13話
PVが2万・ユニークが3500を超えました。有難う御座います。
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そっと、名前すら知らない少女に気づかれないに近づいていく。
やがて、よりはっきりとその姿が見える距離まで近づくと、その容姿が殊更整っていることに改めて驚かされる。
整形が当たり前のように行える現代において、顔の美醜は昔程差がないと言えるだろう。
勿論、整形するにはそこそこのお金はかかるのだが、それにしたって昔に比べたら大した額ではない。
それに昔よりずっと短時間かつ、自由度の高い整形が可能である。
つまり、何が言いたいのかというと。
俺には今目の前で一生懸命に腕の伸ばしている少女が、整形によって得た容姿であるのか、その判別がつかないのである。
(まぁ、成長過程にある年齢で整形なんてアホすぎてやるやつなんてそう多くはないんだけどな)
さて、少女が取りたいであろう本に手を伸ばすとしようか。
いかし、その題名を見て思わず声を出したのがまずかった。
「シュバルツシルト半径の求め方……?」
「だ、誰ですか!?」
少女が驚いた声をあげてこちらを振り向く。
ただし。その表情はやっぱり無表情なのだが。
どうやらバレてしまったらしい。
まぁ真後ろでいきなり自身が取ろうとしていた本。
その題名を呟かれれば当たり前といっちゃ当たり前なのだが。
取り敢えず、本を手に取ると少女に渡そうと手を伸ばす。
「ほい、これだろ? 君がさっきから取ろうとしていた本」
手渡そうとした瞬間、俺は硬直した。
どこかの誰かを彷彿とさせる台詞をいただいた為だ。
「お礼はいいません。ロリコン野郎のペド野郎! と推察します。どうせ親切に託けて、おじさんと良い事でもしないかい? とか言うつもりだったんですよね」
そして理解する、ああ……毒舌娘と同類か、と。
しかも俺が硬直している間に、どうやらちゃっかり本まで受け取っている始末。
さて、どうすれば誤解を解けるだろうか?
① 誠心誠意自身がロリコンではないと説明する。
② 下心ありありでした、と暴露する。
③ 本を取ってあげた理由を脚色付きで話す。
④ ポケットに忍ばせた薬品をハンケチに染み込ませ、嗅がせた後。お持ち帰りする。
⇒③ しかないだろ。つーか、2と4とかあり得ないから。
無茶振りにも程があるつーの。
「まぁ、話を聞いてくれ。俺は別にロリコンでもペドフィリアでもない。只、本を買いにきたら君が一生懸命に手を伸ばしている姿を見つけてね。見てみぬふりをするのも目覚めが悪いし、それならと。君が取りたいであろう本を、俺が代わりに取ってあげたんだ。それに、俺はおじさんじゃない。外見だってそうは見えないだろうに……」
「何やら一部誤魔化されているような気もしますが、まぁいいです。貴方が随分なお人好しであるのは理解できました。それとおじさんの件ですが、いつもならコンタクトレンズないしメガネをつけているのです。今日は家に忘れてしまって、貴方の顔も少しぼやけているくらいなんです」
まぁ、完全に信用された訳じゃないだろうが。
取り敢えず俺がロリコンではない、ということは信じてくれたようだ。
さて、それじゃあそろそろ俺も本を探さないとな。
「んじゃ、俺はもう行くから。帰りには気をつけるんだぞ? 今は昔と違って誘拐なんて殆どおきないだろうが、それでも君みたいな小さくて可愛い子が歩いていい時間じゃない。本当なら家まで送ってやりたいところだが生憎、俺も本を探したいんでね。すまないが送ってはやれそうにない」
俺は少女の頭に手を乗せると、そのさわり心地の良い髪を軽く撫でてやる。
何やら「……アホですね……」と、囁かれた気もするが気にしない。
小さくて聞き取れなかったが、何やら呟いた少女に別れを告げると、俺は小説探しに戻っていった。
結局15分程探したが、目新しい物はなく。
少々気落ちしながら帰宅することになった。
玄関にたどり着けば、自動で生体認証によりドアの鍵が開く。
「ただいまー」と思わず声を張り上げるが、俺以外はいないんだけどな。
癖ていうのは中々にとれないものなのである。
リビングに向かい、テレビの電源を入れる。
表示された時刻に目を向けると、23:23分。どうやら思ったより時間が経っていたらしい。
テレビをつけたまま、キッチンに向かい冷蔵庫からペットボトルを取り出す。
因みに名前は『マグマゴーラ』だ、特徴的な辛味と炭酸が眠気を吹き飛ばしてくれる。
さて、特にやることもないし今日はもう寝るとするか。
俺はペットボトルを捨て、テレビの電源を落とす。
リビングの電気も落とし、2階の自室に引きあげる為階段に向かう。
階段を上り、自室のドアを開け、電気をつける。
外着を脱ぎ、畳んで机におく。
明日洗濯機にでも放り込もう。
そして箪笥から夜着というか、パジャマを取り出す。
色は黒一色で、他に何もプリントされていない。
夜にこれを着ると、相手が見えないという優れものである。
着替えを済ませると、電気を消しベットに潜り込む。
思っていたよりも疲れていたのか、自身でも気が付かないうちに何時の間にか眠りへと落ちていった。
………?
…………?
ここはどこだ?
気が付けば周囲全てが闇に包まれた空間に、俺は一人突っ立ていた。
――――――『これは夢。遠い、遠い昔の夢。現とマヨイガの境界で、泡沫の泡となりて浮かび上がった一粒の夢』
夢? 確かに俺はベットに入って、眠り落ちた筈である。
なら、今見ているこれは夢なのだろうか?
このやけに感触すら生々しいこれが?
――――――『そう、これは夢。遠い、遠い昔の夢。一人の男と。一人の女。英雄と、信仰されし者の物語。今は無き忘れさられた此処ではない何処かの地の物語』
女性の声だ、先ほどから頭に響く声の正体は。
どこか悲しげに、でも歓喜も滲ませて。
どこか儚くて、でも力強い印象で。
どこか幼くて、でも弱弱しくはなくて。
その声を聞くと、何故か胸を掻き毟るかのように切なくなる。
―――『どうか忘れないで……彼と彼女の物語。私と彼の物語。――――とオルフェウスの物語。現とマヨイガの境界で、泡沫の泡の一つとして浮かんだこの物語を……』
彼女は俺に語りかける、一人の物語(人生)を。
それはきっと遠い昔、此処とは違う何処かの地で、名前を聞き取れない彼女と彼のお話し……。
再び沈んでいく意識。
彼女の名前を聞きたいのに、この胸の切なさを知りたいのに。
声は出なくて、意識が消えていく。
じょじょに薄れていく意識の中で、どこか儚げな声が俺の名前を呼んだ気がした。
後書きぽいもの
とっても判りやすい伏線です。他の伏線とも絡んでいきます。
メッセで有難くもこんな駄文にアドバイス、ご指摘をいただいたので、時間が取れ次第一部改定、修正作業を行いたいと思います。
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