告白
「お疲れさま、明田」
「お疲れ」
クラスの誰が言い出したかは不明だが、夕飯は近くのファミレスでお祝いにみんなで食べることになった。少し夜風にあたりに外へ出ると、思縁もついてきて話しかけてきた。
「……私たち、三位だったね。穂乃果はこれで勇気づけられたかな」
「分からないが、俺たちは全力を尽くした。穂乃果の心にもきっと届くはずさ」
「そうね。ねえ明田、バスケしてる時のあなた、カッコ良かったよ」
「ありがとう。なんか照れるな。もう下の名前でいいよ、思縁」
「わかった」
思縁は笑って、俺の下の名を呼んだ。
「ええと、夏の夢?」
「違うな」
「じゃあ夏之夢、カノン君? 」
「そうだよ、思縁」
久しぶりに自分の名前を言ってもらったら、少し気恥ずかしくなった。
「夏之夢君、素敵な名前ね」
「ありがとう、思縁もなかなか良い名だと思うぞ」
「ちょっと照れるわね」
「そうだな」
「……」
しばし沈黙が流れる。
「夏之夢、もうだいぶ学校に、クラスに馴染めてきているわね」
「ああ、みんないい人ばかりで、今度男子であつまる数学の勉強会でみんなに教わることになってるよ」
「それは良かったわ。何度もあたしの我儘を聴いてくれたカノンなら、きっとみんなと仲良くなれるって信じてたから。」
「そうか。思縁がクラスのことを思っているから、クラスメイトも一つになって頑張ろうと思えるんだと思う。思縁はそれを我儘と言って謙遜するが、少なくとも俺は思縁のそういうところが、好きだと思う。」
「今、好きって 」
思縁は何かを感じ取ったのか、不意に顔が赤くなる。
「ああ、俺は思縁が好きだ。いや、今回の一件で思縁のことがもっと知りたくなった。思縁は確かに少し頑固だと思うが、そのままでいいと思う。もしよかったらでいいんだが、付き合ってくれないか」
「そうね。ありがとう、夏之夢。あたしも夏之夢のこと、ほんと言うと気になってたし、好きだよ。それに、これは運命なのかもね」
「運命の人? なんだそれは。思縁はロマンチストだな」
「まあいいの。こっちの話よ。それより、告白のことは、良いわよ。付き合いましょう、私たち」
「ああ、ありがとう。本当に嬉しいよ」
「でも、あたしのはやっぱり我儘だよ。あたしの我儘に対して良く思わない人もいるし、神様みたいにみんなを幸せにはできない。あたしにできることは、せいぜい神様に仕えて、みんなのために良いと思ったことをするだけだよ。残念だけどね」
また神様の話か。思縁にとって神様というものは、なにか特別な存在なのかもしれない。
「そうか。しかし神様か。前から神様の話になると思縁は熱くなるが、思縁は神様に対して、なんというか、並々ならぬ思いがあるみたいだな」
「うん、まあね。あたしの家はこの地に伝わる神様に仕えているの」
「この地に伝わる神様というと、仏教とかキリスト教みたいな有名なものではないのか」
「地元ではそこそこ有名だと思うけど」
「すまない、高校からこのA市に越してきたばかりで、地元の事情には詳しくは知らないんだ」
「そうなんだ。じゃあ今度色々教えようか」
「頼む」
それから思縁は少し考え込んでから、
「宗教と聞いて、ちょっと怖いなとか思った? 」
と言った。
「別に。俺の家は一応仏教だけど、神様や仏さまに対する思いは人それぞれだと思う」
「そう、なら良かったわ。ちょっと心配だったの。夏之夢に嫌われたらどうしようかなって。ほら、この国って海外の人と違って、熱心に特定の神様を信仰する人は少ないし、時折嫌悪感を示す人がいるから。でも、神様に仕えてるってことはあたしの中で大事なことだから、これからもっと仲良くするうえで夏之夢に隠したままにしたくなかったの」
「そうだったのか。俺は全然平気だし、大丈夫だよ。気にしなくていいし、むしろ信念があって立派だと思ったよ」
「ありがとう、夏之夢」
思縁は嬉しかったのか、安堵したからか少し涙目になりながら、返答した。
そんな思縁を目にして俺も少し考えていた。俺に信仰を告白した思縁になら、俺の抱えているものを話してもいいかもしれない。
「なあ思縁、俺も話しておきたいことがあるんだが」
「ん? 」
「実は俺は、独りなんだ。家族はみんな、俺が中学のバスケの遠征に行ってる間に、旅行に行ってる最中の事故で亡くなってしまったんだ。それで叔父に引き取られてここに越してきたんだが、叔父も音信不通で。ほぼ一人暮らしをしているんだ」
「そうだったの」
思縁は驚いた様子だった。
「まあそのおかげでなんだかやる気が無くなっちまったというか、心底世の中が馬鹿らしくなっちまって、心を一時期病んでからはだらだらしてたんだけど、最近は思縁のおかげでだいぶ立ち直ってきたよ」
「夏之夢……」
思縁はショックからか、今にも泣きそうに俺の名を呟いた。
「まあ、そんなに重くとらえなくていいよ。今日俺が思縁に告白したことも意味があったと思うし、思縁にも受け入れてもらえた。こんなにいい日は久しぶりだ」
「そう。あたしも気になってる男子から告白されて少しびっくりしたけど、嬉しかったわ」
「それは良かった。思縁、これからもよろしく頼む」
「うん。よろしくね」
「じゃあ戻るか。みんなに怪しまれてしまう」
みんなのもとに戻ると、盗み聞きされていたのか俺たちが付き合うことが知れ渡っていた。やれやれ、クラスの仲が良いのも困ったものだ。そんなことを思いつつも、クラスの仲間たちがサプライズで頼んだケーキを頬張った。
今宵は良い夜になりそうだ。
………。




