第23話『悪いことって立て続けに起こるよね』
『テルドリン! テルドリン!』
「ライズ殿か!? 今どうなってるでござる!?」
『精神汚染の魔法を使われた! 国全体がパニックになってる! この隙にアンダーウェアは城へ入る気だ!』
「……冗談であってほしいことでござるね」
客室にて待機していたテルドリンは呟く。窓から外の景色を見ていたルドロフは額から冷たい汗を流していた。
「な、なんという……もはやテロではないか……!」
「ライズ殿! 拙者はここを動けん! そっちは任せられるか!?」
『俺とリアスでなんとか本人を叩く! そっちはアンダーウェアに集中してくれ!』
「分かったでござる! あとは任せた!」
任せた──そうは言ったものの、テルドリンの内心は焦りでいっぱいだ。相手の行動は完全に予想外。まさかここまでの事態を引き起こすとは思ってもみなかった。
罠を貼ってる以上、テルドリンはこの場所から動くことはできない。全部をライズたちに任せるしかないのがもどかしく指を噛んだ。
「──っ!?」
テルドリンは机を揺らしながら立ち上がった。
「な、なにか分かりましたか!?」
「待て。待て待て。待つでござる、待つでござる……!」
呼吸が増える。心臓が殴られてるかのように膨張と収縮を繰り返す。口を手で抑え、発生した『最悪な状況』になんとか頭を対応させようとしていた。
「一体何があったんですか!?」
「……つ」
「え──」
「──反応が、同時に二つ……それに罠が、消えた。消されたんでござる……!」
* * *
──アンダーウェアは隣に金髪の美少年を置き、悠々自適に城の廊下を歩いていた。まるで散歩をするように。自分の家の廊下を歩くかのように。
「罠を仕掛けた奴はさぞ驚いていることでしょうねぇアンダーウェア様」
「だろうなぁ。あの魔法の感じからして、罠を仕掛けたのはエルフの村にいた男だ。持続する罠を仕掛けたのはいい選択肢だが……奴はひとつ思い違いをしていたらしいな」
二人が曲がった先には炎の壁が発生していた。燃え盛る炎は行く手を阻み、対策せずに進めば即座に炭化させられるだろう。
少年はアンダーウェアの前に出た。炎の壁に手をかざし──青い魔力を炎に向けて放つ。
「──『オールフィクション』」
──炎の壁は消滅。初めから発生なんてしていなかったと思えるほどに完璧に消失してしまっていたのだ。
「さすがだよマンガン……お前を連れてきて良かった」
「僕にはこれぐらいしか取り柄がありませんですから」
二人はまた歩き出そうとする──しかし異常を感じたテルドリンにより出陣の命令をされた少数精鋭部隊『ラプター』がアンダーウェアに投入された。
陣形を組んで二人、特にアンダーウェアに対して剣先を向ける。
「動くな! 動くと即刻処刑する!」
「処刑? 処刑ですか? 困りますねぇ。それは困ること。──私は抵抗させてもらいますよ」
──消失。
視界に入っていたはずのアンダーウェアが消えたことに疑問──を思い浮かべるよりも早く、顔面をアンダーウェアの蹴りが通り抜けた。
一気に懐へと入り込んだアンダーウェアは素手で兵士たちを制圧。顔面を殴り、関節を蹴りでへし折り、窓の外へと投げ飛ばす。
剣で斬りかかっても意味はない。振り下ろした刃に当たることなくアンダーウェアは消え去り、その代わりに剣の持ち主の顔面に拳が叩き込まれる。
その時間わずか十五秒。アンダーウェアはたった一人で九人の精鋭部隊を叩きのめしたのだ。
「では行きましょうか」
「その前にお手を……アンダーウェア様の拳が汚れております」
「気が利くじゃないか──それ、パンツじゃないか?」
「あ、間違えた」
「「ははは!」」
──狂気。隠れていた兵士はその光景を見て震えていた。毎日毎日訓練している兵士、しかもその中でも特に強いとされる精鋭部隊ラプターが秒殺。恐ろしい以外になんと表現すればいいのか。
頭を抱えて現実逃避。「お母さん」と狂ったように何度も呟く。状況を忘れるために目を瞑って体を縮こめる。──目の前にアンダーウェアが立っていることも知らずに。
「……ふふふ」
兵士はアンダーウェアに気が付かない。握られた拳は兵士の首筋に振り下ろされた。
* * *
なんで。どうして。テルドリンは頭をフル回転させていた。
発生した異常は二つ。テルドリンが設置した罠が消されてしまったこと。そしてもう一つは──侵入者の反応が二つ同時に発生したことである。
「片方はアンダーウェア……じゃあもう片方はなんなのでござるか……!?」
時間停止を使って瞬間移動した。それは分かる。じゃあもう一人はなんで突然発生したのだ。
「アンダーウェアはどこにいますか!?」
「二階の執務室前でござる……兵士ももう何人もやられてるでござる。そしてラプターも……」
「クソッ! どうなってるんです!」
「拙者にも分からぬ……!」
アンダーウェアと一緒にいるのは誰だ。同じ時間停止の魔法持ちか。そんなわけがない。規格外の魔法を持ってる人間が二人もいてたまるか。
感知範囲に入ったら絶対に分かる。分からなかったのなら、それはアンダーウェアの時間停止以外に他ならない。
時間を止めてる間にアンダーウェアが運んだ、という可能性がある。だが感知魔法は城の外にまで出してる。敷地に入った瞬間に感知が可能だが、二人の反応は一気に室内にまでやってきていた。
運ぶにしては距離がある。ほんの数秒しか停止できないアンダーウェアがそれを運ぶのは厳しいだろう。
「……あ」
もしかして──時間を止められるのはアンダーウェアしかいないが、停止した時間の中に入れるのは一人とは制限されていないのではないか。
「まさか……アンダーウェアを介してなら停止した時間を動けるのか……!」
アンダーウェアが指定した、もしくは何かしらの条件を満たせば停止した時間の中で動き回れるのか。それなら瞬時に二人が発生したのも納得できる。
「ダメだダメだ……すまぬルドロフ殿……! 拙者のせいだ! 拙者の想定が甘かった……!」
「……いえ、これは我らも想定できなかったこと。今やるべきは反省よりも対策を練ることです! あの者に秘宝を渡さないことです!」
「ふ、ぅ──ありがとう。ありがとうございます!」
頬をぶっ叩いて頭を冷ます。失敗したものは仕方ない。秘宝さえ守り抜ければこちらの勝利だ。……下着はこの際どうでもいい。
「場所は少なくとも分かってるでござる。ルドロフ殿は兵士たちに連絡して秘宝の警護に全動員を当ててくれ」
「テルドリン殿は?」
「相手はおそらく魔法を打ち消す魔法を持ってるでござる。こうなってしまえば罠などなんの意味もない。──拙者が直接二人とも叩く。仮に一人を取り逃した場合はそちら側で全力で対処をお願いしたい!」
「了解した。……気をつけてください」
「そちらこそ」
二人は固い握手をし、部屋から飛び出した。
* * *
「アンダーウェア様。下着の場所は分かってるのですか?」
「裏の商人にちょいと頼んでな。事前に頭に入れている。まずは何よりも下着! その後に『ザ・ワン』を手に入れ、最後に『|ヴァーチャル・インサニティ《万物の番人》』を盗む。街の兵士は混乱に当てられて人もさほど多くないだろう。対処にも時間がかかる。だから私たちは優雅に動けるのだよ」
「さすがはアンダーウェア様。事前に調べるその勤勉さ。下につく者として、大変誇らしく思います」
「そうか、そうか。ただ──やはり来るわな。面倒なのが」
廊下の奥。左に曲がる角から──テルドリンが歩いてきた。
「久しぶりでござるなアンダーウェア。ひとりじゃ心細いから仲間を連れてきたのでござるか?」
「そっちこそ、エルフの村にいた人間の男はどうした? 私を恐れて逃げ出したのか?」
テルドリンとアンダーウェアは互いの顔を見て嘲笑うように口角を上げた。




