11話
暫く日常編続きます。
今回は主人公だけなのでちょっと寂しいですね。
6/21 指摘により、感嘆符・三点リーダを修正しました
「ふぅ……。随分と汗をかいているな、飯の前に風呂に入るべきか?」
現実に戻って来て考えること、と問われれば大多数が風呂と答えるだろう。
何故ならそれは体内に流れる微弱な電気信号を利用して作動している、バーチャル・リアリティ・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム通称VRMMORPGは、その世界で感じている運動や行動こそ現実に反映はされはしないが、誤認という形でしばしば現実に一部の現象が投影される。
汗もその一つで、実際に運動をしていなくても脳が運動をしていると感じ、発汗を促すらしい。
らしい、と言うのは知り合いから聞いた話なので俺がそのことに関して詳しい訳じゃないからだ。
寝転がっているベッドの横、勉強机の上に置いてあるデジタル時計に目を向ければ、そこには19:56分と表示されている。
俺は神々の黄昏専用フルフェイス型接続機を頭から外し、机に置くと自室を後にした。
向かうのは一階の脱衣所、つまり風呂だ。
やや急勾配気味な、部屋の横にある階段を降り、リビングから玄関通路に向かう。
途中キッチンに寄ってペットボトル一本(トマトサイダーとか言う不気味な飲み物)を取って、一息ついたのはご愛嬌だ。
汗をかいた分の水分補給と捉えて欲しい。
玄関通路の途中にある扉を開けば、いらっしゃいませーと脱衣所のご登場である。
別に、中から美少女が出てくるなんていうベタな展開はおきはしない。
取り敢えず、脱衣所横の棚から新しいバスタオルを一枚引き出すと、洗面所に備えられたスペースに置いておく。
汗で張り付くシャツを半ば強引に脱がし、自動洗濯機:脱水・乾燥完備! に放り込んでいく。
素っ裸になると、早速目の前の引き戸を開けて風呂場に入った。
中はそれなりに広い、身体を洗うスペースなら大の大人が10名近くは一度に座っても余裕はあるだろうし。
湯船にしたって、5人同時に入って足を伸ばす余裕はありそうだ。
備え付けられたイスに座り、シャワーから適温を出すとシャンプーを手に取り頭から洗っていく。
洗っている最中、俺はファーフナーとの戦闘後について思い出していた。
ファーフナーとの戦闘後、結局俺たちは竜の涙を入手せずにグランスバールの喫茶、エルトワーズに戻って来た。
まぁ、倉庫には複数個あるわけだから問題はないだろう。
それより気になっているのが、先ほど送られてきたとあるメールである。
二人に確認したところ、どうやらアリアとエリナにも送られてきているらしい。
送信者の名前にはアダムと書かれ、件名にはクエストを達成しました! と表示されている。
From:アダム
件名:クエストを達成しました!
本文:ファーフナーは退治されたのを確認した。それもこれも全て君のお陰だ! 勇気ある君にはちょっとしたお礼で申し訳ないが以下のアイテムを送りたいと思う、受け取ってくれ給え。
添付アイテム:ファーフナー召石
と、書かれていた。
てか、召石て……ファーフナーを呼べるのだろうか?
「アリアとエリナは何が送られてきたんだ?」
取り敢えず此方のアイテムは伏せて二人に聞いてみることにした。
「えっと、私はクエスト達成の報酬として、邪竜の指輪と言うアクセサリーが送られていました」
「アリアと違うアイテムですね。アリアは邪竜の翼と言うアクセサリーでした。と言うか何ペットの分際で、自分だけ隠しているですか? さっさとゲロって下さい。何が出たです?」
どうもアリアは此方のアイテムが気になるようで、何時にもまして素晴らしい台詞を賜った。
まぁ別に知られたからってどうもしないよ、な?
俺は何故か緊張して振るえる手を押さえつけて、唾をゴクリと飲み込むとおもむろに口を開いた。
「俺が送られてきたアイテムは装備じゃなくて消耗品だな。名前は……・ファーフナー召石だ……」
その名前を告げた瞬間、アリアだけじゃなく、今までは然程興味がないように見えたエリナまで勢いよく此方に顔を向けてきた。
何が原因でそんなに食いついてくるのか分からず、思わずうろたえてしまうが、そこにアリアが更に追い討ちを掛けてくる。
「アリアは今とっても、ペットの躾を考え直さないといけないと思っています。キャンキャンと泣き叫んで許し請う姿が思い浮かびます……・」
「いやいや! 何も俺が選んだ訳じゃないんだぞ!? 多分ドロップの代わりとしてランダムなんだろうし。何を怒っているのか知らないけど、俺に責任はないだろ」
思わず突っ込みながら弁明したのだが。
俺が悪いわけじゃないよな? いや、切実にさ。
「アリア気分が悪くなりました。お家に帰ります」
何をそんなに怒っているのか分からない俺は、咄嗟の弁明には返事を返さずに去っていく、アリアの後姿を呆然と見送るしかなかった。
「……お兄様は少し鈍いと思います。……わたしだって……・」
何やらエリナが言った気がするが、残念ながら小さくて聞き取れなかったようだ。
「エリナ、何か言ったか? どうやら聞き取れなかったんだが……」
「いいえ! 何でもありません、私はもうログアウトするのでお兄様はお一人でゆっくりしていって下さい!」
語気を荒げるエリナの姿に先ほどと同じく動揺してしまい、まともな返事が返せない。
しどろもどろとしているうちに、エリナは店を後にしてしまった。
その後姿を見送りながら俺が考えていたのは、女心とはよく分からない、と言うことであったとさ……・。
まぁ結局その後俺も直ぐにログアウトして今に至るわけなんだが。
本当に何を怒っていたのかさっぱりだったな。
体も洗い終わり、風呂場から脱衣所に向かった後、バスタオルを体に巻きつけリビングに向かう。
冷蔵庫から冷やしたジュース(抹茶コーラ)を取り出すと、コップに注ぎ一気に呷る。
「ぷはぁー」と少々親父臭い台詞を吐きながら、やはり風呂上りはこれだよなと俺は思う。
暫くリビングの中央、テーブルの前に置いてある大きめの(L字型)ソファーでぼんやりした後。
お腹がいきなり『きゅるるるる』と鳴いた。
そういえば夕飯食ってなかったな。
俺は自室に向かい着替え一式(下着と黒のジーンズに無地の黒Tシャツ)を取り出すと、ゆっくり着替える。
着替えた後は再びリビングに向かう。
キッチンに立った俺が考えることは一つ。
さて、何を食おうか、である。
因みに先に言っておくなら、俺は料理の一切ができない。
今、今時の野郎が料理の一つも出来ないとかだせぇーとか考えたやつ死刑な。
まぁ、冗談はさておき料理は出来ない俺だが、我が家(俺しか住んでいないが)の備蓄棚(台所上の戸棚)には、素晴らしき保存食の数々が置いてある! (カップラーメンetc……)
俺はがさごそと戸棚を漁ると、一つのカップラーメンを取り出した。
名前を見てみれば『ビックバンラーメン!!』と書かれている。
何がビックバンなのだろうか?
漁っている間に瞬間湯沸かし器で沸かした湯を、カップラーメンに注いでいく。
因みに昔のような3分だとか、5分なんてかからないんだぜ?
今はたったの1分で出来上がるのさ!
箸を一膳用意し、テーブルに備えられたイスに座る。
およそ1分が経った頃、注いだ部分から蓋を剥がしていく。
すると、なんとも摩訶不思議な香りが俺の鼻腔をくすぐった。
やや失敗だったか? と思いながらも恐る恐る箸で麺を掬い、口に運んでいく。
「ずるずる……。ずずっ、ずるるるる。ずずぅぅうう」
「ふぅふぅ……。ずずずず! ずるる。ずずっ」
…………。
はっ!? 気づけばじっとりと汗を掻いた額に、既に空っぽとなった器がテーブルにあるのみ……。
お、俺は一体どうしたんだ? 思い出せるのは麺を口に運んだ一瞬のみ。
それ以降の記憶がどうも曖昧だ。
しかも不思議と、今なら小宇宙を爆発させることすらできそうだ!
ふは、ふはははははは!!
…………。
取り敢えず額の汗を拭った俺は、テレビの電源をつける。
別にニュースが見たかったとか、見たい番組があるわけじゃない。
時間の確認がしたかっただけだ。
時刻を見ればもう21:14分と表示されている。
ふむ、寝るには少々早い時間である。
今の時代小学生ですら深夜まで起きているくらいだ。
俺は薄手の上着を一枚ソファーに置いてあったものから選ぶと(別に仕舞うのが面倒だったわけじゃない)サイフをポケットに仕舞い玄関に向かう。
目的地はここから歩いて10分先にある、大型の本屋である。
電子書籍が一般化されている現在だが、今は昔馴染みの紙で出来た本や小説が流行っている。
俺も無機質なものより、紙で出来た小説の方が好きなタイプだ。
玄関のドアを開き、外に出る。
鍵はオートロックなので問題はない。
外にでた瞬間、こんな時間とはいえ、今は夏まっさかりの8月である。
じっとりした生暖かい風が身を包む。
俺はさっさと買い物を済ませようと、夜の街へと姿を消して行った。
後書きぽいもの
昨日テンションMAXしながら書き上げたので、誤字脱字、表現あっぱっぱっー等が何時もより多いかもw
次話でちょっと小イベント用意してみましたのでお楽しみを?
感想・評価・誤字脱字報告・お気に入り等お待ちしております。