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第7話『考察が捗るでござる』

 まず最初に訪れたのはアンダーさんという人の家だ。どうやら最初に下着を盗まれたらしく、今では怖くなってずっと室内に干してるそう。


「オバサンの下着なんて盗んで何をするんでござろうなぁ」


「お前それ本人には絶対言わない方がいいぞ」


「拙者とてそれくらいのマナーはあるわ」


 アンダーに了承をとった二人はまず庭へと移動。そこには最近まで使われていた形跡のある物干し竿があった。あとは何にもなし。

 質素だが、だからこそ盗むにはハードルが高い。周囲は開けているから隠れる場所なんてないし、変な人がいればすぐに見つけられる。


「アンダーさんが盗まれた時に感知系の魔法は貼ってたのか?」


「そうらしいでござるな。物干し竿周辺というよりは、家全体に貼っていたっぽいでござる」


「……え、もしかして常に貼ってる?」


「? 当たり前でござろう」


 感知系の魔法。誰かが侵入してきた、もしくは展開した範囲内のあらゆる物体の情報が分かるという便利な魔法がある。

 だがこの魔法を展開してる間はもちろん魔力が減ってくし、無くなれば使用はできない。そして普通の人がこの魔法を使った時に展開できる時間は、魔法にもよるがだいたい十分程度。範囲も五メートルが平均くらいだ。


 下着泥棒が起きる前からやってたのを見るに、本当に感知魔法を常に展開してるっぽい。別に戦闘が得意じゃないエルフでこれなのだから驚きだ。


「化け物だなほんと……」


「エルフの間では普通でござるよ」


 感知魔法は一度展開すれば維持するのに意識を割く必要はない。眠っている間も常に展開され続ける。

 となると、魔法が切れた隙を突くのは考えられない。感知が発動してる間に下着を盗んだ。……本当にそんなことができるのだろうか。


「下着が無くなった時の状況は?」


「時間はこの後に発生する下着泥棒と同じく夕方。アンダー殿が夕食を作っている時だったそうでござる。突然、誰かが侵入してきた反応があり、気がついた時にはもう下着はなかったそうだ」


「ふぅん……? ってことは、誰かが家には侵入したのか?」


「話を聞く限りはそうでござるな」


「待てよ。入ってきたのに捕まえられなかったのか? なんかおかしいぞ言い方が」


「拙者とて説明が難しいのでござるが……簡単に言うと、誰かが入ってきた反応があった、そして誰かが下着を普通に盗んだことも分かった、しかし気がついたら犯人はいなかった。こうでござる」


「ちょっと待ってくれよ……わけが分からないぞ」


 アンダーは、何者かが敷地に入ってきて下着を盗んだ。それが分かっていたのに、いつの間にか犯人は消えていて、取り逃した。

 犯人は瞬間移動の魔法を使ったのではなく。犯人は物体を瞬時に移動させる魔法を使ったのでもなく。ただシンプルに敷地に入ってきて下着を盗んだ。それをアンダーは止めることができなかった。


 何かがおかしい。奇妙だ。何が奇妙なのか分からないが、とにかく異常な事態だというのは理解できる。


「……他の家もそうなのか?」


「同じでござる。ストゥ殿の家以降は罠系の魔法も貼ったそうだが意味はなかった。相手は魔法も無視しているということでござるな」


「空間そのものを弄って……と考えると、普通に存在はしてたのが矛盾するな」


「空間そのものを弄る魔法など拙者やヤミ殿でも不可能な芸当。昔の魔法使いならできてたかもしれぬが、今の時代じゃできないでござろう」


 頭が混乱してきた。だが──存在はしている。感知の魔法に引っかかり、下着を直接盗んだということは、下着泥棒は存在した生き物ということだ。


「この村で下着を盗まれてないエルフはあと何人いる?」


「二人。ミネルヴァ殿とハシャ殿でござる」


「二人……どっちに来るかな」


「拙者の予想ではハシャ殿でござろうな」


「なんで?」


「色でござるよ」


「色?」


 テルドリンは風魔法を操り、地面を刻んだ。村の簡易的な地図。住むエルフと盗まれた下着の色が書かれている。


「実は下着泥棒は全ての下着を盗んでるわけではないのでござる」


「え、そうなの? 俺はてっきり全部盗んでるのかなって」


「アンダー殿は二枚、カミラ殿は一枚、ストゥ殿は二枚……他にもグレイ殿やフェルト殿も盗まれているが、どれも全部盗まれてる訳ではなかった」


「……待てよ。そもそも下着ってのはブラジャーやパンツのことを言うよな。それなら盗まれてるのはどれなんだ?」


「いいところに気がついたでござるな。流石は変態」


「ヤミさんに伝えとくな」


「ほんとそれだけは勘弁してください」


 気を取り直して。──ライズの疑問はかなり的確なものだ。テルドリンは名前の横に盗まれた下着を刻んだ。


「人によってそれが違うのでござる。パンツのみを盗まれたエルフもいれば、ブラジャーのみを盗まれたエルフもいる。そしてその両方も」


「……だがそれには法則がある」


「ご名答。それこそが色でござる。これまでに下着泥棒が盗んできたのは『赤』『オレンジ』『黄色』『黄緑』『緑』『青緑』『青紫』『紫』『赤紫』の九つの色でござる」


「下着に色ありすぎじゃない?」


「エルフは皆個性が強いでござるからな」


 これまでに出てきてない大まかな色となると──青色。青色はまだ盗まれてない。


「青色の下着を持っているのはハシャ殿。ミネルヴァ殿はこれまでに盗まれた色の下着しか持ってはござらん」


「お前なんで他人の持ってる下着の色を知ってんの? ちょっと俺、寒気してるんだけど」


「何年この村で過ごしてきたと思ってるでござる? この村のエルフはほとんど家族同然。家族の下着の色くらい普通に知ってるでござるよ」


「そういうもんなのエルフって?」


「そういうもんでござる」


 考えても仕方ない。ハシャというエルフが青色の下着を持っているのは分かった。それじゃあ次に下着泥棒がやってくるのはハシャの家ということになる。


「ちなみに周期はどんな感じだ?」


「ピッタリ二日に一回でござるな。昨日発生したから今日はないと思うでござる」


「ピッタリか……変態の考えてることは分からないな」


「そりゃ相手は変態でござるからの。色もそうであるが、自分の独特なルールとやらがあるのでござろう」


「……俺って、もしかしてこんなのと同列に扱われていたのか?」


 相当最初の言葉が気に食わなかったらしい。いやまぁ確かにそりゃダメなのは理解してるが、流石にこんなイカれた下着泥棒と一緒にされるのは心外というか。

 ……でも信頼してくれてるとは思う。だから信頼に答えるため、なんとしてでもこの事件は解決しなければ。


「エッチがかかってるしな……」


「エッチ? なんの事でござる?」


「独り言だよ。忘れて」


 相手は未知の魔法を持っている。それもエルフですら理解不能となるほど高度なもの。相手の出方をまずは考えなくてはならない。

 ライズとテルドリンは作戦会議をするため、宿屋へと戻ることにした。


「疑問なんだけどさ。なんでそんなにヤミさん怖がってんの?」


「……逆に貴方はヤミ殿が怖くないでござるか?」


「怖くな……い」


「詰まってる」


「俺の場合は特殊なんだよ。自分で言うのもあれだけど」


 テルドリンは自分を抱きしめるように両腕を掴みながら震えていた。


「あれは拙者が二千二百歳の頃でござる……拙者がいつものように逆立ちをして遊んでいた時のこと」


「年齢が凄すぎて頭に入らないけど続けていいよ」


「突然、ヤミ殿は拙者の手を蹴り払ったのでござる! しかも理由が『道の邪魔』と! スペースあるのだから隣を通り過ぎればいいでござろう!?」


「……ごめんなんで逆立ちしてたの?」


「暇だったから」


「暇で逆立ちすんの?」


「そうでござる」


「……俺ってこんな変人って思われてんの?」


 全部が終わったらイグサとエッチをしてから、自分を見つめ直してみよう。ライズはそう決心した。

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