演技は難しい
ランランル~♪
「おーここに居たか彰」
少年がキサラと戯れていると、
黄色い髪の少女が現れた。
名前で呼んでいるということは、
少年とはそれなりに親しい仲なのだろうか?
「し、師匠!?どうしてここに!?」
「何時まで経っても帰ってこないから、
アンタを探しに来てやったのさ。
それにしても--」
ギロリと少年を睨み付ける。
ただそれだけで少年は竦み上がり、
ガタガタと震え出した。
「修行サボって狼と戯れてるとは良い度胸じゃないか
馬鹿弟子が。一辺あの世行ってみるかゴラァ」
「ヒィィィィ!?す、すいません!!」
「ガルルルッ!!」
キサラは少女のことを少年をいじめる敵であると
判断したのか、少年を守るように立ち威嚇し始める。
威嚇された少女は標的をキサラに変え、
凍えるような冷たい目付きでキサラを睨む。
「ああん?やんのかワン公。
こちとら今、とんでもなく機嫌が悪いんじゃ。
死んでも恨むんじゃねーぞ」
「ガ「ストップだ」グルルル……」
流石にこれ以上放って置くことは出来ないと判断し、
両者に止めに入る。
止めに入られたことにより、キサラは不満気ながらも
少年の後ろに下がるが、少女は標的を
私に変えて睨んできた。
ほぅ……これは中々……
「そんな顔をするな。別に君たちの事情に
首を突っ込むつもりは一切ないのだ。
だが、君とキサラを戦わせるわけにはいかない」
「自分のペットがボロボロにされるのを
見たくないってのかい?」
「まぁ、そんなところだ。
そんなわけで手を引いてくれないか?
こちらとしても帰郷したばかりで
争いなどしたくはない」
「そんなの関係ないね」
少女はそう言って睨み付けてくる。
私は決して少女から視線を反らさずに見つめた。
その状態が少しの間続き--
「……ちぇ、つまなんないのー」
つまらなそうに口を尖らせた。
「こんだけ敵意剥き出しにすれば相手してくれると
思ったのになー残念」
「簡単に相手の誘いに乗ってやるつもりはないのでな」
「ぶーぶー」
少女が頬を膨らませる。
キサラはそんな少女を慰めるように体を擦り寄せた。
そんな中彰少年のみ展開についていけず、
呆けた顔をして私たちを見ていた。
「何だ、まだ分からないのかい?
演技だよえ・ん・ぎ。
このおねーさんが強そうだったからわざと
あんなこと言ったのさ。
まぁ、結果は見事に失敗だったけどね」
「え?えぇぇぇ!?」
「いやいや中々の名演技だったぞ。
私でなければ君の望む結果になっていただろう」
「んまー余裕ぶっちゃって。
これが格の違いって奴ですかコノヤロー」
「そんなつもりはないのだが……」
「ちょ、演技ってえぇ!?」
「アンタうるさい」
「ブッ!?」
少女が混乱している彰少年を気絶させる。
いくら騒がしかったからといえ、気絶させるのは
どうなのだろうか?
喫茶店デッドラインの空気は非常に重苦しかった。
結華の調子がドン底にまで落ち込んで
いることが原因だ。
本来なら朱鷺乃たちや一がどうにかして結華を
何時もの調子に戻すのだが、生憎朱鷺乃と深紅は
出掛けていて居らず、一は風邪で休んでいる。
代わりに小田島と明智が結華の調子を戻そうとしたが
一瞬で気絶させられてしまい、それ以来誰も
結華に声をかけられなくなっていた。
「(どーすんだよ?店の空気が重くて仕方ねぇぞ)」
「(んなことテメェに言われなくても分かってんだよ!
でもどうしようもないだろ?
今のあの人に近付ける奴が居ないんだから)」
「(お嬢たち、時雨さん!早く帰ってきてくれ!!)」
店員たちが店の隅で怯えていると、
店の扉が開けられた。