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第25話『性欲って怖い』

「精神汚染の魔法……! おそらく本体と接近してるから効力が強まってるんだ!」


「マジかよ……だとしたら、かなりヤバい。階段を踏んでからの記憶が飛んでる。脳みそを引きずり出された気分だ」


「ゴリ押しでの突破は無理か……!」


 よく見れば階段だけではない。壁、柱、手すり。触れそうな場所全てに罠が貼られてある。効力が今のと同じと考えると、無理に突き進めば自死してしまうかもしれない。


「どうする……外からよじ登ることは!?」


「取っ手がないから無理だ。それに罠が壁にも仕掛けられてるかもしれない」


「打つ手なしかよ……っ!」


 考えろ。頭を回せ。無敵の魔法なんて存在しない。必ず弱点があるはずなのだ。本人ですら想定できない弱点が。

 ──ダメだ頭が回らない。思考回路に『イグサさんのパンツが見たい』という不純な思考が混ざりこんできて考えることを邪魔してくる。


「パンツ……パンツさえあれば……!」


 時間経過で精神が削られてるからか。段々とパンツを見たい欲望が溢れ出してきた。あと少し時間が経ってしまえば頭がおかしくなってしまう。

 パンツさえあれば頑張れる。イグサさんのパンツさえあれば。パンツさえ──。


「……はは、は」


 自分でも頭がおかしいのかと思うほどの作戦。だが考えられる方法はこれしかない。


「リアス……スカイを起こせ」


「は? いいのか起こして? 俺ももう頭がおかしくなってきてるから、抵抗はできないぞ。あとしたくない」


「いいから頼む」


「……分かった」


 リアスはスカイを地面に下ろし、両頬を挟むように叩いた。


「起きろスカイ! おねむの時間は終わりだぞ!」


「……んぅ」


 ──スカイ起床。瞬間、スカイの目は変わり、またもやリアスに飛びかかる。


「下着よこせぇ! 下着だ! 下着が欲しいんだ私はぁ!」


「うわぁん! ほ、ほんとにいいのかこれで!?」


 リアスは泣きながらされるがまま。スカイは見たことない表情で涎を流しながらリアスの服を引きちぎる。


「──リアス! スカイにパンツをあげろ!」


「……はぁ!? お、俺にも男の尊厳があるんだぞ!?」


「好きにしろって言ってたじゃねぇか! スカイのためにも渡せ!」


「ぐっ……お婿さんに迎えてくれよスカイぃ!」


 リアスはそのままパンツに手をかけられ──引き剥がされた。


「う、ぅ……尊厳が……うぅ……」


「下着! 下着だぁ! やったァ下着だぁ!」


「スカイ! 俺たちのお願いを聞いてくれたらさらに下着をプレゼントするぞ!」


「なに!? 何すればいい!?」


「──上にいる二人をぶちのめしてこい!」


「了解! 下着を洗って待っててね!」


 スカイはパンツを握りしめながら飛び上がった。階段に足を──踏み入れる。

 だがライズの時のような異常行動はしなかった。顔を真っ赤にして涎を滝のように流しながら塔の階段を駆け抜けていく。


「な、なんで正気を保って……保ってはないか」


「そうだ。精神汚染を受けてるスカイにまともな言葉は通じない。だからあえてパンツを引き渡し、達成感でクールダウンしたところへスカイにとってメリットしかない提案を出した。既にパンツを手に入れてはいるスカイなら『パンツが欲しい』って欲望も通常よりも減ってる」


「だから狂わなかったのか……いや狂ってはいるけど」


 ここから先は賭けだ。スカイが精神汚染されてる状態で上の二人を倒してくれるかどうか。それにかかっている。

 残されたライズと下半身丸出しのリアスは階段を駆け上がるスカイをただ見ていることしかできなかった。



* * *



「……やっぱりさ、カンナは思うわけよ。欲望はもっと大々的に解放するべきってさ」


「同意」


 火の海が街を侵食し、至る所で下着を巡って殴り合いが勃発。そんな地獄みたいな景色を見ながら、カンナは一切の淀みのない顔で言った。


「見てみなよ。綺麗でしょ、この景色。この景色が見たいから私はここまで来たの。それもこれも全部アンダーウェアさんのおかげ。あの人のおかげでこの景色が見れたし、カンナはミサとも出会えた」


「……羞恥」


「恥ずかしがらないでよ。……みんなが抑圧されることなく暮らせる世界。あの人なら本当にできるかもね」


「理解。同調」


 カンナとミサの間に熱の風が吹いた。ミサの前髪が崩れてしまい、カンナは笑顔でその髪を整えてあげる。


「アンダーウェア様の仕事はどれくらいで終わるかな。ここで待ってるの暇だから早く帰りたいや」


「待機」


「分かってるよ。暇だからさ、次に誰の下着が取られるか予想しようよ。カンナはあそこの三人の女の人に囲まれてる男の人が怪しい気が──」



 ──二人の会話を遮るように。床をぶち破りながらスカイが飛び出してきた。


「──は、はぁ!? 精神汚染の罠が効かなかったの!?」


「驚愕。退避」


 ミサは足元に魔法陣を展開。カンナを守るように半透明の防御壁を生成する。

 獣のように唸るスカイ。その手には──リアスから奪い取ったパンツが握りしめられていた。


「パンツゥ……パンツ!」


「……なるほど。考えたね。まさかあえてパンツを上げることで精神汚染を無力化するとは」


「意外。厄介」


「だね。アンダーウェアさんが優先的に倒せって言ってた理由が分かったよ」


 あの可愛らしい顔はどこへ行ってしまったのか。もうスカイの顔には少女のようなあどけなさはなく、完全にパンツを求めるバーサーカーになってしまっていた。

 この二人を倒せばパンツが手に入る──。スカイが止まる理由はない。地面にヒビをつけながら、スカイは前へ前へと歩いた。


「『シールドバインド(結界の縄)』」


 防御壁を縄のようにしてスカイへと巻き付ける。縄の両端を地面に突き刺してスカイの動きを固定しようとした。

 ──無意味。頭の中がパンツでいっぱいになってるスカイは止まらない。紙をちぎるかのように縄を引きちぎった。


「やばい……どうしよう! ミサ……!」


「安心。守護」


 魔法の解除は個別にできるものじゃない。スカイの汚染を解除すれば、街にいる全員が正気に戻ってしまう。時間稼ぎとしてはまだだ。まだ時間を稼がなくてはならない。


「『シールドスピア(防衛槍)』」


 防御壁を槍の形に変化。無数の槍は無防備なスカイへと放たれる。それらをスカイは──素手で叩き落とした。


「パンツ! 私のパンツのためにぶちのめされて!」


「っ……まさか自分の魔法が仇になるとは」


 精神汚染はされているが、スカイにとっては弱点ではなく、むしろ強み。リミッターが外れたおかげで十二神将とも真正面から対抗できている。

 皮肉なものだ。スカイの精神を弄んだ人たちが、今度は頭のネジが外れた状態のスカイに牙を剥かれるなんて。


 スカイは構わずどんどん進む。これは勝てない──攻撃は諦めたミサは自分とカンナを守るために目の前に三層に折り重なった防御壁を展開する。


「『オーバーシールド(過防御壁)』」


 自分の魔力を使い切る勢いで作り出した防御壁。現状ではミサにとって最高硬度。突破することはできない。 その──はずだった。


 ──スカイのパンツを握りしめた拳は防御を一枚、また一枚と剥がした。さらに止まるどころか、むしろ後半になるにつれて攻撃力はアップ。防御していたミサの腹部に拳を突き刺した。

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