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告白の言葉が『エッチしてください』はダメだと思う  作者: アタラクシア
第五章『心の中に変わらずドンッとあるもの』
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第34話『逆転を始めようか』

 全身全霊。魔力を全て拳に乗せた最大威力の拳。アンダーウェアの体は顔面に引きずられるようについて行き、店の奥を壊しながら殴り飛ばされた。


「……ぅ、あ」


 ──やっと会えた。

 ライズは叫びたかった。イグサに対する愛を叫びたかった。王都で起きた様々な珍事件を高らかに話したかった。

 イグサは話したかった。今の自分の心の中を話したかった。ライズのおかげで変わることができたと叫びたかった。


「あぁ、あ……ぁ」


 だがお互い声は出てこない。イグサは嬉しさから涙を大量に流す。本当はライズも泣きじゃくりながらイグサを抱きしめたいが──そうはいかない。

 店の奥から瓦礫を退ける音がしてきた。どうやら渾身の一撃でもダウンはしなかったらしい。なんてしぶとい男だ。


「──スカイ!」


「あいあいさぁ!」


 ライズの呼び掛けにスカイがドアを蹴破って参上。すぐさまイグサに駆け寄り肩を貸してあげて立ち上がらせる。


「イグサさんを連れて逃げてくれ。できる限り遠くに」


「ライズは?」


「──決着をつける」


「言わなくて分かってたよ」


 店から二人を逃がしたライズは瓦礫の奥にいるであろうアンダーウェアに顔を向けた。

 奥から漏れ出る憤怒はライズの身体を震わせる。


「──ライズ!」


 スカイの声にライズは振り向いた。そこには──不安そうに見るイグサを抱えたまま、親指を立てるスカイがいた。


「ここで勝ったらヒーローって呼んであげる!」


「……はっ」


 ライズはスカイに向けて。そして──イグサに向けて。安心させるように親指を立てた。



 二人が馬車に乗って走り去る音を聞きながらライズはアンダーウェアに体を向ける。瓦礫を押しのけ立ち上がった体は薄汚れており、顔から粘度のある鼻血が溢れ出る。


「久しぶりだな。かなりイケメンになったじゃん」


「……そうだな。貴様のおかげで頭も冷えた」


 折れ曲がった鼻を力技で元に戻す。鼻血はまだ止まらないが止めてる余裕はない。アンダーウェアは指を鳴らしながら構えた。

 腕を真っ直ぐに伸ばし、肩を回す。軽くジャンプして準備体操は十分。ライズは首を鳴らしながら構えた。


 話すことなどない。話す理由もない。二人はただ振り上げた拳を互いに向かって叩きつけるのみであった──。



* * *



「──ぐっぶっ!」


 ──王都ではテルドリンがフェルマーと戦っていた。

 だが今は戦っているという表現は不適切かもしれない。言うなれば蹂躙。暴力。フェルマーが行っていたのはそれだった。


 立ち上がろうとするテルドリンの髪を掴み上げて顔面を殴る。殴ると同時に小さな衝撃波を放つことでさらにダメージを増加。テルドリンは殴り飛ばされた。


「どうした? もう終わりか?」


 軋む体を持ち上げようとするが──フェルマーの脚がそれを許さない。頭を踏みつけられ地面に固定される。


「せっかく興が乗ってきたところなのに。それとも何か? 貴様の意思はこの程度で終わるほど軟弱なものなのか?」


 テルドリンは足首を掴んで離そうとするが、乱雑に手を振りほどき、腹部を蹴ると同時に衝撃波を放った。バウンドしながら瓦礫に衝突。停止する。


「ぐ……」


「……だろうな。傭兵などプライドが高いだけの腐ったミカンの集まりだ。崇高な理念や信念などない。ただ金で雇われて戦うだけの愚かな人種だ」


 血が吐き出た。内蔵がイカれてる。肋も折れてる。身体中の至るところが内出血。動けるだけでも奇跡だろう。

 気絶しててもおかしくない。そんなテルドリンの前でフェルマーは叫び続けた。


「汚らしい野良犬め。私からすれば、首輪に繋がれた子犬の方が番犬としては役に立つ。貴様らはただ日銭を稼いで堕落を貪っていればよかったんだ……!」


 ……正論だ。どんなものとはいえ、信念は信念。テルドリンには誇りこそあれど信念などない。だからフェルマーの言ってることは正しい。

 だが──間違いもある。間違えたままは腹が立つので、テルドリンは満身創痍の体を引き起こして言った。


「金は……貰ってない」


「……は?」


「拙者も欲しかったのだが、ちょっと昔ながらの幼馴染に脅されての。仕方なくやってるんでござるよ」


 テルドリンはそう言って笑った。


「……なら、なんでここに立つ。お前にはメリットがあるのか?」


「ないでござるな」


「自分の命が無くなるかもしれないんだぞ?」


「無くなるかもでござるな」


 なんで、か。どうして、か。戦うことに意義を見出すことなどかなり久しいが──理由なんて簡単だ。


「──拙者の友達に言ってしまってな。『頼む』と。そして『任せろ』と答えてくれた。ならばこっちも自分が背負うことくらいは跳ね除けねば友達に笑われてしまう」


 依頼主──友達であるライズのため。命を薪にして炎を焚べる。魂が風に吹き飛ばされようとも、立ち上がり続ける。

 僅か数日間の付き合い。長い寿命を持つエルフにとってはなおのこと短い時間。それでもテルドリンはこの数日間を決して忘れることは無いだろう。



 テルドリンの周囲に乱気流が発生する。風は上下左右に変わり続け、渦をまくように流れ込んだ。


「まだここまでの力を──!?」


 風は手の中に。空気は手の中に。目に見えるほどの流れを作りながらテルドリンの手の中へと収束している。圧縮、凝縮。膨張しようとする空気の塊を押さえつけてパワーを溜め込んだ。

 アレをぶつけられてはマズい──フェルマーは最大出力で先手を取った。


「出させるかっ! ──『インパクトヘブン(強撃)』!」


 この戦いにおいて最強、最大威力で放たれた衝撃波。テルドリンどころか王都の半分すら消し飛ばさんとする威力の衝撃波は──なぜかテルドリンの前で掻き消えた。


「──え?」


 衝撃波は分散したように家々、人々の間を通り過ぎ、遥か上空へと投げ出される。そして──解放。

 テルドリンに向けて放たれたはずの衝撃波は王都上空にて爆散。目に見えるほどの衝撃波が空中から降り注ぐ。直撃するよりも軽い風圧を感じながらフェルマーは唖然としていた。


「衝撃波も風も元を正せば同じこと。わざわざ攻撃を受け続けた甲斐があったでござる。──ギリギリで解析が終了した」


「なっ、か、解析だと!?」


「圧力という点で見れば等しいこと。お主はそれに気が付かずバカスカ撃っておったな。冷静に戦っていれば気が付いていただろうに」


 テルドリンの手に高圧の魔力と風が収まりきった。


「──天を巡りし劫火の吐息。──その風は螺旋となりて地を蹴散らす」


 完全詠唱。城の中で使えば崩落の可能性があったため出力のみを解放して範囲を制限していたが、今回は外。さらに攻撃の余波で人はおらず、建物もない。

 出力は最大。範囲も最大。詠唱をしたおかげでフルパワーで魔法を放つことが可能。


「ま、待って! 待ってくれ! お、俺にぶつかった…いや、投げつけられたことは許す! リ、リアスとかいうやつが俺を殴ったのも許す! だから待って──」


「最大出力── 『|バニシングアンリミットエア《円天廻る風の道》』」


 ──発生した風の道。螺旋を描きながら発生する突風。風の通り道にあるものは全てが削り取られる。どんな例外もなく。


「ぁ──ぶへぇぇぇぇぇぇ!?」


 フェルマーはリアスに殴られた時と同じような声を出したながら風の通り道ごと消し飛ばされた──。



 ──風は地面を数十メートルにわたって抉りだし、直進。数十キロは先にあった山に風穴を空け、はるかか彼方の海にて爆散し、その命を終えた。

 テルドリンは肩で息をしながら膝をつき──倒れた。


「……あぁ、しんど」


 全身ボロボロ。痛みで頭がどうにかなりそう。だがテルドリンは笑う。どうせ死ぬことは無いし、それに──遠くにいるライズがイグサを助けたような気がしたから。

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