待ち合わせの時間はきちんと守るべし
ようやくギャグを書けた……
こんなに嬉しいことはない……
それはよく晴れた休日のことだった。
母さんと二人で店の準備をしていると、
突然母さんがこんなことを言い出した。
「今日から家族が一人増えるから」
「は?」
母さんの言葉が理解出来ず、間の抜けた声を上げる。
だってそうだろう?
一体どうやったらいきなり家族か増えると言うのか。
父さんが居ないから子供は出来ないだろうし……
も、もしや浮気かっ!?
次第に頭の中が混乱し始め、あり得ないことを
考え始める。
それを見て母さんはクスリと笑い、私の頭を撫でた。
「お前が考えてる様なことは無いから安心しろ。
あれよ、養子って奴。
親戚にお前と同じ歳のガキが居るンだが……
親と上手くいってなくてなァ。
今のままじゃ、あまりに不憫でならねェから
俺が引き取ることにしたンだよ」
「……ちゃんと話し合いはしたのか?」
「あン?したぞ。コレ(拳)で。
一発殴ったら素直に話を聞いてくれたぜ」
「馬鹿者っ!それは脅迫と言うんだ!」
「だって俺アイツら嫌いだったし……
あっ!殴ったのは旦那の方だけだからな」
「だから何だ!!それを聞いて安心しろと
でも言うつもりか!?」
「おぉっ!よく分かったな!」
悪びれもせずにケラケラと笑う母さんを見て、
もうどうでも良くなってくる。
これ以上言っても聞きはしないだろう。
相変わらず非常識な人だ。
「それで?何時来るんだ?」
「……あ゛」
「どうした?」
「十時に俺が迎えに行くことになってンの
すっかり忘れてた……」
その瞬間、店の空気が凍る。
十時だと……?チラリと時計を見る。
現在の時刻、十時二十七分。
約束の時間はもうとっくの昔に過ぎていた。
「な……何をやっているか大たわけめっ!!
早く迎えに行ってこい!」
「ハィィィィッ!!」
怒鳴り付けられた母さんは弾かれたように
店から飛び出していった。
駅前の広場のベンチで一人の少女が座っていた。
ふわふわの水色のロングストレートヘアと
整った顔立ちは、周りの目を引くには十分である。
現に二回男性に声をかけられていた。
最も、少女はその二回とも興味を示すことなく、
追い払っているのだが……
「遅いなぁ……」
少女はそう呟き、広場に設置されている時計を見る。
表示されている時刻は十時三十分。
時刻を確認して少女はため息をついた。
彼女、荒井深紅はある人物と十時に
待ち合わせをしていた。
もう一度言おう。十時に待ち合わせをしていたのだ。
だが、約束の時間から既に三十分も経っているにも
関わらず、待ち合わせている人物はこの場に現れない。
普通ならば怒るだろうが、深紅は--
「まぁ、結華さんならしゃーないか」
これだけで済ませてしまい、怒ることなく
ただ待ち続けていた。
一方その結華と言えば--
『そこのノーヘルの女ぁっ!今すぐ止まりやがれ!!
道路交通法違反だぁぁぁぁ!!』
「止まれっつわれて止まる馬鹿が居るかよっ!
俺ァ急いでンだ!邪魔すンじゃねェェェェ!!」
『スピード上げやがった!
クソッ!急いで応援を要請しろぉっ!!
あのアマ、警察舐めやがって!!
絶対にこの手で捕まえてやらぁぁぁぁ!!』
「サツに捕まるほど俺は遅くねェ!!
元デッドラインの総長、舐めんなゴラァァァァ!!」
街中でパトカーとデットヒートを繰り広げていた。
彼女が待ち合わせの場所に姿を現すのは、
まだ先になりそうである。
「ほら、あのベンチに座ってる子、
すごい可愛くないか?」
「確かに可愛いけど……」
ベンチに座っている深紅を遠くから見ている
二人の少年が居た。
ナンパに来た明彦と来たくもないナンパに
無理矢理連れてこられた琢磨である。
女の子を次々にナンパしていた明彦は
ベンチに座っている深紅を目敏く発見し、
ナンパを行おうとしていたのだった。
「運命の人は水色の髪の女性。
今日より貴方の寂しい独り身生活も終わりを迎え、
薔薇色の生活が始まるでしょうでしょう……
フッ間違いない……彼女こそ俺の運命の人だ!」
「いやいや、一体何を根拠にそんなことを
言ってるんだ?」
「今日の占い」
「……占いを真に受けすぎだ。
占いなんて当たれば良い程度に考える物だろ?」
「何を言いやがる!ジョセフィーヌ矢上先生の占いは
今まで一度も外したことはないんだぞ!
俺は毎朝欠かさずに見てるっ!」
「……本当の理由は?」
「朝から裸Yシャツが見れるから。
あのエロス全開のお姿を見るためなら、
俺は留年しても良い」
真顔で己の欲望を暴露する明彦に本気で引く琢磨。
それに気づかずにキメ顔を作り、
颯爽と深紅に歩み寄っていく。
そして、声をかけられる距離まで近付いた時--
突然現れたハーレーに跳ねられ、明彦は宙を舞った。
明彦が見た占いには続きがあった。
--運命の人は、水色の髪の女性。
今日より貴方の寂しい独り身生活も終わりを迎え、
薔薇色の生活が始まるでしょう。
ですが、赤い髪の女性とハーレーには
十分に気を付けてください。
貴方に災いをもたらすでしょう--