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第24話『最短距離で駆け抜けろ!』

 後ろにいたマンガンは警戒して構える。二人の圧に圧倒されたのか、こめかみから流れた汗が床に落ちた。


「こんなことをしてタダで帰れると思ってるのでござるか? 王都は混乱しておる。街をあんなにすれば死罪は確定でござるよ?」


「『捕まれば』の話であろう。私は宣言したはずだ。王女の下着を盗み、秘宝も手に入れる。有言実行をするために行動しだけだ」


「イカれてるでござるな」


「褒め言葉だよ」


 アンダーウェアは首を鳴らす。そして後ろにいるマンガンにこっそりと囁いた。


「油断するな。今までの兵士とは比べものにならない強さだぞ」


「……はい」


 テルドリンは剣身を抜いた。白銀に輝く刃が月の光に反射する。剣先をアンダーウェアに向け、腰を下ろし、殺気を放つ──。


「行くでござる──」



 初級魔法『ウィンド(追い風)』を使って加速。一気に距離を詰めようとするが──それよりもアンダーウェアが早かった。

 初速と同時に時間停止で距離を詰め、テルドリンの顔面に飛び蹴りを放つ。


「──!?」


 ダメージを負ったのはテルドリン。鼻血を出しながら蹴り飛ばされる。──だがアンダーウェアの脚からも血が吹き出た。

 テルドリンは『カマイタチ(風切り)』を絶え間なく全身を覆うように発動していた。顔面を蹴り飛ばしたアンダーウェアはカマイタチに自分から入るようにして切り裂かれる。


「小癪な……!」


「年季の違いと言うでござるよ……!」


 左手に魔力を纏う。収束する風は一気に加圧。テルドリンの拳と同時に解放され──。


「──『オールフィクション(収束と帰還)』」


 ──消えた。


「なに──」


 その隙に顔面へ一撃。腹部へ一撃。反射的に剣を振るも──いつの間にか顔面を蹴り飛ばされる。

 またウィンドを使って加速しようと踏み込むが──。


オールフィクション(収束と帰還)


 ──不発。思うように動けずにフリーズしたテルドリンの顔面にハイキックが放たれた。


 蹴り飛ばされながらも剣で床を切り裂きながら停止。吹き出す鼻血を首を振って弾き飛ばす。


「あれが拙者の罠を消した魔法……いや魔術か。まさか魔法そのものを消せるとは……!」


 ──オールフィクション(収束と帰還)。それはあらゆる魔法を消し去る魔法殺しの魔術である。設置されてるものやバフ系だけに飽き足らず、発生する直前であれば魔法攻撃ですら無かったことにできる強力な魔術だ。


「虚構属性というものでな。あの子は特別だ。私と同じでな」


「そう言うのは小さい時に克服するものでござるよ。カッコつけるのはいいが、後で負けたら恥ずかしいのはお主だからな」


 かなり強力な魔術だが、無敵ではないはず。強みがあるなら弱みもある。離れていても効果があるということは、射程距離はそこそこ長め。中距離型の魔法ということ。

 ならば弱点は接近戦だ。アンダーウェアの後ろに隠れていたのが何よりの証拠。魔法を扱うエルフにとっては天敵のような相手。さっさと倒さなければ。


「負けなければ恥ずかしさも事実へと変わるのだよ──!」


「事実でも恥ずかしいことには変わらないでござるよ──!」


 二人のぶつかり合いは再開された──。



* * *



 一方その頃。ライズとリアス、そして背負われてるスカイは王都の街を走り抜けていた。『レンフィールド(領域支配)』を使って周囲を感知。魔力が揺らいでいる人間を探しているのだが、捜査は難航していた。


 ライズが持っているのは魔晶石の欠片。本体と比べれば精度も範囲も劣ってしまう。そして周囲の炎と下着に飢えた人々。時間が経つほど炎は行動を制限していく。

 このままでは見つけるより先に蒸し焼きにされて死ぬ。闇雲に探しても広い王都で一人を探すのは不可能だ。


「……一人?」


 ──ライズは引っかかった。本当に精神汚染の魔法を使った人間は一人なのか。

 疑問があった。王都の空を覆うほどの黒球。あれを維持するのにはかなりの気力と魔力が必要になるはずだ。それに精神汚染の魔法とは系統がかなり違う。


「もしかして球体を出した人間と精神汚染の魔法を使った人間は違うんじゃないか……!?」


「──そうだよ、そうだ! 精神系の魔法を使う相手は直接戦闘が弱い傾向がある!」


「戦闘力をカバーするために相方がいるはず!」


 あの巨大な黒球。あれはただ下着を閉じ込めるだけのものではない。閉じ込めるだけなら解放した瞬間に自重で落下するのみのはず。しかし下着は王都全体へ弾け飛んだのだ。

 弾け飛んだ。となると、中ではエネルギーが発生していたはずだ。発生したエネルギーを閉じ込めて発散。かなり魔力を使うはずだ。


「そしてそれくらい莫大な魔力を使うなら、射程距離も長くない!」


「発生したのは上空だから──高い場所!」


「ここの近くで高い場所は?」


「城を除けばいちばん高いのはムーン広場のドレン塔だ!」


「そこだ! そこを目指すぞ!」


 ムーン広場はここから直線距離にして三百メートル。そう遠くないが、それはあくまで直線距離の話。ここから向かうとなると、住宅街にぶち当たってしまう。遠回りすれば距離は一気に伸びてしまうが──。


「──時間が惜しい! ショートカットだ!」


 ──二人は窓ガラスを突き破って家に突入。避難して空き家になったリビングを駆け抜け、そのまま奥の窓ガラスを叩き割って外へ脱出。

 立ち並ぶ家々にダイナミックに突入してダッシュ。ガラスで肌を切りながらも走り抜け──公園を視認した。


「っ──来た! 反応が二つ! 塔の屋上にいる!」


「登るには中から入って階段を駆け上がるしかない!」


「なら正面突破だぁ!」



 ──ドレン塔屋上。ライズの感知魔法に引っかかった二人は塔へと走ってくるライズとリアス、背負われているスカイを視認した。


「あれがアンダーウェアさんの言ってた変な男じゃない?」


「……普通」


 方や橙色の髪を持つ少女。短いスカートをたなびかせ、人を煽るような顔で三人を見ている。

 方やオレンジの髪を持つ少女。長いスカートを揺らしながら、何もかもに興味が無さそうな顔で三人を見ていた。


「カンナの精神汚染が効かなかったんだ。相当な変態だよ、あれ」


「驚嘆」


「カンナたちに気がついてるっぽいね。まぁここまではどうせ来れないよ。ね、ミサ」


「同意」


 カンナとミサは塔の中に突入するライズたちを見ながら不敵な笑みを浮かべるのだった。



* * *



 飛び込むように三人は突入。気絶してるスカイの唸る声を聴きながらライズとリアスは階段へと走る。


「何があっても止まるなよ!」


「それはこっちのセリフだ!」


 何も持ってないライズが先導してリアスは背中を追う。呼吸を整えながら飛び上がったライズは階段に足を踏み抜いた──。


「──」


 その瞬間──ライズは顔面から階段に倒れる。


「──見たい! イグサさんのパンツが見たい!」


「……は?」


「やばい! 見たい! 見なけりゃ死ぬ! 俺はイグサさんのパンツを見るために生まれてきたんだ!」


 階段に顔面を何度も叩きつけるライズ。鼻血を吹き出すライズをリアスは首根っこを掴んで引っこ抜く。


「落ち着けどうした!?」


「パンツを見た──ぇ? あれ?」


 状況が分かっていなさそうな顔で辺りを見渡している。正気に戻ったようだ。


「俺、どうしてたんだ?」


「パンツが見たいって叫んでた」


「はぇ、ぇ、いったっ!? 鼻血がすごく出てる!?」


「……まさか」


 今の異常行動。明らかに普通ではなかった。喉を鳴らしながらリアスは階段に目を向ける。

 そこには──下着にも設置されていた紫色の紋章、精神汚染の罠が貼られてあった。

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