流転の國『性転換』の宝玉
黒魔術師シャドーレが作り上げた禁断の宝玉。
全てはご主人様の御為に。
「すぐ行きますので、お待ち下さい!」
ジェイの部屋のドアがノックされた。
鍵がかかっているので、待っていてもらうより他ない。誰だろう…?
「お待たせしました。って、姫…!直接『転移』してきて下さってもよかったのに…」
逆は不可能だが、主は配下の部屋に転移することが出来る。
「なんとなく、歩いてきちゃったのよ」
姫はそう言って部屋に入る。
「珍しい格好してますね」
「前に貴方が選んでくれた服よ。…女を捨てたい気分の夜にはこれを着るの」
オーバーサイズのパーカーにジーンズ姿。
金髪のベリーショートによく似合っている。
「女を捨てたいんですか?」
「ええ。もう嫌なの。妹に振り回されるのは」
妹。それは彼女のもう一つの人格のことか。
「大丈夫です、姫。僕が傍にいますから」
ジェイは姫を抱きしめる。
パーカーに埋もれそうな華奢な身体。
まだ幼さを残した少年のような姫。可愛い。
「貴女には本当に短い髪が似合う」
そう言って彼女の髪を撫でる。柔らかい髪。
「僕は貴女が大好きです。時には美少年のような貴女が愛おしい。…マヤリィ様、このまま男の子になっちゃいますか?」
ジェイの不思議な問いに姫は困っている。
「…実はシャドーレから『性転換』の宝玉を預かっています。勿論、少しの間だけですが、本当の男性になれるんです」
「えっ…シャドーレがそんな魔術を…?」
姫は驚く。
「彼女には例のもう一人のことは話していません。でも、病気のことに関しては貴女から聞いていたのでしょう。もしかしたらマヤリィ様のお役に立つことがあるかもしれないと、僕に託してくれました。…数時間前のことです」
「シャドーレが…私の為に…?」
「見当違いな魔術であったら黙っていて欲しいと言われましたが」
ジェイは数時間前のことを思い出して言う。
本当に偶然、シャドーレに会ったのだ。
そこは第6会議室の前だった。
「ジェイ様…!ちょうどよかったですわ。今、少しお時間を頂けますでしょうか?」
プラチナブロンドの髪を短く刈り上げ、彼女の標準装備とも言える軍服(流転の國仕様に改良済)を着たシャドーレは相変わらず背が高い。そして、美しい。
「うん、大丈夫だよ。…第6で話した方がよさそうだね」
「はい。ありがとうございます」
第6会議室に入り、鍵をかける。
「実は…マヤリィ様のことでお話がありまして、近々ジェイ様に個別でお会いしたいと思っておりましたの」
シャドーレは言う。
そして、一つの宝玉を取り出す。
「それは…?」
「『性転換』の宝玉にございます」
「せ、性転換!?」
驚くジェイに、シャドーレは説明する。
「マヤリィ様は以前、女性として生まれたことを苦しく思う時があると仰っていましたの。ジェイ様でしたらご存知ではないでしょうか?マヤリィ様が時々、女を捨てたいと仰ることを…」
「…確かに、姫は時折言う。髪を短く刈り上げ美少年のような風貌になった直後、このまま男の子になりたいと言う時がある。…余程、元いた世界で苦しんだのだろう。女に生まれながら女の幸せも楽しみも許されなかった。そういった話も君は聞いているのか?」
「はい。畏れながら、伺っておりますわ」
シャドーレは口惜しそうな表情で、
「そんな時、思うのです。マヤリィ様が本当の男性になったら、少しでもお心が晴れることがあるかもしれないと」
「…それで君は『性転換』の魔術を込めた宝玉を作ったと言うのか…?」
「はい。短時間しか効果はありませんが、身体に負担をかけることなく、本物の男性になることが出来ますわ。…私の身体で何度か試してみましたので、そこはご安心下さいませ」
シャドーレさん、何度試したの…?
「…聞いてもいいか?ミノリとヤッた?」
ジェイさん、また品性が疑われるぞ。
「はい…!正直、ミノリを妊娠させたいと思いました。彼女には女の身体の方がいいと言われましたが…」
「だって…ミノリはレズビアンだからね」
ジェイは実験の為とはいえシャドーレの大胆さに驚きつつ頭を抱えた。
「ルーリにも協力してもらいましたの。結局、彼女の『魅惑』のお陰で私は意識不明になりましたので、あまり記憶がないのですが…」
「君って…研究熱心だね」
とりあえずは安全らしいことが分かった。
「ルーリに渡そうとしたのですが、ジェイ様に託すべきだと言われまして…。この宝玉がマヤリィ様のお役に立つことがあれば、配下としても黒魔術師としても幸甚の極みにございます。…勿論、見当違いな魔術でしたら、マヤリィ様には黙っていて下さいませ」
そう言って、シャドーレは頭を下げる。
「シャドーレ、ありがとう。きっと、一番いいタイミングで役立ててみせるよ」
それが、数時間前の話だ。
「…使って」
話を聞いたマヤリィはすぐに宝玉に込められた魔術の発動を促した。
「私、男になりたい」
その瞳は好奇心と期待に輝いている。
(シャドーレ…君って凄い魔術師だね)
ジェイは心の中で彼女に感謝する。
そして、宝玉の魔術が発動する。
次の瞬間、姫の身体は変わっていた。
背が高くなり、顔立ちも男らしくなり、声も低くなった。
「これが私…?いや、僕だな…!」
『変化』とは全然違う。
本当の本当に男の身体になっている。
オーバーサイズだったはずのパーカーがキツく感じる程、背が高くなっていた。すぐにマヤリィは指を鳴らし、スーツに着替える。
「マヤリィ様、失礼します。『鑑定』」
ジェイが自分よりも背が高くなったマヤリィに対して『鑑定』を使う。一体何cmあるの?
「身長180cm。体重60kg。…超イケメン」
最後のはただの感想では?
「本当に声まで男になってる…!当然、髪型はそのままだな。うわっ、凄く似合う…!」
シャドーレには及ばないとはいえ、高身長の美男子が鏡に映っている。
「…脱いでいい?」
「今さらそれ聞きますか?」
「…だよな」
言葉遣いまで変わる。
マヤリィは着替えたばかりの服を脱ぐ。
ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し、ワイシャツを脱ぐ。紛うことなき男の身体が現れる。
「全然違う…!」
そして、下も全部脱ぐ。男根が現れる。
「…セックスしたい」
「全裸になって第一声がそれですか」
そう言いつつ、ジェイは男になったマヤリィの身体を見つめる。
「僕より…大きいですね」
「確かに、180cmあれば大きい方か」
いや、ジェイは身長のことを言ったわけではないと思うのだが…?
「僕は同じ大きさのまま、男になるんだと思ってた。…これは立派な大人の男性じゃないか」
そう言って髪をかきあげる。
「ツーブロ似合うなぁ。…僕、これからルーリを襲いに行く」
少しお心が晴れるどころか、ギンギンになっちゃった目の前のイケメンもとい姫を見て、ジェイは頭を抱える。
止められるわけがない。
「ジェイ、ありがとう。また来る」
その後、彼は第2会議室にルーリを呼び出し転移した。
「あ、貴方様は…!?」
わけもわからず転移してきたルーリは彼を見て混乱する。誰だっけ…?
「この髪型に覚えはないか?」
マヤリィは髪をかきあげ、ツーブロックを見せる。金色に染めた短い髪は刈り上げ。
「まさか…マヤリィ様…でございますか…?」
ルーリはシャドーレの実験を思い出す。
「本当に…マヤリィ様ですか…?」
「お前を騙すとは、シャドーレの宝玉の威力は凄まじいな」
声も違う。喋り方も違う。ルーリは戸惑う。
「愛するルーリ。今夜は僕がお前を襲う。この姿でも『魅惑』は使えるらしいんでね」
マヤリィの『魅惑』が発動する。
ルーリはまだ戸惑っているが、
「マヤリィ様…!貴方様は本物のマヤリィ様なのですね…!私の愛するマヤリィ様…!」
そう言って頬を染める。
気付かないうちに脱がされている。
「んっ……力強い腕にございますね…」
「ルーリを抱ける日が来るとは思わなかった」
「私も…マヤリィ様に抱かれる日が来るとは思いもよりませんでした。…どうか、ルーリの身体を貴方様の好きにして下さいませ。どんなプレイでも致します」
夢魔の台詞じゃないよ、ルーリさん。
マヤリィがルーリの秘壺を舐める。
「あんっ……そ、そこは…!」
「気持ちいいか?」
「…んっ……ああんっ!」
愛液があふれ出す。
魅惑の死神とは思えない姿である。
「挿入していい?」
マヤリィは余裕綽々。初めてなのに、女を抱き慣れた男みたいにセックスが巧い。
「あ…んっ……」
ルーリは思いがけないペニスの大きさに驚いている。マヤリィは体格の立派な男になったが、男根も立派な男になっていた。
「大きい…ですっ……んっ………あんっ」
ルーリは嬌声を上げる。
魅惑の死神とは思えない姿である。
「こんなに大きいなんて…男性になられたばかりの貴方様がこんなに上手だなんて…」
「ルーリ、可愛いよ」
甘く激しいキスはいつも通りである。
「美しい身体だ。いつまでも見ていたい」
ルーリの乳房を優しく揉む。キスをする。
「ああ…今の私は魅惑が使えません…!」
「当然だ。宙色の魔力が発動しているからな」
「マヤリィ様……反則です…!」
「ふっ。今、僕はとても愉しい」
終始、マヤリィに弄ばれたルーリ。
事が終わると、ルーリは頬を紅潮させて、
「抱きしめて下さいませ…!」
乙女のように可愛らしく、彼に抱きつく。
彼はその力強い腕でルーリを抱きしめる。
「僕は男のままでいたいな」
「マヤリィ様…?」
「本物の男になって、毎晩お前を抱きたい」
「っ…貴方様は男性になられてなお私の心を掴んで離して下さらないのですね…!」
普段のルーリはどこへやら。
完全に宙色の大魔術師(ver.男)に弄ばれている。
「ルーリ、愛してる…!」
「マヤリィ様…!私も貴方様のことが…」
と、その時。
宝玉の効果が切れる。
一瞬で身体が元に戻る。
「あら…時間切れみたいね」
特に驚いた様子もなくマヤリィが言う。
「戻っちゃったわ」
澄んだ高い声。甘く優しく柔らかい声。
「マヤリィ様…!!」
そこには、見慣れたマヤリィの姿があった。
華奢な身体つき。色白の繊細な肌。整った顔立ち。
誰よりも気高く美しい女性。
「マヤリィ様ぁ…!!」
ルーリは無我夢中でマヤリィを抱き寄せる。
「ずっと…お会いしたかったです…!!」
女に戻ったマヤリィを身体全体で包み込むように優しく抱きしめる。
ルーリの長い腕に抱かれて、マヤリィは幸せそうに微笑む。そして、
「大好きよ、ルーリ」
甘く可愛らしい声でささやく。
「私は…私よ」
「マヤリィ様…!」
二人は時を忘れてジェイのことも忘れて抱き合った。
その頃。
ミノリとシャドーレの部屋。
「シャドーレ、実験やりすぎよ。ミノリの身体を元に戻して!」
「可愛いわ、ミノリ…!」
例の宝玉で『性転換』させられたミノリ。
マヤリィとは違い、背はあまり伸びず、可愛らしい顔立ちの男の子に変わった。色々と個人差があるらしい。
「髪の毛、切ってもいい?」
「嫌。バリカン使うつもりでしょう?」
「ミノリなら刈り上げも似合うと思うけれど」
結局、頑なに拒否されて諦めた。
「いつ戻るの?これ」
ミノリは早く元に戻りたい。
「短時間で元に戻るようになっているから大丈夫よ。…あ、それが何時間か測るの忘れた…」
シャドーレさん、肝心な所が抜けてるよ。
「男の子の姿のミノリも可愛いわ」
そう言ってシャドーレは微笑む。
「今度、ルーリにも使ってもらおうかしら」
最強のインキュバス爆誕の予感。
結論。
黒魔術師シャドーレがご主人様の御為に作り出した『性転換』の宝玉は確かに役に立ったらしい。
後日、あの時のマヤリィ様はとても愉しそうだったとルーリが証言したのだった。
ジェイがマヤリィに着せたというパーカーは『闇堕ち編』にも登場しますが、これとは全く関係がありません。
あちらはあくまでフィクション(?)です。
どこにも存在しなかった物語です。