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エピローグ

 ───八年後。


 ある初夏の夕暮れ。一軒家が広がる住宅地の一角にある、メゾネット住宅のドアが開けられた。

「ただいまー」

 さえないクールビズ姿の青年が、夕陽を背負って玄関に現れた。

「あら、おかえりなさい」

 そう広くはない家の奥から、落ち着きのある女性の声が響いた。


「ゆーじ、おかえりー」

 居間から、小さなかわいらしい女の子が短い廊下をとたとたと走って来た。

 女の子はその青年、和田優司の前に立つと、抱っこして!とばかりに両手を上げた。

 優司は女の子を抱き上げた。

「あーい恵美理えみりちゃんただいまー」

 彼はデレて、女の子を親ばかっぽくあやす。

「恵美理ちゃん? ゆーじじゃなくてパーパ。パパでちゅよー」

 小さな女の子、恵美理はムッとして、優司のおでこを平手でぱーんと叩いた。それは見事にキまった。

「あで。ははは…」

 いつものやり取りに、優司はにが笑いした。


 優司は娘を抱いたまま、ダイニングキッチンへと進んだ。

「おっ、今日カレー?」

「うん」

 彼好みの豊かな胸の美しい女性が、エプロン姿でキッチンに立っている。細い腰に、張り出したヒップが扇情的だった。腰にまで達する長い髪は、中間の辺りで白いリボンで留められていた。

「やった!」

「先におフロにする?」

「いや! すぐ食う!」

 優司の目は輝いている。

 日が暮れ、小さな家に団らんのひと時が訪れた。


..*


 優司はすっかり眠ってしまった娘を抱きかかえた。

「恵美理寝かしてくる」

「うん」

「あ、ママ、今日さ…」

 優司は思わせぶりにスマイルした。

「え? んもお! …ん。いいよ…」

 美しい妻の顔が赤くなった。


 優司は二階に上がり、暗い寝室の小さな布団に恵美理を寝かした。

「ふう。だいぶ重くなったな…」

 優司は背伸びをした。ふと窓の外を見る。その夜は星がきれいだった。

 彼はベランダに出た。遠くで架線を行く電車の音がした。周囲には夏虫の声が聞こえる。

 初夏の涼しい風が、彼の髪を揺らした。


 優司は草いきれの匂いを吸い込んだ。

「平和だな…」

 そう呟くと、何かを懐かしむようにほほ笑んだ。


 突然、ドーンという空気の破裂するような音とともに、目の前に強烈な閃光が走った。

「!?」

 光の中から円陣が現れ、その中から輝く人の姿が現れた。

 光が弱まると、それは青く長い髪の女性と確認できた。その女性は女神の様に美しく、豊かな胸と、扇情的な体つきをしていた。彼女の髪は、無重力に浮かぶように優しくたなびいていた。

 やがて光が弱まると、女性はゆっくりと目を開けた。やや寂しげな憂いをまとった切れ長の瞳は、南海のサンゴ礁を思わせる鮮やかなライトブルーだった。

「き、きみは…!」

 女性は、ベランダに立つ優司のすぐ横にふわりと立つと、にっこりとほほ笑んだ。

「優司…ひさしぶり」

「セレナ…だよな?」

 女性はこくりと頷いた。彼女は美しく成長したセレナだった。

 優司は自分好みのオンナになった彼女を、上から下までまじまじと見つめた。

「ち、ちょっと…やらしい目で見ない!」

 彼女は肩をすくめたが、見られて悪い気はしなかった。


「早速だけど優司、第四のデュナミス(デュナミス・クアータ)で大変なことが起きてるの」

「な、なんだって?」

「あなたの力が必要よ。すぐ来て」

「いや、でも…」

 優司が振り返ると、そこには小さな娘、恵美理が立っていた。

「え、恵美理…?」

 恵美理は黙ったまま、抱っこして!とばかりに両手を上げた。

 優司は恵美理を抱きかかえた。

「ごめんねー、起こしちゃったね」

 恵美理はやや不機嫌そうな顔で、セレナを見つめた。

「恵美理ちゃん? この人は、パパの昔のお友達だよ」

 恵美理は優司のおでこを平手でぱーんと叩いた。

「あいた! なんなんだ…?」


「あたしがまもるの」

 突然、恵美理が口を開いた。


「え?」


「ゆーじはあたしがまもる!」

「え、恵美理…?」

 セレナは恵美理と目を合わせた。彼女ははっとした。


 恵美理は二人を見て、にっこり笑った。

「いこっ!」

【ちょっと長いあとがき】


 いかがでしたでしょうか。

 まともに書いた小説はこれが初めてなので、文芸やボキャブラリーがないとか心理描写が少ないとか文体がドライだとかギャグがイマイチ(えっ?ギャグってあったの?)とかいろいろお見苦しい点がありましたことをお詫びします。


 この話は、元はと言えばぼくが趣味でやってる3Dモデリングのキャラ設定に端を発しています。

 いつもは思い付いたらだらっと作るという感じで、作ったらブログに載せていました。二〇一〇年の年末頃に、「来年はちゃんと設定を作って息の長いものにしよう」と思い立ったのでした。

 最初は赤・青・黄がイメージカラーのアンドロイド三人娘がドタバタコメディを繰り広げるようなポップでライトなものをイメージしていいました。この時点で完全なメカではなく、有機体を使った半生命体ということは裏設定として決まっていました。(主にお色気展開が出来るように…。)

 年が明けてまともに設定を考えようと思った時に、そこに天使を絡めようということに。

 ところが、


「なんで天使がアンドロイドなんだ?」


と。

 ちょっと考えて、「女の子の魂」を中枢に使う、オカルト的なアンドロイドということになりました。その魂は現世で救われない運命を辿った女の子で、尚且つ特別な力を持つ女の子だと。

 で、それを作る側も普通にヘブライズムな神じゃなくて、上位の天使そのものもロボットというか大きなシステムで、


「女の子型アンドロイド天使は奴隷のように扱われる」


というものが決まりました。けっこううひょひょな設定でしょ?

 奴隷だから、「殻」に閉じ込めよう、ということに。殻は彼女達を拘束するけど、同時に弱い魂を守ってくれてもいる。だから彼女達は逃れることができない。という感じで、どんどん悲しい設定になっていったのです。

 その辺が決まったところで、


「じゃあ何のために戦ってるの?」


という疑問が。(いや順番逆だろ、とか突っ込まれそうですが。)

 そこで、「天使がいるなら悪魔だよな」ということで、悪魔の設定が乗っかりました。主人公を狙う悪魔から守護すると。この時点で敵側にもスキュブスがいるというのが決まりましたが、当初は「女性型悪魔で、肉体を持ち、子を産むことができる→主人公とエッチしようと狙う」という感じでした。まあ、これってスキュブスそのものなんですが。

 女性型悪魔ももとは天使になれる女の子の魂だった、というのもかなり早い段階できまっていました。クローディアやセレナはこの設定に乗せています。

 この辺ができて、主人公の設定に入っていきました。


 「殻」にはいろんなものがあるというのはモデリング用の設定として割と早く決まりましたが、天使じゃないから「精霊ってことにしよう」というのはちょっと後からです。(ちなみに精霊≠聖霊で、魂くらいの意味です。)


 まあ、総じてお話を作ろう、というスタンスで始まったものではなくて、3Dモデルのためにキャラ周りの設定を考えているうちに、「キャラに深みを持たせるためにバックストーリーを立てよう」「全体として縦の筋が欲しいから、全体の設定を整えよう」という感じにボトムアップで進んで行ったんです。ちょっと珍しい組み立て方かも知れませんね。


 で、最初はアニメみたいに1クール十三話にまとめようと思ったんですが、量的に無理になってきたんで、2クール二十六話になりました。さらに、一話分の尺を決めるために、週刊マンガのページ数として二十四ページ分で字コンテにしようという感じで字コンテを切っていたんですが、第一話がプロローグ込みで四十ページになっちゃった。これじゃ月刊マンガだな、と思いながら三話分くらいまで字コンテ形式で書きました。これと並行して精霊のプロトタイプ3Dモデル「フェリシア」を二ヶ月くらい作っていました。

 ブログでは主にエンゲージシェル等の装備の設定を公開してましたが、設定を全部書く前に、せっかくストーリーとか考えたんだからマンガか3Dでアニメーションを作りたいなと思いましたが、どっちもとても大変なのは経験上分かっていたので、「じゃあ小説なら少しは早く出せるんじゃない?」ということで、小説を書くことになりました。


 この小説で全体を通して特に入れておきたかったことが、「精霊は天使じゃなくて女の子(の魂)で、凄い能力を持っていて回復もできて強いけど、心は弱くて、精霊になる前の悲しい記憶を心の奥に引きずっている」ということを描きたい、ということでした。だから泣いたり笑ったり怒ったり甘いものが好きだったりご飯を食べたり眠ったりするし、エッチな刺激に感じたり恋をしたりドジだったりツンデレだったりおしとやかで世間知らずだったりします。(まあこのへんは半分くらいアンドロイド娘時の設定をキャリーオーバーしてるけど。)

 それと、せっかくだから装殻精霊の設定やスペック的な設定を全部出そうというのも意識して、「ここで出せるな」というところでは多少話が間延びしても敢えて説明文を書きました。


 実はマリアの魂は優司の双子の姉だった、という設定は割と後になってから決まりました。セレナやアレシアの生前設定はすぐ決まりましたが、ヒロインには彼女達よりももっと重要な役目を持たせたいな、と考えている時に、最終話の「水の夢」のエピソードが出て来て、ヒロインの前世が決まりました。まあ、生まれることができなかったっていうすごく特別な存在になっちゃいましたが、この特別な設定があったからこそ、彼女は優司を救うことができたのです。

 で、これが一本筋となって、和田家に本当の娘のように受け入れられる、という流れができ、全体に「家族や兄弟を感じさせる」というシチュエーションがちりばめられました。

 そういう観点からもう一度読み直してみると、「あ、ここに入れてるな」というのが分かるんじゃないかと思います。


 最終話までのラフが書き上がったのが四月末なんで、延べ四ヶ月かかってます。正味で言うと二ヶ月あるかないかくらいか。仕事以外の自由時間を全部小説に費やしてたんで、かなり時間は割いてます。馴れ合いの中にも「この回は誰との関係をどうする」みたいなことを考えてるんで、全三十二話はどれもカットできない必要な話になっていると思います。例えば二十五話は一見ただの馴れ合いですが、ここでは優司とカスミ、紀子と優司の距離を縮めつつ、C組三人娘を準レギュラーに格上げする、というのを意図していて、ついでにペンダントと写真を後の話のギミックに使おうと思って加えてます。


 エピローグはちょっとステレオタイプっぽくなっちゃいましたが、その先の話もちょっとだけ考えました。で、それを厚くするためにはそこに至るまでの経緯も考えないと、ってことで、優司が精霊達と別れた後、八年後までの流れも考えたりしています。どっちかというと十八禁な話になってて、今回エッチな話はあんまりうまく言ってないな、という気がしたのでぼくの中だけで終わらせようって感じになってますけど、何かの機会に世に出せたらいいな、とは思います。


 そうそう、「セイバーエンジェル」は一応終わりになりますが、「装殻精霊」はシリーズものとして設定だけを活かして話がかけるように考えています。天使の九階級をご存知なら、第一球層ファーストスフィアの天使の名前が出てないなーとか、この世界の神はどうなってるの?とか精霊は生体メカや巨大なシステムなのになんで悪魔は生身なの?とかいろいろ疑問に思われたかも知れません。

 セイバーエンジェルは装殻精霊の世界のエントリーなのです。

 別の主人公と別の装殻精霊が、別の時、別の場所で別の話を繰り広げる、そんな展開はしていきたいです。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。

 感想とか評価をもらえると、嬉しいなぁ。

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