17話 エリナとの日常 後編
一週間近くぶりの更新……。
お詫びというか、文字数が今回は4500オーバーと少し多いです。
それと今話は、背景描写が殆どカットされています(字数が増えすぎちゃうので)
今俺たちは中央区にある遊園地に来ている。
規模はかなり大きく、この緋色坂の名所の一つと言っても決して過言ではないだろう。
二階で外向き用の衣服に着替えた俺は(黒を基準としたややカジュアルな格好とでも思ってくれ)外に出るのと同時、恵理奈にどこか行きたいところはあるのか? と聞いたところ、中央区にある遊園地、通称「ツァラトゥストラ」に行きたいと返事が返ってきたのだ。
今日は夜まで姫君の忠実な騎士であると誓ったばかりの俺に否などある筈もなく、こうして高速型モノレールに乗ってツァラトゥストラまで来たわけだ。
因みに恵理奈の格好は夏らしいやや涼しげな装いで、薄ピンク色の膝まであるフリルとリボンが嫌味にならない程度にあしらわれたワンピース、日傘の代わりか同じく薄ピンク色と赤色のリボンが付いた可愛らしい帽子を被っている。
入園口にある窓口でフリーパスを購入する。
恵理奈に早く! と、腕を引っ張られながら入り口から入場して行く。
中は平日のせいか思ったより人は少なく、この様子なら乗り物の順番で並ぶといったことは少なさそうだ。
さて「先ず何に乗る?」と、取り敢えずご希望を伺ってみた。
すると、「それならあれに乗りたいです、お兄様」という答えと共に、恵理奈が一方に指を指した。
その先を見て思わず、口元が引き攣ってしまったのは仕方のないことだろう。
視線の先にあるもの、それはこの遊園地での名物である「ドラゴンコースター」であった。
日本のジェットコースターの中でも5指に間違いなく、距離、速さ、恐怖の3点でランクインする乗り物である。
「え、恵理奈? ほら、もっと優雅な乗り物だってあるんだよ? 二人でコーヒーカップとか……」
「いえ、私はあのジェットコースターに乗りたいのです。駄目でしょうか……?」
俺の台詞に間髪入れずに返事し、尚且つ上目遣いにうるうると俺の心に訴えてくる。
俺はこの時程こうおもったことはなかった、女は卑怯だ――――と。
30分後
「お、お兄様? 大丈夫ですか? ジェットコースターが苦手でしたら一言仰って下さればよろしかったですのに……」
「うっ……ぷ…。いや、大丈夫だ。ははっ、我が義妹様の御希望だしな、断る訳がないだろう」
やや、仰々しくも心配気な恵理奈に答える。
結局俺と恵理奈は「ドラゴンコースター」に都合3回も乗る羽目となった。
一回目はポーカーフェイスでなんとか乗り切り。
二回目で容易くその仮面が崩れ、顔面蒼白。恵理奈は両腕を万歳の形で此方に気付いてはいなかったようだが……。
三回目で遂に限界突破。俺は「ひぃぃぃいいいいぃいいいい!!」と、恥も何もかも捨てて情けなく絶叫。
そこで恵理奈が俺の異常に漸く気付いて、今に至るって訳だ。
因みに恵理奈は三回とも全て嬉しそうに、且つ楽しそうに「ドラゴンコースター」を満喫していた。
「ドラゴンコースター」の乗り場から降り、建物の入り口にある受付らしき場所を通ろうとした瞬間。
「あっ、お客様? 宜しければ写真を一枚如何ですか?」
と、声をかけられた。
声の主の受付嬢の話を聞くに、どうやらジェットコースターの途中にある通過ポイントで、自動的に古きよき紙媒体の写真が撮られる仕組みらしい。
それを一枚如何でしょうか? ということらしかった。
「俺はどっちでもいいのだが、恵理奈はどうだ? 折角来たのだし、一枚くらい買っておいても損はないと思うけど」
「うーん……。ですね。折角ですから、1枚と言わず2枚欲しいです! お兄様とお揃いなら尚いいのですが」
「それでしたら、販売されている写真立てと御一緒に御購入なさっては如何でしょうか?」
恵理奈の言葉に受付嬢がにこやかに勧めてくる。
それが仕事ってのもあるのだろうが、どうもその笑顔から察するに心根が元からおおらかな気質であるのだろう。
「それならすみませんけど、どんな写真があるのか見せてもらってよろしいでしょうか?」
「はい、それではどうぞ此方へ」
―――――結局、2箇所で撮影らしく、3回さっき乗ったから。つまり計6枚の中から選ぶことになり。
恵理奈が選らんだのはよりによって3回目、つまり俺が見も蓋もなく絶叫していた時のものであった。
写真の中身も恵理奈は笑顔で、俺は顔面蒼白の情けない姿である。
荷物になるからと、退園時に受け取ることにして俺たちはその場所を後にしたのだが。
受付嬢のあのややお気の毒様、といった何とも言えない顔が俺の脳裏に焼きついていた。
それから俺たちは幾つもの乗り物に乗った。
俺の希望であったコーヒーカップは勿論、立体ホログラフを利用したお化け屋敷(建物その物がホログラフ映像だという、とんでもないものだった)
ミラーハウス型迷宮(鏡の一部がホログラフを利用したもので、見分けるコツが大変だった。しかも一部の鏡に映る自分がいきなり動き出したのには本当にびっくりした)
他にも恵理奈が乗りたがったのはスペースシャトル、という名前の絶叫マシーン(地上数百メートルから地面まで一気に降下する)
これは流石に辞退したのだが……。
代わりにアマゾン大冒険なるアトラクションに付き合わされる羽目になったのだが、このアクション、イカダ型の小船に乗って密林を再現した建物を巡るのだが、水飛沫で恵理奈の胸元が透けて思わず顔が赤くなってしまい、恵理奈に心配されるという嬉しいのか嬉しくないのか、微妙なハプニングがあった。
途中昼過ぎのあたりで昼食をとったのだが、(遊園地内に設置されたレストラン)そこでもまたちょっとしたイベントがあった。
恵理奈は結構な甘党なのだが、ここ限定のスペシャルパフェなるものに興味を示し、頼んだのだ。
んで、何を勘違いしたのか店員がスプーンを二つ用意。
恵理奈は何を想像したのか顔を紅くするし。
まぁ、頼んだパフェが結構な量で、恵理奈一人じゃ食べきれないだろうから結局俺も手伝う羽目になったんだが……。
(その時、周囲からは美男美女のカップルだと思われていたことは本人達の与り知らぬことである)
その後も多数の乗りものに乗ったのだが割愛させてもらう、俺の恥晒しになりそうだし。
気付けばもう時刻は17時半を過ぎており、8月だからか周囲こそ未だ明るいが、遠い彼方には茜色の空が見え隠れしている。
「そろそろ最後にしよう恵理奈。最後に乗りたい乗り物はあるか?」
そう恵理奈に質問すると、何やらうむむむ! と頭を捻って思考モードに移行してしまった。
思えば今の姿もそうなのだが、今日一日どうも恵理奈らしからぬ仕草や言葉が目立っていた気がする。
恐らく滅多にこない場所にきて、珍しくはしゃいでしまったのかもしれない。
今だってうんうん唸っている恵理奈の脳内ではきっと、様々な乗りたい乗り物が列挙されていて、それを選ぶのに夢中になっていることだろう。
暫時して、漸く決まったのか、顔上げその口を開いた――――
「んで、その結果。日本でも有数の大きさを誇り、このツァラトゥストラでも名物の観覧車に来ています、と」
「お兄様? 行き成り如何なさいましたか?」
「んや、なんでもないよ」
そう、結局恵理奈が選らんだのはある意味普通で、でもきっと最後を締めくくるのなら最もお似合いであろう選択肢、観覧車を選んだのだ。
勿論俺に否もなく、早速観覧車の乗り場に行ったのだが。
今までは並んでも1~3分だったのに、流石はツァラトゥストラでも名物なだけあって、10分近く並ばされてしまった。
まぁ、それでもこうして無事乗ることができたのだが。
昔の観覧車と違い、強風程度では揺れさえもしない設計のお陰で、安心して誰でも乗ることが出来る。
そして、この観覧車の最大の特徴と言えば――――
「前に来たときにも思いましたけど、やっぱり凄いですよねお兄様。イス以外全てがガラス張りなんて……360度外が見放題ですよ?」
「ああ、この観覧車の設計した人……名前は忘れたが、確か有名な賞を受賞していた筈だしな。しかもこのガラス、光の加減で色味が変わるなんていう洒落た細工までしてあるらしい」
恵理奈が言ったとおり、この観覧車最大の特徴はこのイス以外が全面ガラス張りのつくりと言えるだろう。
特殊な加工に材料で作られたガラスは、強化ガラス以上の強度、不思議な色合いを持ち光の加減や覗き込む加減で様々な色合いを見せる万華鏡である。
夜には観覧車を支える支柱自体が様々な色に発光し、その光で乗っている中が不思議な色に染まるという、日本でもここだけの特殊な観覧車らしい。
まだ完全に日は沈んでいない為、残念ながら支柱自体の発光はないが、その代わりにじょじょに深くなっていく茜色が俺たちの乗っている観覧車を染め上げており、これはこれで綺麗なものである。
俺も恵理奈も、言葉を交わさず、只この美しい景色をずっと眺めていた――――
観覧車に乗った後。
「ドラゴンコースター」の写真を写真立てと一緒に受け取り、俺達は帰路についていた。
時刻は既に18時をとっくに過ぎ去っている。
観覧車に乗ったときはまだ青空が見えていたが、今では完全に世界は茜色に染まっている。
モノレール乗り場に行く途中、俺の前を嬉しそうに歩いていた恵理奈が突然こちらを振り返った。
「お兄様、今日は私の我が儘に付き合ってくれて有り難う御座います。久しぶりだったから、本当に嬉しかった……今度はきっと私がお兄様を楽しませてみせますから!」
「何生意気言ってるんだよ。恵理奈は俺の義妹なんだから、好きなだけ俺に甘えてればいいんだよ」
そう言って恵理奈の頭を少し乱暴に撫でてやる。
「―――…………義妹としてじゃなくて……になりたいのに……」
「ん? 何か言ったか?」
囁くように何かを言ったように聞こえたのだが、その口元は残念ながら夕日に照らされて窺い知ることは出来なかった。
なので、質問したのだが、返事は「ううん。何も言ってないよ?」という、簡素なものであった。
俺の気のせいだったのだろうか?
その聞こえた気がする言葉に込められた感情。
それが何やらもの悲しげなような気がしたのだが……。
再び前を向き、歩き出す恵理奈。その背中が何だかとても遠く見えて、俺は思わず駆け出すとその背中をぎゅっと抱きしめていた。
恵理奈が慌てた様に暴れるが、時間があるときは筋トレや、袋竹刀での素振りをしている俺との力差は歴然である。
そのささやかな抵抗を無視し、得も言えぬ不安を掻き消すようにより力強く抱きすくめた。
やがて、恵理奈の抵抗も無くなり、それなりの力で抱きしめているから痛いだろうに、俺にされるがままにしている。
暫時の間そうした後、俺はゆっくりとその華奢な躯を離した。
「悪かった。痛かっただろう?」
「……ううん。大丈夫、それどころか嬉しかったよ」
「そっか……」
今度は二人で手を繋いで歩いていく。
夕日に照らされた俺と恵理奈。
手を繋ぐことなんてよくあるのに、なんだか照れ臭い。
気恥ずかしさを隠すため、握った手に力を込めると、恵理奈が驚いたようにこちらを向いた。
それも一瞬で、直ぐに葩のような笑みを浮かべ、恵理奈も先ほどより強く手を握り返してくれる。
夕日に照らされた俺達の影は、少しお互いが離れていながらも、その手だけはしっかりと握り締められていた――――
後書きぽいもの
これで取り敢えず日常編はいったん終了です。
次話からは再びゲーム内でのお話になる予定です。
最近更新速度ガタガタだなぁ、と思い始めた作者ですw
なんとか2~3日に1話の更新にはもっていきたいところです……。
あっ、感想を送って下さる時、一緒にここって伏線ですか? と書いてくだされば伏線の内容はともかく、それが伏線なのか答えたいと思うので、是非送って下さい。メッセでも受け付けます。
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