私を忘れた私の話
たまに、思うことがある。
まれに、悩むことがある。
刹那的で、無意味で。
ふとした、その時に。
「私は、私なのかな」って。
名前を呼ばれて応えてみても、胸の狭霧は晴れないの。
ちゃんと此処にいるのに、お化けみたいに透けてるの。
掌を見て。鏡を見て。
我を見て。眼を見て。
語りかけても、聞き飽きた声で二重奏。
もういいよ。余計に自分がわからない。
他人なんかじゃ確認できない。
目標なんかじゃ満たされない。
だったら。
暦をそっと、捲ってみよう。
大きな体の、小さな苦しみ。
どれだけ私がちっぽけだったかが、わかるから。
見失ってる? 見ないふりをしてるだけ。
迷ってる? がむしゃらに走ってるだけ。
怖がってる? 勝手に恐れ戦いてるだけ。
なまじ賢いばっかりに、体いっぱいの懊悩を。
齟齬なんて生まれてない。
生まれているのは私だけ。
君はここにいるよ。
そうやって私を証す、たった一つのもの。
この日だけは、たくさん騒ごう。
頑張って考えたギャグが、クラスでうけたあの日のように。
初めて、補助輪なしで自転車を運転できたあの日のように。
母に抱かれて、ひたすら産声を上げていたあの日のように。
たくさん、たっくさん。
ハッピーバースデイ。
お誕生日おめでとう。




