親馬鹿にとってその言葉は禁句である。
今回も短いっす。勘弁してほしいっす。
「到着っと!」
ときめき五郎が天王寺学園の前で停まる。
周りの視線が私たちに注がれるが、
それを気にしている余裕は、私には無かった。
「おーい朱鷺乃、着いたぞ」
「……か」
「あン?」
「馬鹿ぁっ!待ってくれって
何度も言ったじゃないかっ!!」
涙目になりながら母さんに向かって叫ぶ。
本当に死ぬかと思ったぞ!!
「ワリィワリィ、つい……」
「ついであんなことされたら、
こちらは堪った物ではないぞ!!」
「そうカッカッすンなよ。
お前だって楽しかったくせに」
……楽しかっただと?
あんな物が楽しかっただと!?
ブチッ
「んなわけあるかぁぁぁぁ!!!」
「うおっ!?」
母さんは私が大声を上げたことに驚いていたが、
私は気にすることなく、声を上げ続ける。
「何が楽しかっただ!一歩間違えれば
死ぬところだったんだぞ!?」
「今こうして生きてンだから良いじゃねェか」
「そういうことを言いたいんじゃない!!私は--」
「まァ、良いじゃねェか!そンな細かいことはさ!」
……人の話を聞こうとする姿勢が、
欠片も感じられない。
良いだろう。母さんがそんな態度を取るなら、
こちらにも考えがある。
私は無言でときめき五郎から降りる。
そして--
「母さんなんか大っ嫌い♪」
満面の笑みでそう言い放った。
その瞬間、母さんがピキリと音を立てて固まった。
「……あ……アハハッ!母さんも歳かな?
今、とんでもない幻聴が聞こえちゃったぜ。
悪ィけど、もう一度言ってくれねェか?」
「母さんなんか大っ嫌い♪」
「……おっかしいなァ。さっきと
同じ幻聴が聞こえるぞ?」
母さんは頑なに私の言葉を認めようとしない。
そんな母さんを私は静かに見つめた。
「……」
「な、なンだよ……」
「……」
「あの……」
「……」
「……まさか……幻聴じゃないのか?」
母さんの言葉に私は頷く。
それを見た母さんは、数秒間膠着した後--
「……グスッ……うわぁぁぁぁン!!
朱鷺乃に嫌われたぁぁぁぁ!!」
泣きながら、ときめき五郎に乗って
走り去っていった。
……まぁ、後で謝っておけば良いか。
体育館に向かうと、既に殆どの席に
生徒が座っていた。
私は空いている席に座る。
その直後、入学式が始まった。