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告白の言葉が『エッチしてください』はダメだと思う  作者: アタラクシア
第五章『心の中に変わらずドンッとあるもの』
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第30話『それでも夜はやってくる』

 その日の夜は暖かかった。イグサはカウンターに座り本を読んでいる。疲れからかウトウトとするイグサにヤミはブランケットをかけてあげた。


「すみません……」


「いいのよ。今日もここで寝る?」


「……はい」


 ライズとテルドリンが王都へ旅立って五日。イグサはずっと店のカウンターで眠っていた。食事を取る時とトイレに行く時以外はずっとここに座っている。

 人が来ても来なくても。イグサは心配そうな顔で店の入口を眺めていた。


「……心配? ライズのこと」


「心配……なんでしょうか。私には分かりません……」


「じゃあ私が決めてあげる。貴方はライズのことを心配してるのよ」


「……そう、ですかね」


 ヤミはイグサの頭を撫でた。


「心配しなくても大丈夫よ。テル君もいてくれるし、あの子は頭がおかしいから」


「……それはそれで、心配ですけど」


「ふふっ。そうね。確かに、そっちはそっちで心配ね」


 肩を叩いて「おやすみ」と言い、ヤミは寝室へと向かう。

 心配しなくていい。そうは言われてもイグサの胸の中にある感情は消えてくれない。


「ライズ、さん……」


 窓からは月明かりが刺していた。今日は満月。美しい月だ。だけど今日は月を綺麗と思えない。

 心で渦巻く『心配』という感情。イグサはブランケットを肩にかけ直しながら、綺麗とは思えない月を眺めていた──。



* * *



 ライズは消火の手伝いをしていたスカイとリアスを引き連れて走っていた。時間を操作できるアンダーウェアでも自分の脚でシモエ街までは向かわないはずだ。

 馬、それか馬車。テルドリンの言ってることが本当ならアンダーウェアは時間を止めながら馬で移動することができることになる。そんなものまともに追っても追いつくのは至難の業だ。


「とにかく急いでヤミさんとイグサさんの場所へ向かいたい!」


「理解した! けど、アンダーウェアはもう街を出てる可能性だってあるでしょ? どうやって追いつくの?」


「そこなんだよ……どうすればいい……!」


「──俺に任せろ」


 リアスは口角を引き上げながら言った。


「俺が商売する時によく使う道がある。アフロディーテ領のシモエ街なら前に通った。普通なら三時間で着くところを、半分の時間で到着が可能だ!」


「そういえばリアスって商人だったじゃん! というか半分ってそんなこと可能なの!?」


「かなり無茶する。危ない道をショートカットするから下手すれば死ぬ。それでも行くか?」


「──当たり前だ!」


 イグサを守れるのなら何を躊躇う必要がある。何の迷いもなく答えたライズにリアスはまた口角を上げた。


「馬車は俺のを使う! もしものためにスカイ、お前も来てくれ!」


「最初から行く気だったよ私は!」



 三人はリアスの家に到着。近くに停めてあった馬車に飛び乗り、リアスは早速ムチを叩く。

 ──発進。茶ブチの馬『オーウェン』と芦毛の『グランド』が嘶きながら道を駆け抜ける。曲がり角をほとんどスピードを落とさずに急カーブ。タイヤの跡をつけながら加速していく。


「なんでアンダーウェアはヤミさんとイグサさんのところに?」


「ザ・ワンがなぜかヤミさんとこの骨董品店にあるらしい。細かいことは教えられなかったけど、なんか深い事情があるのかもな」


「案外くだらない理由だったりして」


 割と合ってる予想を軽く笑いながら三人は王都から飛び出す。全速力で駆け抜ける馬車は王都の城壁を抜け出して平原へと突入した。


「普通ならこの先の『エンチャントクロード』って森は迂回するんだが、今回はここを突っ切る!」


「馬車で森の中を突っ切るの!? 流石に無理あるよリアス!」


「ここまで来たんだ弱音を吐くなスカイ! 俺のパンツを奪い取った時のあの覚悟はどうした!?」


「あれは忘れろぉ!」


 ボコスカ頭を殴られながらライズとリアスは目を合わせる。


「──頼む」


「オッケーだライズ! 覚悟を決めろぉ──!」


 ここまで来たなら引けない。そして引く気はない。ライズたち三人を載せた馬車は森の中へと突っ込んだ──。



* * *



 ──テルドリンとフェルマーの戦いは激しさを増していた。


「『グラウンドインパクト(地響き)』!」


「『エアロブラスト(風の波動)』!」


 大地を揺らす。空気を揺らす。テルドリンの風とフェルマーの衝撃波がぶつかり合い、周囲の建物を根こそぎ吹き飛ばす。

 フェルマーは『衝撃属性』を操り、自分の魔力で作り出した衝撃波を手の動きに合わせて連射してくる。その威力はソニックブームすら超えるほどの力。テルドリンにすら勝るとも劣らない威力を持っている。


 中距離戦からシームレスに近接戦へ。テルドリンの『ウィンド』によって加速した拳を簡単に受け止め、顎に向けてカウンターを放つ。

 これは避けてさらにカウンターのハイキック。顔面に直撃するも怯むことなく足首を掴み、テルドリンの胸に掌底──そして衝撃波を放つ。


「がはっ──っ!?」


 家々を数棟ぶち抜きながらぶっ飛ぶテルドリン。フェルマーは足裏から衝撃波を出して加速し、ぶっ飛ばされるテルドリンに追いついた。

 拳の振りと同時に放たれるインパクト。何とかガードするも衝撃波はテルドリンのガードを貫通。ムーン広場のドレン塔をぶち壊してテルドリンは殴り飛ばされる。


 空中で体勢を整えたテルドリン。衝撃波を利用して空中へ飛び上がるフェルマーを視認し、両手に風を発生させる。


「『カマイタチ・ローグ(風切り・乱)』!」


 圧縮した斬撃の風をフェルマーに乱射。器用に体勢を変えながらフェルマーは無数の風を回避、回避、回避。一度地面に降り立ち、一気に衝撃波で空中のテルドリンに接近する。


「『バースト(破壊陣)』──!」


 空中に四つの紋章が現れた──瞬間、それぞれの紋章から強烈な破裂音と共に衝撃波が放たれる。


「っぐっ、ぶっ──!?」


 一気に地面へと叩きつけられるテルドリン。全身の骨が折れるような強烈な打撲の痛み。鈍る視界を頬を叩いて戻した。


「どうしたぁ!? そんなものかエルフは!?」


 ──空中で衝撃波を発生させる。フェルマーは両手を握り、その中に無数の衝撃波を放つ。衝撃波はやがて塊となり、空間が歪むほどのパワーとなって球体へと変貌した。


「『バーストアウト(破滅の球体)』!」


 圧縮された衝撃波の塊。そんなものが地面にぶつかりでもしたら──。

 テルドリンは咄嗟に魔法を展開。時間がないので詠唱はおこなわず、今出せる最大出力の『|バニシングアンリミットエア《円天廻る風の道》』を発射。同時に余波から守るために巨大な防御魔法も張り巡らせる。


 ──王都の上空にて二つの巨大エネルギーがぶつかった。エネルギーは目に見えるほど大きくなり、王都へ強い風を吹かせる。

 運がいいのか、悪いのか。王都を包んでいた火の海はこの風によって大半が消火。人々は何故こんなことになったのかを理解していないが、とりあえず今は残った火を消火することに集中する。


「──か、はっ」


 アンダーウェアとの戦闘。そしてフェルマー。立て続けに実力者と戦ったことによりテルドリンの魔力にも底が見え始めた。

 魔力だけじゃなく、単純に疲労もしている。呼吸が荒くなり関節が悲鳴をあげていた。テルドリンは気がついていないが肋も折れている。


「思ったよりもやるじゃないか。アンダーウェア様と戦った後でも余力を残してるとは思わなかったぞ」


 フェルマーは地面へと着地。魔力は十分。ダメージもほとんどないように見える。

 ──まさに絶望的な状況。だがテルドリンは笑った。


「だがお前は終わりだ。私をそこら辺のモブのように片付けた報いを受けるがいい!」


「……ははっ。ライズ殿と比べればまともすぎるでござるな」


 首を鳴らしてテルドリンはまた構える。


「──まともなうちは拙者にも勝てぬでござるよ」


 絶望だからどうした。それが止まる理由にならない。傭兵の仕事は依頼主の目的を達成させるために動くこと。

 ライズはイグサを助けると言った。ならば邪魔になるであろうフェルマーを命を賭けて倒すことこそ傭兵の、そしてエルフとしての誉。


 絶対に自分は勝てる。テルドリンは絶対的な自信に包まれていた。

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