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第16話『予想外に続く予想外』

「……悪かった」


「こっちこそ熱くなりすぎた。すまん」


 二人はお風呂に入ったことによりクールダウンしたようだ。落ち着いてお茶を飲むと結構ヤバい言い争いをしてたことに気がつく。


「前提として。誰が好きかは個人の自由。そこに優劣をつけることが間違ってたんだよ」


「そう……スカイちゃんはお前にとっては一番だし、イグサさんは俺にとって一番。それで十分だったんだ」


「思ったよりまともな和解でござるな……」


 一息ついて仲直りした二人の元へ、お風呂掃除を終え、寝室の用意を済ませたスカイがやってくる。


「お部屋用意しましたよー。なにか不手際があったら教えてください」


「スカイちゃんちょっとスルースキル学ばせてくれないでござるか? 拙者そろそろ疲れてきてもうた」


「? 私勉強はあまり得意ではないですよ?」


 リアスはスカイを座らせながら喋る。


「アンタら、予定はあるのか? どうやらポラリス様の生誕祭に来たっぽいけど」


「明日は……まぁ特にない、よな?」


「そうでござるね」


 アンダーウェア襲来まであと今日を含めて残り五日。まだ多少なりとも余裕がある。


「王都に来るのは初めてなんだろ? さっきのお詫びだ。案内するよ」


「むしろいいのか? 悪いな……」


「じゃあお言葉に甘えさせてもらうでござる」


「えー! 私も行っていい?」


「もちろん! 欲しいものがあったら言え! なんでも買ってやるぞ!」


「じゃあお客さんが欲しい! いっぱいお金落としてくれる人!」


「……うん」


 冗談か本当か分からない言葉にリアスは苦い顔をしながら頷くのだった。



* * *


 次の日。四人はバイオレットロードと呼ばれる場所へやってきた。ここはかつて戦争が起きた際に貯蔵されていたワインが全部流れたことにより地面に赤色が染み付いてしまったことから名付けられた道だ。

 由来にちなんでワインや蒸留酒などのアルコールが露店販売されているアダルティーな場所。匂いを嗅ぐだけで酔っ払ってしまいそうだ。


「いい香り……ちょっと飲んでいきましょうよ!」


「それは構わないけどスカイちゃん飲んでいいの?」


「? なんでですか?」


「年齢的に……」


「二十四歳ですよ? 私」


 ──今日一番の驚き。十五歳くらいかと思ってたスカイだが、まさかの二十四歳。普通にライズより年上である。


「スカイは可愛いからな。そう思うのも仕方ない」


「この見た目で俺より歳上かよ……」


「? だいたい人間はこんな感じではないのでござるか?」


「長命種からすれば人間なんて全員同い年に見えるだろうな」


 驚きすぎて首を痛めてしまったライズ。そんなライズをテルドリンは笑い、リアスは先々進もうとするスカイを止める。

 ──この先、スカイの年齢など記憶からすっ飛ぶくらいにとんでもないことになるとも知らずに。



* * *



 少しだけ飲んでいこう。スカイの言葉はあくまで『自分基準で』という言葉が前につく。可愛らしい見た目をしているスカイだがその実態はかなりの酒豪であった。


「このワイン甘いですねぇ。どのブドウ使ってるんですか?」


「タンバルッカスの『ブライトン』ですね。アルコールが強いにもかかわらず、ぶどうジュースを思わせる爽やかさと甘さが特徴です」


「なるほどぉ……ほらほら、みんなも飲んで飲んで。こっちの白酒は辛味があって美味しいよ!」


 ──男性陣は全滅していた。真っ昼間なのにもかかわらずベロンベロン。ライズはギリギリ正気を保ってるリアスに肩を貸してもらい、テルドリンは芋虫のように這いずって動いている。


「だらしないなぁ。ちょっと二十杯飲んだくらいでさぁ」


「お星様……お星様が逆立ちしてる……あ、眠った……」


「肝臓が狂ってるんだよなぁスカイは……そこも、ギャップがあって、可愛いけど」


「お主ら……似てるで、ござるな──」


 この一言を最後にテルドリンはダウン。気絶したように眠ってしまった。「しょうがないなぁ」とスカイはテルドリンを肩に背負い、それをリアスが恨めしそうな目で見る。



 ──そんな四人の少し後ろに、黒いフードを被った女性がいた。女性はワインを注文し、お金を払ってグラスを貰う。

 顔は見えないが優雅な飲み姿。美味しそうに、かつ美しく飲む女性に人々は目を離せずにいた。


「随分と美味しそうに飲まれるのですね」


 女性の後ろから──男が話しかけた。金髪でタキシード。明らかにいい所の家の人間だ。


「店長。私にも同じのを……今日はどこから?」


「……大きい所から」


「大きいところ? へぇ……謎かけがお好きなようですね。任せてください当ててみせましょう」


 店の人からワインを貰いながら、男は考える。人差し指で額を叩き、そして──女性の耳元で囁いた。


「お城、だったり?」


「……」


「今噂なんですよぉ。王女様が逃げ出した、って」


 男の言葉に女性はピタリと固まる。女性の様子を見た男はワインを一気に飲み干し、グラスを地面に叩きつけた。

 雪のように散らばる破片を踏みつけ、女性の顎を持ち上げる。


「……美しい唇だぁ。丁寧に彩られたリップが私の顔を反射している。この薔薇に似た赤さのリップは──王宮にしかないと聞きますよ」


「……詮索とはいただけないわね」


「詮索する価値がありそうですね。チョット来てくれますか? なぁに、痛いようにはしません。少しお話がしたいんです。王宮の中身について知りたくて」


「断る、と言ったら?」


「痛めつける……なんて手荒い真似はしませんよ。優雅にエスコートをするように。裏路地へと連れて行かせてもらいます。あとはそうですねぇ。魔法でも使って幸せに眠っててもらいましょうか? もちろん話を聞いた後でね」


「女性を裏路地に誘って眠らせるなんて。痛めつけるよりも手荒いのではなくて?」


「貴女が思ってるようなことはしませんよ。私たちが欲しいのはその下なんですから」


「下?」


「そう。貴女のその服の奥に隠れてる下着──」



 ──瞬間、男の体が横に吹っ飛ばされた。「ぶぺっ!?」という今までのミステリアスムーブが消え去ったような断末魔を上げて気絶する。

 殴られたのではない。蹴られたのではない。ただ単純に──投げつけられたのだ。エルフを。


「おまぇ……スカイに肩を貸してもらうなんてぇ、ズルい! ズルい! 俺も肩を貸して貰いたいのにぃ!」


「ちょっとぉリアス。テルドリンさん投げちゃダメでしょ。めっ! だよ。めっ!」


「うぐぇ……揺らさないでぇ、上から内臓が出るぅ……」


 もう完全に泥酔してるリアス。千鳥足で投げつけたテルドリンの元まで行き──なぜか気絶してる男の胸ぐらを掴む。


「こんのっ、寝てんじゃねぇよ、スカイに背負ってもらってたのによぉ!」


「──ぶへっ!?」


 ──男はまたもや殴られた。気絶から復活しそうになったタイミングでの的確な打撃。男の意識はまた沈む。


「もぅ。次は衛兵に連れてかれても迎えに行ってあげないからねー!」


「お星様……イグサさん……天女……イグサさんは天使だった……?」


 今にも連れて行かれそうになっていた女性は混沌とした状況に唖然。しかしすぐに思考を取り戻した女性は、泥酔中のライズ、リアス、テルドリン、そしてようやく若干酔っ払ってるスカイを連れてその場から逃げるように立ち去った。


「……はっ!」


 ──男は復活。ダイナミックに起き上がって周囲を見渡すも、女性の姿はなく。ただシンプルに可哀想な人という視線しかない。


「な、なんてことだ……この『十二神将』最強の私、フェルマーが……酔っ払いに負けるとはぁ……」


 十二神将。何も知らない人間なら無視する言葉。しかしライズとテルドリンからすれば聞き逃せない言葉。

 しかし──当の本人たちは聞くどころか、その場にすらいない。つまり周囲からはただの異常者としてしかフェルマーは見られていなかったのである。

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