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流転の國『悪魔変化』

なぜ私は悪魔種として顕現したのだろう…。

どれが本当の私の姿なのだろう…。

「では、参ります。マヤリィ様」

「ええ」

ルーリは一礼すると魔術を発動させた。

灰色の靄がルーリを包んだかと思うと、ウェーブのかかった金髪は漆黒に変わり、瞳はつり上がって色は真紅になり、その口からは鋭い牙が生えてきた。背中からは全てを切り裂くような尖った悪魔の翼が現れ、真っ黒な爪の先は研いだ刃のように光っている。洋服も先程まで着ていた瑠璃色のドレスから、棘のような装飾が施された黒い服に変わった。ミニワンピースの形をしたそれは表面が黒、裏地が赤になっている。ハイヒールも同じく表面が黒、裏が赤という配色である。

「マヤリィ様、畏れながら、私自身にもこの悪魔の姿が本性なのか、それとも人間と変わりない普段の姿が本当の私なのか、分かりません。…貴女様には、今の私の姿がどのように映っているのでしょうか。醜いでしょうか?恐ろしいでしょうか?禍々しいでしょうか?」

赤く彩られた唇が申し訳なさそうに動く。

「その、どれでもないわ。ルーリ…」

そう言って、マヤリィは棘のついた服を着たルーリを尖った翼ごと抱きしめ、牙の生えた口にキスをした。

マヤリィの身体に棘が刺さり、翼に触れた手からは血が滴り、唇には牙が接触した。

「マヤリィ様…!おやめ下さいませ…!」

ルーリはマヤリィから遠ざかろうとするが、彼女は悪魔から離れない。

「悪魔のような、ヴァンパイアのような、とてもミステリアスな姿ね、ルーリ。美しいわ」

牙に触れた唇からも出血する。

「どちらが本当の姿かなんて気にするわけないでしょう?貴女はルーリ。私の大切なひと」

「マヤリィ様……」

ルーリはそれ以上何も言えず、涙を流す。

初めて『悪魔変化』をした自分を見た時、こちらが本性であったら、そしてこの姿の自分をご覧になったマヤリィ様がどう思われるか、怖くて仕方なかった。実際のところ、ルーリの心配は杞憂に終わり、マヤリィはこれまでと変わりなくルーリを抱きしめているが、これが他の人だったら恐れ慄いて近付くことさえ出来ないかもしれない。例えば、それが仲の良いジェイやシャドーレであったとしても。

「マヤリィ様、これ以上私に触れていては貴女様のお身体が危うくなってしまいます」

手からも唇からも身体からも出血しているというのに、なおもマヤリィはルーリから離れない。血は流れ続けている。

「マヤリィ様。どうか私が『変化』を解くまでお待ち下さいませ」

『悪魔変化』したルーリの赤い瞳から赤い涙が流れ続けている。

「貴女の『変化』を見せてくれてありがとう、ルーリ。…魔力を大量消費させてしまったかしら」

「とんでもないことにございます、マヤリィ様。『夢魔変化』の時と同じように、この『変化』を解いてもすぐに次の魔術を発動出来ますので、どんなことでもお申し付け下さいませ。貴女様のお役に立つことこそが私の最上の喜びにございます」

そう言って、マヤリィの抱擁の手が僅かに緩んだ隙に、ルーリは跪き頭を下げた。

そして、瞬時に『変化』を解く。

同時に、マヤリィが気を失う。

「マヤリィ様!!」

出血多量。『薔薇の悪魔』とでも呼ぶべきルーリを抱きしめ続けていたせいで、ついに倒れてしまった。

《こちらルーリだ!シロマ!!すぐに来てくれ!!》

《こちらシロマです。そのお声はルーリ様…!どちらにいらっしゃるのですか!?》

ルーリは気が動転してここがどこだか分からなくなっている。ご主人様の自室です。

《マヤリィ様のお部屋…だが、それだと転移が使えないし、えーっと…》

シロマはルーリの様子から、マヤリィの身体に異変が起きていることを悟る。

《第3会議室に参ります!あちらには最上級のベッドがあると伺いました!》

行ったことはないが聞いたことはある。

《分かった!私もすぐに行く!》

念話を終えると、シロマは自室から第3会議室に転移する。ほぼ同時に、マヤリィを抱えたルーリが現れる。

「ご主人様!一体どうなさったのですか!?」

血塗れのマヤリィを見てシロマは動揺する。

それでも、迅速にマヤリィをベッドに運び、ダイヤモンドロックを手にする。

まもなく、マヤリィの身体は回復した。

しかし、今はまだ眠っている。

「…何があったというのです、ルーリ様?」

困惑した表情でシロマが問う。

「『悪魔変化』した私をマヤリィ様がずっと抱きしめて下さっていたんだ。……この姿をな」

ルーリが再び『悪魔変化』する。

「っ…!これがルーリ様の……」

「私にもどちらか本性かは分からない。…怖がらせてすまなかったな、シロマ」

震えているシロマを見て、すぐに『変化』を解くルーリ。

「いえ…少し、驚いただけです…」

と言いつつ、顔を逸らすシロマ。

「あら、シロマ…」

その時、マヤリィが目を覚ます。

「ごめんなさいね、貴女の手を煩わせるつもりはなかったのだけれど…」

「滅相もございません、ご主人様。お身体のお具合はいかがでしょうか?」

「大丈夫よ。ありがとう、シロマ」

そう言って微笑むマヤリィ。

「勿体ないお言葉にございます、ご主人様」

シロマは跪き頭を下げる。

「マヤリィ様、先程は私のせいで……」

「貴女は私の命令に従っただけよ。…かえって心配させて悪かったわ」

ルーリの言葉を途中で遮り、マヤリィが微笑みながら言う。

「貴女の魔術を見せてくれてありがとう」

シロマを震え上がらせた『悪魔変化』も、マヤリィから見ればルーリの魔術の一つ。

「マヤリィ様…!有り難きお言葉、謹んで頂戴致します…!されど、私が貴女様のお身体を傷付けてしまったことは事実。大変申し訳ございませんでした」

ルーリが跪き頭を下げる。

「気にしないで頂戴。全ては私の命令。貴女が自分を責める必要はない」

「マヤリィ様ぁ……!」

「ルーリ、傍に来て」

そう言ってルーリを抱き寄せるマヤリィ。

(私、『透明化』出来ない…!)

転移するタイミングを逃したシロマは、ネクロの魔術の凄さを思い知らされる。

(どうしましょう。私、お邪魔だわ…)

と思っていると、

「シロマも傍に来て」

「はっ!」

まるで心を読んだかのように、マヤリィはシロマを呼ぶ。

「ご主人様…」

女神のような微笑みを浮かべたマヤリィに抱きしめられ、シロマは何も言えなかった。

(ご主人様が私を抱きしめて下さっているなんて…!夢みたい…!)

初めてのことにシロマは戸惑いつつも幸せを感じていた。

「ご主人様……シロマは、幸せにございます」

そう言って身体を委ねるシロマ。

《そういえば、シロマを抱いたことってなかったわね》

《マヤリィ様、シロマは修道女にございます。私とて、襲ったことはございません》

《あら、そうなの?》

※『闇堕ち編』の出来事は全て幻です。

ていうか二人共。これ、念話にする必要あった?

「もう少ししたら衣装部屋に行きましょうか」

身体の傷は治ったものの、裂けた洋服までは気が回らなかった二人。

「…気が利かず、申し訳ございません」

「早急に新しいスーツをご用意しましょう」

やっぱりスーツなのね。

気付けば、二人の服にも血が染みている。

「貴女達にも着替えが必要ね。…では、行きましょうか」

マヤリィは魔法陣を展開すると、二人を抱き寄せたまま『転移』を発動。


事件現場みたいになった第3会議室は、後でマヤリィが元通り綺麗に整えたのだった。

マヤリィが『悪魔変化』をしたルーリを見たのは初めてだと語られていますが、正確には『流転の國』一作目の第四十話「天誅」で、ルーリは普段の『夢魔変化』よりも悪魔らしい姿になり、鋭い爪や尖った牙を出現させています。

彼女自身はどれが本当の自分なのか悩んでいますが、実際のところは人間と変わりない姿をしたいつものルーリがデフォルトです。流転の國に初めて顕現した時の姿が彼女の本性だと言えます。

なので、悩むことなんてないのよ。

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