仲直り……か?
ようやく一日が終わった……
母さんの部屋の前に到着した私は、
取り敢えずドアをノックし、
中に居る母さんに声をかけてみる。
「母さん?」
だが、母さんから応答は無い。
部屋に居るのは間違いないはずだ。
大方拗ねて出てきたくないのだろう。
私は深い溜め息をついて、ドアを開けた。
部屋の中はカーテンが閉めきられ、
薄暗かった。
部屋を見渡して母さんを探す。
すると、ベッドが不自然に盛り上がっていることに
気が付いた。
恐らく母さんだろう。
私はベッドまで歩み寄り、声をかけた。
「……母さん」
盛り上がった物がビクリと動いた。
やはり母さんだったか。
『……なンだよ』
ぐもった母さんの声が返ってくる。
その声は、普段聞き慣れた自信に溢れた
声とはかけ離れた、か細い物だった。
「母さん、ベッドから出てきてくれないか?
これでは話も出来ない」
『……話したくない』
驚いた、まさか拒絶されるとは。
こんなことは初めてだ。
朝の言葉が相当ショックだったんだな……
(どうするか?)
今のままではとても話しは出来ない。
かといってこのまま立っている
訳にもいかないだろう。
「あの、母さん?朝のことは冗談で--」
『嘘だッ!絶対に信じないぞ!
どうせ俺のことなンて嫌いなんだ!』
……まるで取り付く島もない。
これは中々骨が折れそうだ……
「戻ってこねぇなぁ……」
俺はそう呟いて、コーヒーを口に含む。
お嬢が店長の部屋に向かって、既に三十分が経っていた。
だが、お嬢も店長も一向に戻ってこねぇ。
きっと店長が拗ねて、満足に話も
聞いてもらえてないんだろうなぁ……
「小田島さん」
「どうしたぃ明智」
俺の舎弟である明智が歩み寄ってきた。
「今日はもう店を閉めた方が
良いんじゃないですか?
幸い、今日は客も少ないですし……」
「あー……」
確かにそうした方が良いかも知れねぇが、
店長の許可なしに店を閉めちまっても
良いもんか……?
「良いんじゃない?店を閉めたくらいで
あいつは怒りゃしないわよ」
いつの間にか側に居た副店長が
閉店を許可してくれる。
「良いんですかい?」
「あいつには私から話しておくわ。
仕事ほっぽり出して部屋に籠ってる奴に、
文句は言わせないわよ」
そう言った副店長の目は、怒りに染まっていた。
この人、見かけによらず真面目だからな。
店長が仕事に出てこなかったことに
腹を立ててるんだろう。
後が怖いったらないねぇ……くわばらくわばら。
母さんに謝り倒して早三十分。
どうにか機嫌を直すことに成功したのだが……
「ムー!ムー!」
「コラコラ、くすぐったいじゃないか♪」
現在、母さんの豊満な胸による
乳固めを受けています。
えぇもうね。
腹は立つわ息は苦しいわ背骨は痛いわの三重苦。
いくら腕を叩いても、
乳固めを解いてくれる気配がない。
元々私が悪いとはいえ、これはひどい拷問だ。
「ムー……ム……」
不味い、意識……が……
「おりょ?」
なんだ?朱鷺乃が動かなくなったぞ?
寝ちまったのか?
「おーい朱鷺乃ー?」
「……」
軽く頬を叩いて起こそうとするが、
朱鷺乃は一向に目を覚まさねェ。
……何か変だな?
そう思い、抱き締めていた手を離すと、
朱鷺乃は床に倒れた。
……
「と、朱鷺乃ォォォォ!?」
一体どうしたってんだ!?
さっきまでは元気だったのに!!
俺は必死に朱鷺乃の身体を揺するが、
朱鷺乃が目を覚ましたのは、それから十分後だった。
「……今日は色々と悪かったな。
怖かっただろう?うちの連中は……」
死の淵から生還した私は、吉村を送るために
二人で道を歩いていた。
「イエイエ、とても優しい人達デシタヨ♪」
吉村は笑顔でそう言ってくれるが……
無理して言っているのが丸分かりだ。
「本当のところはどうなんだ?」
「ふぇっ!?アノ、その……」
「どうなんだ?」
「……ちょっと怖かったデス……」
だろうな……
それが普通の反応だ。
「で、でも優しかったのは本当デスヨ!?」
「確かに性格は良いんだかな……」
あの顔が全てを帳消しにしている。
特に小田島とか一さんとか一さんとかな。
その後は他愛の無い雑談をしながら歩き、
しばらく歩いた所で別れた。
入学一日目だと言うのに、随分と疲れたな……ハァ……
一方その頃、デッドラインでは--
「イデデデデッ!!頭が割れるゥゥゥゥ!?」
「あんた……仕事ほっぽり出して部屋に籠るなんて、
随分と偉くなったもんねぇ……」
「だって俺店長だし……」
「お黙りっ!店長だからって、仕事ほっぽり出して
良い理由にはならないのよこのお馬鹿!!
しっかりと反省なさい!!」
「ちょッ!?それ以上力籠められたら、
マジで頭砕けるから!!砕け--」
結華が一にアイアンクローをされながら、
説教をされていた。