新学期
4月。俺はA高校二年生となり、新学期が始まった。
俺たちのクラスは特進で、3年間同じメンバーだ。普通科は文系と理系に分かれたり、商業科もコースごとに分かれるが、俺たちのクラスは文理入り混じって、ホームルームをする。
なので、新学期も変わらない面子だ。
だが、そこに新しいクラスメイトがいた。
「それでは挨拶をどうぞ」
担任が言うと、見慣れない女子生徒は前に出て、
「三田穂乃果です。去年はあまり登校できませんでしたが、心臓の手術も成功したので、こうして来れてよかったです。皆さんとの学生生活が、楽しみです。よろしくお願いします」
と、ピンク色のロングヘアーに、眼鏡を掛けた背の高い少女は言うと、クラスでは拍手が巻き起こった。相変わらず、このクラスは仲がいいなと思った。
三田穂乃果。たしか去年心臓の手術をして、あまり学校には来れていない様子だが、進級できたのは良いことだなと、思った。なにしろ俺も出席日数は危うかったため、お互いに良かったな、などと思っていた。
そういえば、思縁が幼馴染と言っていたっけ。後で、話を聞いてみようと思う。
……。
昼休みになった。思縁、俺、穂乃果、歩で席を合わせて昼食とする。
思縁は相変わらず、祈りを込めている。と、穂乃果さんも思縁と似たように、祈りを込めていた。穂乃果も、思縁と同じ宗教を信じているのだろうか。
「穂乃果ちゃん、今年からよろしくね。僕は石田歩。思縁ちゃんとクラス委員しています」
「歩さんというのですね。よろしくお願いします。ご飯はいつもこのメンバーで食べているのですか」
「うん、まあね。といっても、ご飯は思縁ちゃんに誘ってもらったから、一緒に居させてもらっている、というのが正確なんだけれど」
と、歩は謙遜する。
「いやいや、歩もくんも私たちの大切な仲間だよ。一緒に食べよ」
と思縁はフォローした。
「ありがとう、思縁ちゃん。まあ、そんなわけで、穂乃果ちゃん、よろしくね」
「はい」
歩は気弱そうに笑うと、穂乃果も優しく微笑んだ。
次に、穂乃果はちらりと、俺の方を見て、
「えっと、夏之夢さんですよね。思縁さんから少しだけお話を伺っております。入学式の時に助けてくださった人ですよね。ほんとにありがとうございました」
なんて、ばか丁寧に言うものだから、
「い、いや、あの時はたまたまうずくまってたのを見かねてやっただけだから。そんなに気にしなくていいからね」
「そうですか、でも、思縁さんとは仲がいいんですよね」
「うん、一応、付き合ってるんだ。えっと、穂乃果さん、は思縁と幼馴染なんだよね」
「はい。昔から、同じ神様を信仰していて、父親同士で修業を積んでいたので、一緒にいる時間も多い関係、ですかね」
そういえば、思縁の修行とやらをしているところは見たことがなかった。今度、聞いてみるのもいいだろう。
「そっか。ここら辺だと結構有名なんだよね。思縁から聞いたけど」
「うん。地元で一番大きな山、御山を神様として祀ってるからね」
と、思縁は言う。
「二人は家族同士で御山を信じて、修行とかしているのか」
「はい。私たちも巫女をしたり、修行したりしていますよ」
と、穂乃果も続けた。
「へえ、巫女か。なんだか凄いな。」
「僕の家は仏教だけれど、御山を祀っている人たちのことは知っているよ。神泉っていう人たちで、御山に登ったり、滝に打たれたりしているね」
「歩も知っているのか」
「まあね。そういえば、近々神泉のお祭りがあるよね。春の豊穣を祝うとかの」
「そんなものもあるのか」
「うん、あるよ。私たちは巫女で、神楽を舞う予定なんだ。よかったら見に来る? 」
「それはすごいな。俺も行ってみたいかも」
「穂乃果ちゃんも、当日体調良かったら神楽を披露できるしね」
「穂乃果さんの神楽も楽しみだ。」
「穂乃果でいいですよ、夏之夢さん。私のさん付けは、癖なので気にしないでください。楽しみにしてもらえるなら、私も頑張ります」
と、穂乃果はいうと、
「無理はしないでね」
と思縁は心配げに言い、穂乃果は大丈夫と返して笑った。
「歩もこれそうか? 」
「もちろん。僕も一緒に行きたいな。来年は受験勉強で時間なさそうだし、今のうちに遊びたいな」
「じゃあ、祭り、みんなでいくか。思縁、穂乃果、歩、一緒に楽しもうぜ」
「うん」
そうして、俺たちは祭りに行くことにした。