード・オブ・ワールド】と言ったところか」





 俺の拳が老父の頭を貫いた。



====================



「一夜にして暗殺機関を壊滅。依頼人を危険な目にあわせるも無事救出。……はぁ。あんたらは何やってるんだぃ」

「別にいいだろ? エンブレムも再度光って仕事完了。何も問題ない」


 あの後、残った雑魚共を全員殺して紫乃を連れてこの学校へと戻ってきた。

 完全に陽が昇っていたので徹夜が嫌いな俺は翌日かなり不機嫌だった。

 とりあえず、仕事が終わったので依頼人である紫乃はババアに引き渡して完了。そのあとの事は知らない。


「そうなんだけどねぇ。あんたらは相変わらず危なっかしいよ。あんたらがもう少し暴れて建物を攻撃していたら崩れていたよ」

「あははっ。まぁしょうがないでしょ! むしろあたしたちが建物を壊さなかったほうがすごいんじゃないかなぁ」

「笑ってごまかすんじゃないよ!! 確かに今回初めて建物を壊さなかったけどそれは地中にあって頑丈だったからだろう!? 地上にあったら壊れてたよ!」


 うるさいババアだ。


「うるさくて悪かったねぇ!」

「今俺声出てたか?」

「ううん。出てないよ?」


 このババアはエスパーか。風のタイプのピースを持っていて、エスパーのピースも持っているとは。

 俺はババアに感心しながら欠伸をしながら訊いていた。


「おい。さっさと俺と玲人が呼ばれた理由を言えよ」

「そうだそうだ~。あたしたちだって暇じゃないんだぞ!」


 いや、俺は暇だが。それに俺の口癖だ。

 ババアは「こいつらは……」とか言いながら額に手を当てて首を振っていた。

 おい。そこに俺を入れるな。玲人と一括りにするな。


「しょうがないねぇ。これからあんたらを呼んだ理由を答えるよ。入ってきなぁ」


 ババアが俺達の後ろの扉。廊下から校長室へと入って来れる扉に呼び掛けた。

 すると、その扉がおずおずといったふうに開けられた。そこから現われたのは……。





「し、失礼します……」





 緊張した姿で現れた少女。白い肌に華奢な体格で白い瞳。この学校の制服を改造して、肌に負けないくらいの真っ白な制服。全身真っ白な少女。そして目立たせる薄紫色の腰下まで届いている髪。




 ――高陽紫乃が両手を前に添えて立っていた。




「……何をしている?」

「えっと、これはどういう……」


 状況についていけない俺と玲人。

 とりあえず俺と玲人はなぜかこの学校の制服を着ている紫乃に疑問を問いかけると、後ろから答えが飛んできた。


「今日からあんたらの部屋に寝泊まりする。つまりルームメイトになる仲間さぁ」

「「はぁ!?」」


 ルームメイトになる仲間って事は紫乃はこの灰広学校に通うと言うことか!?


 頭の中が驚きに包まれている中。





「よろしくお願いします。玲人さん。そして……真劉さん」




 紫乃が俺と玲人に微笑み、頭を深く下げたのだった。

読めた……だと……!?

出来たら感想お願いします!!Orz彡 ズサァァァ!


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[良い点] 良い感じの長さでした。 文章も読みやすかったです。 [一言] お前は今まで読んだ文字数を覚えているのか? ってすごく言いたい。 言ってしまいましたね。 失礼しました。
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