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第三話 アベ・マリア!

(1)


「…優司…」

 ぼんやりとしたまどろみの中で、優司は自分を呼ぶ声に気が付いた。

「優司…」

 それはマリアの声だった。

「マリア…?」

 気が付くと、マリアが目の前でほほ笑んでいる。優しげなまなざしは、どこか母親のようで、優司に安堵感をもたらしてくれた。

 よく見ると、彼女は全裸だった。仰向けになった優司の上にのしかかっているため、彼女の胸はたわわに実った桃、あるいは食べごろの洋ナシのように重力の法則に従って垂れ下がり、甘い香りを放っていた。

 優司が自分の胸を凝視していることに気づくと、マリアはゆっくりと上体を反らし、胸を優司の目の前に移動させた。

 優司は無意識にその胸に両手を伸ばし、熟れた果実を優しく掴んだ。肌触り、張り、弾力、重み、そのどれもが最高に心地良い。優司はゆっくりと弧を描くように揉みしだいた。時にやさしく、時に強く。

「ん…ぁあん…」

 マリアは敏感に反応し、上ずった声を漏らした。熱い吐息が優司の髪を揺らした。

「はぅ…く…ん…」

 マリアはこらえるように喘ぎ声を抑えるが、体は優司の手指の動きに呼応してビクビクと身をよじらせる。

(かわいいよ、マリア…)

 優司はマリアの反応を確かめながら、愛撫を続けた。

 マリアは上気した顔で優司を見つめる。そしてさくらんぼのような唇を開いた。

「優司…わたしと、したい?」

「うん…?」

「わたしと…一つになりたいと思う?」

(この展開は…)

 優司は急に不安になった。

 突然、マリアの背中がボキボキと音と立てながら隆起していく。瞬く間にマリアの全身は大きな黒い獣のようになった。

「さあ…あなたの命をちょうだい!」

「うわー!!」


 ゴッ☆


 気が付くと、優司はまたしてもベッドから転げ落ちて目が覚めた。傍らでは相変わらず目覚ましが鳴り響いていた。

「な…サイアクの夢だ…」


..*


 最悪の夢で、優司は寝ざめが悪かった。パジャマ姿のまま一階に降り、ダイニングの暖簾をくぐった。

「うぃーす」

「あ優司、おはよー!」

 マリアはすでに食卓にいて、元気なスマイルを見せた。

「お、おう…」

 優司はマリアの顔を見るなり、今朝の夢が頭に浮かんだ。どうにも彼女の胸が気になり、慌てて視線を反らした。

 キッチンの母親はあきれ顔だった。

「優司、あんたまだそんなカッコなの? 今日木曜日よ」

 優司は思い出したように頭を掻く。

「あ!そうか、やっべ」

 その時、玄関のチャイムが鳴った。


 誰が出るともなく、玄関のドアが開いた。そこには一人の女子生徒がいた。

「おはようございまーす」

 彼女は、マリアに勝るとも劣らない元気な声であいさつした。パッと見の印象はさっぱりとして清潔感に溢れている。首くらいまでの短めの後ろ髪。前髪は片側をヘアピンで止め、おでこが見える。あどけない顔立ちと少々タレ気味の大きな目。全体的にはスマートだが、画一化された制服の唯一の主張である、校則ギリギリまで短いスカートからちらりと見える太腿は引き締まりつつもむっちりとボリューム感があり、そこからくるぶしに至るまで健康的なカーブを描いている。言い換えれば、その脚は鍛えられた運動選手アスリートのそれであった。

 ダイニングから優司の母が廊下に出てきた。

「あらーカスミちゃん、おはよう。ごめんね、優司まだなのよー」

 優司は暖簾から顔だけ覗かせる。

「ああわりいわりい、すぐ用意すっから」

 マリアもひょっこりと顔を出した。

「優司、おはよ。…あれ、その人は…?」

 玄関の女子生徒、カスミはすぐにマリアに気づいた。

「あーこいつは…住み込みの特別捜査官」

「はじめましてぇ」

 マリアはスマイルであいさつした。

「あ、はじめまして、吉沢香澄です」

 つられてカスミもとりあえずスマイルした。が、優司の言葉が引っかかった。

「…住み込み?捜査官?」


 その後優司は、全てが噛み合わずバタバタとしていた。しまいには母親に蹴飛ばされるようにして家を出た。


 朝の喧騒から解放され、家は落ち着きを取り戻した。

「…あれ?」

 気が付くと、マリアはダイニングの椅子に座ったまま、家に取り残されていた。

 母親がキッチンで片づけをしながら話しかけた。

「マリアちゃんは、これからどうするの?」

「はい…」

 宙を見て、やや考えてから、ふと思い付く。にぃ、と笑った。

「上司に昨日の報告をして、優司さんの警護に当たります」


..*


 優司とカスミは一路学校に向かっていた。

「なぁに、その絆創膏?」

 カスミは優司に貼りまくられている絆創膏が朝から気になっていたが、ついに聞かずにはいられなかった。制服も、上はブレザーでなくジャージ姿だ。

「ああ、ちょっとな…」

「あんたおっちょこちょいだから、また階段踏み外したとかでしょ」

 優司は何も言わずに歩き続ける。

「そういえばさー、あんたのクラスの子から聞いたけど、一年の女子と付き合ってるんだって?」

「え!? あ、ああ…それな…」

「…何?」

 カスミは優司が急にしどろもどろになったのが気になった。

「いや…アレ勘違い、オレの先走りなんだよ」

「勘違い? …なーんだ。やっぱりなー。モテない君が急にモテるわけないもんね!」

 カスミは軽くからかったつもりだった。

「ああ、そうだよな…」

 が、優司は力なく相槌を打った。

「……?」

 カスミは優司の家の向かいに住んでいる。有体に言えば幼馴染で、多少えっちな遊びをしたかどうかはさだかではないが、幼少の頃、カスミは優司が大好きでいつも一緒について回った。しかし学年が上がるにつれ疎遠になり、中学の頃にはほとんど顔を付き合わすこともなくなっていた。入学式の日に高校が同じだったことを初めて知り、懐かしさも手伝い、部活の朝練のない木曜日だけは、こうして優司と通っているのだった。そしてこの週一度の通学の時間だけが、二人の情報交換の場となっている。だが、お互いに踏み込めない奇妙な距離感があり、一年が過ぎた今でも関係は全く進展がない。それは、せっかく修復され均衡を保っているバランスを崩したくない、ということもあるかも知れない。恋人未満どころか友達ですらもない、とても近くてとても遠い幼馴染なのだ。

 そんなわけで、カスミはいつもと様子の違う優司が気にはなったが、あまり深くは追求しないようにした。

 だがここで聞いておかなかったことで、以後カスミは悶々とすることになるのであった。


 学校に着くと、二階に上がった。

「んじゃな」

「うん」

 2-Dと書かれた教室の前で、二人は別れた。カスミは優司の隣のクラスだった。

 優司が教室に入ると、「ういーす」「よお、モテ男!」などと注目が集まった。

「な、なんだよおまえら…」

 周囲の関心は、昨日のかわいい下級生の件だった。優司は悪友たちから詳細を聞かせろと迫られたが、結局、カスミに言ったことと同じことで通すことにした。一方で、翔子のことが気になっていた。


(2)


 その日の帰りのHRの時間、教師は連絡の後に優司の名を呼んだ。

「ああ和田、今日倉田休みだから、学級委員会、代理で出てくれ」

「え、オレ?」

「ほんじゃ解散」

「うーす」

「先生さよならー」

 生徒達はばらばらと帰宅を始めた。優司は席に座って脱力した。

「まじかよー…」

「ま、普段仕事してねーからたまにはいいんじゃね?」

「じゃーなー、副いいんちょ」

 悪友達が不幸な優司をからかい、帰っていった。

「あーあ、まいっかー!」

 優司は気を紛らすように伸びをした。

(結局、今日の所は翔子ちゃんのことは全く問題にはならなかったな…)

 教室にはほどんど人がいなくなった。

「さって、行くか」

 優司は重い腰を上げ、学級委員会に向かった。


 学級委員会では各種連絡事項の確認や、来月の行事について、各学級での問題点の報告といった議題が話された。まじめな学級委員達は活発な意見をかわしていたが、優司にはまったく興味のない内容だったので、退屈を持て余し半分寝ていた。


 西日が空をオレンジ色に染める頃、会議はやっと終了を迎えた。

 議長を務めた学級委員長の木村信子が締めの取りまとめをした。そして最後に、優司の名を呼んだ。

「C組の和田さん、あなたは初回の拡大委員会以来でしたね。ちょっと聞きたいことがあるので、残っていただけますか?」

「あ? はあ」

「それでは本日はこれで終了します。みなさん、お疲れさまでした」


 会議室に、議長と優司だけが残された。

 議長の木村信子は、三つ編に赤い縁の三角メガネをかけた、絶滅危惧種レッドブックに指定されたようなカタブツであった。かなりの才女で、次期生徒会長との噂も高かった。おそらく秋の生徒総会では立候補してサクッと生徒会長の座につくだろう。優司としては、この愛想も色気のかけらもない信子と話をするのは楽しくなかったので、とっとと用件だけ聞いてすぐ帰ることにした。

「あーなんすか?議長」

「教師から一年C組の加賀翔子さんが昨日から見えない、という連絡がありました」

「えっ? マジで!?」

 優司は背筋が凍った。そんな話、担任はカケラも話さなかった。放課後に判明した話だろうか…?

「聞く所によると、彼女に最後に会ったのはあなた、ということですが…」

 信子は、優司ににじり寄った。

「え、ああ、そうーだったかなー」

 プレッシャーを感じ、優司は一定の距離を保つように後ずさりした。

「しらばっくれるんですか?」

「い、いや、そういうわけじゃ…」

 いつのまにか信子はすぐ目の前にいた。後ろを確認すると窓際が迫っており、もういくらも下がることはできなかった。

「最後に会った時のこと…詳しく話してください」

 信子はなぜかホックで留められた付けネクタイをはずし、ブラウスのボタンをはずし始めた。


 ついに逃げ場はなくなった。信子は息がかかるくらいに近づいていた。よくよく見ると、けっこうかわいい顔をしている。はっきり言って三角メガネはやめたほうが印象いいんじゃないか、この顔なら、コンタクトか細縁のカドのないメガネのほうがいいんじゃないか、などと優司は思った。

 信子のボディコロンの香りが漂ってくる。意外と身だしなみにも気を遣ってそうだ。その匂いを嗅いでいると、優司は目まいがしてきた。

「あ…れ…?」

 優司の体は自由が聞かなくなっていた。

「あなたは彼女に何をしたのですか?」

 信子は優司の首筋を舐めた。優司は懸命に体を動かそうとするが、それは叶わなかった。

「な、なにも…」

「彼女はあなたに何をしたのですか?」

 信子は片手で自分の胸を触りながら、優司の股に片脚を入れ、下半身をこすり付けてきた。もう片方の手で、優司の冷や汗を拭い、指ごと口に含めて、ちゅぱちゅぱと音を立てた。

「翔子ちゃんは…に、人間じゃない…」

「何をわけのわからないことを言ってるの…?」

 信子はふいっと離れた。


「人間じゃなかったら…? 例えば、こんな感じ…?」

 信子の体から黒い影が飛び出し、影は怪物の形となった。怪物は黒褐色の肌をしており、体格はもとより、顔はただれたようにぶよぶよの肉が付き、腫れあがった瞼で目も見えないほどだった。

 怪物は絞り出すようなしわがれた声で優司に迫り、押し倒した。

「はあ…和田さんの体が…欲しいのお~」

 まだ信子のつもりでいるのか…? 優司は心底気持ち悪かった。

「ち、近づくなあ~!」


 優司のすぐそばの窓ガラスが大きな音を立てて割れ、マリアが飛び込んできた。

「ま、マリア…」

「優司、大丈夫?!」

 メタボ気味の怪物は、ワンテンポ遅れてマリアに気づいた。

「はあ…? なんだおまえは」

「精霊よ!」

「精霊…ドゥスケスをやったヤツか」

「知ったことじゃないわ。優司から離れなさい!」

「いやだね。コイツ、いいニオイがするんだ」

 怪物は優司にまとわりつき、優司の首筋をベロベロと舐めた。

「ぐえぇ~気色悪りぃ…!」

 優司は必死で怪物を押しのけようとした。しかし体は言うことを聞かず、どうにもならなかった。怪物の力強い抱擁に、優司はこのまま怪物に抱き殺されるのかと思うと青ざめ、死んでも死にきれないと思った。

 が、ザクッという音がして、怪物の力は急に抜けた。

「?」

 優司が怪物を見ると、怪物の頭には左から右にマリアの剣が突き抜けていた。悲しくも生スプラッターをかぶり付きで鑑賞する羽目になった。

「離れなさいっつってんのよ、この変態悪魔…!」

 マリアは額に青筋をたて、座った目で剣をギコギコと揺らす。

「……」

 優司は冷や汗を垂らしくわーと口を開けた。マリアのほうが怪物よりよほど恐ろしいと思えた。


 体の拘束が解け、優司はやっとのことで怪物から解放された。

「危なかった…。やっぱり夢じゃないんだな」

 今更ながら、昨日の一連の出来事が事実であったことを実感した。

 怪物の体は、突然ブツブツと泡を出しながら溶け始め、昆虫の体液のような青臭い匂いが漂った。液体はすぐに煙になり、ものの数秒で床に少量の黒いシミだけが残された。

「なるほど、前のもこうやって消えたわけか…」

 優司はあることを思い出し、ハッとした。

「そういや議長は…?」

「ここよ。…大丈夫、気を失ってるだけ」

 マリアが信子の様子を窺っていた。優司はホッと一息ついた。

「よかった、議長まで悪魔だったらやり切れないよ…」


「おい議長、しっかりしろ」

 優司は信子の肩を何度か揺さぶった。

「ううん…あ、和田…さん?」

 信子はブラウスの前がはだけていることに気づいた。

「ひゃっ、何このカッコ…! ひどい、あなた、なんてことを!」

 優司からパッと離れ、身を守った。妙に女の子っぽく見えた。

「い、いやそれは君が勝手に…」

「嘘よ!」

「優司は何もしてないわ」

 信子の言葉を遮るように、マリアが口を挟んだ。

 自分達以外に人、女の子がいることを知ると、信子は幾分か落ち着きを取り戻し、乱れた服を整えた。

「ところで、あなたは…? あ、ガラス!どうしたの?!」

「ああ、や、野球の球が飛んできて、議長の頭に当たったんだよ!」

 優司は瞬時にでまかせを言った。

「フラフラになった議長が暑いって勝手に脱ぎ出したし…もう大変だったよ」

「そ、そうなの…? わたしとしたことが」

 信子は取り乱したことが恥ずかしくなり、頬を赤らめた。


 信子は立ち上がった。

「窓…このままでいいのかしら?」

「ああー、野球部のやつらが後始末すると思うけど。とりあえず戸締りだけしときゃいいんじゃね?」

「そ、そうね…。席もだいぶ散らかっちゃってるわね。直さなきゃ」

 二人はしばし黙々と席を整えた。マリアは特に何もせず、二人の様子を眺めていた。

 優司は、信子にあることを確かめた。

「そういやさ、さっき一年の加賀翔子ってコのこと聞いてたよね?」

「かがしょうこ…? 誰、それ?」

「え、ああ、いやなんでもない」

(なんだ、議長は知らないってことは、あいつに言わされてたのか…?)

 信子は何かを思い出そうとしたが、頭がもやもやして思いだせなかった。

「なんだか気分が悪いわ…」

「顔色悪いよ。だいぶ片付いたし、あとオレらやっとくから」

「そう…。ごめんなさい。これ鍵、戸締りよろしくね」

 信子はカバンを持った。

「じゃあ、お先に」

「ああ、おつかれー。あ、そうだ、木村さん」

「えっ、なに?」

 信子は急に「木村さん」などと呼ばれ、どきりとした。

「君さ、コンタクトのほうが可愛いんじゃね?」

「なな、何言ってるの?! あなたにそんなこと言われる筋合い…わたし、コンタクト苦手だし…」

 信子は赤面したまま、だまって出ていってしまった。


「ふぅ…なんとかごまかせた」

 優司は安心すると、どっと疲れが出た。

「…あいつら、どこでも現れるのね」

 床の黒いシミを見ながら、マリアが呟いた。


 優司は割れたガラスが気になった。

「ところでさ、このガラスって天使パワーで直せないの?」

「わたし便利屋じゃないわ…でも…」

 マリアは窓ガラスの前に立った。マリアの首輪から、自己発光するリングが広がった。リングはマリアの首の周りでフワフワと浮いている。リングの円周上には、首輪の素材と同じような金属ともプラスチックとも言えない小さな箱が前後に二個ずつ付いていた。リングが軽いうなり音を上げると、前方の左右の箱から光が発せられ、マリアの顔を照らした。マリアはその箱の光源を見つめている。マリアの顔に反射する光は、目まぐるしく色と形を変えた。

「うん…このくらいの単純な結晶構造なら…」

 マリアは、床に落ちているガラス片の上に手をかざした。マリアの体がポワッと光ると、割れたガラスが浮かび上がり、溶けながら窓ガラスの一部として再構成されていった。


 やがて、窓ガラスは元通りになった。

「ふう…なんとかなったかな」

「おお、すげえな!」

「製造工程を再現したわ。…複雑な構造はムリだけどね」


(3)


 翌朝、優司は昨日の疲れが出たのか、またしても寝坊をした。急いで制服に着替え、ダイニングに向かった。

「うぃーす。…あれ?母さん、マリアは?」

「用事があるから先に出るって。後で学校で、って言ってたけど?」

「あっそう…?」

 多少気にはなったが、優司は深く考えずに学校へ急いだ。


 朝のHRが始まった。担任がやってきて、生徒達は挨拶をした。

 挨拶が終わると、寝ざめの悪い優司は担任の話も聞かずうとうとしだした。

「今日は新しい仲間を紹介する。阿部君、入りなさい」

 教室の前の出入口から、赤い髪の女子生徒が入って来た。すべすべの柔らかそうな肌に、愛らしい顔立ち。吸い込まれそうな赤紫色の瞳。教室の面々をちらっと見ると、少し恥じらうように笑みを浮かべた。

「おおー!」

 男子達がどよめいた。

「みなさんこんにちは。阿部まりあです。よろしくおねがいしまーす」

 拍手が沸き起こった。

 周囲の盛り上がりに、優司はまどろみから目を覚ました。顔を上げ、目の前の光景に思わず叫んだ。

「ああっ!マリア!?」

 周囲から笑い声が飛んだ。

「なんだ優司、知り合いかよ?」

「おまえ寝ぼけてんじゃね?」

 男子生徒達は目立つな、とばかりに優司にブーイングを飛ばした。

 ざわつく教室を担任が落ち着かせた。

「あーみんな仲良くしてくれな。まあ、一部からはもう既に人気者のようだが…」

「じゃあ阿部君は一番後ろの席に」

「はい」

 優司は怪訝な顔つきでマリアを見ている。マリアは窓際に一番近い通路を通り、優司に近づいた。

 マリアがすぐ近くまで来ると、優司は小声で話しかけた。

「なんでおまえがここにいるんだよッ!?」

「エへ。これでいつでも守れるでしょ?」

 マリアはウインクして、優司の横を通り過ぎ、優司の斜め後ろの席に座った。優司の後ろ、マリアにとっては横にいる男子生徒が、どぎまぎしながら「よ、よろしく」とマリアにあいさつした。マリアは笑顔で応じた。そして、ニコニコ顔で優司を見ていた。


 優司はなぜか朝からどっと疲れが出てきた。

「はあ…なんてこった…」

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