第1話『初めての言葉がそれはどうなの』
新作です。もう既に全話書き終わってるのでエタることはありません。タイトルからしてアホみたいな内容ですが、どうか楽しんで見ていってください。評価と感想待ってます
「僕とエッチしてください!」
「い、いい、ですよ。それで私が役に立てるなら……むふふ」
──『ヤミ骨董品店』の店長であるヤミ・アクレミス。彼女はエルフと人間のハーフであり、それはそれはもう長い時間を生きてきた。戦争も経験したし、今は養女であるイグサ・アクレミスも育てている。
長い時間を生きれば大抵のことには驚かない。山賊に襲われても本を読みながらでも対応できる。だがそんな彼女であってもこんな馬鹿みたいな会話は初めてであった。
エッチ……というのは誤魔化す余地もなく性行為だろう。イグサの前に立つ派手なピンク髪の男は確実にそう言って頭を下げている。
そしてイグサは男の言葉を受け入れている。──うん、ダメだ。どう考えても倫理的に、感情的に、論理的にこの男が普通の人間だとは思えない。
「いいわけないでしょ!?」
頭で考えるよりも先に言葉が出てきたのも久しぶりの経験だった。店はいつも人が少ないので迷惑になることはなかったが、店の外を歩いていた通行人はヤミの声に身体を震わせた。
「待って! 待って……ちょっと待って!」
「はい。待ちます。ヤミ様の命令なら聞き入れます」
「お母様ですか? すみません挨拶が遅れて──」
──言葉を終える前に鉄拳が男の頬を貫いた。男は「ぱひょん!?」と情けない声を出しながらぶっ飛ぶ。
「まずは殴るわ! そんでもう一発殴らせなさい!」
「ちょっ、ま、待ってください! 話! 話を聞い──あびゃん!?」
胸ぐらを掴まれて持ち上げられてからの──更なる鉄拳。またもや情けない声を出しながら男はぶっ飛んだ。
「はぁはぁ……ふぅ。落ち着いて。落ち着きなさいヤミ……年長者がこんなのでどうするのよ……」
「大丈夫ですかヤミ様。お水持ってきましょうか……?」
「私は平気よイグサ。それよりも前に出てきちゃダメ。こういうのは変態って言ってね。変態には近づいちゃダメなのよ」
「ハ、ハード……こ、腰の入ったいいパンチでした……」
「お黙り!」
荒事なんて人生で何回も経験してるはず。そういう時に大切なのは平常心だ。心を落ち着かせること。頭を冷やせば優秀な頭脳をフル回転させられる。
……ダメだ落ち着かない。人生で後にも先にもここまでヒートアップすることはないだろう。ないと信じたい。ないであってほしい。
「何から、何からするべきか……衛兵! そうよ衛兵に任せればいいんだわ!」
「──まままま待って! お母様、話を! 話を聞いてください!」
「聞くわけないでしょ変態! そもそもアンタにお母様って呼ばれる筋合いはないわ!」
「れ、冷静になって……落ち着きましょう。僕は危害を加えるとか、襲うとか、そんなことはしません!」
「アンタよくそれを信じてもらえると思ったわね!?」
「僕は紳士です!」
「無理よ! 無理無理! その言葉信じられる人この世に居ないわよ! 聖人だって唾を吐いて罵倒するわ!」
男は滝のように流れる鼻血を拭きながら正座をする。
「考えても見てください。襲う気なら初めからそうしてます。僕は体格もいいですし、それに襲うことが目的ならもっと人気のないところに連れていくなり、なんなりします!」
「くっ……あんまり否定はできない。でも私もこの子もか弱い女の子。アンタ自分なら抵抗されても大丈夫とか考えたりは……」
「『赦しのヤミ』は有名です。もちろん僕も知ってます。そんな人相手に僕は手を出すことはありません」
「……ぐぬぬ」
『赦し』のヤミ。その圧倒的強さから相手は戦うまでもなく戦意喪失。頭を垂れて命乞いする相手に幾度となく『赦し』を与えたことから付けられたあだ名である。
久しぶりに聞いてむずがゆくなった。いい歳した大人がこの二つ名を自分からも名乗っていたのを思い出すと今でも体が震える。
それは置いておいて。男の言ってることは一理ある。闇雲に否定するのも良くない気が──ない。どう足掻いてもこの男は頭がおかしい。
しかし何を言うのかは気になった。この異常者がどんな弁明をするのか……不覚にも気になってしまった。
「……いいわ。釈明を赦します」
「ありがとうございます!」
男は顔を上げる。そこにあったのは電球のように明るい笑顔であった。
「ぼ、僕の名前はライズです。ライズ・ドーミラ。ドール街で母親と共に人形店を営んでいます!」
「……あぁ人形の店が並ぶ場所ね。たまにイグサとも歩くわ」
「はい! 記憶に焼き付けるために絵を描かせてもらってます!」
「今からでも用水路に捨てられたい? もちろん絵ごとアンタもね」
「すみませんすみません許してください」
ライズは頭を何度も床に打ち付けて謝罪をする。
「母親には既に店のことを任されてます。収入も低くはありませんし、安定しています。イグサさんだけでなくお母様も養えます! ですから……その……」
「別に養うとかはどうでもいいわよ。……まぁ真面目そうではあるわね。嘘もついて無さそうだし」
「あ、ありがとうございます!」
「聞きたいことは沢山あるわ。言いたいこともよ。だけどほとんどが私の知的欲求によるものよ。──だから一つ。私はたった一つだけ重要なことを聞くわ」
「は、はい……!」
ヤミはライズの前に指を一本突き出す。たった一つの重要な質問。この質問の答えを間違えれば全てが終わる。
鳴り響く心臓を抑えるためにライズは喉を鳴らす。
「──さっきの貴方の言葉。あれはどういう理由があって言ったの?」
あまりにも単純な質問。ライズは笑顔で、そして一切の迷いなく答えた。
「イグサさんとエロいことがしたいからです!」
──ライズは店の外に殴り飛ばされた。
「次来たら衛兵呼ぶわね」
「待って! 待ってください! エロいことって言っても悪いことをするわけでは──」
「じゃあどういうことよ! 気弱で大人しいイグサにセクハラして!? それが悪いことじゃないって!?」
「性欲は決して悪いものではありません!」
「性欲!? さっき言った言葉は性欲から来てるの!?」
「はい!」
「キリッとした顔で言うんじゃないよ!」
店前で人目があるにも関わらず、二人の声は大きい。どちらも必死。守りたいものと叶えたいものがあるからこその声の大きさだ。
ライズは叶えたいもののために頭を下げる。地面に額を擦り付けて土下座する。
「お願いです! イグサさんとエッチさせてください!」
「黙らっしゃい! ちょっと話を聞こうとした私が馬鹿だったわ! 二度とその面見せないで!」
……もちろんそれが通るはずもなく。無慈悲にもライズの前の扉は強い音を立てて閉められてしまった。




