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月まで三十八万キロ

 月を見上げた。昼間に見える月は白くて、儚げで、それだけで僕は自分が違う世界に立っているような気さえした。


 考えてもごらんよ。手を伸ばしても伸ばしても、届かない、遙か高み。あの場所に人類は立ったことがあるんだ。あの場所に行った人がいるんだよ。信じられるかい? いや、そんな事は誰でも知っているし、今更そんな事言ってる奴なんていないよ、って君は言うかもしれないけど。でも、でも僕は信じられないんだよ。あの場所は、だって三十八万キロも彼方にあるんだぜ。三十八万キロ。ちなみに言っておくけど、地球の直径は約一万三千キロ。地球を一周するには、直径×円周率だから、えーっと……。だいたい四万キロ。分かるかい? 地球を九周半もしないと月には行けないんだよ。君は海外旅行したことあるかな? 僕はね、一度ブラジルに行ったことがあるんだよ。そう、日本から見て地球の裏側にあるんだよ。もう行くだけで大変だったね。まるまる二十四時間かかるんだよ。まぁロス経由だったから、余計にかかってるんだけどね。でも一日の大半、飛行機の中で座ってるわけだよ。そりゃもうお尻に感覚なくなっちゃってさ。ってそれはどうでもいいけど。地球を半周するんだってこのザマだよ。それを九周半なんて気が遠くなる話じゃないか。

 あぁ、なんだか話がずれちゃったね。とにかく僕が言いたい事ってのはさ、人間はがんばれば、あの月にだって行けるんだ。僕だって、いつかはあの月に立てるかもしれない。人には信じられないような可能性が眠っているって事。二十歳にもなってそんな夢みたいな事語ったら、君は笑うかい? でも僕はね、本気でそう思うんだ。あ、ホントに笑った。いや、おかしいかい? うん、僕も自分でおかしいよ。笑っちゃうよね。でも、それでも、そう思ってないと、実際僕はここに立っていることさえできない。まぁ、それは君には今のところ関係ない事なんだけど……。

 その、まぁ、君もあの月を見てごらんよ。綺麗だよね。残念ながらまん丸くはないけど、なんか色々悩んでるのも、本当につまらないなぁって思えてこない? 昼間に見える月ってさ、なんか不思議な感じがする。

 そうそう、地球から見える月の大きさってちょうど太陽と同じ大きさなんだって。しかも、同じ軌道上に見えるんだ。日食とかそれでおこる訳なんだけど、それってすごい偶然だと思わない? 色んな物理的力で同じ軌道になるってのは、なんとなく分かる気がするけど、同じ大きさに見えるって、それは地球からの距離とか、月や太陽の大きさとか、色んな偶然が重なって、そうなっているんだよ。あたかも、そうである事が当然のようにね。たまたま月があの大きさで、たまたま太陽があの大きさで、たまたま月まで三十八万キロで、たまたま太陽まで一億五千万キロで……。それらが一つでも違っていたら同じ大きさには見えなかったんだ。僕らは日食は月が太陽に重なって出来るって教え込まれて、何の疑問もなくそれを受け入れている。でもね、それは本当に目に見える奇跡なんだよ。ちなみに地球から太陽までの距離を一天文単位と言ってね、ってそれはどうでもいいね。

 いやいや、ちょっと熱く語りすぎたかな……。うーん、なんかね、君とはこうやって一緒に月を見ながら話がしたいって、ずっと思ってたんだ。だから今日、君を呼びだしたわけなんだけど、退屈かい?

 そうだね。退屈かもしれないよね。延々とこんな訳の分からない話を聞かされるなんて……。でもね、一応僕の中で順序って物があってね。もうちょっと、無駄話に付き合ってくれるかな?

 世の中には、月に行けるような可能性と、色んな偶然があるって思ったら、それこそ何でもできそうな気がするんだ。僕もね、昨日まではそんな事ちっとも考えてなかったんだけど、でもそう考えたら、いても立ってもいられなくなったんだ。君はそんな事ある? 自分が今ここに立ち止まっている事がもったいないぐらい、何かをしなくちゃ、したいんだって衝動にかられる事が……。ないかな? え? 今すぐ、ここから立ち去りたい衝動だって? ちょっと、待って。それはないよ。いや、本当に……。冗談? いやぁ、君も人が悪いなぁ。いや、そんな笑顔でごまかそうとしたって、そうはいかないよ。

 話を戻すよ。月と聞いてどんな事を思い浮かべる? 兎の餅つきだって? あ、国によっては蟹に見えるんだって。ちなみに僕は蟹座なんだけど、蟹って美味しいよね。いや、そんな事はどうでもいいんだ。僕はね、時々思うんだ。月は地球に寄り添う恋人だって……。あ、いやそんなアカラサマに、うえ、って顔しなくても……。僕だって自分で言ってて恥ずかしいんだよ。いや、ほんとに。普段はそんなキザな事は言わないんだけどね。君も知ってるだろ? でもね、こう言うのには理由がちゃんとあるんだよ。神話に出てくる月の女神はね、必ず恋におちているんだ。色んな国に色んな神話があるんだけどね。そのほとんどが、月を司るのは女神で、恋をする。月はね、恋の星なんだよ。え? 神話に出てくる神のほとんどが恋をしてるって? いやぁ、君は鋭いな。いや、それ以上に実に詳しそうじゃないか。僕の話についてこれるなんて、そりゃあ珍しい。いや、だからこそ、君とこうして一緒に月を見たかったんだけどね。

 さてと、そろそろ本題に移ろうか。

 人間には色んな可能性があって、世界にはたくさんの偶然があって、そして月には恋する女神がいる。何の話だって君は思ってるだろうけど、つまり、こういう事なんだよ。

 今こうやって一緒に月を見ているのだって、たくさんの偶然が重なり合っていて……。その先の可能性は無限大に近く枝分かれしてるんだ。月に行くことだって、その可能性はゼロじゃないし、そして君と僕が付き合う可能性だってゼロではない……。だよね?

 だから、その、僕は君のことが好きなんだ! これからも一緒に月を見たいし、他にも色々……。えっと、とにかく!


 僕はあの月に、恋の星に誓うよ、君を幸せにするって……。



 え……常に形を変える気まぐれの象徴に誓っても駄目だって?

 こりゃ一本とられたな。

ボツ理由。

締め切り直前になって、

オチの部分がかの有名な「ロミオとジュリエット」で

出てくるセリフにある。

という作者にとってはショッキングな事実が判明。

自分で考えついたつもりが、

実は過去にどこかで見聞きした物の

パクリだったという事が分かったときの脱力感。

いい勉強になった作品でした。

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