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思縁の弁当

翌日になった。学校に着き、自分のクラスへ入る。

俺が入るとクラスの雰囲気が少し変わったような気がした。人によってさまざまで、少し驚いたような人、喜んでいるような人、珍しいものを見るような人。等が見えた。

無理もない。俺は4月の入学した頃からずっと、ほとんど不登校だったからだ。だいたい家にずっといた。理由は、俺は精神的な病だったからだ。適応障害というものらしい。俺の場合、簡単に言うと、人と接していると、めちゃくちゃ疲れる。という病だ。思春期にはよくある病だという。年齢を重ねると、慣れてきて楽になるとも聞くが、16の俺には、ストレスが荒波のように押し寄せてきている。


正直にいうと、昨日もかなり疲れてしまって今日は行くか迷っていたんだが、妙なところは前向きというか、そんな性格のおかげでまた思縁に会いたいと思う気持ちが強く、ここへ来てしまった。

入って3分ほどで、早々に精神は悲鳴を上げかけていた。


とりあえず、携帯で好きな曲を聴くか。音楽に集中しているときは、幾分か気がまぎれる。俺はいつも聞く曲をかける。この曲を聴いていると、落ち着く。

と、

「おはよう、明田クン」

「ん、ああ。おはよう」


俺の机へのところまで、思縁、若林思縁が来て立っていた。


「今日も来てくれたんだ。ありがとうね。昨日はお昼からだったけど、今日は朝から来てくれるなんて、嬉しいわ」

「別に、気が向いただけだ」


本当は、思縁のことが気になっていたと言うわけにもいかず、ごまかしを入れる。


「そう。でも、私は嬉しかった。昨日の話、覚えているよね」

「ああ、俺が、思縁のご飯を食べるんだろ」

「そうそう。楽しみにしていてね」

「ああ」

「それはそうと」

「ん? 」

「学校ではスマートフォンは禁止です。明田クン」


思縁は険しい顔つきでそう言った。


「っと、すまない」

「分かってくれれば、いいのよ」


と、こちらがスマホをしまうと、思縁はすぐに笑顔に戻った。

そういえば、この人はクラス委員だったなと、思い出した。しっかり者なのだろうなと思った。


……。


昼休みになった。思縁は仲の良い友人であろうクラスメイトに、「今日は別の人と食べる約束があるから」と言うと、椅子を俺の机まで近づけてきた。


「はい、どうぞ」

「ああ、ありがとう」


弁当箱と箸を渡された。ずっしりと重みがある。


「それじゃあ、昨日の約束通り、食べよ。明田クン」

「いただきます」

と言って、思縁は長々と手を合わせている。

「それも神様への儀式みたいなものなのか? 」

「ん、まあね。でも気にしないで。いつものことだから。と、ごめんなさいね、待たせちゃって。さ、食べましょう」

「ああ、分かった。いただきます」


弁当を開けると、中には炊き込みご飯、秋刀魚の塩焼き、タケノコの煮物等、秋が旬の食材を使った料理が並んでいた。


「これ、本当に思縁が作ったのか」

「そうよ。明田クンをびっくりさせたくてね」

「いや、驚いたよ。ここまでの物を食べるのは、久しぶりだ」

「そう、ならよかった。やるからには完璧を目指したくなるからさ」

「ああ、そうか。美味しい。美味しいよ思縁」

「そう」


と、思縁はふふんと得意げに笑った。

がっついていると、ふと、いつもはコンビニでおにぎりと、野菜ジュースで済ませている自分の食事風景を思い出す。俺としてはもうそんな、機械の燃料補給のような食事も慣れていたし、自分なりに食事なんかはこんなものでいい、と思っていた。だが、

思縁の作ってくれた料理には美味しいのももちろんであるが、なにより目の前の少女の手作りということに、温かみを感じた。久しぶりだった。こんな料理が食べられるのは。

家族と、中でも母さんと過ごした日々を思い出させるほどに、この炊き込みご飯の味は体の中に浸透していった。


「明田、なんか涙目になっているわよ。大丈夫? 」

と、いつの間にか涙が出ていたらしい。思縁は、そんな俺を見て、心配げに聞いてきた。

「大丈夫だ。秋の花粉症があるみたいでな、それかもしれない」

「そっか」

そう言って、思縁は、気を遣ってくれたのか、それ以上はなにも聞いてこなかった。


……。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま」


昼食を終えたが、昼休みまではまだ時間がある。思縁はもう少し俺に話したいことがありそうに、まだ俺の目の前にいる。


「どうだった、私の料理は」

「美味しかったよ。ありがとう」

「それはどうも。明田はさ、この後の授業はどうするの? 」

「帰るよ。これ以上の用もないからな」

「そう言わずにさ、もう少し残ってほしいんだけど」


そう言われ、どうするか迷う。ううむ。俺はもう、結構疲れている。久しぶりの登校だし、周りの雰囲気も、それとなく普段とは違っているような、そわそわしているように感じたから、早く帰りたかったからだ。


「じゃあさ、4時間目までいてくれないかしら。どうしても、明田にいてほしくてね」

「ううむ。分かった。思縁には美味しいご飯を作ってもらった恩もあるし、もう少しいるよ」

「よかった。ありがとうね、明田」

「ん? 俺はむしろ飯を食わせてもらっただけだが」

「また、私のわがままに付き合ってくれてるんだもん。明田ってさ、いい人だよね」

「思縁が思うほど、俺はいい人でもなんでもないぞ。ただ、もらった恩はできるだけ返したいだけだ」

俺は、思縁の言うわがままに応えることで、思縁が喜んでくれるのならばそれでいいと思った。

「そういうところが、私、いいなと思ったよ」

「そうか、誰だって多少は、あるだろ。なんか借りっぱなしだとそわそわするだけだ」

「そっか」

「で、俺は4時間目になにをすればいいんだ」

「ちょっと話し合いがあって、明田の意見を聞きたいんだけどね」

「話し合いか。わかった」


……。




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