第20話『不革命前夜』
作戦は着々と進められた。
流星商店連盟の行動により、祭りに出される商店の数は二倍に増やされ、遠方に出張していた商人も総動員されることになった。
貴族連合は他の国の貴族にも声をかけて呼び寄せた。貴族専用のブースも付けることで広告効果を誘い、見事に成功。想定される貴族の来客数は千を超えた。
そして王国騎士団は兵士たちに情報を伝達。情報が漏れることを危惧して最低限の情報のみ伝えられ、遠征していた騎士団も戻すことで数を確保することに成功する。
他にも数多くの権力者たちによって話は進められ、アンダーウェアへの対策を着々と進められていた。ライズが入る余地すらないほどに。
そして──アンダーウェア襲来前日。四人はまた城へと呼び出された。
「よく来てくれた。調子はどうだ?」
「かなりいいです」
「ふふっ。これまでで一番激しそうな誕生日になりそうですね」
ポラリスはそう言って微笑む。明日下着を盗まれるかもしれないのに呑気……そんなに怖がる必要もないとは思うが。
「作戦は着々と進められてる。テルドリン殿にも手伝ってもらい、城の罠も完璧に設置することができた。あとは明日に備えるだけだ」
「明日……」
窓から下を覗く。生誕祭の盛り上がりは歴代でも一番。前日の時点で既にどんちゃん騒ぎが起きており、王都の街には陽気な音楽が流れていた。
「……前年の生誕祭でもこの盛り上がりではなかった。皮肉だな。アンダーウェアのおかげで歴代最大規模の生誕祭になるとは。もちろん、君たちのおかげでもあるがな」
「いえいえそんな……」
「私たちは何もしてないですから」
──ブラインドはライズたちに手を差し出した。
「今一度──感謝を」
「……はい」
国王が差し出した対等の証。それを受け取らないのは不敬極まりない。だからライズはあえて友達のように、知り合いのように。──手を強く握った。
「アンダーウェアを捕まえれば、ただ最高の生誕祭になるだけです。──捕まえましょう。必ず」
「あぁ──」
手を握った瞬間──爆発に近い音を立て、何者かが部屋に転がり込んできた。
「──ポラちゃん!」
赤い髪をした女性だった、ポラリスよりは少し小柄。豪華なドレスを埃で汚しながら停止。そしてポラリスに飛びついた。
「ポラちゃん生誕祭明日だねぇ! おめでとう! またポラちゃんが私の歳に近づいて感激だよぉ!」
「お、お姉様。今お客様もおられますので……」
「お姉様の方が大事でしょぉ!」
「……アル」
面倒くさそうにするポラリスの頭を撫でる女性──アルにブラインドはため息をついた。
「お前はもっと王女らしくしろ! 次期グランドディスフロリアの女王ならそれ相応の態度をとってくれなければ私が困るんだぞ!?」
「えー。女王とかヤダ。ポラちゃんの方が頭もいいし、顔もいいじゃん。ポラちゃんが女王様でいいでしょ?」
「血縁ではお姉様の方が継承権がありますから……」
「しきたりとか捨てなよ古いよぉ? 今の時代はもっと新しいものを求めないと!」
なんというか……また熾烈な人がやってきた。アルは四人を無視、それに気づかずに嫌がるポラリスの頬にキスをしまくっている。
「それに私は女王様より商人になりたいの! 口八丁には自信があるからね! 世界中を旅しながらアイテムを売りまくるの!」
「またそんなことを……お前みたいに頭の悪いやつが商人などできるわけないだろう。あまり商人を舐めるな」
「私のことを見くびってるねお父様。これでも私は既に三桁万は稼いでるんだよ!」
「へぇ、かなり凄い──」
「──貴方! 見る目があるわね!」
思わず声を漏らしたリアスにアルは飛び移った。
「貴方商人でしょ!?」
「は、はい……」
「分かるわよ同じ匂いがするもん! 商人は鼻が命だからね! 私の弟子にしてあげてもいいわよ?」
「え、遠慮しときます……」
「えぇ勿体ない! 私の弟子になれば分前をあげてもいいわよ? 最近もお父様の要らなくなった上着を売ってきたか──あ」
「……貴様」
アルの体が跳ねる。視線の先には──顔の上半分を闇で包み、完全に激おこのブラインド。
「──王族の物品を売ったのかぁ!?」
「ご、ごめんなさいお父様ぁ!」
アルは飛び上がってスタコラサッサと走り去り、ブラインドは宝玉の付いた高そうな杖を振り上げアルを追いかける。
もっと王族というのは高貴な存在かと思っていたが、案外庶民的というか。傍から見れば微笑ましい状況にライズとテルドリンは苦笑い。ポラリスはいつもの光景だからか、呆れたように声を漏らした。
「は、激しい人だったな……あれが第一王女のアル様……どうりで表にあんまり出てこないわけだ」
「……」
「……スカイ? な、なんでむくれてんだ?」
「……別に」
抱きつかれてデレデレしてたリアスに唇を尖らせてそっぽを向くスカイ。デレデレは特にしてなかったが、スカイからはデレデレしてたように見られてしまったようだ。
「……意外と嫉妬するんだな」
「スルースキルが高くても好きな人のことはスルーができないのでござるな」
「ち、違うぞ!? 何も思ってないから! 俺はスカイが一番だからな!? 信じてくれぇ──!」
* * *
宿屋へと帰った四人。むくれるスカイのご機嫌を取って疲れたリアスは泥のように眠り、スカイもその横で嬉しそうに目をつむる。
ライズも寝ようとするが、緊張しているのか寝付けなかった。仕方なく外に出て夜風に当たるライズ。そこへ──テルドリンが歩いてきた。
「眠れないのでござるか?」
「まぁな。ここ最近は怒涛の展開すぎて頭がパンクしてるっぽい」
「拙者もライズ殿に雇われた時はこんな大事になるとは思わなかったでござるよ」
乾いた二人の笑いが小さく響く。
「俺もだよ。ただイグサさんとエッチしたいだけなのに、こんなことになってさ。最終的には王女や国王様まで出てきやがったし」
「だけど結果的に良かったでござろう。最初は拙者とライズ殿の二人では厳しい戦いだった。仲間が増えたおかげで勝利の可能性は上がったでござる」
「……可能性、なんだよな」
行き倒れてたところをスカイに助けてもらい、リアスも味方になってくれた。それから王女が出てきて、国王が出てきて。権力者が次々と味方になってくれた。まさに最強の布陣と言える。
だがここまでがトントン拍子に進みすぎている気がするのだ。運というのは上も下も同じくらいになると聞く。じゃあ下手すれば帳消しになるほどの不幸が訪れるのかも。
「大丈夫でござるよ。ライズ殿の気持ちがあれば、多少の不幸はぶち壊して突き進めるでござる」
「……だよな。できるって思うことが重要だな。よし、やる気が出てきた。俺はイグサさんとエッチする!」
「いつまで経ってもブレないでござるな」
「お前もその口調ブレないよな……待て。思い返してみると、会議の時に『ござる』って言ってなかったよな?」
「王の御所でふざけた口調をするわけないでござろう。むしろライズ殿はよく王女や国王の前で『エッチしたい』などと言えたな。拙者は最初死んだかと思ったぞ」
「俺も結構勢いでやったから……死ななかったのは運が良かったというか」
「ははは。やっぱり、ライズ殿といると楽しいな。むこう千年はライズ殿のことが記憶に残りそうでござる」
「そんだけ覚えられても困るよ。二百年くらいしたら忘れてくれ」
「覚えておったらな」
今日は満月。光がなくとも、淡い月明かりが周囲を、ライズとテルドリンを照らしつけていた。
そして──決戦当日。




