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第27話『テルドリン・セロは止まらない』

 剣先はアンダーウェアの背中へと沈みこみ──消えた。


「チッ──!」


 細かく砕けた血を空中にばら撒きながらバックステップ。不意打ちはギリギリで回避され、ルドロフの剣は床に刺さった。


「外したか……っ!」


「ルドロフ殿!」


「ご無事でよかったです」


 アンダーウェアの眉間にシワが寄る。マンガンが心配して近寄ろうとするが、それを手で静止した。


「完全な不意打ちだと思ったのですが……」


「完全に不意打ちでした。拙者ですら分からなかったほどに。だがアイツは避けた。──見えてましたね」


「……使う気はなかったのだがね」


 一歩、前へ。二体二で同条件になったにも関わらず、アンダーウェアは依然として余裕そうにしている。


「そこのエルフは分かっていると思うが、私の属性は『時間』だ。主に時間に関する魔術を使用ができる。今使ったのは『フェイト(私だけの未来)』だ。自分の死に直結する出来事が起きた場合、その未来を予知することが可能な能力。魔力をごっそり持っていかれるので使いたくはなかったが」


「……予想以上のぶっ壊れでござるな」


「まさか私もいきなり殺しに来るとは思わなかったよ」


「当たり前だ。貴様、自分のしたことを分かっているのか? 街を混乱に陥らせ、火の海にした。秘宝を盗むというだけに飽き足らずだ! もはや即刻死刑にせねばならない!」


「下着も、です。下着と秘宝を盗みたいんですよ」


「そこ大事でござるか?」


 テルドリンは魔法をメインに戦う。だからオールフィクションが刺さったのだが、ルドロフは違う。

 ルドロフは魔法なし、剣技のみで成り上がった実力者として有名だ。オールフィクションは魔法を無かったことにする魔術。剣技のみを使うルドロフには通用しない。


 余裕そうにしているアンダーウェアだが、状況は逆転した。時間停止があるとはいえ、相手は手練二人。しかもオールフィクションが意味がなさない場合、マンガンは完全に足手まといとなる。

 足手まといを連れて二対一。さすがのアンダーウェアにも焦りが見え始める。


「……アンダーウェア様」


 ──自分が足手まといなのはマンガンが一番よく知っている。


「……先へ、行ってください」


「ダメだ。死ぬぞ」


「死にません。……私の幸せは貴方の幸せ。お願いします」


「……」


 アンダーウェアは唇を噛んだ。自分自身でもそれが最善だと分かってしまったからだ。


「……マンガン」


「はい」


「頼んだぞ──」



 ──アンダーウェア、消失。テルドリンとルドロフを通り抜け、階段を駆け抜ける音が二人の耳に入ってきた。


「逃げた!」


「追いましょう──!」


 時間停止を使われて先へ行かれるとまずい。精鋭部隊は倒されており、残っているのは一般兵。盾にでも使われたらさらに戦いづらくなる。

 なんとしてでも食い止めなければ。しかし──。


「──うわぁぁぁ!」


 マンガンは走った。護身用に持っていた短剣を振り上げ、テルドリンに突き刺そうとする。

 だが相手は子供。不意打ちだったテルドリンはともかく、ルドロフなら簡単に反応できる。マンガンに向けて剣を振り下ろそうとするが──。


 ──自分の息子。愛する息子とマンガンの姿が重なってしまった。


「っ……」


 自らの剣は王のため。王の意志ならば何でも斬る。そう誓ったはずなのに。マンガンの頭に剣を振り下ろすのを躊躇ってしまった。

 ──肉に刃が突き刺さる音。みずみずしい肉体の裂ける感覚が空気を震わせてテルドリンにすら伝わった。


「ルドロフ殿!」


「……」


 ルドロフは震えながらも短剣を握りしめるマンガンを──抱きしめた。


「行ってくれテルドリン……」


「……分かった」


 刺されながらも痛みではなく、慈悲の顔を見せるルドロフ。意志を感じ取ったテルドリンはただ一言を残して走ろうとする。


「王からの命令だ」


 ルドロフはたった一言。口から血を流しながらも喉を震わせた。


「──暴れろ」


 ──暴れろ。意味。意図。その全てを理解したテルドリンは口角を上げてアンダーウェアを追いかけた。



* * *



 マンガンの意思を無駄にしない為にもアンダーウェアは走り抜けた。長い廊下を時間停止で短縮しつつ足を動かす。兵士が見当たらないのは防衛を集中しているからだ。

 ならば今は走るだけ。兵士にかち合っても自分なら勝てる。テルドリンやルドロフが追いかけてきても盾にすれば時間くらいは稼げる──。


「──天を巡りし劫火の吐息」


 ──詠唱。それは詠唱。振り向くとそこには追いかけてきたテルドリンが立っていた。


 魔法は基本的に詠唱を捨て、技名のみを言うのが主流だ。戦闘において詠唱は大きな隙。味方がいるとしてもその隙を消そうとするのが一般的だ。

 だが魔法を最大出力で使用するには詠唱は必須。魔力回路を増幅させ、自分の形を最大限に固める。その工程をすることで魔法は本来の威力を取り戻す。


「──その風は螺旋となりて地を蹴散らす」


 荒鉤爪のテルドリン。魔法に秀でたエルフたちの中でも最大の出力を出せると言われる男。リバーウッド最強のエルフとすら言われる『赦しのヤミ』をも凌駕する出力を持つテルドリンの最大出力が手の中で渦巻いていた。


「最大出力──『|バニシングアンリミットエア《円天廻る風の道》』」


「まずい──っ!?」


 ──時間停止。止まった時間の中でアンダーウェアは天井の壁を壊して三階へと避難する。


 そして──魔法は放たれた。

 前方に放たれた風は螺旋を描きながら廊下を切り裂き突き進む。壁をぶち壊しても風は勢いを止めず。数十キロは先にあった山を撃ち抜いた。


「──化け物め……っ!」


 廊下はズタズタに壊される。まるで空間そのものが捻れてるかのように。

 だが──テルドリンは止まらない。『ウィンド(追い風)』を使って加速したテルドリンはアンダーウェアに接近。指先を向けて魔法を放つ。


「『エアウィンド(荒鉤爪)』」


「『フリーズウォール(停止された壁)』!」


 時間停止を目の前の空間のみに制限し、相手の攻撃を防御する技。時間が停止された空間はあらゆる魔法を防ぐことが可能──のはずだった。

 しかしテルドリンの風はフリーズウォールを切り裂き、アンダーウェアの頬に切り傷をつける。


「拙者は風魔法を極めた男。その威力は現実だけでなく空間すらも切り裂くでござる」


 普段セーブしていたエネルギーを全て魔法へと回す。極められた風は空間すら不純物とし、対象へとその刃を向けた。


「悪いが捕まえる余裕はないでござるよ」


「私も手加減する余裕は無さそうだ──」


 アンダーウェアは瓦礫を掴むとテルドリンに向かって投げつけた。目隠し──テルドリンは風で瓦礫を切り裂いてテルドリンを迎撃しようと魔法を展開。カマイタチ(風切り)の鎧を纏って近接戦を警戒する。


 ──蹴り。無防備な腹部に向かって蹴りが放たれる。


「がふっ──っ!」


「っぅ──ぁ!」


 互いにダメージ。テルドリンは蹴りをくらい、アンダーウェアはカマイタチが足を切り裂く。

 しかしアンダーウェアは構わずテルドリンに──触れた。


「『ロストエンド(限定停止)』──」


 ──原理はフリーズウォールと同じ。対象を限定した時間停止だ。

 アンダーウェアは手を切り裂かれながらもテルドリンに触れ、テルドリンそのものを停止させた。よってテルドリンが使っていた魔法も一時的に停止する。


「悪いが真っ向から戦うのは私の流儀に反するのでな……!」


 その隙にアンダーウェアは逃亡──否、先に目的を果たすことにした。


 ──時間経過によりフリーズが解除。テルドリンの体は自由になる。


「っ……個人の時間停止でござるかっ。苦し紛れでござるな……!」


 搦め手を使うということは、単純な実力はテルドリンの方が上ということ。ならば攻めるのはこのタイミングがベスト。音のする方へとテルドリンは走り出した。

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