真相を打ち明ける日
それから季節はあっという間に過ぎ、5年が経った。今日、円は高校入学し16歳となった。
海外の血が混ざっていたためか、16歳とは思えないほど美しく成長していた。
ロングの黒髪は風に緩やかに揺られ、空の青、桜のピンクの調和の中に、白き肌と黒き髪の円は異彩を放っていた。
緑さんとの三人での入学式の帰り道だった。他の人たちは円を見ると驚いた様子で、釘付けになっていた。
「円、入学おめでとう」
「ありがとう、お父さん」
「入学式は楽しかったか」
「まあね」
「これから友達とか、部活とか、新生活だ。楽しめるといいな」
「うん。ありがとう、お父さん」
「ああ」
今日、俺は円に思縁のことを告白しようと思う。俺は今日のいつ話すかとか、悩んでいた。
「受験、よく頑張ったな。今日はどこか、食べに行くか」
円は俺や思縁と同じ、A高校に入学した。コースは特進ではなく、普通科であった。ほかの高校の、芸術コースもいいんじゃないかとも話したが、お父さんやお母さんが居た学校に行ってみていと、円は言い、今日まで受験勉強を続けて、晴れて入学になった。
「そう、それなら家でパーティにしたいな」
「分かった。そうしよう」
「緑さんもそれでいいですよね」
「ええ、いいわよ。今日の主役は円だもの。3人でご飯にしましょう」
「はい」
そうして家に着き。準備を始める。
緑さんは料理をし、飾りつけや掃除は俺がした。
円は上でピアノを弾いているのか、ピアノの音が聞こえた。
……。
数時間が経ち、準備ができた。
円を一階へ呼ぶために、二階に行く。
「円」
「どうしたの」
「料理ができたから、下においで」
「わかった」
そう言うと、円は部屋から出てきて、一階へ降りていった。
俺も一階へ行く。
……。
夕飯は緑さんが手塩にかけて作ってくれたもので、とてもおいしかった。
美味しかったが、これから円に話すこと、そして円がどう反応するのかが不安で、気が気でなかった。
それを見透かされたのか、円は、
「お父さん、今日はなんか、調子が悪い? なんか、いつもと変だよ」
と俺に気を遣ってくれた。俺は、
「大丈夫。久しぶりのパーティで、気が落ち着かないだけだから」
と適当な返事をした。
その一方で、緑さんはまったくいつもと変わらなく振舞っていた。己を律するのがうまいのか、それとも五年も前から準備してきたからなのだろうか。なんにせよ、凄い演技力だなと思った。
……。
夕食が終わり、くつろいでいると緑さんが口を開いた。
「円ちゃん、これまでのことと、これからのことで、話したいことがあるの」
「なに、おばあちゃん、改まって」
「思縁のことで、ちょっとね。大事な話だから、夏之夢君にも同席してもらうわね。みんなで、思縁の、お母さんの部屋にいきましょうか」
「うん分かった」
「はい、緑さん」
いよいよ、この日が来てしまった。
寝室へ行くと、思縁は相変わらず眠っていた。
思縁は点滴につながれていて、毎日訪問看護の看護師が取り替えてくれている。
思縁は15年も経つのに、老化を感じさせないまま、高校生の時とほとんど変わらない美貌を保っていた。元々華奢な体がさらに痩せ、痛々しくも感じた。
「夏之夢君、どっちが言う? 」
三人は腰を下ろす。
「俺から言います。これでも、円の親なので」
「そう、分かったわ。幸運を祈る」
緑さんは笑った。
円は、不安そうにしていた。
そして、俺は口を開く。
「単刀直入に言う。円。実は、円は俺と思縁との間にできた子じゃない。俺と円は血が繋がっていないんだ」
「え、それって、どういう意味なの」
円は困惑しているようだった。無理もない。これから、本当のことを話そうと思う。
「実はな、思縁は睡眠の病気を患っているにはいるんだが、これは自然になったわけじゃないんだ。思縁は異国の地で他人に首を絞められて、酸素欠乏状態になって、昏睡状態になっている」
「わけが分からないよ。お父さん。お母さんは首を絞められて昏睡状態になったとか、私とお父さんが血が繋がっていないとか、断片的に話されても困るよ。お母さんに、何があったの」
円は、思縁を見る。緑さんはそんな円を、心配そうに見つめていた。
「思縁は、思縁はな、高校二年の夏に、海外にボランティアをしに行って、そこで誘拐、レイプされたんだよ」
「っ! 」
言葉に詰まる円。
「そのとき、その犯人との間にできた子供が、円、お前なんだ。俺は当時、思縁と付き合っていて、円が生まれたとき以来、戸籍には入っていないが、円の保護者として今まで一緒に居た」
「ちょっとさ、ひどいよ。こんな話、私、今まで全然知らなかったよ。ただお母さんは睡眠の病なんだって思ってたでも、なにこれ。お母さんはレイプされて、私が生まれて、お母さんはさらに首まで絞められて植物人間になった。お父さんは、そんな血のつながりもしないどころか、お母さんをこんなにした犯人の娘の、私を、父親として今まで育てたってわけ。みんなどうかしてる。私なんて生まれない方がよかったじゃない」
「円ちゃん。落ち着いて。夏之夢も私も、あなたが生まれてくれて本当に良かったと思ってるし、思縁もきっと、生まれる子に罪はないというと思うの。だから、そんな風に自分を責めるようなことはやめて」
「私は落ち着いているよ。でも、でもさ、ああもう。犯人はどうなったの? まだ生きてるの。もしそうなら、私、頭がおかしくなりそう」
「犯人は、警察に見つかって自殺したよ」
「そう、それくらいのことを、犯人はしたわ。そうじゃなきゃ、私、許せない」
「円……」
円のここまで感情的な言動や振る舞いは、初めて見た。どう接すればいいか、俺には分からなかった。とにかく、円を、なだめるようと思っていた。
「もうさ、こんな話、小さい私に話せるわけないもんね。黙っててくれたのは、おばあちゃんやお父さんの優しさだと思うし、そこはありがとう。でも、もう、以前みたいに、家族を、特にお父さんをお父さんとしては見れないよ」
「円ちゃん。よく聞いて。私たちは、円がどんなに苦しい時でも、一緒に居るから。家族として、これからも過ごしたいって思う。だから、夏之夢君のことも、許してあげて」
緑さんは円に懇願する。
「許す、許さないの話じゃない。お父さんは、血のつながらない、彼女にひどいことをした人の子供を、今の今まで育ててきた。本当に、いつも楽しいかどうか聞いてきて、私はちょっと受け答えに飽きてたけど、でも、心の底から愛情をこめて接してくれた。毎日、働いてくれた。私が生まれなければ、犯人がお母さんをあんな目にしなければ、幸せに暮らせたのに」
「円は、悪くないよ。だから、気にしなくていい。これからも、俺は円と一緒に楽しく過ごしたい」
「うん。ありがとう。本当にありがとう。今でも、こんな状態でも、私のことを気使ってくれてる。お父さんは優しいね。それに、本当に私のことを好きでいてくれているんだね。ありがとう」
「なら、もういいんだ。この話は、もう終わりだ。今の俺には、円がいて、思縁がいて、緑さんや歩や穂乃果がいる。もう、俺は幸せなんだ。だから、もう、気にしなくていいからな。新生活、楽しんでくれ」
と俺は言った。もうこれでこの話は終わりだと思った。しかし、
「それはできない。気になるよ。お父さんがいくら自分は幸せだと私に行っても、でも、私から見たお父さんは、これじゃあお父さんは報われないじゃない」
「俺は、幸せだから」
「ああもう、そこが私の中で、納得できないところなの。もういい。これ以上この話をしてもらちがあかないから、私はもう行くわ。それと、お父さん、私、もうお父さんのこと、お父さんて呼ばない。明日から、夏之夢さんて呼ぶから。それと、週末、暇だったら買い物に付き合って」
「分かった。円がそう望むなら、好きにしてくれ」
「うん、そうする。これからよろしく。夏之夢さん」
そうして、円は自室へと行ってしまった。
「円……」
「夏之夢君、いろいろ言われたけど、そんなに気にしないでね。私たちは、私たちで、これからできることをしましょう」
「はい」
これから、円とどう接するか、考えても難しいが、自分なりに誠心誠意行動して、嘘をついていたことを許してもらおうと、俺は考えていた。
思縁を見ると、思縁は安らかに眠っていた。
いつ目覚めるか分からない思縁。データによると植物人間になってから回復する確率は、3%ほどらしい。5年経過で大半の人は死ぬと聞く。もう思縁は15年も寝たままだ。いつか、思縁は目覚めないまま死んでしまうのかもしれない。そんな恐怖が俺を苛んでいた。
だが、この道を進み続ける。円が生まれた日から、俺は確かに、父親になった。自分なりにできることを模索していこうと、思った。




