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第26話『上を向いて歩こう』

「がぁ──っはっ!?」


 小さな口から吐き出される大量の血。殴り飛ばされたミサをカンナはなんとか受け止める。


「ミ、ミサ!」


「ぐ……ぅ」


 起き上がれない。呼吸が阻害され、内臓が軋む。馬鹿げたパワー。カンナを守ろうと防御壁を展開──しようとするが、展開できずに途中で壊れた。


「くっ……」


 スカイは呼吸を荒らげながらゆっくりとカンナに迫っていく。


「欲望……欲望は、そんな風に発散するんじゃない! 誰かに言われて欲望を発散するのは違うでしょ!」


 瀕死のミサを背中に追いやり、あえて前に出た。


「欲望はもっと独りよがりなの! 自分勝手に発散してなんぼ! 見てよこの景色! みんなが欲望を『下着を盗む』って思いで発散してる! こんないい景色がどこにあるの!?」


「グルル……」


「思い出して! 貴方がそのパンツを手に入れようとした時のことを! 楽しかった? 嬉しかった? そうやって人に従ううちは同じ感覚は味わえないよ! 自由に、自分勝手に動かなきゃ、貴方が欲しかったパンツもただの物になる! だからお願い、目を覚ま──」


 ──知るかそんなもの。こっちはパンツが欲しいだけだ。

 まるでそう言うかのように。スカイはカンナの頭を掴み、地面へと叩きつけた。飛び散る鮮血と地面の破片。カンナの意識は完全に消失し、体は脱力して音を立てずに転がった。


 ミサは一連の流れを唇を噛みながら見ていた。防御壁を槍の形に変えてまた放とうとするが──ダメ。カンナがダウンしたことで保っていた意識の糸が切れ、ミサは静かに目を閉じるのだった。



「パンツ! パンツ! 倒したよライズ! これでリアスのパンツくれるんだよねぇ!?」


 スカイは狂気的な笑いを夜空に聞かせながら、下で待ってる二人の元まで走ろうとする──。


「──ぁ」


 ──その瞬間、スカイにかけられていた精神汚染の魔法は効力を失った。

 本体であるカンナを倒したことで人々の意識は取り戻された。ある者はパンツを引き剥がそうとしてる瞬間、ある者はパンツを奪い取って高らかに掲げている瞬間。

 そしてスカイはパンツを握りしめて走り出そうとしてる瞬間に──正気に戻った。


「……ぁ、ぁ」


 記憶が戻った。戻ってしまった。リアスのパンツを脱がそうと暴れたこと。はしたなく涎を流しながらリアスの服を引きちぎったこと。そしてリアスのパンツを──。


「ぁぁぁあぁあぁ……! うわぁぁぁ……!」


 スカイは青ざめた。そして顔を紅潮させる。しかし思い出してまた青ざめ、また思い出して顔を紅潮させる。

 顔色を何度も変えながらうずくまり、やったことのやばさと恥ずかしさから唸るのだった。パンツを握りしめたまま。



* * *



「……ス、スカイ。あー、俺は気にしてないからさ。な?」


 物陰に隠れてプルプル震えているスカイに手を差し伸べるリアス。


「うぅ……リアスゥ……」


「なんて言うかさ……お前が俺のことそんなに好きとは──」


「──うるさい! うるさい、うるさい!」


 またスカイは頭を抱えてうずくまった。


「もぅヤダ! ヤダヤダァ! 無理無理お嫁に行けない! なにやってんのもう! なんでパンツを奪っちゃったの私ぃ!」


「荒ぶってたな。パンツを奪って」


「うるさいライズ! てか、何奪わせてんの! 止めてよ! 止めてよ乙女の失態を!」


「だって上の二人を倒すにはこれしかなかったんだもん。あとあの動き方で乙女はちょっと……ほとんどクマだったからな。しかも発情期の──ぶぎゃ!?」


 近くにあった木片を投げつけられ見事顔面にヒット。ダウンするライズの横でリアスは手を差し伸べ続ける。


「大丈夫だって! 見てたのは俺とライズだけだ! 誰にも言わないって心に誓うからさぁ! な?」


「……嫌いになってない? 私のこと」


「なるわけないだろ。今までの俺の態度を見てきたか? スカイが荒ぶりながら俺のパンツを奪ったところで『嫌い』の『き』の文字も出てきてねぇよ」


「じゃあ好き? 私のこと好き?」


「好きだ。大好きだしずっと一緒にいてほしいって思ってるよ。最近告白しようって指輪まで買ったんだぞ? しかも高めのやつ。スカイは昔から空色の宝石好きだったもんな」


「……」


 殻に閉じこもろうとしていたスカイの心は──溶けた。差し出された手をおそるおそる取り、ゆっくりと物陰から出てくる。


「ほんとに好き?」


「不安なら何度でも言ってやるよ。──好きだ。今も昔も。そしてこれからも」


「……私も好き」


「知ってる」


 静かに涙を流しながらリアスの胸に飛び込むスカイ。憧れの人とようやく一緒になれた。長い長い戦いであった。

 スカイの小さな体を抱きしめてリアスは優しく微笑む。そして二人で顔を見合せ、ゆっくりと唇を近づけた──。


 ──が、その間にライズの手が差し込まれた。


「人の前でイチャイチャすんじゃねぇ」


「おい今いいところだっただろ!? 止めんなよ空気読めねぇなぁ!?」


「状況を考えろ状況を! 火の海になってんだぞ王都が!? ロマンチックな気分になっとる場合か!?」


「そ、そう言えば……パンツ欲しいって気持ちに支配されてたから忘れてた……」


「いつでも俺はいいぜ。でも次はせめてベッドの上で頼む」


「……もう」


 二人は微笑んだ。そして唇と唇を──の前にライズの拳が二人の頭を叩く。


「しつこいわ! さっさと消火活動するぞ! まだ十二神将が暴れてる可能性もあんだ! キスしてる場合じゃないんだよ!」


「キスなんて数秒で終わるじゃねぇかぁ! ちょっとくらいいいだろ!?」


「ダメだ行くぞバカカップル!」


 襟首を掴まれて引きずられるカップル二人。ぞんざいな扱いに文句を垂れながらも二人はされるがままに引きずられる。


「ケチだな、ったく」


「……また後で。してくれる?」


「……全部が終わってハッピーエンドになったらな」


 リアスの言葉にスカイは笑顔を浮かべるのだった。



* * *



 その頃テルドリンは、二人のイチャイチャとは反対にかなり大ピンチに陥っていた。


「っ……ぐっ!」


 見事な剣さばき。時間停止を予測した動きによってテルドリンはなんとかアンダーウェアに切り傷をつける──が、やはり時間停止の魔法は理外の技術であった。

 テルドリンが剣を振り下ろすも──視界と動きがスキップされたかのように消失。いつの間にか顔面を蹴られ、バウンドしながらぶっ飛ばされた。


「ぐっ……」


 下手に魔法を使えばオールフィクションを使われて隙になる。構えていても隙になるような相手に自分から隙をさらけ出すような攻撃はしてられない。

 だがやはり剣だけでは火力不足。接近戦においては、どう足掻いても時間停止を持っているアンダーウェアの方が一枚上手。


「諦めたらどうだ? 私は寛大だ。諦めて降参すれば命までは取らないでやろう」


「言い直すでござるよ。『どうか見逃してください』ってちゃんと言えたら考えてやってもいいでござる」


「……随分と余裕そうな口ですね。自分が劣勢だというのがまだ分からないのですか?」


 劣勢なんてものじゃない。既に敗北の二文字がテルドリンの眼前にまで迫ってきている。だが──諦めることはできない。

 ヤミはテルドリンを信じて送り出した。テル君がいるなら安心と。そう言ってくれた。期待を裏切ってなにが傭兵だ。なにがエルフだ。


 ライズは必ず外のゴタゴタを沈めてくれる。ならばこちらは命をかけてでもこの男を止める。それが役割。それが役目。テルドリンは奮起して、また剣を構えた。

 構えを取り直したアンダーウェア。テルドリンの剣先とアンダーウェアの拳が交差する──その時。


「──加勢に参ったテルドリン殿!」


 ──天井をぶち壊しながら、ルドロフの剣がアンダーウェアの背中へと突き刺された。

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