第6話『リバーウッドの荒鉤爪』
情報はある程度集まった。しかし──どうすればいいのか。ライズはただの人形店を営んでる普通の人だ。
エルフのような魔法の才能に特化してる人たちが探しても見つからない相手を自分なんかが見つけられるのだろうか。
「……ヤミはね。貴方のこと信頼してるわよ」
「へ?」
ライズの自信が無さそうな顔を見たからか。それとも心の中を読んだのか。どちらにせよ、グレイは頬杖をつきながら言った。
「根性があって、頭がおかしくて。それで変態。そんな貴方なら下着泥棒を捕まえられるって」
「それ褒めてます?」
「貶してるんじゃない?」
「俺今褒められる言葉を期待してたんですけど」
「期待するのは自由だからねー」
この人が好きな人の母親の母親、つまり曾祖母ということを理解してもなお腹が立ってきた。客商売をしてるので人には慣れてるつもりだったがこの人はとことん掴みどころがないらしい。
「とにかく私もあの子も期待してるのよ。貴方だってイグサちゃんのことを本気で好きなんでしょ?」
「それはもちろんです。あの子のためなら火の中だろう水の中だろうと裸になってみせますよ!」
「その調子その調子。けど、やっぱりそれでも心配よね。相手は私たちでも探知不可能な高度な魔法を持ってるっぽいし。ここまで来ると魔術の類かしら。どれにせよ貴方じゃキツいところがある」
「うぅ……否定はできません」
「──いい人を紹介してあげる。宿屋に行きなさい。そこにテルドリンって傭兵がいるの」
「傭兵ですか? この村に?」
何度も言っているが、エルフは高度な魔法を使うことが可能。一人一人の戦闘能力はとてつもなく高い。昔話ではたった一人で国を滅ぼしたエルフもいるとされている。
今はかなり弱体化してるとはいえ、それでも強いものは強い。そんなエルフが集まってる村に傭兵などが必要なのだろうか。
「ちょっと見た目は頼りないかもだけど、信頼してもいいわよ。私のお墨付きだから。それに貴方ともウマが合うかも」
* * *
──ライズはグレイの言うことをあまり信用できなくなってきた。
原因は目の前の景色だ。宿屋に入ったライズだったが、そこに居たのは本当にエルフかどうかを疑いたくなるような男であった。
「ぐへへ……マ、マリンちゃん、ラッド君。拙者と戦いごっこしようかぁ……」
「やるぅ! やろやろ!」
「じゃあテル君は敵兵ね! 私たちは正義の味方やるから!」
「うっへぇ、まっかせるでござる! ──グフフ、貴様らの首を切って手と足を逆に付けてやるぜグフフ」
……顔は普通。体型は傭兵と言うだけはあり、ガッシリとはしている。髪も長めの金髪とエルフらしい感じだ。
問題はそれ以外。言いたいことは沢山あるが何よりも表情。表情。なんだその表情は。子供と遊んであげているのはそうだろうが、顔が確実にアウト。目が歪んでるし、なんかハァハァ言ってる。
「あれほんとに傭兵ですか? 先に衛兵呼んだ方がよくないですか?」
「ま、まぁ……悪いエルフではないから」
あれをどう見たら『ちょっと』頼りないになるのだ。明らかに頼りなさすぎる。あれを仲間にするくらいなら案山子でも背負ってた方がまだ有用な気がする。
「それに実力は折り紙つきよ。ヤミちゃんがいなくなった今じゃあリバーウッドで最強なんじゃないかな。魔法の出力に関してはヤミちゃんよりも上だったからね」
「へぇ、あれに負けて恥ずかしくないんですか?」
「結構言うわね貴方」
だが強さそのものは確かにある。この村で一番の強さなら期待できる……と信じたい。
ライズは金の袋を持ってテルドリンのもとまで歩いた。
「ちょっといいか?」
「はて、拙者になんのようでござる? 今は童たちと楽しい楽しい遊楽を楽しんでいたのだが」
子供を散らせたライズは机の上に金の袋を置いた。
「傭兵なんだろ? 雇いたい。俺と一緒に下着泥棒を探してくれるか?」
──刹那、ライズの心臓が止まるような、そんな感覚がした。
さっきまでの変態チックな顔を捨て、一気に強面へと塗り替えたように変貌する。まるで猛獣の檻に入れられたのかと思うほどの圧迫感。
テルドリンは手馴れた様子で袋の中を見て金の数を目で確認。そして──。
「──嫌でござる」
──普通に拒否した。
「……は?」
「嫌でござる。拙者は働きたくないでござる。下着泥棒なんて拙者には関係ないし」
「関係なくはないだろ!? お前の住む村で下着泥棒が出てんだぞ!?」
「でも拙者は下着盗まれてないし」
「そういうことではなくて──」
「嫌でござる! 嫌でござる嫌でござる! 拙者は働きたくないでござる! 働きたくないから傭兵という仕事を選んだのだ! この村の人は全員強いから拙者が働く必要はないのだ!」
なんだその不純の塊みたいな理由は。これなら金のためにしてる傭兵が聖人に見えてくる。
テルドリンは「嫌でござる!」などとほざきながら床に寝っ転がり、欲しいものを買ってもらえない子供のように癇癪を起こしていた。
「……」
「……実力は確かにあるのよ。それは本当よ」
受付のエルフであるフェルトは恥ずかしそうに目を逸らしながら肩に手を置いた。むしろ言い方的に実力以外は褒められる部分がないのでは、と勘ぐってしまう。
だが……ここで引くのも嫌だ。恥ずかしいことだがライズ一人では解決できない。下着泥棒を捕まえるためには、実力があり、なおかつエルフの村のことをよく知ってる奴が必要だ。
あと何より──今諦めたらテルドリンに負けたような気がして腹が立つ。
「どうやったら働いてくれますかね?」
「子供のパンツでもあげたら喜んでついてくるんじゃない?」
「シャレにならないですそれ」
「嘘よ。ただの冗談。まぁこの人ヤミちゃんの言うことはよく聞いてたし、ヤミちゃんを連れてきたらいいんじゃない?」
ヤミの言うことは聞く──なるほど。いいことを聞いた。ライズはコホンと咳払いをしてまたテルドリンに話しかける。
「まず……俺が誰だかは知ってるか?」
「? 拙者は知らないでござる」
「──イグサさんと結婚する予定の者だ」
「……はい?」
事情を知ってるフェルトは眉をひそめて困惑した。
「イグサちゃん……というと、ヤミ殿のご息女……え?」
「話が分かるじゃないか。つまりだな、俺とヤミさんは家族というわけだ。あの人は冷たいようで優しいからな。俺が頼めばある程度のことは聞き入れてくれる」
「付き合ってる? そんな話聞いてな──」
「シャラップ。今は貴女のターンではございません」
ライズの言葉にフェルトは反射的に口を閉じた。
「……言うぞ」
「な、何を……」
「ヤミさんにテルドリンをシめてくださいって──」
「ままままま待つでござる! それだけは、それだけはご勘弁を!」
「いいのか? 言うぞ。あの『赦しのヤミ』さんに言っちゃうぞ。『マジやっちゃってください』って言っちゃうぞ」
「あはは! さっきのは冗談でござるよぉ! 拙者とて傭兵! 金のためなら……否! 金など必要ござらん! 我が故郷が未曾有の危機に陥っておるのだ! リバーウッドを代表するエルフ『荒鉤爪のテルドリン』が動かなくてどうする!?」
本当にヤミにビビってるっぽい。さっきの駄々を捏ねてた子供みたいな雰囲気はどこへやら。即座に立ち上がり、自分の威厳を誇示するように胸を張った。
「さぁ行くぞ! いざ征くぞ! 下着泥棒などという不届き者を捕まえるのだ!」
「それでこそ男だ。共に頑張ろうな、テルドリン君」
「……ヤミちゃん。私はリバーウッドが心配になってきたよ」
こうして新たなる仲間を引き入れたライズ。二人は早速調査に乗り出すのであった。




