球技大会2
「明田君」
練習も終わったところで、追加で練習をしようと準備していると、歩が話しかけてきた。
石田歩。たしかクラス委員をしていた人で、学年でもトップの成績をもつ男か。俺はまだ知り合って日が浅いが、気弱な印象を受ける。
「どうした、歩」
「実は僕はあまり運動が得意ではないんだけれど、どうしても勝ちたくて、特訓に付き合ってもらえないかと思って」
「特訓か」
「うん。思縁ちゃんが明田君をみんなのもとに連れてきたように、僕も穂乃果ちゃんを勇気づけたくて」
「そうか。君も若林と同じでいいやつなんだな」
はじめはお節介のように思えたが、このクラスはこういうやつが多いのだろうなとは感じた。面倒見が良いやつが多いというか。
「僕はそこまで思縁ちゃんほど優秀ではないけどね」
「似たようなものさ」
「そうかな。だとしたら思縁ちゃんのおかげかもしれない。最初はみんな進学のことでいっぱいでカリカリした雰囲気だったんだけど、思縁ちゃんがクラス委員に立候補して、色んな行事を立案したり、クラスのために率先して勉強会開いたりとまとめてくれたから、みんなも思縁ちゃんに影響されて友達思いになっていったんだと思う」
「そうか」
改めて思縁の行動力というか、熱意には脅かされる。自分だけでなく、周りも変えてしまうカリスマ性が、彼女にはあるのかもしれない。
「うん。僕なんて立候補じゃなくて、誰もやりたがる人がいなかったから押し付けられる形ではじめはクラス委員になったんだ。思縁ちゃんと比べると、まだまだだよ」
「そんなことないと思うぞ。歩だって立派にクラス委員として頑張ってると思う。現に今も特訓したいと言ってきたじゃないか」
「そう言ってもらえると気が安らぐよ」
「ああ。さて、じゃあ追加練習といくか」
「いいのかい。ありがとう」
「まずはジャンプの練習、それからパス、ゴール下で外れたボールをとる練習からだな」
「分かった」
「それと、最後に、これは歩だけに課す特訓なんだけど……」
勝つために、策を講じておくことにした。
数週間後。
球技大会当日になった。運動が苦手な人が多い自分たちのクラスにしては3位決定戦まで来たことが僥倖で、大会の大番狂わせとして注目の一戦となった。結果を残したいなら、この試合は負けられない。しかし現在は12-14と劣勢に立たされていた。さらに俺たちのチームはこれまでゾーンという全員で守り攻めるという体力を消費しやすい戦法で戦ってきたため、疲労の蓄積はピークに達していた。
「相手のクラスには経験者が3人か」
相手チームは普通科の上級生のチームだった。全体的になごやかな雰囲気でプレイしているものの、経験者の数と体格差で圧倒されていく。
焦って俺一人で強引にドリブルで上がろうにも、ガッチリマークされていて、なかなか点数に繋がらない。時間も見る見るうちに減っていく。
だが、俺達には策があった。
「歩! 」
歩は身長が低く、あまり運動神経もよくないためそこまでマークされていなかった。ただ、歩はあえて影を薄くしていたとも言える。全ては最高の一撃のために。
歩はボールを受け取ると、その位置からシュートを放った。歩のいた位置とは、ちょうど3ポイント入るゾーンだった。
歩は確かに素早い判断を正確に下せるほど運動神経は高いとはいえず、背も低かったためバスケには向いているとは言い難かった。ただ、手先が器用で微妙な力加減が可能なのと、日ごろの勉強で鍛えられた集中力には目を見張るものがあった。そして愚直にこの数週間、毎日体育館で3ポイントシュートを練習した成果が、ここ一番で発揮される。
「……」
狙いすまされて放たれたボールは綺麗な弧を描き、板にワンバウンドしてゴールの中に入っていく。
そしてこの3ポイントを守り切り、俺たちは3位になることができた。




