第14話『バカ』
二人は馬車に乗ってる間に作戦会議をすることにした。ヤミから聞いた話をライズへと共有する。
「アンダーウェアが盗もうとしてると思われる王家の秘宝は二つあるでござる。一つは『ザ・ワン』というもの。その効果は『あらゆる物品を無条件で取り寄せることが可能』といったものらしいのでござる」
「え、は、え。な、なにそれ、等価交換とか代償とか無しで!?」
「そう。完全に無条件。この世に存在する限り、この秘宝があればあらゆる存在を手に入れることが可能だそうな」
「もうひとつは……?」
「もうひとつが『|ヴァーチャル・インサニティ《万物の番人》』というもの。この世にある、あらゆる存在の位置や情報を教えてくれるというものでござる」
「……ヤバくない? 盗まれたら」
「ヤバいでござる。盗む人間によっては世界が崩壊するような物でござる」
「なんかアンダーウェアが持ってても世界が崩壊するイメージが湧かないが……とにかく盗まれるのはダメだ。阻止しないと」
「むしろアンダーウェアはこの秘宝を王女の下着のついでに盗もうとしとるのか……」
「イカれてるとかじゃなく、もはや馬鹿だよな」
「だが力を持った馬鹿ほど恐ろしいものはないでござる」
そう。恐ろしいのは馬鹿なことをしようとしてるアンダーウェアには馬鹿なことを実現しうる力があるということ。
時間停止の魔法を使えば城に潜入することは容易。王女のパンツのついでに秘宝を盗むことも可能なのが怖い点だ。
「んで、なにか策はあるか?」
「正直絶対に捕まえられる作戦などない。リバーウッドで分かったと思うが、拙者も近接戦となるとあの男には勝つのは厳しいでござる」
「やっぱりヤミさんが言ってた遠距離戦になるよな」
「……それがまた厄介なことになってるでござる」
テルドリンはバックから紙を取り出した。そこにはこう書かれてある。──第二王女ポラリス生誕祭、と。
「アンダーウェアが潜入するタイミングはジャストこの時なんでござるよ」
「生誕祭……祭りってことは──」
「大量の人が来る。拙者も無闇矢鱈に魔法が使えん。対して相手、特にアンダーウェアが使うのは周囲に被害が特にない時間魔法。……拙者らはかなり不利な状況でござる」
城というものは防衛するよりも、攻め落とす方が難しいと言われている。理由としては攻撃三倍の法則やら銃火器やらの理由があるのだが、重要なのはそこじゃない。
問題としてはこれが戦争ではなく、下着を盗むための防衛の戦いになるということ。こうなると話は別。逆に防衛側が不利になってしまう。
潜入する場所が圧倒的に多い城。相手は複数人とはいえ、それでも十人ちょっと。全員が侵入してくるとも思えない。さらにライズとテルドリンは城の内部構造も理解してないのだ。
どデカい城に入ろうとする僅か数人を感知し、なおかつ実力者であろうそれぞれを無力化。そして王女の下着と秘宝二つを守り抜く。
「……無理すぎる」
「そう、まともにやれば考えるだけ無駄なレベル。まともにやれば、でござるがね」
「……どういうこと?」
「秘策でござるよ」
テルドリンはバックから紫色の岩石を取り出してライズに投げ渡した。冷たい見た目とは反対に触れてみると温かさを感じる。この温かさは──魔力だ。
「下着泥棒を捕まえたお礼にとリバーウッドの村長から貰ったものでござる」
「これは──魔晶石か」
「ご名答。さらに魔法式を刻んだ特注品でござる」
魔晶石とは一般的な鉱石と比べて数百倍もの魔力を溜め込める岩石のこと。さらにこの魔晶石には魔法式が刻まれてる。つまりこの魔晶石単品で魔力がなくても魔法を使うことが可能なのだ。
ただし魔晶石はかなり貴重。しかも魔晶石に魔法式を刻むのは簡単なことではない。この魔晶石を売ったら、簡単に数百万円は超える取引ができるだろう。
「魔晶石に刻まれてるのは『レンフィールド』でござる」
「感知系の魔法ってことか」
「拙者も感知系の魔法は使用可能であるが、維持したままの戦闘は難しい。だからそれを使って城内部に潜入しようとしてる不届き者をさっさと見つけて叩く。この戦いはどれだけ先手を取れるかの戦いでござる」
リバーウッドとは違い、王都は自然豊かとは真逆の場所。野生動物に気を使う必要なんてない。無条件での使用が可能なのだ。
となれば話は別。むしろ先手を取れるこちら側が一周まわって有利となる。
「役割分担をするでござるよ。まず城の内部にて敵を迎え撃つのは拙者、ライズ殿は外から敵が入ろうとしてる場所を伝えてほしい」
「……そうだよな。俺は戦えないし、そうなるか」
仕方ない。相手は強者。一般人のライズでは戦うこともできない。なら戦いは全部テルドリンに任せてライズはサポートに徹する。それが最善だ。
「危険なことを任せることになる。……いいか?」
「何を今更なことを。言ったでござろう。拙者は傭兵、契約した者の手となり足となって動くことこそが仕事でござる」
「……第一印象からは考えられないくらいに躍進したなお前」
「ライズ殿は第一印象と変わらなくて安心してるでござる。むしろ悪化してるかも」
「あ?」
なんて話をしていたら、目的地の王都が見えてきた。巨大すぎる外壁。そして中には雲にまで届かんとするほど大きくて立派な城がある。
あそこが決戦の場──。ライズとテルドリンは自分の使命を胸に抱えながら、王都へと向かうのだった。
* * *
──王都グランドディスフロリア。世界を統べる王の国。四大国家をまとめ上げ、世界の中心とも言われるほど発達した国である。
中には学園、病院、教会。軍隊施設や高級住宅街など様々な顔があり、歩くだけでも楽しめる。
金持ち専用の豪華なレストランがあれば、庶民御用達の質素ながら味わい深い料理店。ディープなところでいえばカジノやストリップ劇場など。
この街を語り尽くすには一日あっても足りない国。それこそがグランドディスフロリア。初めてやってきたライズとテルドリンはその景色に圧倒されていた。
「ひっろい……建物も超大きい……!」
「石か!? 壁が石でござる!? 木造建築がほとんどないではないか! どうやって作ったんじゃ……?」
「見てみろ! 露店だ! 露店販売してる!? アイスクリーム売ってるぞ!?」
「そんなまさか。こんな平日に露店販売なんかあるわけ──ぇぇぇええ!?」
すごくいい反応。周囲の人も微笑ましそうに二人のことを見ていた。
田舎者の二人にとってグランドディスフロリアの景色は異様そのもの。新しい視覚情報が無限に伝達され、頭が何度もショートを引き起こす。
そしてまた現実に戻ったら視覚情報が増えて──という繰り返し。いつまで経っても先へ進むことができない。
「アイスクリーム美味ぇ!」
「ライズ殿! どうやらパスタとやらもあるらしいぞ食べようではないか!」
「いいねぇ! 俺あれも食べてみたい! ピザってやつ!」
「拙者も拙者も! ここの露店を全て制覇しようではないか!」
「賛成だぁい!」
背中には荷物。両手には飯。腰には飲み物。もう目的を忘れて二人は完全にお祭りムードになっていた。
* * *
「……」
「……宿代、どうしよ」
馬鹿二人は宿代の存在を忘れて食いまくった結果、ベンチに座ってうなだれていた。隣には露店で渡された空の容器。食べてる時はあんなにも楽しかったのに。今は見るだけで心が締め付けられるような気分になる。
これが王都の洗礼──完全に二人が考え無しだったからだが、二人の辞書に『自分のせい』とは書かれていないようであった。




