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告白の言葉が『エッチしてください』はダメだと思う  作者: アタラクシア
第五章『心の中に変わらずドンッとあるもの』
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第32話『赦しはここに』

「──ん?」


 布団に入って眠っていたヤミは異常を感知して目を覚ました。頭にヒリヒリと感じる痛み。この感覚をヤミは知っている。

 音を出さずにすぐに着替え、一階へ。下にはカウンターに突っ伏して眠っているイグサがいた。


 イグサの頭を撫でてヤミは外へと出た。昼間は静かながらも楽しげな雰囲気の街であるが今は違う。闇夜に照射される月の光のみが道を照らし視界の外は暗黒の世界となる。

 冷たい空気はこれ以上進むなと言っているようだ。──この感覚は今までに何度も味わっている。ヒリつく肌を押さえつけてヤミは歩き続けた。



 しばらく進んでヤミは雑木林へ足を踏み入れる。湿った土を足の裏に感じながら進み──ヤミは途中で足を止めた。


「……」


 目の前にあるのは砕け散った水晶。市長に頼まれて仕方なしに設置した魔晶石。獣除けの魔法式を刻んでいたものだったが、それが完全に壊されていた。

 明らかに獣がやったような傷ではない。悪意を持った他人が壊したような跡であった。


「──お、あれが『赦しのヤミ』かぁ。待機してたところを急に引っ張られたからビックリしたけど、あれなら納得だな」


 ──声が聞こえる。ヤミが声の方に振り向くと、太い幹の上に腰を下ろした瑠璃色の髪をした男がいた。


「見た目私たちとほとんど変わんないね。やっぱりエルフって不思議ぃ」


 ──声が聞こえる。声の方には木に背を預けて眼鏡を弄る黒髪の女がいた。


「ほんとにコイツがヤミってやつか? 前評判のわりに魔力が少ないと思うんだけど」


 ──声が聞こえる。声の方には地面にしゃがみ込み、ヤミへガンを飛ばしているオールバックの男がいた。


「油断するな。噂では一人で国一つを壊滅できる力があると言われてるらしい」


 ──声が聞こえる。声の方には隠れることなく堂々と仁王立ちしている筋骨隆々な男が立っていた。


「お姉さん可愛いねぇ。アタシのお人形にならない?」


 ──声が聞こえる。声の方には空中をプカプカ浮いている紫髪の幼女が浮いていた。


「カカカッ! エルフの血は羨ましいのぅ。儂もずっと若いままが良かったわい」


 ──声が聞こえる。声の方には杖を着きながら闇の中からこちらへ歩いてくる老人がいた。


 見ただけで分かる。──全員がかなりの実力者。淀みのない魔力に加えて練り上げられた闘志。それぞれが違う方面に向いていながらも、進む先は同じ。

 ヤミは初めて見たが刹那で分かった。こいつらはライズの言っていた『十二神将』だ。


「卑怯な真似をして悪いなヤミさんよ。アンダーウェアから『必ず殺せ』って頼まれたんだ」


「抵抗しなければ楽に殺してあげるよぉ」


「抵抗してもいいぞ? 俺らは楽しめるからな」


「カカッ、無茶を言うでない。我ら六人が揃ってコヤツを叩くのじゃぞ? 抵抗しようと動く方が無理がある」


 六人。たった一人ですら苦戦するような実力者が六人。全員がヤミを殺すためにやってきていた。

 囲まれているから逃げられない。殺す気だから見逃すこともない。相手が実力者だと分かっているから油断だってしない。


「……はっ」


 詰み。チェックメイト。六人はヤミの思考はそのような言葉で埋められていると思っていた。


「笑ったよぉ。絶望しすぎちゃったかなぁ?」


「笑うしかないからな、この状況は。最期くらい笑顔で死にたいだろ」


 六人は勝ち誇った顔で魔法を展開。絶望を与えるのも一興だが、アンダーウェアからの指令は『さっさと殺せ』だ。

 油断することも、躊躇うこともなく。言われた通りにさっさと殺して戻ろう──考えが一致した六人の耳にヤミの声が聞こえてきた。


「ほんと。笑うしかないわね──六人程度で私を殺せるとでも思った?」



 ヤミが天へ腕を掲げる。


「多重屈折擬似空間魔法──」


 ──恐怖。本能的な恐怖。

 神経を引きちぎられるほどの恐怖に支配された六人は魔法を消して回避に専念する。


「──『エンドラ(終焉の龍)』」



 ──ヤミの声と同時に六人の体を強大なエネルギーが貫いた。瑠璃色の髪の男はエネルギーが直撃してダウン。筋骨隆々の男も耐えきれずに潰れて気絶する。

 直撃を避けたおかげで残った四人。だが誰一人として無傷、それどころか軽傷の人間すら存在しない。


 片腕がえぐれ、両足を失い、肋がほとんど折れ、両目が潰れる。各々に甚大な被害を出した攻撃であったが、この場にいる誰もが『何をしたか』すら分からなかった。

 ヤミの声を聞いた瞬間には攻撃が当たっていた。不明。何もかもが不明。分かるという次元すら超えた圧倒的な魔法なのだ。


「ぐ……ぁ……」


「っ……なに、が……」


「痛い……痛いよぉ……!」


「ぐ、ぶっ、ふ……っお」


 倒れ伏す四人を見下ろすヤミ。面倒くさそうに髪をかきあげながら一歩前へと進む。


「思ったり残ったわね。一人くらい残ってくれればいいかなって感じだったんだけど。案外やるじゃない」


「い、ま……のは……!?」


「多重屈折擬似空間魔法。私は貴方たちのリーダーみたいに時間とか空間に干渉する魔法は使えない。だからこれは『擬似』よ。小さく圧縮した領域を魔法の進行方向に展開して、技を隠す。だから攻撃を放つ時と当たる時のごく僅かな時間しか視認したり感じたりすることができない」


「そ、そんなのありえない……不可能よ……」


「領域の中でならまだしも、領域を出しつつ他の魔法を展開するなど、儂は聞いたことがないぞ……!」


「それはアンタが世間知らずなだけでしょう。ま、私の真似をしようとしてもできないとは思うけどね。村の中でも手先が器用だったし──」


 ──ヤミに向かって雷の魔法が放たれた。幼女による不意打ちの攻撃だ。背後から雷速で走ってくる魔法をヤミは──視認した。

 雷の魔法はヤミに届く前に離散。魔法の欠片すら当たることなく防がれる。


「い、まのは……」


「? 防御魔法よ。防御壁をわざわざ周囲に貼ったりするのって無駄じゃない。だから攻撃が当たる場所にだけ防御壁を展開したのよ」


「ふ、ざ、ふざける、なっ……! んな、んな馬鹿な話がっ……」


「目の前の現実が見えないの? それとも見たくない? ──私はここにいる。アンタが信じたくない馬鹿な話を私はできる」


 ──また一歩。一歩近づくごとにヤミへの恐怖は強まっていった。

 戦意などとっくの昔に消失した。勝てない。勝つことなんてできない。思いつきすらしない。


「……はぁ。テル君はこのレベルの奴らを取り逃したの? 腕訛ったんじゃないのほんとに……帰ってきたらシめてあげなきゃ」


 呼吸をしてもよいのか。心臓を動かしてもよいのか。自分の生きる権利を相手に握られているかのような感覚。指先の震えが冷たい地面の砂を削る。

 四人の顔を見てもヤミの表情は変わりない。他の感情を排した純粋な怒り。金色の瞳は光を反射せず。これから死にゆく四人すら反射しない。


「さて。アンタたち私を殺そうとした──」


 声も変わらず。喉も変わらず。最初にこの場所へやってきた時と何も変わらないまま。ヤミはこう言った──。


「──覚悟はできてるんでしょうね」



* * *



 両手を叩いて汚れを弾く。最近は使ってる枕が悪いからか、首をよく凝るようになってしまった。歳を考えるのは嫌になるからやっていない。

 凝り固まった首を鳴らしていると──ふと、ヤミは疑問に思った。


「……なんでこっちに呼び出したの?」


 不意打ちならいくらでもできたはず。それこそヤミは眠ろうとしていた。居場所が分からなかったというのも考えられるが、どうも納得することができない。

 何かが引っかかる。目的は何だ。自分を誘導したい目的でもあったのか。それとも──誘導しなくてはならなかったのか。


「……まさか」


 本当の狙いは──骨董品店か。

 よく考えなくとも不思議だった。十二神将を束ねるアンダーウェア本人はどこへ行ったのか。ヤミの考えが正しければ──。


「イグサが危ない──っ!」

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