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第21話『開戦の合図は下着と共に』

 その日は酷く晴れていた。空には雲ひとつなく、代わりに花火が空に咲く。そして花火の音すら掻き消えるほどの人の声が国全体を覆い尽くしていた。


 ──第二王女ポラリス生誕祭。

 彼女が生まれた十八、そして今年で十九回目になる祭り。妹を溺愛するアルがブラインドに駄々をこねた結果始まった祭りであり、最初こそそこまで大きくなかったが、時が経つにつれて次第に祭りも大きくなっていった。


 今では隣国を巻き込むほどの大祭へと成長した。普段は心臓のように休まず働き続ける人たちも今日だけは例外。朝っぱらから飲めや騒げやの大騒ぎ。

 街の至るところで出店が開かれ、人々が波のように移動する。ここぞとばかりに路上ライブをする者もいれば、いきなり泥酔して噴水に突っ込む者もいる。


「……派手だな」


「毎年こんな感じだよ?」


 特に今年はアンダーウェア対策の影響で例年の二倍以上の人が来ていた。見渡す限りの人、人、人。人の波で溺れてしまいそうだ。

 さらには普段は来ない貴族たちですら訪れており、高そうなホテルから下々の民を見て嘲笑う様子を確認できる。


「そういえばライズは生誕祭に来るのは初めてなのか」


「あぁ。王都に来たのも今回が初めてだし」


「じゃあアンダーウェアが来るまで時間もあることだし、しばらく遊ぼうよ! 見回りも兼ねてさ?」


「それは……」


 アンダーウェアの宣言が本当ならばやってくるのは夕刻。時間はまだまだある。


「気を張り続けるのも疲れるだろ。俺が奢ってやるよ」


「リアス……悪いな。じゃ、楽しむか!」


「やっほぅ! 私射的ってのをやってみた──」


『──拙者がいない間に楽しそうなことをしようとしてるでござるな』


 ──テルドリンの声だ。ライズは懐から紫色の結晶石を取り出す。どうやら声はここから聞こえてきてるようだ。


『拙者が頑張って迎え撃つ準備してる中? ライズ殿たちは遊ぶのかぁ……楽しそうでござるなぁ。楽しそうでござるなぁ?』


「頑張れ。よしじゃあ遊ぶか」


「私射的やりた──」


『無視をするなでござる! そこはごめんなりなんなり言うところではござらぬか!?』


「だって俺たちやることないし。ずっと田舎で育ってきたんだぜ? 都会で遊ぶくらいいいじゃん」


 ライズが使っているのは『コンプ()レッション()ボイス()』と呼ばれるものである。同じ紋章を刻んだ石同士で会話が可能という、騎士団の人から貸してもらった優れものだ。


『拙者だって遊びたいのを我慢してるのでござるよ!? もっとこう……せめて慎ましやかにだなぁ……!』


「まぁまぁテルドリンさん。お土産くらいは買っていきますから」


「ずっとそこにいる訳じゃないだろ? 終わったら俺たちと合流しようぜ」


『スカイ殿、リアス殿……二人とも最高でござるぅ……。それに比べて雇い主は……』


「ヤミさんに『あの年増はワガママだから気をつけた方がいいでござるよ』ってテルドリンが言ってたって伝えとく──」


『はははは。冗談冗談冗談でござるよぉ。ライズ殿は立派な雇い主! イケメン! 天才!』


「分かればよろしい」


 石の奥で唸るテルドリン。ライズもここ数日間はかなり頑張った。戦いの直前くらいは羽を伸ばしたい。

 テルドリンには少しだけ悪いと思いながら、ライズはスカイとリアスと共に出店街へと向かうのだった。



* * *



「ったく……」


 城にて準備を進めていたテルドリンは石をポケットに入れながら頬を叩いた。


「テルドリン殿。一階の廊下と二階の窓際に罠を設置しました。テルドリン殿が魔力を放てばすぐに使用ができます」


「ありがとうでござる。王女の部屋の前には罠を仕掛けたらダメでござるよ、『|ヴァーチャル・インサニティ《万物の番人》』が隠されてる場所は……」


「申し訳ございません。それは私たちも分からなくて。おそらく団長も知らないかと……」


「いえ、問題ないでござる。むしろそっちの方が都合がいい」


 アンダーウェアが最初に狙いに行くのは、恐らくザ・ワン(この世は我の所有物)。これさえ手に入れば残りの二つは簡単に盗むことが可能になる。

 ならばザ・ワンのところに罠を集中させる。罠を見たアンダーウェアは次に『これは後回しにして違う物を先に盗む』という選択を取るはず。だからこそ他の二つには罠を仕掛けない。


 アンダーウェアは油断するだろう。仮に警戒しても、近くに移動した時点で既にこちらの術中。近くに待機させた精鋭部隊に一気に叩いてもらう。

 いくら時間停止を持っていたとしても不意打ちには勝てない。取り逃してもエルフから貰った魔晶石で『レンフィールド(領域支配)』があればすぐに感知できる。


「持続時間は三時間……充分でござるな」


 まさに完璧な布陣。完璧すぎて逆に心配になってきた。ライズが心配していた気持ちも分かってしまう。

 テルドリンが不安な表情で窓の外を眺めていると、そこへ騎士団団長のルドロフがやってきた。


「テルドリン殿。『ラプター』を呼び寄せることに成功しました」


「かたじけない。来たら早速作戦内容を伝えてくれるでござるか?」


「了解しました」


 二人は同じ窓から外を眺める。祭りに来てはしゃいでる人たちは誰も城の中がドタバタしてることなんて知らないのだろう。自分たちが下着泥棒と戦ってるなんて思ってもないのだろう。

 そう思うとちょっと腹が立ってくるが──人々の笑顔を見ていると、そんなストレスなど消え去った。


「……勝ちましょう」


「はい。すぐに終わらせて、拙者も生誕祭に参加するでござる」


 テルドリンは強い声でそう言った。



* * *



 時間は──夕刻に差しかかろうとしていた。日は沈みかけ、空には暗闇が徐々に侵食している。

 しかし祭りはまだまだ終わらない。むしろ朝や昼よりも大きな盛り上がりを見せていた。出店もさらに増え、街を歩く人々の声は大きくなる。


「……もうすぐだな」


 国王は玉座に座りながら窓の外から空を眺めていた。


「どうなるんでしょうか……」


「ライズ殿もテルドリン殿も最善を尽くしてくれた。必ず成し遂げてくれるさ」


 一方その頃。客室にて待機するテルドリン。魔法の罠は既に発動されており、城の中は炎や氷、飛び散る雷で危険なダンジョンとなっている。

 隠し扉の中には精鋭部隊『ラプター』が構えている。ルドロフの命令があればすぐに動くことが可能だ。


「テルドリン殿。魔力の方は大丈夫ですか?」


「今は最高潮でござるよ。このまま五時間は余裕を持って展開できそうでござる」


 そして──ライズたち。三人は小腹を満たした後に警戒を強める。アリのように多い人の中から隠れているアンダーウェアを探すのは厳しいが、それでもやらないよりはマシ。

 自分たちは戦えないのだが、せめてこれくらいはしなければ。夕刻の時間が迫るほどライズたちの心臓は跳ね上がった。


「来るよ……」


「どうなるか……」


「……ふぅ」


 夕日は──完全に沈んだ。空から光が消え、夜の暗闇が空を完全に覆う。

 祭りによって明かりと音は昼間よりも騒がしいくらいになっている。夜になったことで不利になるなんてことがないのは嬉しいことだ。


 ライズたちの背筋に緊張という名の電撃が通り抜けた。震える手を握りしめ、呼吸を何とか整える。怖い──のではない。これは武者震いだ。

 さっさと終わらせてイグサの元へ戻る。そしてイグサとエッチするのだ。ライズはそう覚悟し、同じ空の下にいるであろうイグサに思いを馳せた──。



「……?」


 同じ空。ライズとイグサは離れていても同じ空を見ているはず。ならイグサもこの空を見ているのだろうか。

 ──違う。絶対に違う。絶対にそんなことはない。


「……待て。待て待て。あれって」


「ん? なんだ──」


 ライズが指した先には──球体があった。黒くて巨大な球体が夜空に浮かんでいたのだ。国全体を覆うような球体にまだ人々は気がついていない。だが気がつくのも時間の問題だろう。そうなれば大きな混乱になるはずだ。

 誰の仕業かなど考えなくても分かる。すぐに懐から石を取り出したライズは叫んだ。


「テルドリン! 異常事態だ! 空に球体が浮かんでる! 多分アンダーウェアと十二神将の仕業だ!」


『空に球体!? どういうことでござる!?』


「俺にも分からな──」


 ──ピシッ、と。球体に白いヒビが入った。


「割れ……てる……!?」


「なになにどういうこと!?」


 ヒビは球体に侵食していく。蜘蛛の巣のように球体へと刻まれていき、その破片は夜空へと消えていく。やがて全体へとヒビが入った。

 そして──球体は破裂。黒い破片は空間に溶けるように消えていった。そしてその中身が飛び出す。


「……」


「……」


「……は?」


 その中身は──『下着』であった。色とりどりの下着が、王都へ雨のように落下したのである。

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