第11話『作戦会議と初デート』
「……ごめん整理させて。えっとなに、下着泥棒を捕まえたら下着怪盗が出てきて、一週間後に王女様の下着を盗むって?」
「らしいです」
「頭おかしいんじゃないのそいつ」
「ですよね!?」
リバーウッドの下着泥棒を一応は捕まえたので、ライズは一時帰宅。ヤミのところへ戻ってこれまでに起きたことを話していた。
「えぇ……待ってよぉ、ただでさえアンタみたいな頭おかしいの相手にしてるだけで疲れるのにさぁ、なんでヤバいヤツが出てくるのぉ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいお母様!? 僕はあれよりはマシです!」
「……いや割とそんなに遜色ないと思うけど私は」
「酷い!」
「それも驚きだけどさ。何より驚きなのは──」
──ライズの横。そこには椅子に座り、子犬のように縮こまってブルブル振動しているテルドリンがいた。
「テル君がまさか手伝ってくれるとはねぇ。意外だわ。働きたくないでござるってあれほど言ってたのに、変な宗教にでもハマったの?」
「いえあの……そんなことは……ただヤミ殿の娘婿が困ってると聞き……せめてヤミ殿の恩に少しでも報いるべく……」
「いい心がけじゃない! 昔みたいにイキってたらまたシめてやろうかと思ったけど」
「め、滅相もない……」
本当に何されたらこんなことになるのか。奴隷と雇い主でもこのレベルには到達しないだろう。震えながら指を噛むテルドリンを見てちょっとライズは引いた。
「……ちょっと待ちなさい。娘婿とか言わなかった? ライズ、私まだあんたのこと認めてないけど」
「え!? で、ですが下着泥棒は捕まえましたよ! 信頼してくれるのでは……?」
「母さんから聞いたわよ。アンダーウェアとかいう頭おかしいのに宣戦布告されたんだってね」
「……え、あれの相手しろと?」
「うん」
「無理ですって! 僕あれの相手なんかしてたら頭おかしくなりますって!」
「もう既におかしいでしょ」
「それにアレは変態ですけど実力は確かです! 僕もテルドリンもボコボコにされましたし……!」
「そこよ」
ヤミは指をパチンと鳴らした。
「アンダーウェアとかいう奴は空間をも支配する魔法を使った。それは私やテル君ですら不可能な芸当よ。逆に言えば、アンタはそんな相手と相対し、しかも煽り散らかして生き残ってる。奇跡なんてものじゃないのよ」
「でもそれはテルドリンがいてくれたからで……」
「じゃあこう言えばいいかしら? テル君と一緒ならアンダーウェアに対抗できるって」
事実を並べればそうではあるが、実際はライズは蹴り飛ばされただけだし、テルドリンもダメージすら与えられてなかった。対抗できると言われても自信がない。
「依頼は続行よ。──アンダーウェアを捕まえなさい。貴方たちならできるわ」
「……? え、拙者もやるのでござるか?」
「文句?」
「ないです」
「弱すぎるだろお前」
依頼は続行。村で頻発してた下着泥棒を捕まえるだけだったのに、なんでこんなにもスケールアップしたのか、ライズはただイグサとエッチがしたいだけだというのに。
……むしろイグサはそれくらいの相手なのか。王女の下着と王家の秘宝を盗もうとしてるヤツを捕まえてようやく釣り合う相手なのか。
「つまり……イグサさんは王様よりも、王女様よりも、偉くて可愛い……!」
「ん? イグサが可愛いのは認めるけど、なんでその結論に至ったの?」
「燃えてきました! そうです! 俺たちならアンダーウェア──最凶の怪盗に対抗できる! いや捕まえられる!」
「この数秒でどんな心境の変化があったんでござるか?」
闘魂を燃やすライズをヤミとテルドリンは冷めた目で見ていた。
* * *
「アンダーウェアはどうやって倒せばいいでしょうか?」
戦うことに決めたライズだが、闘魂だけで勝てる相手じゃないのも理解してる。戦闘などほとんどやったことのないライズはヤミに助言を貰うことにした。
「アンダーウェアの魔法の詳細は分かってるの? 今のところ空間に作用するとしか聞いてないけど」
「実はライズ殿と拙者の見解は違うでござる。あれは──時間。時間を止める魔法、正確に言うなら魔術でござるな」
「時間停止……か」
アンダーウェアはウェイバーに『私の能力の真似をした』と言っていた。そして使用してたのは単純な瞬間移動ではない。避ける避けないではなく、既に攻撃が当たっていたのだ。
となると考えられるのはウェイバーの魔法の上位互換。時間停止である。
「時間を自由に操れるって訳じゃないでしょ。そこまで行くと神の領域だし」
「そうですね。使えるのは時間停止、それも長時間ではありません。停止時間で言えば下着泥棒のウェイバーの方が長いくらいかも」
「じゃあこれは魔法じゃなく魔術の領域ね。なら対抗策はある」
──魔法と魔術。これは明確に違いがある。
魔法とは五つの基本属性とそれから流れた十個の派生属性から使用される超常現象のこと。この世界において魔法はほとんどの人間が使える技術だ。
対して魔術は基本属性にも派生属性にもない属性を扱う超常現象のことを言う。使える人間はそう多くないが、それ故に対策がしづらい傾向にある。
「魔術を使う者は基礎魔法以外に魔法を扱うことはできない。使えるのは『ブースト』『フィーリング』『ヒール』の三つのみ。つまるところ遠距離技がないのよ」
「……あ、そうですね。時間を止めれるなら遠距離から魔法でも使えば誰でも倒せる。だけどわざわざアイツは近づいてきた」
「その時にたまたま武器を持ってなかったって可能性もあるけど、これはかなりアドバンテージ。遠距離技をまともに持ってないならやりようはある」
「そのやりようって……?」
「──シンプルに遠距離から魔法をぶっぱなすことよ」
ドヤ顔。ドヤ顔でそう言うヤミに苦い顔をする男二人。
「……開けた土地とかならできると思いますけど、これからアイツと戦う場所は街ですよ? んな魔法放ったら俺らが捕まりますよ」
「えー。いい案だと思ったのになぁ。じゃあ無理ね」
「拗ねないでくださいよ」
「諦めろライズ殿。ヤミ殿は昔からワガママ──」
「あ?」
「すいません」
「だから弱いって」
そんな会話をしていると──部屋の扉が開かれた。
イグサだった。可愛らしい私服を着て、髪を纏めている。外用の格好だろうか。思わずライズはガン見した。
「ヤミ様。買い出しに行ってきます」
「うん。行ってら……ちょっと待ってイグサ」
小首を傾げるイグサ。ヤミはライズの肩を叩く。
「……いいんですか?」
「変なことしたら分かってるわね? テル君と一緒に用水路に両手足へし折って投げ入れるから」
「なんで拙者まで!?」
「──ありがとうございます」
おもむろに立ち上がったライズは呼吸を整えながらイグサのもとへと歩く。
「イ、イグサさん! その、僕も買い出しついて行っていいですか?」
「え? ですがライズさんはお客様ですし」
「問題ありません。それに最近は物騒ですし、女性一人は危ないから」
「……わ、分かりました。ありがとうございます」
ライズはヤミに会釈をし、イグサと共に外へ出て行った。
「……こう見ると初心でいい子そうなんだけどね」
「見た目だけは好青年のイケメンでござるからな」
「健全な精神には健全な肉体が宿る、って言葉があるけど、あれは嘘っぽいわね」
「例外もあるでござろう。あんなのを平均値に入れたらグラフが異常をきたすでござる」
「それもそうね」
そう言って大人組二人は笑うのだった。




