流転の國 好きな色は何かしら
ようやく、マヤリィ様とのご褒美ティータイム!
第1会議室。
ドアを開けると、そこは森の中のログハウスのような造りになっている。
木のテーブルに木の椅子。
窓の外の風景まで森の中だが、これは幻。
「相変わらず、不思議な部屋よね…」
マヤリィは紅茶を淹れながら呟く。
と、そこへ、ノックの音。
「どうぞ、入っていらっしゃい」
「失礼致します、ご主人様」
シロマはそう言って第1会議室に入ると、
「本日は私などの為にお時間を作って下さり、心より感謝致します」
その場に跪き、頭を下げる。
「こちらこそ、来てくれてありがとう。…このワンピース、凄く似合っているわ。さぁ、もっと近くに来て頂戴」
そう言いながら、マヤリィはシロマの手を取って立ち上がらせると、そのまま抱きしめる。
「ご主人様…!」
「ふふ、この髪型も可愛いわね」
マヤリィは微笑みながらシロマを見る。
「今日はゆっくり過ごしましょう。貴女、紅茶は飲めるかしら?」
「紅茶、にございますか…?」
「ええ。この部屋には特別な茶葉があってね、さっき淹れてみたの」
そういえば、ベルガモットの良い香りがする。
「良ければ一緒に飲みたいのだけれど、苦手ならコーヒーもあるわよ」
「とんでもございません…!ご主人様が淹れて下さった紅茶、ぜひ頂きたく存じます…!」
そして、二人きりのティータイムが始まった。
「クッキーもあるわよ。いかが?」
「有り難く頂戴致します、ご主人様」
シロマは緊張した面持ちで答える。
「貴女が好きなのはどれだったかしら」
マヤリィはいつものように微笑みを浮かべている。
(ああ、いつ拝見しても美しい御方…!)
シロマは見目麗しいご主人様を前に、ため息が出そうになる。至近距離でマヤリィの顔を見ることは滅多にない為、嬉しさと緊張が入り交じって胸がドキドキしている。
「初めての衣装部屋はどうだった?意外と広い部屋でしょう?」
「はっ。今までに見たこともない素敵なお洋服が沢山ありました。このワンピースは、ルーリ様に選んで頂いた物にございます」
「ふふ、ルーリってワンピースが好きよね。清純な貴女によく似合う綺麗な白だわ。…けれど、実際のところはどうなの?他に好きな色はあるのかしら?」
確かに、誰から見てもシロマのイメージカラーは白だし、今日のワンピースもよく似合っているが、考えてみれば彼女の好みを聞いたことはない。
「私の好きな色にございますか…?」
「ええ。白なら白で良いのだけれど、貴女には他にも好きな色があるのではないかと思ったのよ」
マヤリィは図星を突いていた。
「ご主人様は何でもお見通しでいらっしゃるのですね…」
シロマは少し怖いような気分になりながら答える。
「確かに私は白色が好きです。されど、私が一番好きな色、憧れている色は、黒にございます。畏れながら、ご主人様がいつもお召しになられている『正装』の色が一番好きなのです」
『正装』とはマヤリィがいつも着ているスーツのことである。
「もしかしたら、貴女様が身に纏っていらっしゃる色だから好きになったのかもしれません。流転の國に顕現するまでは黒がこんなにも魅力的な色だとは思っていませんでしたので…」
そういえば、シロマの修道服は白だった。
元いた世界の姿だと言って『変化』した時も白づくめだった。
「されど、私には黒を身に纏う自信がございません。『正装』はハードルが高すぎます。…私もご主人様のように美しかったら黒が似合うのでしょうか…」
美しいご主人様に似合う色。
だから、憧れている色。
私には似合わないと思うけど…。
少し寂しそうなシロマの言葉を聞いて、マヤリィは首を横に振った。
「…いいえ。貴女に黒が似合うかどうかは実際に合わせてみないと分からないわ」
マヤリィはそう言うと、着ていたテーラードジャケットを脱いだ。
「ご主人様…!?」
「サイズはともかくとして、着てご覧なさい。ワンピースの上からでいいわよ」
いつもご主人様が着ているテーラードジャケット。
ずっと憧れていた黒の『正装』。
手が届くわけないと思っていた大好きな色。
それが今、シロマの目の前にある。
「すぐに衣装部屋に行けなくてごめんなさいね。気に入ったら、上下揃えに行きましょう」
マヤリィは優しい微笑みを浮かべて、ジャケットをシロマに差し出す。
「ご主人様…!貴女様のお洋服に袖を通させて頂けるなんて、幸せの極みにございます…!本当に、よろしいのでしょうか?私などがご主人様のジャケットに…」
「いいから、早く着てみなさい」
シロマが幸せと戸惑いの間で揺れていると、ご主人様が慣れた手つきでジャケットを着せてくれた。
「ありがとうございます、ご主人様…!」
マヤリィのジャケットは細身だった。
シロマの身体には少しばかりキツかったが、それでもボタンを留めることは出来た。
「これが…ご主人様の……!!」
「どうかしら、シロマ?今そこに映っている女性、黒いジャケットがとても似合っていると思わない?」
いつの間にアイテムボックスから取り出したのか、目の前に姿見がある。
茶色いショートボブの髪に黒いテーラードジャケット。
マヤリィの問いに、シロマはしばらく答えることが出来ず、ただ鏡に映る自分を見つめ続けた。
「ご主人様、本日は紅茶を淹れて下さったばかりか、貴女様の大切なお洋服を着させて頂き、シロマはとても幸せにございます」
ジャケットをマヤリィに返した後、シロマは嬉しそうな顔でそう言った。
「私にも…『正装』が許されるのでしょうか…?」
「ええ、勿論よ。黒いジャケットを着た貴女、本当に素敵だったわ。衣装部屋にはパンツスーツだけではなくこのジャケットに合うスカートもあるから、今度探しに行きましょう」
「はっ!有り難きお言葉にございます、ご主人様…!」
シロマはその場に跪き頭を下げた。
「私がそのように衣装部屋を使わせて頂くなど、夢のようです。ご主人様、本当にありがとうございます…!」
「頭を上げなさい、シロマ。まだ紅茶が残っているわ」
マヤリィは跪いているシロマを立たせると、自分の隣に座らせる。
先ほどは向かい合わせに座っていたので、それとはまた違った緊張感がある。
「…ねぇ、シロマ?」
緊張した面持ちのシロマに向かって、マヤリィは甘く優しい声で話しかけてくる。
「貴女が元いた世界の話を聞かせてもらえないかしら?」
「はいっ!畏まりました、ご主人様…!」
まだしばらくティータイムは続くらしい。
マヤリィと一緒に過ごす時間が嬉しくて、シロマは「自分とクラヴィスの元いた世界」について詳しく語るのだった。




