祭り1 始まり
数週間が経ち。祭りの日がやってきた。待ち合わせの神社の入り口に着くと、先に歩は着いていた。
「おはよう、夏之夢君」
「ああ、おはよう、歩」
思縁と穂乃果はすでに階段を上がった境内の中にいるらしい。二人に会うのが楽しみだ。
「じゃあ登ろうか」
「ああ」
……。
「あ、来た来た。穂乃果ちゃん、二人が来たよ」
聞き覚えのある声がして、土産物屋の一角を見ると、思縁と穂乃果がこちらに手を振っていた。二人は巫女服を着ていて、とても綺麗だった。
「わあ、二人とも綺麗だね。すごい」
歩も手を振り返して、二人の元へかけて行く。
「おはよう歩君、夏之夢。よく来てくれたわね」
「ああ、こんなに大きな祭りだとは思いもしなかった。今日はたくさん遊べそうだな」
あたりを見ると、露店や土産物屋があり、人々のにぎわいがあった。
「うん。はやくみんなで露店巡りとか、したいな」
と、歩は言う。
祭りは楽しみだ。けど、一つ心配なこともあった。それは――。
「穂乃果は体の具合、大丈夫か」
「ええ、はい。今日は元気です。息苦しくもなく、体調はいいです。気遣ってもらってありがとございます」
「ああ、それならいいんだ。実は俺も病気だったんだ。最近までだが」
「あら夏之夢、そうだったの」
途端に心配する思縁。
「ああ。まあちょっとな。でも、思縁や、歩、穂乃果やみんなのおかげでだいぶ良くなったよ。去年の11月くらいだっけか。思縁の手作り弁当を食べるために登校したときは、俺は適応障害と言われてて、人とかかわることが億劫だったんだ。中三の時に家族が事故で死んで、それからマスコミに山のように質問されて、他人が怖くなってな。ずっと一人で怖がってた。
でも今はだいぶ、人の中にいても安心して過ごすことができている。これは、思縁たちに、学校に居場所になってもらったことが大きいだろう。そして、思縁にも、こんな俺を受け入れてくれて、付き合ってくれたのも大きい。だから、今度は俺が穂乃果の居場所の一つになりたい、と思う。
「そうなんだ。夏之夢君、大変だったんだね」
歩はいう。
「まあ、今はみんなのおかげで元気だ。だからさ、苦しかったりしたら、俺たちを頼ってくれ、穂乃果。一クラスメイトとして、友人として、そして病人仲間として」
そう俺が言うと
「ありがとうございます」
そう言って、穂乃果は頭を下げた。
「思縁さんから話を聞いていましたが、みなさんいい人ばかりで、本当にうれしいです。思縁さん、いい友達を持ちましたね」
穂乃果は頭を上げ、そう言った。
「ふふん。まあね。みんな、本当に大好き」
思縁も嬉しそうに笑って返した。
……。
立ち話も程々にして、祭りを楽しむこととする。今日の予定は、午前中遊んで、午後は勉強会、夜は神楽を見て帰る。こんなところか。
「さて、行きましょう。夏之夢」
「ああ」
……。
4人で神社を見て回る。
坂の上の一番奥の賽銭箱にいくらか入れて、祈りを込める。
山伏のような恰好をした人もたくさん見えた。
確かに地元では有名な宗教のようで、たくさんの人混みがあった。
思縁と穂乃果は巫女服を着ていて、とても綺麗だった。思縁はいつもの見慣れたツインテールに、華奢な細い体に巫女服が、マニアには受けるのかなとか考えが過ったが、思縁に「あ、今へんなこと考えているでしょ」と勘繰られ、「いや、なんでもない」と慌てて返した。穂乃果は元々高身長でスタイルがよく、外国の人と見舞うほどの目筋の通った顔つきが、本人はあまり似合ってないと謙遜するものの、とても綺麗だった。
俺は思縁や穂乃果を見て、
「俺の家も歩と同じ仏教だけど、あまり宗教には詳しくないな。どうしてそこまで、神様という不確実なものに、そこまで心身を尽くせるのか、教えてくれないか」
ふと、思ったことを口にする。
「僕も仏教徒だけど、確かに、そんなに熱心ではないや。」
歩も続ける。
「そうね、いい機会だし、私たちなりの宗教観だけど、話そうかしら」
こうして、祭りを機に思縁の話が始まった。