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プロローグ?

6/16 にて新プロローグを追加しました。

 一人の少女が戦っていた。

 いや、それは最早戦いと呼べるような代物ではないのかもしれない。

 何故なら、少女が戦っている相手とは即ち、今眼前に見える地平線の全てを大地と言わず、空をも埋め尽くす異形の怪物達なのだから。

 それは正しく、たった一人対無限にも見える異形達との戦争であった―――――――


 よく見れば少女は非常に美しい容姿を、いや、その幼さを鑑みれば可愛らしいと表現するべき顔立ちをしている。まるで女神、いや、戦乙女と、そう表現するべき方が正しいだろう。

 腰元まで流れる銀色の髪はサラサラと空を舞い、その蒼穹の如き瞳は決死の炎を孕んで前を向いている。その瞳は今は釣り上がっているが、常ならばきっと穏やかなものなのだろうか? 頬は戦闘の名残か、赤く色付きその容姿にそっと艶を添えている。身長は恐らく130cmあるかどうか、全身を覆う白銀の鎧から垣間見える肌は白く滑らかだ。

 その手には薄青色に輝く剣を握り締め、もう片方には白銀に輝く盾を持っている。

 容姿から考えられないほどの覇気を纏って、少女は一人異形が埋め尽くす荒野で戦っていた―――――――



 その瞳に揺らぐことのない信念の炎を抱いて、少女は只管に目の前に聳え立つ異形達を斬り捨てて行く。

 少女がその小さな手に握り締めた剣を一振りする度、まるで見えない斬撃に斬り飛ばされるかのように無数の異形達が大地に沈んでいった。

 本来なら白亜の城にて愛らしいドレスと共に、これまた愛らしい声で歌を唄う……そんな姿こそが似合うであろう可憐な唇が動くたび、空から数え切れない雷撃が、大地を舐めるかのように這う炎の津波が、氷の世界すら幻視せざるをえない吹雪が、神の手と呼ばれる最大レベルの竜巻が、絶え間なく発生していく。

 誰が知ろうか? その一つ一つの不思議な現象が、“魔法”と呼ばれる技術で、尚且つその魔法一発一発が並の魔法使い一人分、その魔力量の最大値に匹敵する消耗だということを。

 誰が知ろうか? その剣から放たれる剣技が、剣聖と謳われた人物が生涯終ぞ辿り着けぬ領域であることを。


 それでも少女は決して無敵ではなかった。

 数の暴力の前にこれ程の善戦、奇跡と評して如何程の違いがあろうか? ああ、ああ……それでもやはり少女は生身のからだなのである、その身は決して無敵ではないのだ。

 まるで恐怖をという感情がないと言わんばかりのような異形達の行進、その最前線で戦い続ける女神の如き美しい少女の肢体は、鎧や盾で守られている。

 しかし、よく見ればその鎧や盾には防げなかった一撃が、魔法が、その恐ろしいまでの爪や牙の後が無数に散っているではないか。

 当初は恐らく目を瞑ってしまいたくなるほどに、光り輝いていたであろう武具。

 数え切れない程の攻撃を浴びてなお、その武具達は未だ少女を守り続けていた。


 その姿はまるで悪漢から主人を守る忠犬のようである。

 誰が知ろうか? その武器と言わず防具全てが意思ある伝説の武具であるのだと。

 誰が知ろうか? その強度は無類の硬度を誇るものの、これだけの兇刃を前に、いつ破損しても可笑しくないという事実を、そしてそれを武具達の意思が、忠誠が、その魂の輝きが奇跡的に覆しているのだと。

 少女の魂の叫びに答えるかのように躍動する、歴史に埋もれし伝説の武具達。

 それ程の繋がり、その幼き少女は一体どれほど過酷な道をこれまで、そしてこれからも歩んでいく行くのだろうか?

 

  

 気づけば少女の周囲は明るかった空が沈み、降魔が時と呼ばれる時間に差し掛かろうとしていた。

 一体どれほどの時間戦い続けているのか? それを知る術は今はない。

 が、これよりは魔が蔓延りし時間。これから先の戦いは、先の戦闘の非では恐らくないだろう。

 

 少女のその美しきかんばせに焦りはない。その表情はあくまで凛々しく気高かった。まるで勝利を確信しているかの如く……。

 一体如何程の事情があればこんな荒れ果てた荒野で一人、まるで世界の終焉を具現化したかのようなこの地で、戦い続けることができるのだろうか?

 その瞳に揺ぎ無い決意を秘め、その小さなからだに似つかわしくない力で、少女は己の持てる力、その全力で異形の群れに挑んでいく。まるで、それが自身の役目であるかのように、敬虔なクリスチャンが神からの啓示を遂行するかのように……。

 その夕日に照らされた姿はまるで、聖戦ジハドを切り取って描いたかのようで、ああ――――――気高くも悲しく、そしてなんて美しいのだろうか、そう感じずにはいられないものであった。




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