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天王寺学園!  作者: チル兄
家族集結、そして野球大会?
25/29

謎の美女現る!

寒くて死にそうだ……


 深紅が結華の養子になって更に一週間ほどたった頃。

 宮田市(朱鷺乃たちが住んでいる街)に

 一人の女性と一匹の狼が現れた。

 女性は黒いスーツに身を包み、

 腰まで伸ばされてた銀髪と美しい顔立ちを持っていた。

 一方で狼は全身が白く、尻尾だけが黒い。

 特徴的な外見を持つ一人と一匹は、

 嫌が応にも周りの注目を集めていた。



 「懐かしい……な」


 「わう?」



 街並みを見た女性は懐かしそうに微笑む。

 狼は理解出来なかったのか首を傾げた。

 それを見て女性はクスリと笑って

 その場にしゃがみこみ、狼の頭を撫でた。





 「結華……」



 アイツが綺麗な笑みを浮かべて俺の名前を

 呼んでくれる。

 だけど……これは夢だ。

 アイツは今日本には居ない。

 三年前にフラリと旅に出てそれっきり音沙汰が無く、

 生きているのかすら分からねェ。



 「し……ぐれ……」



 夢だと分かっていても、温もりを感じたくて

 手を伸ばしてしまう。

 そして、あと少しで触れられるといったところで--





 「……あ」



 目が、覚めてしまった。

 溜め息をついて体を起こす。

 何度同じ経験をしただろう?

 初めの頃は夢が覚めることに一々怒っていたが、

 今じゃ空しさしか感じない。

 いくらアイツの存在を身近に感じようと

 夢は夢でしかねェ。

 そんな当たり前のことを理解する度に胸が痛んだ。



 「……時雨、お前は今何処に居るんだ?

 朱鷺乃は美人になったし、新しい家族も増えた。

 他にも話すことはいっぱいあるってのに……」



 アイツはいつもそうだ。

 突然フラリと旅に出てしばらくは帰ってこない。

 俺がどれだけ心配してるのかも知らずに、

 自由気ままに世界中を旅をしやがる。

 ……何だか腹が立ってきた。



 「……バカ」



 旅から帰ってこない旦那に悪態をつくが、

 気分が晴れることはなかった。





 朝から母さんの様子がおかしい。

 なんと言うか何時ものような元気が無く、

 常に上の空で死んだ魚のような目をしている。

 こんな無気力な母さんは初めてだった。

 何か余程のことがあったのかと母さんに聞いてみたが、

 母さんはただ何でもないと返すのみ。

 深紅にも何か知らないかと尋ねてみたが、

 何も知らないようだった。



 「……はァ」



 母さんが深い溜め息をつく。

 それを見た私と深紅は小声で話始めた。



 (……本当におかんはどうしたんやろうな?

 あんな溜め息つくなんてよっぽどやで?)


 (確かにお前の言う通り、あの母さんが

 私たちの前でこんな姿を

 晒してしまうほどの出来事があったのだろう。

 だが、少なくとも昨日の時点では

 こんな様子ではなかった)


 (それはわっちも分かっとる。

 寝る前に二人で色々話したからな。

 わっちが眠った後に何か起きたってことやろ?)


 (そう考えるのが自然なのだろうが……)



 その後も二人で話し合ったが、母さんがああなった

 原因は何一つ分からなかった。





 懐かしい街並をゆっくりと歩く。

 あぁ……本当に三年前と変わっていない。

 家族と共に過ごしたあの頃のままだ。

 思い出深い店や建物を見る度、

 私は故郷に帰ってきたのだと実感出来た。



 「ワ~ウ♪」


 「そうか……お前も気に入ってくれたか。嬉しいよ」


 「ワウ!」



 上機嫌で吠える我が相棒を見て微笑む。

 気に入ってくれるか心配だったが、

 どうやら杞憂だったようだ。

 その後もゆっくりと街中を歩き続け、三年前ぶりの

 故郷を堪能していると、派手な柄の服を着た

 三人組の青年が声をかけてきた。



 「君、ここらじゃ見ない顔だね?観光?」


 「だったら俺たちが案内してやるよ」


 「俺ら、この街のこと結構詳しいんだぜ?」



 笑みを浮かべながら、男たちは観光案内を

 買って出てくれる。

 人は見かけによらぬとは言うものだが……

 彼らもまた、その一例なのだろう。



 「君たちの気持ちはありがたいのだが、

 生憎とこの街は私の故郷でね。

 ある程度は熟知しているつもりだ」


 「まぁまぁそう言わずにさぁ。

 君が知らない場所が出来てるかもしれないじゃん」


 「いや、そう言われても……困ったな」



 思っていた以上に押しが強い。

 さて、どうやって彼らの提案を断るべきか?

 そう考えた時--



 「うわぁぁぁぁ!?」


 「ゴフゥッ!?」


 「クぺッ!?」


 「た、たけちゃん!?ユッキー!?」


 何処からともなく少年が飛んできて

 男の一人にぶつかった。

 ぶつかられた男は仲間を一人巻き込み、

 二人揃ってゴミ箱に頭から突っ込んでしまった。



 「テ、テメェ!よくも二人をやりやがったな!?」


 「ち、違うんです!僕はただ師匠に

 投げられただけなんです!!」


 「言い訳ならもっと上手い言い訳をするんだな!」



 男は怒りに任せて少年へ拳を放つ。

 気持ちは分かるのだがな……



 「まぁ、落ち着け」



 私は男の拳を片手で受け止めた。

 やれやれ……どうしてこうも最近の若者は

 血の気が多いのだろうか?

 おかげで面倒事ばかり起きて困る。



 「なっ……」


 「いたずらに暴力を振るうのは関心せんな。

 まずは対話をして互いを理解しなければ--」


 「ンなもん知るか!

 邪魔するなら美人だろうが容赦しねぇ!」



 男は私の手を振り払い、今度は私に殴りかかってくる。

 ……仕方がない。あまり手荒な真似はしたくないが……

 放たれた拳をサイドステップで避け、

 無防備になった顎をかすらせるように軽く殴った。

 その瞬間、男は力が抜けたように尻餅を突いてしまう。

 男は立ち上がろうともがくが、体はピクリとも

 動かなかった。



 「な、何で……?」


 「無駄だ。少し脳を揺らしたからな。

 しばらくは動けんよ」


 「くそっ……!」



 男が悪態をつく。

 痛みがないように加減はしたし、

 しばらくすれば動けるようになるはずだ。

 動けるようになるまでの間に頭も冷えるだろう。



 「うわぁっ!?」


 「ん?」



 突然響いた少年の悲鳴に、また何か起きたのかと

 少年の居る場所に視線を向ける。

 すると--



 「ワンワンッ!」


 「ヒィィィィ!?た、食べないで~」



 ……少年は私の相棒であるキサラ(♀)に怯えていた。

 狼が人を食うことは無いと思うのだが……



 「少年よ、怯える必要はないぞ。

 キサラは余程のことが起きない限り、

 人を襲うことはないからな」


 「ワンッ!」



 そうだと言わんばかりにキサラは吠える。

 それを聞いて僅かに怯えが和らいだのか、

 恐る恐るキサラの頭の手を乗せ、頭を撫で始めた。

 キサラは抵抗せずに大人しく撫でられ続け、

 気持ち良さそうに目を細める。



 「ワフ~」


 「よしよし、気持ち良いかい?」


 「ワンッ!」



 すっかり恐怖心はなくなった少年は

 笑顔でキサラと戯れ始める。

 それを見て、少年の恐怖心を解くことが出来たことに

 安堵するのだった。



飛んできた少年は“強くなりたいか?”で

燐に弟子入りしたあの少年です。

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