相手に迷惑をかけたのなら謝罪をするのは当然のこと
朱鷺乃は真面目なので、他人に迷惑をかけて
謝らない人を嫌います。(結華は最後には
ちゃんと謝るので問題なし)
母さんが店を飛び出した後、すぐに一さんたち
店の店員が来たため店を開店した。
とは言えこの時間に客が来ることはあまりない。
そのため店員たちと雑談をしていた。
その時、店のドアに付いたベルが鳴る。
その瞬間、もはや条件反射で店員たちの
野太い声が店内に響いた。
「「「いらっしゃいやせぇぇぇぇい!!」」」
「わひゃあっ!?」
店員たちの声に驚いてお客が悲鳴を上げる。
……今の声は女性か?女性が一人で
この店に来るのは珍しいな。
そう思いながら見ていると、店員たちが
困ったように顔を見合わせた。
一体どうしたのだろうか?
店員たちの様子を窺っていると、
明智が小走りで私に寄ってきた。
「どうした?」
「お嬢……実はあのお客人なんですが……」
明智がドアの方に視線を向ける。
釣られて視線を向けるとそこには--
「あーニホンゴワカリマースカ?」
「え?あの……」
「馬鹿っ!そりゃ英語じゃねぇよ。
確かいらっしゃいませってグーテンモルデン
じゃなかったか?」
「それ、ドイツ語だろ?しかもいらっしゃいませ
じゃなくておはようだし」
「ジャンボォォォォ!!」
「「「てめぇは黙ってろ!!」」」
アタフタとする情けない男達と、
それを今にも泣きそうな表情で見る
スタイリー女史が居た。
「……なるほど、全て理解出来た。
奴らにあの人の応対は出来ないだろう。
私があの人の応対する」
「分かりました。すぐにあいつらを下げます」
明智が店員たちの下に戻り、説明し始める。
少しすると、店員たちは持ち場に戻っていった。
それを見て私はスタイリー女史に歩み寄っていく。
まさか休日に担任に会うことになるとは
思いもしなかったが……
まぁ、こんなこともあるだろう。
「はぁ~宮堂さんが居てくれて良かったぁ。
もう怖くて怖くて……」
「うちの馬鹿共がとんだご迷惑をかけました」
テーブルに突っ伏すスタイリー女史に頭を下げる。
その瞬間、俺たちなりに一生懸命やっただの。
いくらなんでも酷すぎるだのと抗議の
声が聞こえてくる。
私は店員たちに一喝した。
「馬鹿者っ!スタイリー女史を怯えさせたのは
貴様らだろうが!
謝罪もせずに良いわけをするとは何事だ!
恥を知れ!!」
「「「す、すいません!」」」
「謝るのは私ではないだろう?」
「「「本当に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!」」」
店員たちが一斉に頭を下げる。
私も謝罪するためもう一度深く頭を下げた。
「き、気にしてないですから皆さん
頭を上げて下さいっ!宮堂さんも頭を上げてよ!」
「こちらの不手際でご迷惑をかけたのは事実。
そう易々と頭を上げるわけにはいきません」
「本当に気にしてないから頭を上げてよっ!
お願いだからぁ~」
そんなに謝られるのが嫌なのだろうか?
そう思いながら頭を上げたところで--
「ただいまーいやー遅くなって悪いなァ。
サツを撒くのにてこずってよォ。
……ありっ?」
母さんが帰ってきた。
「そうかそうか!アンタ、朱鷺乃の担任か!
ウチの娘が世話になってるなァ!」
「いえいえ、こちらこそ朱鷺乃さんは
真面目で助かっています」
「そうだろうそうだろう!朱鷺乃は本当に真面目で
良い子だろう!アンタわかってンなァ!
アッハッハッハッ!」
「アハハ……」
上機嫌に笑う母さんを見て、スタイリー女史は
引き攣った笑みを浮かべる。
母さんが親馬鹿だとは思わなかったのだろう。
どうすれば良いか対処に困っているようだ。
「アンタ気に入ったぜ!特別に小さい頃の
朱鷺乃の話をしてやろう。あれは朱鷺乃が
まだ三歳の時の話だ。公園で--」
「そ、そんなことがあったんですか!
それは可愛らしいですね!(チラッ)」
スタイリー女史が助けを求めてこちらに
目配せをしてくる。
「……(フルフル)」
「!?」
だが、私は静かに首を振った。
あの状態になった母さんを止める術はない。
それどころか下手に止めようとすれば、
私も巻き添えになってしまう。
流石にそれは避けたかった。
「さて……母さんは放っておいて、
自己紹介をしようか。
初めまして、あの人の娘の朱鷺乃だ」
「わっちこそ初めまして。今日から世話になる
荒井深紅や!これからよろしゅうな♪」
母さんは放っておいて互いに自己紹介をする。
いきなり家族が増えると聞いた時は
上手く付き合っていけるか不安だったが、
第一印象大丈夫そうだ。
そう考え、店員たちの紹介をしようと口を開いた時、
ベルが鳴りヨレヨレのスーツを来た
中年男性が店に入ってきた。
あの人は……
「さてと、奴は何処に……」
男性はそう呟きながら店の中を見渡し、
母さんの姿を確認して歩み寄っていく。
そして、話に夢中の母さんの肩に手を置いた。
「それで……あン?」
肩に手を置かれ、母さんは振り替える。
そしてすぐにビシリッと音を立てて固まった。
「よぉ、宮堂……随分と機嫌が良さそうだな?
そんなに爆走したのが楽しかったのか?ん?」
「……な……ぁ……」
母さんの顔はみるみる青ざめていき、
言葉にならない声を上げる。
手が置かれている肩からはミシミシと骨が軋む音が
聞こえていた。
「さぁて……警察署に行こうか?」
「い、嫌だぁぁぁ!!」
悲痛な声を上げながら、母さんは男性に
連行されていった……
因みに母さんを連行していった男性は、
母さんの古い知り合いの警部で松本という。
母さん曰く鬼で、この世で一番恐ろしい存在らしい。
この後、母さんは三日間帰ってこなかった……