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第29話『愚かな選択と信頼の選択』

「……え?」


「……ん?」


「あっ……」


「……は?」


「え、ヤミ骨董品店って……」


 ……。この場にいる全員──ある一人を除いて困惑。アンダーウェアはもちろん混乱。ブラインドとポラリスはわけが分からず目をひん剥く。

 そしてテルドリン。ヤミ骨董品店は名前からも分かる通りにヤミが構えている骨董品店だ。……え、なんで?


「……これは本当に秘宝なのか?」


「そ、そのはずだ。王家代々伝わってきた宝玉だ。杖は一日たりとも手放したことはない。取り替えるなんてできるはずがない……」


「じゃあこの情報は本当……え、なんで? なんで城にないの?」


 困惑。ひたすらに困惑。アンダーウェアとブラインドはさっきまでの敵対が嘘のように色々な情報を確認している。


「ま、待ってくれ……そうだ! ヴァーチャル・インサニティはあらゆる物品の情報を知ることができる! なんでそんな所にあるのか、あと所有者も調べてくれ!」


「わ、分かった。──なぜ『ザ・ワン』がその場所にある。そしてその所有者は誰だ?」


『──今より三ヶ月前。アル・マクトンが地元の商人レイク・ビューに七百万にて売却。そして一週間前にレイク・ビューが知り合いのヤミ・アクレミスに安値で売却し、今ではヤミ骨董品店に並べられている。よって、所有者はヤミ・アクレミス、その養子であるイグサ・アクレミスである』


 まとめると、アルが商人に売っぱらって、さらに商人がヤミへ売ってしまったと。


「ヤミはあの『赦しのヤミ』か……これまた大物の名前が出たものだな」


 ……。売っぱらった張本人のアルは顔でも洗ってきたのかと思うほどに冷や汗を流しながら顔どころか体を背けていた。ヘッタクソな口笛もしている。

 ──ブラインド、ポラリス。そしてテルドリンとアンダーウェアですらアルに対して侮蔑の目を向けていた。


「……アンダーウェア、だったか」


「あぁ……」


「そこのアルを人質にしていいぞ」


「ダメだ。お前らは容赦なくそこの王女ごと攻撃するであろう」


「待って! 待って! 言い訳させてお父様!?」


 この期に及んで逆転のチャンスがあると思ってるのか。アルは情けなく土下座しながら叫ぶ。


「持ってきた時は私も秘宝だとは思わなかったの! なんか高そうだし高く売れるかなぁって! ほ、ほら! 実際に七百万で売れたし!」


「……アンダーウェアさん。今ならまだ間に合います。このまま罪を重ねればお姉様……アルと共に首を並べることになりますよ?」


「待って! 処刑される前提で話進めないで! あとお姉様って呼んでぇ!」


「マジかよ……いや、流石に予想できないでござるよこの展開はぁ……」


 一体どんな奇跡……不運が重なったらこんなことになるんだ。世の中狭いなんてレベルの話ではないぞ。


 アルを責め立てるブラインドとポラリス。テルドリンもくだらなさにため息を出した。

 そして──アンダーウェアは呟いた。


「……そうだな。ザ・ワンさえ手に入れればいいのか」


 ──アンダーウェアの呟きをテルドリンは聞いた。


「それさえ手に入れば──いいのか」


「──」


 ──消えた。ポラリスはそのまま。同時に窓ガラスが割れる音が四人の耳に入ってくる。


「まさか──ヤミ殿の元へ行く気か!?」


 この世界において『赦しのヤミ』の名は有名だ。だからアンダーウェアならバカ正直に戦おうとはしない。今回と同じように──イグサを人質として使う可能性がある。

 すぐに追いかけるテルドリン。割れた窓ガラスから外へ飛び出そうとする──が、謎の衝撃波によって吹き飛ばされた。


「っ──!?」


「──久しぶりだなぁエルフよ!」


 窓から入ってくる影が一つ。銀色の髪を幽霊のように揺らめかせながら男が──フェルマーが入ってきた。


「この時を待ってたぞ……四日前にこの私をコケにした酔っ払い共に復讐するこの時をなぁ!」


 ブラインドはポラリスを回収。一応アルも背中へと隠すように後ずさりする。吹っ飛ばされたテルドリンは頭に着いた瓦礫の破片を叩きながら砂煙から出てきた。


「……? どこかで会ったでござるか?」


「覚えてないのか! まぁ覚えてないだろうな! 何せ貴様らは酔っ払っていたからな! 私にエルフをぶつけただけに飽き足らず、謎の理由で私を殴りおって!」


「……あ、思い出した。私の下着を奪おうとしてた人です!」


「もしかして……拙者らが泥酔してた時のことでござるか?」


「そうですね。酔っ払ったリアスさんがテルドリンさんをぶん投げて、そのままリアスさんがぶん殴ってたって話してました」


「あの時全身が痛かったのはそれが理由か!?」


 どうやらバイオレットロードで酒を飲んでいた時にいた奴のようだ。残念ながらまともに覚えているのはポラリスだけのようだが。


「あの後、私は周囲に可哀想な目で見られたのだぞ! その屈辱といったらもう……! 許せん! アンダーウェア様を守るため、復讐を果たすため! 十二神将『最強』であるこの私が貴様を叩きのめす!」


「悪いがお主に構ってる暇は──」


 テルドリンの目が見開かれた──衝撃でまた吹き飛ばされる。今度は城の壁を突き破って外へと飛び出した。


「これは……!」


「ははは! 油断したなエルフよ! 私を舐めてもらっては困る──!」


「テルドリンさん!」


 叫ぶポラリスを無視して同じく空中へ飛び上がったフェルマーはテルドリンに接近。顔面を掴むと──ゼロ距離で『衝撃波』を放った。

 自由落下を超えた速度で地面に叩きつけられる。波打つ地面にフェルマーは着地。鼻血を出しながら立ち上がったテルドリンに驚きの言葉を漏らした。


「今のを食らって死なないか……アンダーウェア様と善戦してただけはある」


「ぐっ……」


 早く追いかけなければならないのに──この男は自称するだけはあるようだ。かなりの実力者。単純な衝撃波ながら内部へと浸透する破壊の感覚が凄まじい。


「こいつを放ってはおけない……な」


 放置して暴れられては自分以外に対処できる者はいないだろう。だからといってアンダーウェアを放置するわけにはいかない。ならば──方法は一つ。

 テルドリンは胸ポケットから紫の結晶石『コンプ()レッション()ボイス()』を取り出した──。



* * *



『──ライズ殿!』


 街で消火活動をしていたライズの懐からテルドリンの叫びが聞こえた。水のバケツを他の人に手渡して結晶石を取り出す。


「テルドリン無事か!? こっちはなんとか街を混乱させてた二人を倒した──」


『一度しか言わぬ! よく聞け! 『ザ・ワン』は城じゃなくヤミ殿の店にあった! アンダーウェアはヤミ殿とイグサ殿の場所へ向かっておる! 拙者は敵と交戦して向かうことはできぬ! ライズ殿がアンダーウェアを止めろ!』


「……はぁ!?」


 事実のみの情報はライズの脳をこんがらがせた。しかしテルドリンの迫真の声──嘘や冗談とも思えない。


「なんでそこに……ってのは聞いてる余裕は無さそうだな。分かった!」


『アンダーウェアはおそらく触れている物も停止中に自分の意思で動かせられることが可能でござる! そうなれば通常よりも圧倒的に早く着いてしまう! 何とかして近道を探せ!』


 ──あの時。アンダーウェアがマンガンと共に城へと侵入してきた時。テルドリンがフリーズしたのは『アンダーウェアの容量に驚いた』からだ。

 時間停止という神とも言える魔術を使いながら、指定した人物と一緒に停止した時間を動ける。これはあまりにも強すぎる。

 だからテルドリンはこう考えた。──何かしらの条件があるのではないか、と。


 無条件で好き勝手に停止した時間で動けるなら、最初から十二神将全員で入って襲撃してしまえば簡単に終わる。それをせずに回りくどい方法で王都を混乱させ、たった二人で城へ入ってきた。

 しなかったのではなく、そうせざるを得なかったそして戦闘した時のマンガンは常に後ろへ隠れ、自分からは攻撃しようとしなかったし、アンダーウェアもマンガンを守るように戦っていた。

 停止した時間とはいえ、戦闘力のないマンガンを一人にさせるとは思えない。オールフィクションなどという強力な魔術を持ってるならなおさらだ。


 つまりだ。──時間停止中に一緒に動けるのはアンダーウェア含めて二人まで。そして一緒に動くにはアンダーウェアが触れてなければいけない。

 莫大なリソースを使うであろう時間停止なら、このレベルの制限は付けているとテルドリンは考察した。


「はぁ!? 無茶だろそれは……!」


『ライズ殿!』


「まだ何かあるのか!?」


『──ヤミ殿とイグサ殿を頼む』


 ──短い。とても短い言葉。あまりにも無茶な命令にライズは声を荒らげていた。だがテルドリンの短い言葉はライズにとってはこれ以上ないほどの信用の証。ならばライズもその信用に答えなくてはならない。


「──任せろ」


 テルドリンの言葉と同じく。ライズはこれ以上ないほど短い言葉で答えた。

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