平穏とは長く続かないものである
入学式から数日が経った。
入学初日のようなことはさすがに起きず、
それなりに平和な日々が続いていた。
「そこっ!居眠りしない!」
「ブッ!?」
居眠りをしていた有紀の頭に、
スパナが投げつけられる。
こんな光景も平穏である証だろう。
……多分。
その後授業が終わって昼休みになり、
有紀が額を擦りながら私の席にやって来た。
「いたたた……フェン先生ってば酷いんだから……」
「自業自得だ馬鹿者」
「確かに居眠りした有紀が悪いッスよね」
「味方が一人も居ない!?」
有紀が自分の味方が居ないことに
ショックを受けているが、完全に自業自得だ。
「良いもん良いもん!琢磨先輩に慰めてもらうから!
うわぁぁぁぁん!!」
そう言って有紀は、泣きながら走り去っていった。
「最近、別当先輩と一緒に居ることが多いッスね?」
「どうやら別当先輩のことが気に入ったらしいぞ?
どこまで本気かは分からんが……」
有紀が男性を気に入る子となど、
今まで一度もなかった。
奴にも春が来た……のか?
「まぁ、奴は放って置いて昼食に「宮堂朱鷺乃!
愛染有紀!立浪蘭!出てこいやぁ!!」……はぁ」
溜め息をついて廊下を見ると、つい先日私達が
蹴散らした不良共だった。(しかも数が前より多い)
あぁ……短い平穏だったな……
「誰じゃ?あやつらは?」
「さぁ……?」
「……」
クラスの生徒達がざわめき始める。
そんな中、私は特殊警棒を制服に忍ばせ、
連中の元へと向かう。
蘭も遅れて後に続いた。
「よぉ……あの時の礼を返しに来てやったぜ」
「……来なくて良い。他の者の迷惑になるだろうが」
「知らねぇな。俺達はお前等をボコボコに出来れば、
それで良いんだよ」
「うっはーなんて自分勝手なんスかこいつ……」
あまりの自分勝手さに、蘭が呆れ果てる。
その気持ち、私もよく分かるぞ……
さて、どうするか?
こういう時に限って、荒事大好きな有紀が居ない。
私は一対一なら負けることはないが、
数人を同時に相手するのは苦手だ。
蘭なら問題は無さそうだが、一人で無理を
させるわけには……
「……い!おい!」
「……ん?あぁ、すまん。聞いていなかった」
「テメェ!馬鹿にしてんのか!?」
私が話を聞いていなかったことに、
目の前の不良が腹を立て、激昂する。
確かに私が悪いが、
そこまで怒らなくても良いだろうに。
短気な奴め。
「まぁ、落ち着け。短気は損気だぞ」
「ふざけんなぁ!!」
私は不良を宥めようとしたが、
不良は一私の言葉を聞き入れず、
不良が殴りかかってくる。だが--
「そこまでじゃクソ野郎」
突如割り込んできた中岡が腕を掴んで止め、
私に届くことはなかった。
「な、なんだテメェは?部外者は引っ込んでろ!」
「そういう訳にゃいかん
……宮堂さぁ、怪我はないがか?」
「あ、あぁ……」
私の言葉を聞いて中岡は、
安心したように笑みを浮かべる。
ありがたいのは事実だが、
何故私を助けてくれたのだろうか?
思い当たる節がないんだが……
「さぁて……宮堂さぁに手を出そうとしたんじゃ。
覚悟は出来とるな?」
「え゛?ちょっ--」
「ラァッ!!」
「ヒギャ!?」
腕を掴まれた不良は中岡の拳を避けることが出来ず、
顔面を殴られる。
不良は後ろに吹っ飛ぶが、中岡は腕を引いて
それを止め、更に顔面を殴る。
また後ろに吹っ飛ぶが腕を引いて止め、顔面を殴る。
この行為を中岡は延々と続けた。
……これはもはや拷問だな……
「これで止めじゃ!!」
中岡が渾身の一撃を顔面に見舞う。
完全に意識が飛んでいる不良に
それが避けられるはずがなく、
不良は後ろに吹っ飛ぶ。
その際、中岡は掴んでいた腕を離した。
「なっ!?おわぁ!!」
「うぉぉぉぉ!?」
吹っ飛んだ不良は、まるでドミノのように
仲間達を巻き込んで床に倒れた。
「次は誰が相手じゃ?」
中岡は不敵な笑みを浮かべる。
それを見て不良達は各々の表情を憤怒に染め、
次々に中岡に向かっていくが、
中岡に呆気なく蹴散らされていく。
「右目のひどい傷に土佐弁?ま、まさか……」
派手に暴れる中岡を見て何かに気付いたのか、
一人の不良が顔を青くする。
「土佐の狂狼……」
「なんだよそりゃ?」
「四国の頂点に立った暴走族、死国愚連旅団総長だよ!
クソッ!なんでここに居るんだ!?」
不良の話を聞いた他の不良達が騒然とする。
そして--
「に、逃げろぉぉぉぉ!!」
その声を皮切りに不良達は全員逃げ出してしまった。
死国愚連旅団……
それほどまでに恐ろしいのか?