完結編
どうも帰上空路です
タイトルにもある通りこの作品は前作の続編であり完結編です
それではお楽しみください
金光「ちょっと待った・・・ここに何かがある・・・」
その一言で二人の足がピタリと止まった
章介「・・・どうした?」
金光「今足元になにかぶつかった・・・」
一寸先も見えない暗闇の洞窟で何かにぶつかる、こんな状況でこれ以上恐怖を感じる瞬間はないだろう
章介「何・・・どうする?」
その時だった、辺りから急にガラガラと激しい音をたて、大量の岩が落下してきたのだ、漫画やアニメでしか見たことがないようなあまりにも非現実的なその光景に二人は最初唖然としていたが、その音がだんだんと大きくなるにつれて頭が現状を理解し始めた
金光「おい突っ立てる場合じゃあないぞッ!逃げろッ!」
章介「そっちだって一瞬何が起こったのか分かってなかったじゃあないかッ!クソッ!」
そう言い合う口よりも先に体が動いていた、詳しいわけじゃないがあれはきっと生存本能と言うやつだったんだろうな、あの時だけワシは今までに感じた事のないような速さで走るもんだから、まるで自分が自分ではないような感覚だった
そして気づけば来た道を戻っていた、二人が加工して鍾乳石の破片を見たとき、言いようのない不安がワシを襲った、今思えば「またここに戻ってきてしまった」というがっかり感から来たものだろう
しかしそんな不安にいちいち構っている暇はなかった、なぜならもっと気に掛けなくちゃいけないものに気づいてしまったからだ
ワシは金光を見失ってしまった
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健一「えぇーッ!?」
ゆっくりと布団の温かみを感じながら昔の記憶に思いを馳せ、感傷に浸っていた章介だったが、健一の急な大声によって現実へと引き戻されてしまった
章介「健一よ、この病室はワシ一人しかいないからよかったものの、病院では静かにしないとダメだろう?」
健一「うぅ・・・だってさぁ・・・」
そう言いながら健一は、ばつの悪そうな顔をしながらベッドのシーツを弱々しくしく握りしめた
章介「まぁ気持ちは分かるぞ?ワシも最初気づいたときはショックだった、心細いったらありゃしない」
そして健一はその複雑な気持ちを誤魔化すために、新しいお菓子を食べようと机の引き出しを開けようとしたその瞬間だった、章介が今までに見たことのない恐ろしい速度で健一の腕を掴んだ
子供が少し力を入れたらすぐに折れてしまいそうな見た目からはとても想像もできない力で掴まれるというのは健一にとって初めての経験であり、恐怖より驚きの感情が勝っていた
章介「どうした?」
現状からはありえないほど優しい声で章介が話しかけてくる、しかしその声色からは微弱ながらも殺気のようなものも感じとれた
健一「いや・・・お菓子のおかわりを食べようとして・・・」
章介「・・・」
お互い気まずい空気が流れる、その瞬間が5秒ほどたった後、章介は手をゆっくりと健一の腕から放し、上から二番目の引き出しを開け、そこからチョコパイを取り出した
章介「これでいいかな?」
健一「うん・・・ありがと・・・」
章介「では続きだ」
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唯一の親友を見失ったというのになぜかこころは穏やかだった、深いショックとか絶望とかはまったく感じられなかったし、これからなにをするのかもわかっていた
恐らくその時のワシの顔は無表情だったろう
そうしてゆっくりと足を前へ運び、崩落があった場所に戻ってきた
だがその光景は変わっていた、わずかな岩の隙間から外の光が降り注いでいた
ワシは無意識に光の先を追った、そして見つけた
光の終着点は一つの白骨だった
その白骨は光に包まれながら、ただ静かにもたれかかっており、それを見た人全員の警戒心をとくような、神々しい見た目をしていた
章介「金光の足元にぶつかったのはこれか・・・」
そしてワシの心に金光を失ったという悲しみが涙とともにあふれてきた、金光は絶対どこかで生きていると信じようとしても、こころのどこかで死んでいるかもしれないという考えがどうしても拭えない、この複雑な心情に、もしこの物語がアニメや映画だったら今ごろ感動的なBGMが流れているだろう
しかし悲しんだからといって金光が戻ってきたり、ここを脱出できるわけではない、ワシは自分にそう言い聞かせて、光の差し込まれる所を見た
高さは約5メートルといったところか、よじ登るという手もあるが、さっき崩落があった場所に命を預けるというのはどう考えても賢いやり方ではない
まず最初に岩を積み木のように配置して階段のような物を作ったらどうだろうか?と考えた、しかし道具や知識が何もない状態でそんなことをするのはよじ登ることよりも危険だし、そもそも岩を動かすような力がないという考えに直面した
次に大声で叫ぶことで近くを通りかっかた人に気づいてもらうというのも考えたが、思いついた次の瞬間に愚かな作戦だと思った
思いつくアイデアを全て自分で否定してしまう、こんなむなしいことはない
気づけば視界がもうろうとして来た、手の指が何重にもぶれるはじめ、足に力が入らない
ワシはここまで来てとうとう死ぬのかと悟り、覚悟を決めた
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健一「でもじいちゃん死んでないじゃん」
章介「そうだな、ワシは生きている、でもな?あの時は本当に死ぬと思ったものだよ」
健一「それにもっと言えば金光って人もさっきのじいちゃんの口ぶりからして生きてるんでしょ?」
章介「健一や、『生きている』という定義は人によって変わってくるもんだよ」
その時、病室の外から二人分の話し声と足音が聞こえてきた
???「まったく急にいなくなって・・・」
???「まぁ、行くところが分かっているんだがらまだいい方と思いましょ」
その声を聞いた健一は「やべっ!」と言いながら章介のベッドの下に急いで隠れようとしたが全身が隠れる寸前で見つかってしまった
???「こら健一!またおじいちゃんに迷惑かけちゃだめでしょ!」
???「ははっ、どうもお義父さん、すみません」
章介「はっはっは、いいんだよ小六君、子供は少しヤンチャなくらいがちょうどいい」
小六「まぁそうですよね」
章介「それに星奈も、ワシは迷惑なんてちっとも思ってないぞ?」
星奈「お父さんがそうやって健一を甘やかすから・・・」
小六「さ、健一ももう帰ろうか、おじいちゃんに十分お世話になっただろう」
健一「えぇ~?じゃあ分かった、このおせんべいだけ食べてからね」
そう言いながら健一は自分の顔ほどもある大きな煎餅を取り出した
星奈「まったく・・・じゃあお父さん、私たちはお昼ご飯食べてくるから、あとちょっとだけよろしくね」
章介「分かった、ワシに任せなさい」
小六「じゃあ行こうか」
星奈「うん」
二人の夫婦が病室を出ていく間に、健一はバリボリと大きな音を立てながら煎餅をむさぼっていた
章介「それじゃあここからが話のクライマックスだ」
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覚悟を決めたワシは目をそっと閉じ、死ぬのを待った
しかしどれだけ待っても意識を失うどころか、感覚が研ぎ澄まされ、遠くに滴る水の音まで聞こえ始めた
そして慣れ親しんだあの足音も
章介「金光ッ!」
その足音が聞こえた瞬間にワシは目を開け、その足音の主を見つめた
見えたのは確かに金光だったが、親友のワシでも一瞬分からないほど・・・
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急に声が止まり、話半分に聞いていた健一が異変に気付く
健一「・・・じいちゃん?どうしたの?」
見てみると章介は目から涙が流れていた
章介「あぁ・・・すまない、あの時の光景を思い出したら急に涙が・・・」
健一「・・・大丈夫?」
章介「あぁ、大丈夫だ、続けよう」
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一瞬分からなくなるほど顔が変形していた
左の瞼が大きく腫れあがり、鼻は曲がり、唇には直視できないほどの大きな切り傷があった
金光「よう・・・章介」
章介「金光・・・なんで・・・」
金光「章介、俺たちの体はもう限界だ、体力的にも、精神的にもな」
章介「何だ・・・なんの話をしているんだ・・・」
めったに見ない金光の真面目な顔、それをみたワシは事の重大さをやっと理解した
金光「時間がない、端的に言うぞ」
そう言いながら金光はポケットから手のひら程の白い物体を取り出し、ワシの手に握らせた
章介「・・・これは?」
金光「オレの骨だ」
章介「・・・はぁ!?」
何を言っているのか分からなかった、そりゃあそうだろう、急に変なものを渡されて『これは何だ?』と聞いたら『自分の骨だ』なんて言われたら誰だって分からなくなる
金光「こんな状況でも大人になって何年何十年も経てばいい思い出となるだろう、その時はお前の子供とか孫にでも話してやってくれ」
章介「おい待てよッ!話が見えないぞッ!」
そう必死に訴えても金光は話をやめなかった
金光「じゃあな、オレの唯一の親友よ」
その言葉を言い終えた瞬間だった、金光は拳を握りしめ、ありったけの力でワシの頭をめがけて殴った
殴られた瞬間、視界が一瞬にして消え、それまで感じていた疲労感や空腹感が一気に消え去った
そうして大きな柳の木の下で目が覚めた、洞窟に落ちる前はただ蒸し暑かった夏の空気は、涼しい風が吹き抜ける秋の空気に変わり、柳が「どうしたの?」と問いかけるように揺れていた
ワシが横になりながら涼しい空気を肺がいっぱいになるまで吸い込むと、なぜか涙があふれるように出てきた
立ち上がろうと体を起こすとお尻にチクッと痛みがした
何打だと思い、尻ポケットを探るとあの骨があった
それを見ると、また涙があふれ出てきた
体を起こすとすぐに家に帰り、母さん・・・つまり健一のひいおばあちゃんに聞いてみた
章介「母さんッ!金光はどこッ!」
そう聞くと母さんは予想外のな言葉を言った
母「・・・え?金光って誰?」
当時のワシにとって一番聞きたくなかった言葉だったからか、ワシは聞いた瞬間からしばらく放心状態になってしまった
母「金光って・・・お金に光るって書いて金光?」
母さんの頑張って思い出そうをしてくれているその優しさも感じることは出来なかった
次の瞬間、ワシはボロボロの体で骨を握りしめ、若干泣きそうになりながら金光の家に向かって走りだした
母さんが忘れてしまっていただけだと、そうやって自分に無理矢理言い聞かせ、その事実を確認するために走り続けた
そしてワシは疑いようもない圧倒的な事実を目の前にした
章介「なんで・・・どうしてだよぉ・・・」
金光の家があった場所には一本の大木が立っていて、その根元には一つの見事に輝く鏡が置いてあっただけだった
章介「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
その大木と鏡はまるで『何年もここにいますけど何か?』と感じさせる風貌が漂っていた
ワシは多分この一瞬だけ心が死んでいた
その死んだ心で鏡に近づき、覗き込んだ
鏡に映る自分の顔は、この世の全てに絶望してしまったような顔をしていた
あの洞窟は何だったのか、金光と過ごしていたあの日々は何だったのか、まず金光とは一体誰だったのか
考えても仕方のないことだが、あの思い出だけは現実であったと信じたい
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章介「・・・ってな感じで話はおしまいだ」
健一「へぇ~・・・それで結局どうなったの?」
章介「その後か?ただ家に帰ってそれまでだよ、もしかしたら金光を知っている人間はこの世でワシしかいないのかもしれない」
健一「これってさ、ハッピーエンドなの?バッドエンドなの?」
章介「んん~難しいな、『洞窟から出れてよかったね』と考えるんだったらハッピーエンドだし、『親友がいなくなって残念だね』と考えるんだったらバッドエンドかもしれない、健一はどう思う?」
健一「・・・分かんない!」
章介「はっはっは!そうかそうか」
その時、ドアがガラガラと開き、星奈と小六の二人が現れた
星奈「それじゃあそろそろ帰ろうか、お父さんもごめんね」
小六「どうだ健一、おじいちゃんの話は面白かったか?」
健一「うん!じゃあまたね」
章介「はいよ、いつでも来ていいからな」
三人の姿がドアの向こうに行ったとき、章介は「ふぅ・・・」と一息つき、机の一番上の引き出しを開け、そこから例の骨を取り出した
章介「金光・・・これでまた一つ約束を果たしたぞ」
そう言い終わった瞬間、急に鼻の先端が熱くなり、目から何度目かわからない涙が出てきた
章介「お前は今・・・どこにいるんだ・・・」
ご覧くださってありがとうございます
僕って結構感情移入しちゃうタイプなので、物語の登場人物に合わせて文章を書きながら結構泣いちゃってます、だから自分で時々「なんでこんな筋書きにしちゃったんだろう」とか思ってるんですよね
何かの間違いでこの小説が映画とかドラマとかで実写化したら、最後のシーンに中島みゆきさんの「糸」が流れてほしいです
それではまた何らかの機会にお会いしましょう