ただいま
バカップルを書くのって何でこんなに楽しいんだろ?
あの二人と別れた私は、その後も街を散策しながらも
歩き続け、ある店の前で立ち止まった。
喫茶店デッドライン……私が彼女と共に
開いた店であり、私の帰るべき家。
ようやく帰ってくることが出来た……
彼女は私を見たらどんな反応をするだろう?
……きっと大泣きされるだろうな。
出来ることなら、彼女の涙は見たくないのだが……
……まぁ、なるようになるか。
私はそう頭の中で結論付け、扉を開けた。
俺は空いた席に突っ伏していた。
やる気が一切出ねェ……
何時もなら、こんなことしてたら一に
ぶっ飛ばされるか、朱鷺乃や深紅に叱られるンだが
今は三人共居ねェから俺を働かせようと
する奴はここには居ねェ。
……さっき誰かに声かけられた気がしないでもないが、
どうでも良い。
そんなことを気にしてる余裕は今の俺には無ェ。
「……あ~時雨に会いてぇな~帰ってこねぇかな~」
どうせまだ帰ってこないんだろうけどさ。
今頃、ゲリラの村とかに居てガキ共に勉強でも
教えてるンだろうなァ。
……俺の気持ちも知らずによォ。
ああクソッ!また腹が立ってきた!
帰ってきたらブン殴ってやるからな!あンちくしょー!
俺が時雨をブン殴る決意を固めた時、
店の扉が開かれた。
--が何時ものような威勢の良い挨拶が
聞こえてこず、代わりにざわめきが聞こえてきた。
店の奴らには、腹の底から声を出して
挨拶することを徹底させてる。
威勢の良い挨拶をすることが、この店に来てくれた
客に対する一番の礼儀だと思ってるからだ。
アイツらにもその事は話したはずなんだが……
「て、店長……」
「あンだよ……俺のことは放っておけよ」
「いや、だけど……そのぉ……」
「チッ一体なんだっ……て……」
苛立ちながら席を立ち、顔を上げる。
下らない用件なら一発殴ってやろう。
その時はそう考えていた。
だが--
「……え?」
そんな考えは、扉の前に立っている人物を
視界に収めた瞬間に呆気なく崩れ去ってしまった。
長くて綺麗な銀髪、女にしか見えない顔、
そして口元に浮かべている穏やかな笑み……
間違いなく俺の旦那の時雨だ。
遂に俺は幻覚まで見るようになったのか?
突然のことに働かない頭でそンなことを考えていると、
時雨はゆっくりと俺に歩み寄ってきて--
「あ……」
俺を抱き締めた。この安心する温もり……
これは幻覚なンかじゃない。確かに時雨はここに居る。
それを確信したのと同時に、目から止めどなく
涙が溢れてきた。もう時雨をブン殴る
ことなんて頭には無い。
ただ、時雨が帰ってきたことが嬉しかった。
「時雨ェ……」
「勝手に旅に出てすまなかった。
怒っているだろう?」
「怒って……ヒック……ない……」
「泣かないでくれ結華。私は、君の涙を見たくない」
「だって……嬉しくて……」
時雨が帰ってきた嬉しさや泣いちまった
恥ずかしさがごっちゃになって満足に
喋ることも出来ねェ。
だが、これだけは言わないと……
「時雨ェ……お帰りィ……」
「あぁ……ただいま」
「……で?ずっとあのままなのか?」
「へい……」
私の問いに左頬に湿布をつけた小田島が頷いた。
店に戻ってきた私たちが見た物は、
盛大にイチャつく我が両親だった。
……帰ってきたんだな父さん。
「あーん」
「あーん♪」
「美味しいか?」
「うん♪もっとちょうだい♪」
「フフフ……良い子だ」
……突っ込まんぞ。
四十代にもなって何イチャついてるんだとか、
少しは周りの目を気にしろだとか
絶対に突っ込まんぞ。
「では、そんな良い子には特別に口移しで
食べさせてあげよう」
「わ~い♪」
……絶対に……
「……なぁ、あの二人止めた方がええんちゃうか?」
「小田島にでも止めさせろ」
「いやいや、あん人じゃ無理やろ……」
「じゃあお前が止めろ」
「あの二人を止める勇気はわっちにはないわ」
「私にだって無い。……終わるまで我慢しろ」
その後も二人はイチャつきつづけ、
夜になるまで落ち着くことはなかった。