祭り2 二人の宗教への熱量
「えっとね、まず大前提として、私と穂乃果ちゃんはね、親が神泉の信者だったから、生まれたころから信者だったんだ」
「うん。それで、神泉とやらを抜けようとか、思わないのか。どうして神様をそこまで信じられるんだ」
「それはね、まあこう言っちゃなんだけど、私の場合、死後の世界とかあってほしいなって思ったりしたからかな。私のお母さんがずっと前に山で遭難したんだけど、そこで修験道の人たちに助けてもらってね、こういうのも運命なのかなって思ってお母さんは入信したの。私はね、輪廻転生を信じてるんだ。生まれ変わったらね、神様やそれに近い存在になって、もっと楽しいことしたいし、人助けもしたいって思ってるんだ」
「なんだそれは。思縁、楽しいことをしたり、人助けをするなら、今でもたくさんしているじゃないか」
「えへへ、まあね。でも、それが私の願いかな。私は夏之夢や歩君や、穂乃果ちゃんが、そしてパパもママも好き。みんなと長くいるためにも、神様になりたいのです。えらいでしょ」
と、思縁は笑って言った。とても、まっすぐで、眩しかった。
「そうかやっぱり、改めて思縁ってすげーな。なんていうか、もう本当に神様になれそうな気がする。出来ることなら、言ってくれ。俺も応援するから」
「ありがと」
思縁はいつも、自分のわがままに付き合ってもらっているというが、そうかもしれないが、若干違うと思う。俺は、自分の意志で、思縁の力になりたいと思ってる。思縁には、なにか人を引き付けるような雰囲気があると思った。
次に、
「穂乃果はなんでそこまで神様を信じているんだ? 」
と、穂乃果に問いを投げた。
「私ですか。私は実は、信仰心はほかの方々に比べて、少ないんです」
「少ないのか、ならなぜ神泉をしているんだ」
「私は、なんか、神様に興味がある、というよりも、そこで人助けや修行に励んでいるみんなが好きだから、一緒にいる感じですかね」
「みんなが好きだからか、なんか、思縁の言ったことと似ているような、似ていないような」
「あはは、でもいいんです。私は心臓の病を持っていたころ、もう長くないなって思ったんですけど、残りの時間、どうしようか考えたら、私は私の好きな人と居たいと思ったんです。だから、昔も今も、ここにいます」
「そうなんだ。より長く好きな人と居るために神様を目指す思縁ちゃんと、残りの人生を好きな人と居るために、神様も目指すけど、今を重視する穂乃果ちゃん。似ているけど少し違うんだね」
と、歩は言う。
「まあそんな感じかな。だいたい、私たちのことは分かってもらえたかな」
「ああ、だいたいわかったよ。二人とも、頑張ってくれ」
「うん。私たち、神様になろうね、穂乃果ちゃん」
「はい、思縁さんが望むなら、私も頑張ります」
と、
「難しい話もいいけれど、いったんご飯食べないか。俺、朝抜いてきたからお腹が減ってしまったよ」
どうしても我慢できなくて言ってしまった。我ながら恥ずかしい。
「そうね、屋台もたくさんあるし、見て回ろっか」
……。
「あのたこ焼き、美味しかったあ~」
屋台の裏の隅っこにある、椅子に四人で座ると、思縁は体を伸ばしながら言った。
「たしかに。チョコバナナも美味しかったな」
「いろんなところを見て回ったけれど、いい感じだったね」
「ああ、綺麗だったな。まあ、そろそろ午後になるから、勉強とするか」
「そうだね」
「近くの公民館ならそこまで混んでないと思うし、そこでしようか」
「ああ」
そうして、勉強をしに公民館へ行った。
……。
公民館はそこそこ子供の姿があったが、かまわず二階の応接室へ行き、勉強を始める。
「そういえば」
歩は口を開き、続けて、
「前に勉強会したんだけれど、みんなで将来の夢とか話してたんだ」
「そんな話したね。穂乃果ちゃんはなにか決まっているの? 」
「私は、あまり考えてなかったです。手術に成功する前は、あまり命が長くないと言われていたので」
「そうか。あまり考えてない部分は、俺もだ。俺は、とりあえず法学部を目指しているよ。法律上でやっていいこと、悪いことや、この社会の仕組みを学んだら、自分探しもしやすくなるかなと思って。てのもあるし、現実的には就職もしやすそうだと思ったからだな」
「そうなんですか。確かに、それはよさそうですね。思縁さんと歩さんは、どうなんですか」
「僕は、家業の医者を継ぎたいかな」
「すごいんだぜ、歩、めちゃくちゃ勉強できるから」
「ありがとう。そういってもらえると嬉しいよ」
「私は、旅行のガイドさんとかかな。楽しそうだし。だから、国際系を目指しているよ」
「皆さん、色々と夢があるんですね。夢、かあ」
「まあ、気長に考えなよ。きっと、見つかるって」
と、思縁。
「ありがとうございます。ちょっと考えてみますね」
そうして将来の夢の話は終わり、勉強をした。
歩はまだ習っていない範囲の、高校三年生の使う数学のテキストを鬼のように見ている。
穂乃果は理系に進むみたいで、生物をしながら、時折歩に質問をしていた。
理系コンビは順調。一方。
「夏之夢、ずっと得意な社会ばっかやってないで、たまには他教科もしなさい」
「いや、待ってくれ思縁。これは、長所を伸ばす教育法であってだな」
「あなたには、私と同じ大学に来てほしいの。だから、他の教科、特に英語をなんとかしなさい」
「そんなこと言われてもだな。俺は今、社会がしたいんだ。どっかの神様になりたい人と違って、刹那を生きるんだ。俺は」
「そんなこと知りません。はい、英語」
「うへえ」
思縁は魂の抜けた俺の目の前に、分厚い英語の参考書をどかっと乗っけていた。
同じ部屋で休憩しているおばあさんに、あら、いい夫婦漫才だわね、と言われ、恥ずかしくなりながらも、一足遅れて文系コンビも勉強を始める。
……。
夜になった。思縁と穂乃果の神楽の時間が始まった。