剣道部の現状
どうしてこんな展開になったのか、
俺にも分からない……
「……ごめん」
「気にしなくて良いよ。誰にだって勘違いはあるからね」
シュンと項垂れ、謝っている有紀に笑いかける男子生徒。
彼の名は別当琢磨。私達の一つ上の学年で、
唯一の剣道部部員なのだそうだ。
「それで先輩、一体何があったんですか?」
「……」
別当先輩はしばらく黙り込む。
話すべきか話さざるべきか迷っているのだろうか?
やがて先輩は静かにと語り始めた。
「……ここがこんな風になってしまったのは、
三年の落木のせいだ」
「落木?」
「三年生の過激派グループの一つ、
ブルゾンタークスのリーダーだよ。
性格は卑怯で卑劣でその上執念深い」
「その言い方だとまだ他にもグループがありそうッスね?」
「その通り、三年にはポイズンアームやら
レッドスネークやら、色々なグループがあって
勢力争いをしてるんだよ。
その中でもブルゾンタークスは有力なグループで、
大きな勢力を持ってる」
二年生と抗争をしているだけではなく、
内部で勢力争いまでやっているのか?
連中はここに何をしに来ているんだ……
「話を戻すぞ?……ある日、落木が
仲間を連れて道場に現れてな。
それで落木がこう言ったんだ。
“ここを使いたかったら、俺達に使用料を払え”ってな」
「うわぁ……悪党の典型的な台詞ッスね。
それで払ったんッスか?」
「まさか!突っぱねてやったさ。
まぁ、その結果、酷い嫌がらせを受けて
皆辞めてしまったんだけどな」
「……なんで先輩は辞めないの?顔のあざって、
そいつらに殴られたから出来たんだよね?
そんな目に会うなら辞めちゃえば良いのに……」
有紀の言葉を聞いた先輩は苦笑いを浮かべる。
自分でも分かっているみたいだな。
それでも辞めない理由は恐らく--
「まぁ、君の言う通りなんだけどさ--」
先輩はニッと一片の曇りの無い笑みを浮かべ--
「やっぱ好きなんだよ、剣道が。
だから--」
そこまで言った時だった。
道場の扉が蹴り破られ、
柄の悪い六人の不良が入ってくる。
それを見た先輩はゆっくりと立ち上がった。
こいつらがブルゾンタークスか?
「よう別当ぉ……うちのもんが世話になったなぁ……」
不良の中で、一際柄の悪い男が
悪どい笑みを浮かべる。
「落木……」
先輩は声を荒げる訳でもなく、ただ静かに
生徒の名前を読んだ。