第17話『神様も洒落たことをするもんだ』
バイオレットロードから離れた路地裏。表の道から逸れると道はかなり暗く、おどろおどろしくなる。治安も一気に悪くなり、場合によっては金品を奪われることも。
ただ女性はそんな場所に来てでも見られたくない状況にあった。
「……突然の暴挙、申し訳ございません」
「そ、そんなことは……私は、ないです」
──デロンデロンだった酔っ払い三人衆は、無理やり引きずられたことで路地裏にて仲良くリバース。中身を全部引きずり出したことにより酔いも冷めてしまったようだ。
「死ぬ……あ、これ、死ぬ……」
「頭が割れるぅ……砕けるぅ……」
「なんで拙者全身が痛いのでござるかぁ……なんか投げ飛ばされたような気もするのだが……」
「気のせいだと思うぅ……」
満身創痍だが一応復活。真っ青な顔を揃えて三人はスカイと共に女性の前へ立った。
「まずは──危ないところを助けていただいてありがとうございました」
「危ないところ……?」
「リアスたちは酔っ払ってたから忘れてるもんねー。続けて?」
「は、はい。そうですね。ここまで連れてきたのは……あまり人には見られたくなかったので」
女性はフードを──脱いだ。
鮮血のような情熱の赤い髪。艶のある透明な肌。半透明な水色の瞳。この顔──スカイとリアスは見たことがあった。
「え、は……ぁ!?」
「なんっで……ここに……!?」
二日酔いすらもぶっ飛ぶ衝撃。未だ二日酔いから抜け出せないライズとテルドリンは頭に疑問符を浮かべている。
「私の名は──ポラリス・マクトン。この国の第二王女です」
「……」
「……は?」
おかげさまで、二人の二日酔いもぶっ飛ぶこととなったようだ。
* * *
「いいですねぇ、この質素な暮らし! お城の中は豪華なものばっかりだから、こんな質素で静かなところが堪らないです」
「あはは……その、えっと……」
路地裏の治安は悪いので危険ということで、スカイの優しさ(ポラリスのワガママ)で四人と王女様はとりあえず民宿へと戻ることに。
あまりの大客にスカイの膝は震え、雪山に裸一つで放り込まれたのかと思うほどに青ざめていた。
「……ポ、ポラリス第二王女殿」
「ポラリスでいいですよ? それかポラちゃんでも」
「……王女様。な、なにゆえここにおられるのですか?」
下手な対応をすれば打首獄門。本気で洒落にならない事態になる。頭はまだズキズキ痛むが体の不調など今は無視。目の前の状況を何とか対処する。
プレッシャーに負けてこっそりと隠れて見ているテルドリンとリアスに変わり、ライズとスカイが対応をすることになった。
「私、たまにこうやって下に降りるのが好きなんです。人々の暮らしを生で見る? みたいな? 隠れて外に出る時の高揚感が最高なんですよねぇ」
「そ、それは結構な趣味をお持ちで」
んな感覚で外に出たのか。上の住人は下の者の気持ちが分からないのは本当らしい。今も白目をむいて泡を吹きそうになってるスカイを無視してるのが証拠だ。
「でも今日は初めてバレちゃいました。貴女たちが私の秘密を知った第一号! どう? ワクワクしますか?」
「あはは……し、します。すっごく。胸がもう高鳴るくらいに」
「でしょ? 王女様と秘密を共有できる事態なんてそうそうないですからねぇ」
腹立つ。相手が王女様じゃなければ殴ってたところだ。なんでこんなにも緊張しなくてはならないのか。自分たちはこの人の下着を守るため……正確にはイグサとエッチするためだが、そのためにここまで来たのに。
下着を守るため。アンダーウェアからこの人の下着を守るため。守るため──そうだ。これは大チャンスなのではないのか。
「お、王女様。無礼を承知で聞いてはくれませんでしょうか?」
「? いいですよ。私を助けてくれたお礼です。ある程度のことはなんでも許しましょう。土地が欲しいですか? それとも利権?」
「ち、違くて。話すと長くなるのですが──」
ライズは包み隠さず全てを話した。エルフの村で下着泥棒を捕まえたこと。そこに現れたアンダーウェアと名乗る男が王女の下着、あとついでに秘宝も狙っているということ。自分とテルドリンはそれを阻止しに来たということ。
とにかく状況を話しきったライズ。ポラリスはしばらく目をつむり、そして──。
「……頭おかしいんですか?」
──こう言った。
「分かります……そう言いたくなる気持ちは分かります。僕も立場が逆ならそう言ってます! でも本当なんです!」
「我が家系の秘宝を盗もうとする輩はたくさんいます。実際に私は盗もうとした執事やメイドを何人も見てきました。……でも秘宝がついでで私の下着を優先的に盗もうとする人は初めて聞きましたよ!?」
「全く同じ! 僕全く同じ反応しました!」
「ラ、ライズさん……せめて嘘つくにしても、もっとマシな付き方はなかったんですか?」
「俺だってこんなこと言いたくないよぉ! 逆に考えてなんで嘘でこんなバカみたいな話言うんだよ! 俺誰に言ってるか分かってる? 王女様だよ!? 王女様につまらん嘘をつくかってんだ!」
あまりの必死さにポラリスとスカイも黙り込む。呼吸を整えたライズは腰を下ろした。
「ですからその……生誕祭を中止にしろとは言いません。だけど王様にこのことを伝えてはくれませんか? 僕の名前は伏せて」
「お父様に言っても信じませんよ流石に……というか、私も十八なんですよ? お父様に自分の下着を守ってくれ、なんて言うの恥ずかしいです!」
「気持ちはわかりますが、そこをなんとか! 防御を固めてさえくれればあとは僕たちが捕まえます! あとお城の地図もくれると嬉しいです。城の構造だけでも把握しておきたいので」
「……」
真っ直ぐな目。これほど自分と真正面から向き合ってくる人は久しぶりだ。ポラリスは頭を抱えながら息を吐く。
「……分かりました。お父様にこのことを進言し、お城の防御を固めてもらいます。地図も持ってきますね」
「よし!」
これでアドバンテージがさらに開いた。アンダーウェアは自分たちより後手にまわることになる。王女様を味方につければ戦力はかなりアップしたも同然だ。
「その前に……聞かせてください。貴方はどうしてアンダーウェアという男を追っているのですか? 騎士団でもなんでもない貴方が」
「それは──簡単なこと。僕にはイグサさんっていう好きな人がいるんです。イグサさんとそのお母様のヤミさんに認めてもらうため。そして──イグサさんとエッチをするため!」
──エッチ。その言葉にスカイの顔は紅潮。隠れて見ていたリアスは吹き出し、テルドリンは頭を抱える。
「……なんでエッチをすることが、アンダーウェアを捕まえることに?」
「ヤミさんの依頼とはいえ、僕はアンダーウェアと関わってしまった。無視をすれば僕は必ず後悔する。そんな状態でするエッチなど気持ちよくない! 僕は後腐れなく、最高に気持ちよくエッチするため! アンダーウェアを捕まえるのです!」
「最初ちょっと渋ってたでござらんかったか……?」
「そこ! おだまり!」
あんまりにも真っ直ぐすぎるライズの言葉。嘘偽りなんて絶対にないであろう強い言葉。ポラリスは──笑った。
「ははは! ほんと……これだから城を抜け出すのはやめられないんですよね」
「城を抜け出すのはやめていただきたいのですが……」
「──分かりました。もう疑ったりはしません。ポラリス・マクトンはライズ・ドーミラとテルドリン・セロを全面的に支援することを約束します」
「あ、ありがとうございます! やったなテルドリン!」
「もうほんとに心がすり減ったというか……ライズ殿! 王女様にエッチとかはしたない言葉使わないでござるよ!? 国王に見られてたら晒し首ものでござるよこんなの!」
「いいじゃねぇか結果的には成功したんだし。俺は嘘つくの苦手だから」
状況が未だに掴みきれてないスカイとリアス。二人の頭にはまだ無数の疑問符が浮かんでいた。
「……なんか、楽しそうだな」
「そうだね。この人たちが来たからかな? こんなに賑やかになったの」
「落とし物には福があるってか?」
「残り物には、でしょ」
ワチャワチャと喧嘩しているライズとテルドリンを見ながら、スカイとリアスは笑った。




